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第一章 美咲と健斗
相棒
しおりを挟む2人は、エレベーターホールに着いて昇降呼び出しボタンを押す。
「あれっ?電気がつかへんね」
何度もボタンを連打したが点く様子もない。
「しゃーないなー 階段で行こか」
ホールに接続する非常階段は、数時間前に倒したゴブリンの死体がまだ転がってるはずだ。
あまり良い気持ちにならないので別の階段から行くことにする
とぼとぼと南西の階段に向かう二人。
その間、美咲は一言もしゃべらなかった。
階段にも死体や遺体が時々転がっている。
不思議な事に、もう遺体を見ても何も感じなくなってきている。
これは危ない兆候じゃないかと危惧するが、どうしようもない事なので一旦スルーする。
「そやけど、あんだけいたゴブリンはどこ行ったんやろな?」
「・・・」
母親たちの死を嘆き悲しんでるわけじゃないみたいだけど、美咲の胸中には何か押し寄せるものがあるんだろう。
12階の廊下を踏んだところで、どこかの部屋の玄関ドアを激しく叩く音がする。
「要救助者かな?」
「ちょっと見てくるわ」
そう言って美咲の立ってる廊下の床の足元に、キャリーバッグと背負いたリュックも下ろし音のするドアの方に歩いていく。
廊下に大の字で動かなくなってる40代くらいの細身の女性を通路の端に寄せた。
ガンガンなってる玄関ドアのノブを掴んで回すとすんなりと回った。
カギが掛かってない?
「大丈夫ですk『キッシャー!』
言葉をすべて言い終わる前に飛び出してきたのは人ではなくゴブリンだった。
手には包丁を持っている。
「おっとっと・・・」
慌てて後ろに飛びのいたおかげでゴブリンの攻撃は受けなかったが、飛びすぎてアルミ柵に背中を打ち付けた。
「いって~」
そう叫ぶと向こうから美咲が震える声で叫ぶ
「健斗さ~ん!」
叫びながらこっちに向かって来る美咲を横目で見ながら腰から青龍柳葉刀を抜く。
ギシャシャシャー
また後ろからもう1体が出てきた。
廊下の幅では青龍刀は思いっきり振り回せないので突くことに意識を変える。
先頭のゴブリンに刃を向け、刺突の構えをする。
勢い良く近づいてきたゴブリンの喉元目掛け、突く!突く!突く!
「健斗さーん、気を付けてー」
「後ろのゴブリン、レベル2だよー」
「わかったー」
そう返し、先頭のゴブリンの喉元に刺さった青龍刀を抜こうとしたが距離が近付き過ぎててスッと抜けない。
後続のゴブリンが、先頭のゴブリンが落とした包丁を拾う時間を作ってしまった。
そして、拾った包丁を大振りで振り上げるとそのまま動かなくなり、包丁を手から落とす。
俺の脇を抜け、低い姿勢から中腰でスライディングしながらメイデンクローで後ろのゴブリンの心臓付近を突き刺し、そして抉る!
「大丈夫ー?」
「おぅ助かったよ~」
間一髪で美咲の攻撃が間に合った。
(ヒュン)
「おっ?なんか覚えたみたいかな?」
のんきに話していたが、部屋の中からもう1体ゴブリンが走り出してきていた
気づいていない美咲を後ろに押し倒し、敵に背中を向ける
ゴンッ
強い打撃痛を背中に感じ、左手に持ち替えた刀を後ろ手に振りぬくが、廊下の壁に刃先が当たり手からはじけ飛ぶ。
「チっ!」
急いで右腰のククリを取り出す。
だがもうすでにゴブリンは攻撃態勢を整え済みで、手に持つ金づちのような物を振りかぶる。
身体をひねりゴブリンに正対しようとするが、その時にはもうすでに金づちを振り下ろし始めていた。
ガッキーン
高い金属音がして、金づちは後方に飛んでいく。
美咲が横から籠手で金づちの攻撃をガードし、その反動で金づちが飛んで行った。
体制を崩したゴブリンにククリを下から振り上げる。
ゴブリンの左わき腹から右肩に向かって肉が深く切れていく。
(ヒュン)
「フゥー また助かったよ」
「ガンバタ」
「なんで片言?(笑)」
「ニヒヒヒ うちら、最高のコンビやね♪」
美咲はもう元に戻っていた。ギリギリの戦闘が嫌なことを忘れさせてくれたのだろう。
「そんだけ暴れてよく帽子が落ちないなー」
「ヘアピンでしっかり止めとうからねー」
部屋の中に入り、もうゴブリンは居ないか確かめる。
リビングの掃き出し窓が割れてガラスが部屋の中に散乱していることから、このゴブリン達はベランダから侵入してきたんだろう。
キッチンで2人の女性が倒れている。
1人は靴を履いたままなので、この部屋の住人を助けに来たのだろうか。
どのみちもう聞ける人は居ないので想像で物言うしかない。
ベランダに出てみると、隔て板が破られていないので少し疑問に思う。
マンションは消防法と建築基準法で定められた、ベランダの隣室との境は隔て板で仕切る事になっている。
この仕切りの前に物を置くことは、消防法で違反になる場合が多い。
「なぁーこのゴブリン達ってどこから入ってきたと思う?」
「ベランダ?って思うけど」
「でも防火の隔て板が割られてないから隣から来たって事はないんよね」
「んじゃ、ここで沸いた?」
「そう考えるのが、この状況を見た普通の結論だよね」
「ステータスオープン」
美咲は考察にもう飽きたのか、ステータスを見だした。
二ツ石 美咲(19)
Lv2
種族 【新人類】 選択
職業 【--】 選択
称号 【--】
基本能力一覧
GMR/SPE
HP 22/22
MP 12/12
STR 18
DEF 20
AGI 25(+11)
DEX 16
INT 12
SP/10
基本技能一覧
扇風脚 超跳躍 覗き見 爪操術
27-0/15+0
「おぉー レベルが上がってスキル覚えとうわー」
「ちょいと見せてね♪」
「もぉーエッチなおぢちゃま」
美咲の顔をじっと真顔で無言で見つめる。
いたたまれなくなった美咲が目を伏せて謝る。
「ごめんちゃい」
「可愛いから許す!」
あぁ、なんかバカップルみたいになって来た自分に、ほんと怒鳴ってやりたい。
「あっそうそう、覗き見の効能わかったよー」
「相手のステータスが見れるんやろ?」
「なんで?なんで知っとん?」
「(笑) 大きな声でゴブリンがレベル2だって叫んでたやん」
「ちぇ~っ」
「俺もなんかスキル覚えたかな?」
庄内 健斗 (31)
Lv 2
種族 【新人類】 選択
職業 【--】 選択
称号 【--】
基本能力一覧
GMR/PRE
HP 18/20
MP 11/11
STR 23
DEF 20
AGI 18
DEX 16
INT 12
SP/10
基本技能一覧
超跳躍
27-0/10+0
「なんかHP減っとるし」
「背中ど突かれとったやん」
「あぁまだちょっと痛いからかー」
「レベル上がったら全回復したらいいのに」
「あつかましいおっさん(笑)」
ベチッ
脳天チョップをお見舞いされた美咲が大袈裟にうずくまる。
「あほになったらどうすんねーん」
「今でもあほやん、INT12しかないやつが」
「健ちゃんかっておんなじやん」
ついに”ちゃん”付けで呼ばれ出したよ。
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