厄災の街 神戸

Ryu-zu

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第二章 サイコパス覚醒

サイコパスしくじる

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モールの自分たちのブースに戻ると、なにやら雰囲気が明るい。

 『あら、琴南さん達、おかえりなさい』

「あぁただいま戻りました」

ボス猿が居なくなったことで抑制されることが無くなり、それで明るいのかも知れない。

だが、結局こうやって群れていると、次のボスが産まれてくるのは必然であり当然である。
人間とはそんな生き物で、良い統率者になればいいのだが、権力を持つと人は変わってしまう事が多い。

メグミにしろ、元からあんなに支配欲の強い人間だったのじゃないかも知れない。






 「おいっ、やっぱり柳田は帰ってこないな?」
 「だよなぁ。やっぱりあいつら何かおかしいと思う」
 「追求してみる?」

モールを統括しているグループの中の数人が華那子たちの行動を怪しんでいる。
柳田と言う男が、「自分が探ってみる」と言って接触したのは確認しているが、本人は帰ってこない。
レベルも高くて戦闘系のスキルを持っていた柳田が、そんなに簡単にやられるとは思っていなかった。

 「じゃぁ次は自分が行きます」
 「私たちは少し離れて尾行しますね」

名乗り出た男が接触し、女性2人男性2人が尾行して怪しい動きをしないか探る作戦だ。
柳田くらいレベルが高い男で、空中浮遊のスキルを持っているから、いざという時には空中に逃げれるので自分が適任だと判断した。
 
それよりも柳田とは中学からの友人で、消息不明になった事を心底心配している。
何か知っているのなら聞いてみたいと、素直に思っている。






「絵里、一服終わったら行こか?」
 「うちはいつでもえぇで」

 「今度は連れてったるからな」
人形化した男に声を掛ける。
絵里の中で少し試したいことがあった。
人形化を解いたらこの男はどうするのか?

娘らしき女も目の前で殺してるし、強い敵対心を持ってるかも知れない。

だが、長時間人形化されて精神を支配していたのだから、スキルを解いても術者を崇拝しているかも知れない可能性もある。

どちらになっても、一度テリトリーの中で試してみる事にしている。
テリトリーの中なら、例え暴れても迅速に始末が出来るからだ。



ブースから外に出て、狩場のマンションに足を向ける。
華那子に言ってゲートを出してもらい、中に人形男を入れる。

男が入ったくらいの瞬間に、後ろから声が掛かった。
 (やばっ見られたかな?)

 『すみませーん』

3人で振り向き、顔を見合わせる。

「はいー 何でしょうか?」
華那子が猫かぶりの声で答える。

 『ちょっと聞きたいんだけど、柳田って男と一緒じゃなかった?』
「あのいやららしい人ですか?」
 「変な目で見るから、一緒するのを断ったんですよ」
「もうずいぶんと前の話ですが?」

そう言って、踵を返し狩場方面へと歩いていく。

だが、その男は付いて来る。

 『そうですかー。 どこへ行くとか言ってませんでしたか?』
「聞いてないですね」

それでもついて来るので、3人は狩場とは違う方向に足を向けた。



「あの方とどう言うお付き合いなのですか?」
華那子が問いかける。

 『あぁ奴とは中学からの長い付き合いで、若いころは一緒に悪さばかりしてた仲ですよw』

それを聞いた華那子はある事を察した。

「そうですか。一緒に友達の妹を強姦したりとか?」

男は一瞬立ち止まり怪訝な顔をする。
しかし、また歩き出し華那子と歩調を合わせる。

 『ど、どう言う意味でしょうかね~』
「琴南和人ってご存じでしょ?」

 『・・・』
 『な、なにを? い、言いたいのかな?』
「あはは、私、琴南華那子と申します」

 『えっ?あっ』
 『え~とっ』

 『ち、違うねん、あの時h
「スレイブ!!」
男が何か言い訳をしようとしていたが、死刑は免れない。
ならば聞く必要も無い!

「夢月!」
華那子は自分の短剣を、まだ元気に動いているその男の心臓目掛け、殺意を込めて勢いよく突き刺した。

 『うっ・・・』
そして、剣先をねじる。
男はその場で膝を降りしゃがみ込み、絶命する。

 「あほかー、うちらに経験値入らんやろが~」
絵里がそう叫ぶと同時くらいに、後ろの方で悲鳴が聞こえた。

 「きゃぁぁぁぁぁぁぁ!」

振り返ると、男が一人と女が二人、こっちに走ってくる。

 「おいおい、どこにおったんや?あんな奴ら」
「気配探知に掛からんかったから、結構離れてたんやろ」
   「どうすんの~? 華那ちゃん、やっちゃう?」

「他にも仲間がおるかも知れんから、一旦ここは逃げやな」
 「この男のスキルどうする?」
「今取っとくわ」

"無命奪魂"と唱え、ボロボロと出て来る宝珠を絵里がアイテムボックスに放り込む。

3人の敵が、顔がわかるくらいまで近づいてきたので、急いでその場を離れる。

素早さの高い華那子が先頭で走り、角を曲がった所でテリトリーのゲートを開く。
絵里も衣摩もゲートに飛び込み、華那子も最後に飛び込んだ。





 「あれっ?」
モールの3人が追いついたと思ったのだが、角を曲がった広めの道路に、追いかけてた3人組の女性の姿は無く完全に見失ってしまった。

 「どこに逃げたと言うの?」
 「こんな見通しの良い所で・・・」
 「取り敢えず、手分けして探そう」
 「見つけたら必ず大声で叫ぶ事ね。決して一人でどうこうしようって思わないでね」

男性1人は別のルートで3人組の女を尾行しようとしていて、離れてしまった。






 「お~危なかったなぁ~」
「ごめんな、ちょっと感情的になってしもうて気配探知が薄れてしもた」
 「それはえぇけど、あいつの経験値欲しかったなー」
「すまんすまん、それはホンマにすまん」

「その代わりに、好きな宝珠取ってえぇぞ」
 「いつまでも衣摩の下は嫌やからな」

  「へへへ」
  「んで、何々あったん?」
興味津々で後ろから衣摩が聞く。

 「え~と、槍術 拳闘術 火魔法-[灯] 浮遊 氷塊魔法-[冷庫]-[雹弾] 」
 「んじゃー魔法の珠、二個もらうな」

 「んでも、衣摩に使えそうなんないなぁ」
 「やったら、火魔法を衣摩にやるわ」
  「えぇのん?」
 「火魔法ゆうても、生活魔法やからな」
 「この氷塊魔法みたいに、生活魔法から攻撃魔法にも派生するみたいやし」
「がんばれ!」

2人は宝珠を取り込んだ。

「浮遊は?衣摩はえぇとしても絵里は要らんのか?」
 「浮遊って歩くよりは楽だってくらいのスキルやろ?」
「今んとこはそうやけど」
 「んじゃいいわ」

「そっか、まぁまた仲間が増えたらそいつにやるわ」

敢えて、人形男や人形少年の事を言っているんだろう。



 「んじゃー衣摩、どっちからやる?」
  「ん?なにを~?」
 「その少年、手下にするんやろ?」
 「やる気ないなら先にうちがするわ」
  「いやーいやー私が先~」

愚図ぐずい子と感の鈍い子はきらいやで」
 「あ~あ、可哀相に~華那子に殺されるわ~」
  「いやぁぁぁぁぁ華那ちゃんごめんなさ~い」
衣摩が泣いて華那子に縋る。

「あほか、おまえらは(笑)」
「さっさと済ませろ」

「さっきのんで支配人数が1個増えたからな」
 「おっ?やっぱり3レベルで1個増える感じやな」
「そやな。あとは絵里と衣摩のんがレベルで人数増えるか検証やな」


  「多田衣摩の名に措いて命ずる 汝の束縛を解放す」
  「レリース!」

少年は解放されたとたんに衣摩に食って掛かる。

  『おんどれ~ 何しやがんねん!』

  「お~元気元気♪」
  『じゃかましわ!』

  「さてさて、これからどうするの?」
  「うちを殺してみる~?」

衣摩が笑いながらその少年を挑発する。

少年は我に返り、周りをキョロキョロと見回してその場所の異常性に気づく。

  『ここはどこなんや?』
少しビビり気味に衣摩に問う。

「ここは私のテリトリーよ」
横から華那子が少年に答えた。

  『テリトリーってなんやねん…』

 「衣摩~ さっさと済ませておくれよ~」
絵里はお気に入りの人形男を早く解放してみたかった。
従わないならまた人形に戻せばいいだけだと思っているが、早く結果が欲しい。

  「ねぇ、あなたの子分を殺したことは謝るわー」
  「それでね、あなたの子分が持ってたスキルを宝珠にしといたの」

少年はまだキョロキョロしながら衣摩の話に少しだけ興味を持つ。
  『嘘っぽいけどなぁ』
  『オイラ騙してどうするつもりなんや?』


  『なんとか言わんかぃ!こんのクッソダボが―』
様子を見て黙っていた衣摩にいきなり切れて文句を言う。

 「最近の子供は切れやすいんよなぁ~」
「こいつは特別やろ(笑)」

  「この宝珠はね、あんたの子分が持ってた 誘導 ってスキルやで」
  「私らのボスの能力で、死体からスキルを宝珠にして抜き取れるの」
「おう、うちのユニークスキルや」

  「ほいっ」
衣摩はその宝珠を放り渡した。

  『な、なんやねん、これは・・・』
  「それ見て、何か分かるまで観察してみ」
  『はぁ?おのれは頭ワイとんか?』

 「えぇからやってみんかい!」
 「しょーもない茶番やっとらんで、さっさと鑑定覚えてその珠、吸収してしまえ!」

絵里が切れ気味に少年を怒鳴りつけた。
早く自分もやりたいのに、衣摩がもたもたしているように感じてしまう。

2人同時にやって、2人ともが暴れ出したら華那子に面倒を掛ける。
だから、万が一収拾がつかなくなった時の面倒さを避けるために絵里は衣摩が終わるのを待っている。

 「そや、華那子ー もう一つこの砦って作れんのか?」
「あぁ何個でも作れんで」
 「そんなら、あっちにもう一個作ってくれんか?」
 「衣摩はまだ時間掛かりそうやし」

「おう、そういや冷庫ってスキル使えんねんな」
「それを砦全体に施したら冷蔵庫出来んか?」
 「それも検証してみようぜ」
 「まぁ空間倉庫あるから肉も野菜も腐らんけどな」
「いや、日常的な材料を保管しときたいんや」
 「そっかー」

「んじゃー砦増やすか」

そう言って、華那子と絵里はテリトリーの奥の方に歩いて行った。

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