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第三章 健斗と美咲と新たな出会い
出会い
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2人の目の前にはガラス質で半透明、薄っすら紫色が入った大きな壁が立ちはだかっている。
表面は波々とした縦曲面で向こうがはっきりとは見えない。
北は六甲山を超えてどこまでも続く。南は六甲アイランド沖をぐるりと回り明石方面に伸びている。
「上を超えれるかな?」
「いってみよ~」
「まいころかっ」
「んっ?」
2人でグングン上に上にあがって行った。
「もう神戸が小さくしか見えないけど、まだまだ上に続いとんな」
「なんか、寒ぅなってきたし」
「多分、上空3000m超えとるやろうしな」
「どうするー?」
「諦めて降りよか」
「それか、もっともっと上がって、寒さの耐性つけるとか」
「暇人か(笑)」
それでも暇に任せて上空まで行ってみる事にした。
グングン上がると、急に呼吸が苦しくなる。
体感温度もどんどん下がってくる。
「どれくらいやろ?多分もう8000mくらいまで上がったんかな?」
「下見たら、もう建物の形もわからんね」
「こうやってみたら、神戸だけ真っ暗闇だなー」
「うん、ぽっかりと穴が開いたみたい」
「この辺まで来たら壁の波々もほとんど無くなって向こうが見えるな」
「飛行機とか突っ込まんのかな?」
「もしかしたらもう事故ってるかも知れんね」
「伊丹空港は離着陸の旋回で東神戸の上通るんよなぁ」
「へぇ~ んならぶつかるな」
「神戸空港は、多分この壁に取り込まれてるやろなー」
大型ジェット機の航行高度がだいたい8000mから10000mだから、もう人間が生身で来る高さじゃない。
気圧も低く、空気も薄いし気温も低い。
こんな所で普通の人間は生きられない。
「おっ?来た来たー」
「こっちも来たよ」
「二つも来たぞ?」
「うちも、無酸素呼吸ってスキルと寒冷耐性と」
「おっ?珍しく同じ名前のスキルを覚えたな」
「そうなんや?だいたい中身は同じでも名前ちゃうもんなー」
取得時のちょっとした違いで、同じ内容のスキルでも名前が違う事が多い。
でも今回は多分、全く同じ状況で覚えたから名前も同じなんだろう。
「まだまだ上は見えないし、ほんまに宇宙まで続いとんかもな」
「もう寒ぅ無いし、呼吸も苦しないからどこまでも行けるけどな」
「行ったら、帰ってこないとあかんからな」
「そりゃそうやろ」
取り敢えず街に帰る事にした。
「今日はもう遅いし、寝る場所探さんとな」
「どっか空いてる部屋探して寝床にしよう」
「近くに人やゴブリンが居ないん確認せんとな」
「マップに索敵乗せたらマーク出るし」
「いつの間にそんなん覚えたんや!」
「あはははは」
何発か殴られたが、まぁいつもの感じで痛くも無かった。
街の上空まで降りて来たので、マップ索敵で生き物の居場所を探る。
何か小さいマークを見つけた。
「そう言えばさー」
「んにゃ?」
「なんちゅう可愛い返事しやがんねん!」
「テヘッ」
「あざと可愛いすぎるわ!ブリッコめー」
「かわいかろ?」
「あぁ可愛すぎるわ」
「ちょろいな」
「な~んがちょろいねーん」
近くに行き、美咲の首をロックして頭をグリグリする。
「あぁちゃうちゃう、美咲のペースに巻き込まれたらあかん」
「今朝からさー 小さい子供の死体を見てないよな?」
「うんうん、多分ゴブリンの餌になっとんちゃうかなって話やな」
「それと一緒で、犬や猫のペットも見ないよな」
「そう言われりゃまったく見ないねー」
「んで、今サーチしてたらな、なんか小さい生命反応があってん」
「行ってみーへん?」
「犬とか猫とか仲間に出来るんかな?」
「出来るんちゃう?アニマルテイマーとかって職業あるやろうし」
「動物好きなん?」
「好っきやで」
「俺も犬派やけど、動物は好きやな。世話が出来んから飼ってないけど」
「うちは昔、猫がおったんやけど、あの母親が来てからどっかにいってもた」
「逃げたん?」
「ちゃうと思う。動物嫌いやって言ってたから・・・」
「そっか・・・」
何と言ったら良いのか・・・
2人はその小さきマークを目指して下降していく。
甲南山手の2号線沿いにある大型ショッピングモールの立体駐車場の中。
7階の外部駐車スペースの入り込んだ角部分の車の下辺りだ。
この辺りは、隣の芦屋市がすぐ横なのでなかなか明るい。
六甲道辺りのような真っ暗な感じは無い。
美咲の顔もはっきりと見える。
色のある世界はやっぱり良い。
車の下を覗くと、そこには子犬のように見える小動物がいた。
美咲を反対側に行かせ、両方から忍び寄り退路を塞ぐ。
車の下にスライディングで身体を入れると、その小動物は驚いて後ろに逃げる。
そこには美咲が待ち構えており、すかさずその小動物を捕まえる。
キッシャー
美咲の腕に噛みつく。
多少の痛みはあるし少し血も出ているが耐えられない事は無い。
「この子ってフェネックの子供?」
「フェネックっぽいけど、なんでこんな所に居るんや?」
チワワくらいの大きさだが、耳がとても大きい。顔の長さより耳の長さの方が長い。
尻尾はふっさふさでふっくらと丸く長い。
フェネックも尻尾はモフモフだが、長さは精々後ろ足と同じくらいしかない。
この子は胴体と同じくらいの長さがあるし、体毛もペルシャ猫のように長毛だ。
そして、額に真っ赤な第3の眼がある。
「こいつってカーバンクル?」
美咲は覗き見で小動物のステータスボードを見ていた。
「なぁ美咲、この子ってカーバンクルなんか?」
「うん、絶対この子を仲間にする!」
「それより噛まれてるとこ大丈夫か?」
「レベルも0だし、STRも3しかないから大丈夫やろ」
「健ちゃん、この子が逃げないように身体を持っといて」
健斗は言われるがままにその小動物の身体を優しく抑える。
「大丈夫よ。私は敵じゃない」
美咲はそう言いながら頭を撫でる。
「ナウシカもそんな感じで手なずけてたな」
「なんでも誠意が大事やで」
何度も敵じゃないと言いながら頭を撫でる。
(ヒュン)
「おっ?」
「ん?なんか覚えた?」
「眷属契約やって」
「おっいよいよ魔物使いになるんか?」
笑いながら健斗は美咲を揶揄するが、心の中では羨ましいと思っている。
「健ちゃんも覚える?」
「噛まれてるのに?」
「べっちょないよー」
健斗は喜んで、美咲のようにカーバンクルの頭を撫でる。
撫でる、撫でる、撫でる・・・
(ヒュン)
「おっしー来た来た」
「んじゃこの子、どっちが契約する?」
まだグルルルと唸りながら美咲の腕を噛んでいる小動物に美咲は目線を送る。
「いや、美咲やろ」
「やったー」
汝
我が眷属となりてその身を捧げ
我が命令に従順に従い
我が身に危険を寄せ付けず
我が生き様をその眼で見守り
我が身が亡びる今際の時まで未来永劫共に生きると
誓いを立てよ!
「コントラクト!!!」
美咲の手から淡い光が迸り、小動物を包んでいく。
キュゥン
「やったね~♪」
「可愛いな~」
「どっちが?」
「りょ、両方に決まっとろうもん」
「プッ! 何故に博多弁?」
あははと豪快に笑う美咲の肩に、ちょこんとそのカーバンクルは乗っている。
背中のリュックの上や美咲の頭とかウロウロしている。
「おや?額の真っ赤な三つ眼がグリーンに変わってるぞ?」
「なんか意味があるんかな?」
「もしかしたら、美咲の風属性に反応してんのかな?」
「翠だとカーバンクルじゃないやん(笑)」
カーバンクルとは、元々 燃える石炭 とか 赤い宝石 を指す言葉である。
「って言うか、それって眼なんかなー?」
美咲はカーバンクルを抱き上げ、顔の前に持ってくる。
鼻をペロリと舐められたが、それも心地好い。
「よく見たら眼の様なそうで無い様な・・・」
「良くわからんけど、三只眼って事やな?」
「んっ?」
初めての仲間も増えてウキウキしている。
「名前、付けたらんとなー」
「なんにしよっかー」
「何がえ~かな?」
「言っとくが俺はセンスは無いぞ」
「んじゃ自分で考える」
しばし考え込む美咲。
「よっし、決めたよ」
「なんにしたん?」
「単純やけど笑うなよー」
「二つ石美咲の名に措いて命ずる、汝の名はリーリ!」
一瞬ポワッとカーバンクルの身体が光ったように見えた。
鳴き声がりーりーと聞こえるのでその名にしたと告げる。
「まぁ可愛い名前やからえぇんちゃう? フッ」
「笑ろたな~」
美咲がヘッドロックすると、リーリが健斗の耳を噛む。
「痛い、痛い、あはははは」
本当に痛いのかは分からないが、女3人組の出来事を忘れるくらい楽しい感情になる。
「取り敢えず寝るとこ探そかー」
すぐ隣の高層マンションの上階に行く。
玄関が開いている部屋を探し、中に入っていく。
誰も居ない事を確認して、部屋を物色する。
冷蔵庫の中も覗いて、食べれそうなものを探す。
「なぁ、さっきのショッピングモールの屋上にさー」
「ん?何か居た?」
「ちゃうちゃう、なんかさー宝箱みたいなんあったやん?」
「あぁチラッと見たけど、あれって収納ボックスかドレッサーじゃないの?」
「こんな世界になったんなら、宝箱とかあっても不思議ちゃうんよなー」
「見に行ってみる?」
「ん~ ちゃうかったらアホみたいやしなー」
「今でもアホの子やのに変わらんやろー」
「おいっおっさん!下僕のくせに調子乗っとんちゃうでー」
美咲が健斗に襲い掛かる。
リーリも美咲に加勢する。甘噛みだが軽く血が出る。
「痛い痛い痛い、ははははは」
「まぁ気になるなら、ちょっとだけ見に行ってみるか」
「ゴミやったらごめんちゃいね」
ベランダに出て空に浮かぶ。
もうコントロールも上手くなり、自由自在と言う言葉を使っても差し支えない。
美咲がリーリを肩に乗せ風纏の中に入れる。
そのうち風纏を覚えるんじゃないかと言う目論見があるようだ。
健斗を先頭に美咲が追従する形を取るが、すぐに美咲が先を飛ぶ。
ショッピングモールの屋上の、薄茶色の木の箱が置いてあるところに二人と一匹は降り立つ。
「近くで見たら、宝箱やな」
「こんなん普通なら見逃すでー」
「美咲ちゃんみたいに洞察力が無いとなー」
「美咲ちゃんは凄いでちゅね」
「馬鹿にしやがってー」
何発か蹴りを入れてから美咲は箱の前にしゃがみ込む。
「開けてみるよー」
「おぅイケイケ」
「むー」
「なんや、どないしたん?」
「鍵が掛かっとるー」
「鍵か呪文かどっちかやろ?」
「鍵なんかどこにあるん?」
「開けーゴマ!」
「プッ なんやそりゃ」
「アリババと40人の盗賊って知らんか?」
「知らんわー」
ジェネレーションギャップを感じる・・・
鍵の入手方法なんて思いつかないので呪文で攻めてみる。
箱を開ける呪文なんてそんなに多くないだろうし。
鍵が必要なら、この宝箱は一旦どこかに隠さないとダメだ。
「オープン ザ セサミ」
元ネタの英語で言ってみた。
カチャッ
「おっ?開いたぞー?」
「はぁ?まじかよー」
宝箱の中には、綺麗なオレンジ色の玉とハンカチのような物が入っていた。
表面は波々とした縦曲面で向こうがはっきりとは見えない。
北は六甲山を超えてどこまでも続く。南は六甲アイランド沖をぐるりと回り明石方面に伸びている。
「上を超えれるかな?」
「いってみよ~」
「まいころかっ」
「んっ?」
2人でグングン上に上にあがって行った。
「もう神戸が小さくしか見えないけど、まだまだ上に続いとんな」
「なんか、寒ぅなってきたし」
「多分、上空3000m超えとるやろうしな」
「どうするー?」
「諦めて降りよか」
「それか、もっともっと上がって、寒さの耐性つけるとか」
「暇人か(笑)」
それでも暇に任せて上空まで行ってみる事にした。
グングン上がると、急に呼吸が苦しくなる。
体感温度もどんどん下がってくる。
「どれくらいやろ?多分もう8000mくらいまで上がったんかな?」
「下見たら、もう建物の形もわからんね」
「こうやってみたら、神戸だけ真っ暗闇だなー」
「うん、ぽっかりと穴が開いたみたい」
「この辺まで来たら壁の波々もほとんど無くなって向こうが見えるな」
「飛行機とか突っ込まんのかな?」
「もしかしたらもう事故ってるかも知れんね」
「伊丹空港は離着陸の旋回で東神戸の上通るんよなぁ」
「へぇ~ んならぶつかるな」
「神戸空港は、多分この壁に取り込まれてるやろなー」
大型ジェット機の航行高度がだいたい8000mから10000mだから、もう人間が生身で来る高さじゃない。
気圧も低く、空気も薄いし気温も低い。
こんな所で普通の人間は生きられない。
「おっ?来た来たー」
「こっちも来たよ」
「二つも来たぞ?」
「うちも、無酸素呼吸ってスキルと寒冷耐性と」
「おっ?珍しく同じ名前のスキルを覚えたな」
「そうなんや?だいたい中身は同じでも名前ちゃうもんなー」
取得時のちょっとした違いで、同じ内容のスキルでも名前が違う事が多い。
でも今回は多分、全く同じ状況で覚えたから名前も同じなんだろう。
「まだまだ上は見えないし、ほんまに宇宙まで続いとんかもな」
「もう寒ぅ無いし、呼吸も苦しないからどこまでも行けるけどな」
「行ったら、帰ってこないとあかんからな」
「そりゃそうやろ」
取り敢えず街に帰る事にした。
「今日はもう遅いし、寝る場所探さんとな」
「どっか空いてる部屋探して寝床にしよう」
「近くに人やゴブリンが居ないん確認せんとな」
「マップに索敵乗せたらマーク出るし」
「いつの間にそんなん覚えたんや!」
「あはははは」
何発か殴られたが、まぁいつもの感じで痛くも無かった。
街の上空まで降りて来たので、マップ索敵で生き物の居場所を探る。
何か小さいマークを見つけた。
「そう言えばさー」
「んにゃ?」
「なんちゅう可愛い返事しやがんねん!」
「テヘッ」
「あざと可愛いすぎるわ!ブリッコめー」
「かわいかろ?」
「あぁ可愛すぎるわ」
「ちょろいな」
「な~んがちょろいねーん」
近くに行き、美咲の首をロックして頭をグリグリする。
「あぁちゃうちゃう、美咲のペースに巻き込まれたらあかん」
「今朝からさー 小さい子供の死体を見てないよな?」
「うんうん、多分ゴブリンの餌になっとんちゃうかなって話やな」
「それと一緒で、犬や猫のペットも見ないよな」
「そう言われりゃまったく見ないねー」
「んで、今サーチしてたらな、なんか小さい生命反応があってん」
「行ってみーへん?」
「犬とか猫とか仲間に出来るんかな?」
「出来るんちゃう?アニマルテイマーとかって職業あるやろうし」
「動物好きなん?」
「好っきやで」
「俺も犬派やけど、動物は好きやな。世話が出来んから飼ってないけど」
「うちは昔、猫がおったんやけど、あの母親が来てからどっかにいってもた」
「逃げたん?」
「ちゃうと思う。動物嫌いやって言ってたから・・・」
「そっか・・・」
何と言ったら良いのか・・・
2人はその小さきマークを目指して下降していく。
甲南山手の2号線沿いにある大型ショッピングモールの立体駐車場の中。
7階の外部駐車スペースの入り込んだ角部分の車の下辺りだ。
この辺りは、隣の芦屋市がすぐ横なのでなかなか明るい。
六甲道辺りのような真っ暗な感じは無い。
美咲の顔もはっきりと見える。
色のある世界はやっぱり良い。
車の下を覗くと、そこには子犬のように見える小動物がいた。
美咲を反対側に行かせ、両方から忍び寄り退路を塞ぐ。
車の下にスライディングで身体を入れると、その小動物は驚いて後ろに逃げる。
そこには美咲が待ち構えており、すかさずその小動物を捕まえる。
キッシャー
美咲の腕に噛みつく。
多少の痛みはあるし少し血も出ているが耐えられない事は無い。
「この子ってフェネックの子供?」
「フェネックっぽいけど、なんでこんな所に居るんや?」
チワワくらいの大きさだが、耳がとても大きい。顔の長さより耳の長さの方が長い。
尻尾はふっさふさでふっくらと丸く長い。
フェネックも尻尾はモフモフだが、長さは精々後ろ足と同じくらいしかない。
この子は胴体と同じくらいの長さがあるし、体毛もペルシャ猫のように長毛だ。
そして、額に真っ赤な第3の眼がある。
「こいつってカーバンクル?」
美咲は覗き見で小動物のステータスボードを見ていた。
「なぁ美咲、この子ってカーバンクルなんか?」
「うん、絶対この子を仲間にする!」
「それより噛まれてるとこ大丈夫か?」
「レベルも0だし、STRも3しかないから大丈夫やろ」
「健ちゃん、この子が逃げないように身体を持っといて」
健斗は言われるがままにその小動物の身体を優しく抑える。
「大丈夫よ。私は敵じゃない」
美咲はそう言いながら頭を撫でる。
「ナウシカもそんな感じで手なずけてたな」
「なんでも誠意が大事やで」
何度も敵じゃないと言いながら頭を撫でる。
(ヒュン)
「おっ?」
「ん?なんか覚えた?」
「眷属契約やって」
「おっいよいよ魔物使いになるんか?」
笑いながら健斗は美咲を揶揄するが、心の中では羨ましいと思っている。
「健ちゃんも覚える?」
「噛まれてるのに?」
「べっちょないよー」
健斗は喜んで、美咲のようにカーバンクルの頭を撫でる。
撫でる、撫でる、撫でる・・・
(ヒュン)
「おっしー来た来た」
「んじゃこの子、どっちが契約する?」
まだグルルルと唸りながら美咲の腕を噛んでいる小動物に美咲は目線を送る。
「いや、美咲やろ」
「やったー」
汝
我が眷属となりてその身を捧げ
我が命令に従順に従い
我が身に危険を寄せ付けず
我が生き様をその眼で見守り
我が身が亡びる今際の時まで未来永劫共に生きると
誓いを立てよ!
「コントラクト!!!」
美咲の手から淡い光が迸り、小動物を包んでいく。
キュゥン
「やったね~♪」
「可愛いな~」
「どっちが?」
「りょ、両方に決まっとろうもん」
「プッ! 何故に博多弁?」
あははと豪快に笑う美咲の肩に、ちょこんとそのカーバンクルは乗っている。
背中のリュックの上や美咲の頭とかウロウロしている。
「おや?額の真っ赤な三つ眼がグリーンに変わってるぞ?」
「なんか意味があるんかな?」
「もしかしたら、美咲の風属性に反応してんのかな?」
「翠だとカーバンクルじゃないやん(笑)」
カーバンクルとは、元々 燃える石炭 とか 赤い宝石 を指す言葉である。
「って言うか、それって眼なんかなー?」
美咲はカーバンクルを抱き上げ、顔の前に持ってくる。
鼻をペロリと舐められたが、それも心地好い。
「よく見たら眼の様なそうで無い様な・・・」
「良くわからんけど、三只眼って事やな?」
「んっ?」
初めての仲間も増えてウキウキしている。
「名前、付けたらんとなー」
「なんにしよっかー」
「何がえ~かな?」
「言っとくが俺はセンスは無いぞ」
「んじゃ自分で考える」
しばし考え込む美咲。
「よっし、決めたよ」
「なんにしたん?」
「単純やけど笑うなよー」
「二つ石美咲の名に措いて命ずる、汝の名はリーリ!」
一瞬ポワッとカーバンクルの身体が光ったように見えた。
鳴き声がりーりーと聞こえるのでその名にしたと告げる。
「まぁ可愛い名前やからえぇんちゃう? フッ」
「笑ろたな~」
美咲がヘッドロックすると、リーリが健斗の耳を噛む。
「痛い、痛い、あはははは」
本当に痛いのかは分からないが、女3人組の出来事を忘れるくらい楽しい感情になる。
「取り敢えず寝るとこ探そかー」
すぐ隣の高層マンションの上階に行く。
玄関が開いている部屋を探し、中に入っていく。
誰も居ない事を確認して、部屋を物色する。
冷蔵庫の中も覗いて、食べれそうなものを探す。
「なぁ、さっきのショッピングモールの屋上にさー」
「ん?何か居た?」
「ちゃうちゃう、なんかさー宝箱みたいなんあったやん?」
「あぁチラッと見たけど、あれって収納ボックスかドレッサーじゃないの?」
「こんな世界になったんなら、宝箱とかあっても不思議ちゃうんよなー」
「見に行ってみる?」
「ん~ ちゃうかったらアホみたいやしなー」
「今でもアホの子やのに変わらんやろー」
「おいっおっさん!下僕のくせに調子乗っとんちゃうでー」
美咲が健斗に襲い掛かる。
リーリも美咲に加勢する。甘噛みだが軽く血が出る。
「痛い痛い痛い、ははははは」
「まぁ気になるなら、ちょっとだけ見に行ってみるか」
「ゴミやったらごめんちゃいね」
ベランダに出て空に浮かぶ。
もうコントロールも上手くなり、自由自在と言う言葉を使っても差し支えない。
美咲がリーリを肩に乗せ風纏の中に入れる。
そのうち風纏を覚えるんじゃないかと言う目論見があるようだ。
健斗を先頭に美咲が追従する形を取るが、すぐに美咲が先を飛ぶ。
ショッピングモールの屋上の、薄茶色の木の箱が置いてあるところに二人と一匹は降り立つ。
「近くで見たら、宝箱やな」
「こんなん普通なら見逃すでー」
「美咲ちゃんみたいに洞察力が無いとなー」
「美咲ちゃんは凄いでちゅね」
「馬鹿にしやがってー」
何発か蹴りを入れてから美咲は箱の前にしゃがみ込む。
「開けてみるよー」
「おぅイケイケ」
「むー」
「なんや、どないしたん?」
「鍵が掛かっとるー」
「鍵か呪文かどっちかやろ?」
「鍵なんかどこにあるん?」
「開けーゴマ!」
「プッ なんやそりゃ」
「アリババと40人の盗賊って知らんか?」
「知らんわー」
ジェネレーションギャップを感じる・・・
鍵の入手方法なんて思いつかないので呪文で攻めてみる。
箱を開ける呪文なんてそんなに多くないだろうし。
鍵が必要なら、この宝箱は一旦どこかに隠さないとダメだ。
「オープン ザ セサミ」
元ネタの英語で言ってみた。
カチャッ
「おっ?開いたぞー?」
「はぁ?まじかよー」
宝箱の中には、綺麗なオレンジ色の玉とハンカチのような物が入っていた。
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ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。
ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視
上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。
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