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第三章 健斗と美咲と新たな出会い
離別
しおりを挟むサザンモールの人たちと別れて中学校に戻ってきた。
皆とても暗い。
誰も健斗に話しかけないし、目も合わせない。
健斗の行動に誰一人として理解できる者は居なかった。
理解どころか、頭がおかしいのか?とさえ思える。
あれだけの数の人が人殺しと認定してるのに、なぜそこまで擁護しようとするのか。
親しい人ならまだわかるけど、全く知らない初めて会った人にだ。
女だからと言う理由だけなら、人として終わっている。
「おかえりー」
元中年二人組の明るい方が言った。
「ただいま~ もう酔ってる?」
美咲が普通に返答して話し出す。
何があったのか聞かれて、詳細に答えていく美咲とわらび。
横でバツが悪そうに健斗が体育すわりで膝に顔を埋める。
「リョウケンと交代してくる、お先におやすみね」
力無く健斗が誰に言うとでも無く、リョウケンが寝てる校舎の方にトボトボと歩いていく。
美咲はその後姿を、遠い目で見送る。
「なんで健ちゃんはあんなにあの女らを庇ってたんやろ?」
「私も不思議です」
「その場におらんかったからどうとも言えんけど」
「イチビって登場した手前引っ込みつかんかったんちゃう?」
「ん~ それにしてもしつこかった」
「最後は美咲ちゃん、切れて怒鳴り散らしてたもんね」
「おはずかしい・・・」
「聞いただけの話でも、健斗さんはおかしいと思いますよ」
リョウケンは健斗に辛らつな言葉を掛ける。
「やっぱり俺がおかしいんやなぁ・・・」
「相手は殺人鬼で、見逃すと、またどこかで被害者が出るんですよ?」
「うん・・・」
「周りの人からしたら、健斗さんが人殺しを容認しているようにしか見えないでしょう」
「そうなんかなぁ・・・」
「だから誰一人として健斗さんの意見に賛同する人が居なかったんじゃないですか?」
「そうやでー 頭おかしなったんちゃうかと思うわー」
「なぜそこまであの女らを庇ったんですか?」
「それともなにか?気に入った女でもおったんか?」
「恩でも売って、自分のもんにしようとでも思っとったんか?あぁ~?」
「こんのクソエロ親父が~!!!」
いつの間にか美咲やわらびと元中年2人組が背後に立っていた。
そんな気配も感じ取れないくらい、健斗は落ち込んでいた。
何にそんなに落ち込んでるのか、自分自身でもわかっていない。
皆に責められたからか、誰も自分に賛同しなかったからか、美咲に怒鳴られたからか
それら全てが折り重なって気持ちが塞ぎ込んでいるんだろう。
「なぜ?何故と聞かれても、こうだと言う答えが出てこない」
「・・・」
「ただ、この人らを助けなきゃって事しか考えてなかった」
「・・・」
「「「・・・」」」
「そーんな思い込みの激しい人やとは思わんけどなぁ」
「思い込みというか、弱者救済の精神みたいな感じかも」
「あのまんま、あの人らが戦ったら多分あの殺人鬼らが勝つで?」
「あの場所におった人の中で、うちと健ちゃんの次にレベル高かったし」
「3人とも、異常なスキル持っとったし」
「奴隷契約がどんな条件で使用できるんかわからんけど、あと3人は契約できるようになっとった」
「ボス以外の2人も人形化ってスキルあったし」
「それをそんな見た目で判断したんかーと思っちゃうわ」
「そうですね、こんな世界になって見た目で判断出来なくなってますし」
「そんな危ない人らを野に離したらあかんのちゃうかなー」
「これからも進化した人らを殺しまくるんやろうと思うで」
「そんな事は・・・」
「「「「あるわー」」」」
「あほらし!ここまでボケやと笑えんわ」
「武器とか貰ろたり、スキル教えてもろたり、恩とかあるけどもう無理やな」
「ほんま恩はあるよ。そやけど人として一緒におりたない」
「うん、頭いかれとんな」
「武器、返しとくわ」
わらびがそう言うと、元中年二人も渋々ながら武器を外す。
健斗の目の前に置くと、そのまま校庭の方に去って行った。
項垂れる健斗を見て、美咲はここを出ていく事を決意する。
「なぁリョウケンさん、この武器さー またあの子らに返しといてくれへん?」
「いや、それは良いですが、これからどうされます?」
「うちはこのおっさん、見放すわけにはいかへんし」
「み、美咲ぃ・・・」
「そやから、今からその3人組を見つけに行く」
「見つけてから?」
「見つけて尾行する。んで、このおっさんに真実を見てもらう」
「おい!おっさん!!シャキッとせんか~」
「あ、あぁ」
「あんたの索敵であいつ等みつけんで~」
キャリーバッグは邪魔になるのでこの校舎の隅に置いていく。
着替えが入っているが、どこかで仕入れてもいい。
美咲も、もう持ち歩くのは邪魔で仕方が無いと言い、ここに置いていく事にした。
後々ここに取りに戻っても、人と会わないように隅の方に置く。
「リョウケンさん、色々とありがとね」
「いえいえ、こちらこそですよ」
「リョウケン、ほんまごめんな」
「俺に謝るって事は、自分が間違ってるって気づいてるんですか?」
「ん~ 多分俺が正しくないんやろなーって思ってる」
「ま~だウダウダぬかしとんかぃこのおっさんはー」
「正しくない んやなくて間違っとんじゃー!」
美咲に1発蹴りを入れられ、健斗は苦笑いする。
リョウケンはそれを見て何とも言えない気分に陥った。
(悪い人だとは思わないけど、どうしちゃったんだろう・・・)
リョウケンに別れを言って二人で中学校を飛んで出る。
上空に上がり索敵の範囲を広げるが、特定の人間を探すほどの精度はまだこのスキルには無い。
「精度が足りんのやったらもっと頑張れやー!」
「気合入れてやっとったら精度も上がるやろ!そんな世界やろがー」
「無茶苦茶言うなよ!おまえはー」
「おっ?なんや?うちに反抗的やな?下僕の分際で?おぉ?」
「も、申し訳ございません、女王様・・・」
「ふむふむ、よかろう」
健斗の頭をポンポンと叩いて美咲は悦に入る。
しばらくすると索敵のスキルの範囲が広がった。
美咲に言うと、もう少し頑張ればもっと精度も上がるはずと言われる。
美咲も同じように目視で探していると、遠方視と言う遠見のスキルを覚えた。
さらに上空から遠方視を使っていると、俯瞰図と言うスキルも覚えた。
「ほれ、見てみ!」
「根性入れへんから新しいスキルも覚えられへんのじゃ ケケケ」
美咲は新しく覚えた俯瞰図と言うスキルを目の前に発現させて健斗に見せる。
それは上空から街を見下ろした立体的な地図。
自分の意志で上下左右好きな方向から地図を眺められる。
切り替えで平坦図にもなるので、これは便利だ。
「地図だけ見れてもなぁ」
健斗が要らない言葉をつぶやく。
「なんやと~この~下僕のくせに!」
美咲がヘッドロックで健斗を責める。
「よ~し、待っとれ~ サーチ系の最上位覚えたる~」
「サーチ系の最上位なんて、何か知らんやろ」
「知っとうわー」
「何や?知っとんなら教えてくれんか?」
「知っとっても人には教えられんこっちゃ」
「自分で知らべろ!」
手で、シッシと払う素振りで健斗を追いやる。
自分は少し上昇する。
健斗から離れ、俯瞰図を出しながら街を見下ろし3人組を探す。
健斗は美咲のスキルを見たからだろう、すぐに鳥瞰図と言うスキルを覚えた。
上空から斜め下に街を見下ろすような地図が出る。
グーグルマップの鳥瞰図のようだ。
索敵も併用すると、人や生き物のマークが付く。
種別までは分からないが、どこにどんな大きさの生き物が居るのかわかるようになった。
だが、美咲には黙っておく。
ふと気づいたことがある。
「美咲ー」
「なぁちょっとえぇかー」
美咲はすぐにそばに来る。
「ん?どしたん?」
「あれって壁か?」
住吉辺りを過ぎて来ると、東灘区のその向こう、芦屋市辺りに聳え立つ大きな壁が目に映る。
見えてはいたが、まさかそんなものがあるとは考えられなかった。
「なんか空が変な色しとると思っとったけど、ここまで来たら壁ってわかるな」
「もしかしたら神戸だけ隔離されとんかな?」
「あっちは明るいし、うちらの辺だけ停電しとんやと思っとった」
「3人探すんも大事か知らんけど、一回行ってみぃへんか」
「逃げんなよ?」
「あぁ わぁっとうわ」
「えっらそうな喋り方やな~」
「申し訳ござい」
「短縮すんな」
(もう立ち直ったかな)
笑いながら二人は壁に近づいていく。
壁がすぐ目の前に来ると、想像していたのとは全く違っていた。
「「なんじゃこりゃー」」
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