厄災の街 神戸

Ryu-zu

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第二章 サイコパス覚醒

サイコパス勧誘

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  「誰や?その男?」

ブースに戻るといきなり多田がそう言って問いかけてきた。
 
 「あぁ下のマンションで見かけたから、こっちに誘ってきた」
絵里が適当に答える。

華那子と絵里が人工芝の上に座り、男は立ったままだ。
絵里が隣に座れと言うと、おもむろにしゃがみ込む。

ボンベ式のガスコンロでお湯を沸かしてカップ麺でお昼にする。

食べ終わった後のゴミを神戸市指定の燃えるゴミ用の袋に入れながら、もうゴミの回収なんか二度と来ないんだろうなーとそこに居た人々で嘆き合う。

食後の、生ぬるい缶コーヒーを飲んでると、ここのモールを統括しているグループの1人が華那子たちのブースの中に入ってきた。

そして華那子に問う。

 『こんにちわ、自分はここを統括している柳田ともうします』
「はぁ・・・」
 『先ほど一緒に出られた女性はどうしましたか?』
「服が汚れたので自宅に帰られましたが?」
 「元々うちらとはブースが違うので、そちらに帰ってるんじゃないですか?」
 『そうですか・・・ どこにも見当たらないので』

鑑定で見ると、そいつはレベルが11もあり、蹴術使いと言う聞いたことの無い職業に格闘術と剣術も持っているかなりの強者だ。おまけに生活魔法もいくつか持っている。
一番の目玉は[瞬速治癒]と言う喉から手が出そうなネーミングのスキルである。

強いと言っても、今の絵里ならばレベル差2や3くらいは気にならないほど強いだろう。

これは美味しいかもと華那子は考えた。

 『一緒に探しに行ってくれませんか?』
男の方から誘いが来た。
絵里の顔を見ると、男に見えないように ニカッ と笑う。

「もちろん、いいですよ」
 「食事も終わったので子供を探すついでに行きましょう」
2人が立ち上がると、多田も一緒に立ち上がった。

 「あ、多田さんはゆっくりしといてね」
  「はっ?なんでぇ?私も行くよぉ?」

絵里と華那子は顔を見合わせた。
まぁ最悪の場合は始末すればいいかと華那子も絵里も考えたようだ。

 「つるはしは仰々しいからバールくらいにしましょ」
絵里がそう言うが、多田はつるはしを離さなかった。
この男を始末した後なら、絵里でも華那子でも多田には負ける事は無いだろう。

行先は先ほどのマンションだ。
まだ住人が残ってる事も分かってるし、二人を始末した後に一掃しようと思う。

 「しかし、おかしな現象ですねー」
「ほんと、まったく居なくなったね」
途中、まったくゴブリンに出会わない。
あれだけの数居たのに、一体どこに消えたのだろう。

 『全部倒せたって事は無いかな?』
「それは無いでしょ。何百も居たのに、それだけの死体が無いし」
そんな話をしているが、男はしきりにモールの方を気にしていた。

そしてこの男は何か厭らしい目つきで華那子と絵里を見ている。
そんなそれを女性3人ともに気づいてる事も知らずにチラチラと目線を送る。

多田は背が高いからその対象では無いのかも知れないが、少しモヤモヤする。



このマンションは、周りを一戸建ての家が囲むように建てられてるため、マンションの敷地に入ったらもうモールからは全く見えない死角がかなりある。

マンションの敷地に入った瞬間にその男は後ろを振り向き死角に入った事を確認した。

 『おまえらさ~一緒に行った連中をどうにかしとるやろ』
 『朝から、なんかおかしいなーと思って見てたんやぞ』

華那子は分かっている、この男がカマを賭けている事ぐらい。

なぜなら、山下達を殺したマンションも、このマンションもモールからは望遠鏡や遠目や千里眼を使っても見えない場所であるからだ。

唯一可能性があるのは遠隔透視くらいだ。


そして事を起こした場所は、部屋の中であったり他の場所からは見えない所を選んでいた。
もちろん気配探知も索敵も使っているので、近くで隠れて見る事も不可能である。

「なんの事か分からないけど、急に話し方も態度も変わりましたね」

 『率直に言うわ。おまえら俺の下僕になれ』
 「はぁ?何を言ってるの?」

 『意味わからんのか?黙って俺のゆう事聞けちゅうとんじゃ』

「それがあなたの本性ですか?」
 『本性?当たり前やろが?モールじゃそれなりの立ち位置作らんと何も出来ん』
 『俺は俺らしく生きたいから頑張っとんじゃ』
 『力が無いもんは力の有るもんに従うんが当然ちゃうか?』
 『こんな警察も自衛隊も成り立たない世界で、自分の欲望のまま生きる事がおかしいか?』
 
(おかしくないよ?)
華那子はそう思うが、言葉に出して言う場面じゃない。

 『おまえらが何を企んどうか知らんけど、黙っといたるし今後守ったる』
 『その代わり俺の言う事をちゃんと聞けや』
 『ふっ、もちろんその身体もな』

下卑た厭らしい目つきで女性たちを見回す。

 『特におまえや』
華那子の方を見てさらに厭らしい目つきで舐めるように視線を絡める。

 『おまえ、和人の妹のかなこやろ』

いきなり兄の名前が出て来て驚いたが、戸惑うことなく返答する。

「兄の知り合いですか?私は面識無いしあなたを知りませんが?」

 『あはははは!知らん訳ないやろが~』
 『おまえが小娘ガキの頃、あんだけ可愛がったったのに』
 『初めての男を忘れたらあかんわー』

気持ち悪い笑顔で華那子を見やるその顔を何故忘れていたんだろう。
今日2回目の邂逅かいこう、高校生時代に自室で襲われた連中の1人だ!

「おまえー!あんときのダボくれやな!!!」

華那子は鬼のような形相で男に掴みかかる。

だが華那子が襲い掛かる前に、多田がつるはしの鋭い先をその男の尻に打ち込み穴をあける。
 ウギャー

男は軽い悲鳴を上げたが、その部分に視線を落とし、つるはしを強く握り引き抜く。
すかさず振り向きざまに足蹴りで多田の顔面を狙う。

「夢月!」

多田のおかげで冷静になった華那子は、剣を持たない方の手で男の髪を掴み、片足でバランスを保てず崩れた体制のそいつの頭を引き寄せ前屈みにさせる。

そして顔面左側頭部、コメカミの辺りに短剣[夢月]を突き刺す。
 『ガッ?』
男は華那子の一連の攻撃と素早さに身体も精神も追いつかない。

必死で、短剣を突き刺してる加奈子の腕を両手で持つ。

「絵里~ 首落とせ~」

 「しのぶ!」

絵里の大剣[しのぶ]が男の両肩と共に頭部を切断する。
 (ヒュン)

華那子の攻撃は普通なら即死だろうが、この男の持つスキルは致命傷をも治癒してしまう。
時間が経てば経つほどHPは0に近づくように減っていくだろうが
確実に殺すには首を刎ね落とす必要があった。


「さっすが絵里やのー」
 「いやいや、華那子の殺技の速さには感心するわ」


2人で褒め合いながら華那子は宝珠を抜き出す。

「これはあんたのんやな」
緑色の[剣術]の宝珠を手渡す。

「この赤いのんもらってえぇか?」
 「あぁ好きなん取っても文句なんか言わんわ」
「一応な」

赤い宝珠は[瞬速治癒]と言う最上級スキルだった。

生活魔法を全部取り込み、残った珠は絵里の収納に入れておく。



一連の流れを只々理解出来ずに眺めている多田がやっと口を開く。

  「なぁ?」

絵里も華那子も一応身構える。
面倒な事を言い出したら、すぐに始末出来るように。

  「・・・いつから、名前呼びする仲になったん?」
「「そこー?」」


「絵里―こいつも仲間になったようやでー」
 「なんでこの男に殺意持ったんやろ?」
「ほんまやな」

 「なぁ多田さんよ、なんでこいつを殺そうと思ったん?」
 「嫌な知り合いやったんか?」

多田は何故そんな事を聞くのか良く理解が出来ていない。
なにかがおかしいこの二人に警戒心を強く抱く。

  「殺意ってそんなもん見せてたかな?」
 「いやいや、あんたの称号見たらわかるからな」
  「称号?」

「あぁ。称号に同族殺しって付いとるやろ?」
「それって殺意や悪意を持って人を殺さんと付かん奴やねん」

  「・・・」
「なんで殺そうと思ったん?」
  
  「なんで私のステータス見れるん?」
  「鑑定とかそんなスキル持っとったなんて聞いてへんで?」

「うちも絵里も鑑定持っとるよ」
 「まぁちょっと前やけどな」

  「・・・」
  「うちが留守番しとう間に一体何があったんや・・・」

「聞きたいか?聞きたいんやったらちょっと尽いておいで」

華那子はそう言うと絵里に目配せして歩き出す。
まだ二人に警戒心を解いてない多田は、つるはしを持つ手に力を入れて尽いて行く。

憂さを晴らした男は肩に頭部が付いた部分と腕2本と胴体に切り分かれていた。
華那子が腕2本と頭部を掴み、絵里が胴体を足持ちで引きずっていく。

一番手前の部屋にバラバラ遺体を放り込み階段に向かって歩き出す。

階段をいくつか上がった階の最初のドアを叩く。

返事が無い様なので、ドアのラッチと鍵部分に華那子は短剣を何度か差し込む。

「ふむ。しかし切れ味凄いよなーこの剣は!」
「絵里には感謝しか無いわ」
 「いやいや、物々交換やからお互いさまや」

それを見ていた多田は先ほどの殺傷現場を思い出し二人に尋ねる。

  「丘さんもなんも無いとこから剣を出しよったけど、空間収納とか二人共持っとるん?」

 「ん~空間倉庫は持っとるけど、これはユニーク武器やから異次元収納出来るねん」

  「琴南さんのその短剣も?」
「そやでーカッコイイやろ~」

  (空間倉庫まで持ってるのか・・・)
  (しかし・・・ どっちの武器も恰好良い、、、)

この手の話が一番好きで詳しいのはこの多田衣摩だったから、二人は自慢したかった。


ドアのカギを壊しロックされてたチェーンもスパッと切り、部屋の中に土足で入っていく。

家の中には小学生くらいの子を持つ親子3人家族が震えながら座っていた。
 『あ、あんたらなんやねん!』

華那子は心の中で序呪文を唱え終え

「スレイブ!」

とだけ唱えた。


それでもその3人は一瞬で華那子の傀儡と成り果てた。

 「おっ?呪文短縮か?発動呪文だけでいけるんか?」
「いや、誓約呪言はつぶやくように心の中で唱えるねん」
「コツ覚えたら簡単やけどな」
 「ふ~ん。また今度やってみるわ」
「相手に警戒されへんからえぇで」

自分だけ疎外されてる感が強く、多田は悲しい声で二人に問いかける。
  「なぁ?うち、ポンヤ仲間外れされとん?なんで二人だけで楽しそうなん?」
  「なんか涙が出そうやねんけど・・・」
  「さっき、仲間になったとか言ってたやんなぁ?」

「あぁごめんよ。今からちょっとしたテストするから気合入れてな」
そういって華那子は子供に大人二人を殺させた。
多田はそれを何も感じず見てるだけだった。

その子供は進化の時間もあまり長くなく、身長が少し高くなったくらいで見間違うような変化は見られなかった。
その事から、絵里は考察する。

 「この進化って、全身の細胞が強化するのと同時に、細胞のピークに戻ろうとするんやと思う」
 「ピークに達してない細胞はそのまま強化細胞になるだけちゃうかな」
「老化した細胞が再活性化してピークに近づけば若返るのは当然やしな」
 「これって細胞寿命が無くなるって事やんな?」
「本当の意味での不老不死になるんかもな」
 「ま~不死の部分は外因性の要因で否定されるけどな」
「テロメア老化が無くなったってだけの事やな」

  「なんのはなししとんかわから~ん!」

2人は多田の方を見て思う。
 (さっきから・・・ こいつって結構カマってちゃんやったんやなー)

「んじゃー次行こか」

 「そういや、うちらの子供ってどこ行ったんやろなぁ?」
「もうほんま忘れてしもとうな」
  「ほんまや・・・うち、子供が死んだら自分も死ぬとか思っとったのに・・・」

そう言ってうつむく多田を余所に、何件か隣の家のインターフォンを押す。

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