厄災の街 神戸

Ryu-zu

文字の大きさ
上 下
15 / 154
第一章 美咲と健斗

生きるためには仕方ない

しおりを挟む
コンビニの中に入ると、商品棚はどこも空っぽだった。

外の駐車場や店内の通路には人の遺体、ゴブリンの死体もいくつか転がっている。
やっぱり進化したがそのまま殺された感じの遺体が2~3体ある。

店舗の中にはもう目ぼしいものがなかったが、バックヤードに入ってみると手つかずの商品が積み上げられていた。

缶詰、菓子、パン類、水のペットボトルなどを手分けして持ち出す。

また取りに来るため、バックヤードへの入り口を棚や机でふさいでおいた。
ごめんなさい、感謝しています。


一度学校に戻り、自分たちが連れてきた人たちに食べ物と飲み物を渡す。
彼らは西棟の3~4階部分を使わせてもらう事になった。体育館だ。

在校者は教室だけの北側の本校舎に避難している。

20ほどある教室にグループごとに分かれて避難している。

体育館のように広い場所は一括で管理がしやすいが、プライベートな空間が無いため避難民にストレスが溜まる。
これは大震災で培った大切な経験からくる配慮だ。


もう宵闇がそこまで迫っている時間帯だ。夜は真っ暗になるため早く寝てほしい。
だが、こんなことがあった一日の終わりに安眠など出来るはずもないだろう。




校庭に4人で集まる。手には菓子パンとヌルい缶コーヒーを持っている。
健斗のスーツケースに入っている生ものを先に処分しなければならないが、それは夜食にしようと皆で決めた。

まだ夜回りにはちょっと早いので、二人が巡回して二人は合間を見て仮眠をとることにした。

「リョウケンさん、ちょっといいですか?」
  「はい?どうしました?」
「風纏、習得してみませんか?」
  「え~? いやーぜひぜひお願いします」
  「それよりも、さん付け辞めて下さい」
「いやーでも礼儀としてやっぱり呼び捨てはしにくいです」
  「自分は健斗さんが居なけりゃこんな力も付けられてませんでした」
  「師匠のように思ってますから」
「まぁそう言われると悪い気はしないですね」
「じゃぁいきなりは無理かもなので、徐々にそうしていきます」
  「お願いします」

取得のための条件を話す。
  「健斗さんになら抱かれても良いです」
「・・・・・」
  「へ、へんな意味じゃないですよー」

まぁいいかっ。

リョウケンを抱きしめ風纏を唱える。そしてそのまま上空に舞い上がる。

  「おぉ~」
「このまま浮遊してたら多分覚えると思うのですが」

そう言って横を見ると、わらびを抱いた美咲がいた。
「あははははははは。なにしとんじゃ」
   「リョウケンさんばかり贔屓してズルいです」
わらびが目尻を釣り上げて健斗に物申す。

 「わらびちゃんはうちが育てる!」
鼻息荒く美咲が言う。

まーたしかにレベルもリョウケンの方が上になったし、索敵のスキルも覚えたし。

ほどなくしてリョウケンは風纏を覚える。
コントロールの仕方を教えて、もう少し上空に上がり身体から離す。

一方わらびはなかなか風纏を覚えない。
美咲がムッキーとか言ってるが、すでに風纏のコントロールを身に付けたリョウケンから遅れる事、数十分。

いまだに覚えない。

もう周りは真っ暗だ。

 「なんでやろ~?」
「ちょっと代わろか?」
 「え~健ちゃん、わらびちゃんを抱きたいからって何ゆーとん?」
 ボコッ

「もしかしたら美咲は俺のコピーやからかも知れない」
 「行動発生系って言ってたやん」
「多分美咲の熟練度があがったらコピーさせれるんじゃないかとも思ってる」

美咲に近づき、わらびに了承を得てお姫さま抱っこをする。
いやいや深い意味などないし厭らしい気持ちもない  はず。

とは言え、首に片腕を回してきて息使いが聞こえるほど間近に顔があるし、なんと言ってもこの子の顔は可愛い。
美咲の時はこんな気持ちにならなかったのに・・・

しばし抱き合って浮かんでいると風纏のスキルを覚えて、物覚えの良いわらびは自由自在に飛び回る。

「やっぱり色がちゃうね~」
リョウケンは透明度の高い青、わらびは薄い紫色をしている。


辺りはもう闇の色に染められて、遠くでモンスターの叫ぶ声が聞こえる。

北校舎の3階の窓から、健斗達の空中遊泳を眺める視線がいくつかある。


3人が風纏で遊んでるのを見つつ、一人でかなり上空まで上がってみた。

神戸の街は真っ暗だった。
だが大阪方面や紀伊和歌山の方には霞が掛かっているが、灯りが煌々こうこうとともっている。
隣の市の芦屋辺りも明るい模様。

反対側を見ると、淡路島も明石市方面も灯りだけが見える。
 (停電してるのは神戸だけか)


 「健ちゃーん、ちょっとわらびちゃんのレベリングしてきたらあかん?」
  「あっそれなら自分も付いていきたいです」
「いいよー、しばらく俺一人で巡回しとくわ」
「でも公園はゴブリン多かったから気をつけろよ」
 「りょ~かい!油断は禁物 は心に刻んでるよ」

「リョウケンもわらびさんも無理はしないでね。命大事に!」
  「「はいっ!」」

3人は南公園の方に飛んでいく。
 (風纏ってスピードは出ないけど、結局飛べるから飛行系スキルの分類だなー)

上空から近くにゴブリンが居ないことを確認して校庭に降りる。

大の字で寝転んで空を見上げる。
月も星もすごく綺麗に見える。
満月ならもう少し明るかったんだろうな~と思う。
今日は三日月だ。

 (ヒュン)
おっ?

ステータス画面を見ると 夜目 と言うスキルが増えていた。
確かに赤外線画面のようにはっきりと周りが見える。

これはこれから便利になるな。



しばらく寝転んでると複数の足音が聞こえてきた。

  「あの~すいません」

その前から接近してきてるのは感知してたけど、悪意が感じられないので放置していた。
ガバっと起き上がり振り向いて返事をする。

「はいっ?どうしましたか?」
 「すいません、僕らでも能力は手に入れられますか?」

そこには10台後半くらいの少年2人少女4人と30代くらいの女性2人と50歳は超えてるだろうと言う男性が立っていた。

「なぜですか?」
  「こんな事態になって、戦う力が欲しいと思ったんです」
 (いい傾向だな)

「力は手に入るけど、もう元の人間らしい生き方は無理になるかもしれませんよ?」

  「今を生きれないなら未来も無いでしょう」
年配の男性が言う。うんうん説得力があるね。この言葉、どっかで使わせてもらおう。

「力は思うより簡単に手に入るけど、本当に覚悟はありますか?」
   「覚悟をしてみんなここにきてますよ」
少年の一人が答えた。

「戦うという事は、生きてる者を殺す事なんですよ」
「場合によっては人間も殺す事があるかも知れません」

 (なんか、俺って偉そうになったよなー)
自分の態度になんとなくクッソ生意気な若造を想像して笑えてきた。
中身は30超えてるけど見かけは20歳くらいなんだし。

覚悟も出来てるって話なので、わらびとリョウケンに話をした同じ事を伝える。
「それと、レベル3になると職業が発生する事が多いです。」
「まだ検証例が少ないので確定では無いですが、今のところ全員Lv3で職業発生しています」
「スキルは行動発生系みたいなので、欲しいスキルがあれば、その行動を繰り返しすれば覚えれるかと思います」


9人も居ればここの学校を守ることは大丈夫だろうからさっさとレベルをつけてしまおう。

「それでは少し待っててくださいね」

上空に飛び上がりゴブリンを探す。
近辺に見当たらなかったので南公園まで様子見がてら行ってみよう。

公園に行ってみたら3人と、もう一人戦ってるのが見えた。

美咲の近くに降りて聞いてみる。
「あの人は?」
 「ここで一人で戦ってて、死にそうだったから助けたった」
ドヤ顔で言う美咲がなんか可愛い。

見た目じゃもう実年齢じつねんれいがわからないが、身軽な女性の様だ。

「ちょいとゴブリン1体もらっていくよー」
 「レベル付け?」
「そそ、先行して避難してる人が9人も訪ねてきたよ」
 「うちも行こか?」
「なら、ちょっとここの数減らしておこうか」

そう言って刀を抜いて風刃を人が居ない方向に数発撃つ。

バタバタと多数のゴブリン達が倒れていく。

上空に上がりだいたいの戦況を把握する。
まぁもう100体も居ないくらいに見えるし、3人でも大丈夫かな。

わらびは嬉々として戦ってるし、リョウケンは危なげなく立ち回っている。
もう一人の人も自分の命は守れてるみたいだから大丈夫でしょう。
レベリングをしているのかな?

良く見ると、公園北側の道路には、何人かが戦いを見つめている。
半日以上経ったし、そろそろ状況把握して、能力を手に入れる人々も増えて来たんだろう。



美咲と片手づつゴブリンの腕を持ち上空に飛び上がる。

「さっきなー 夜目ってスキルおぼえた」
 「あっうちも暗視ってスキル覚えたよ」
「どんなん?」
 「暗くても良く見える」
「俺のもそうやけど、景色や人に色は付いとらんね」
 「おんなじやで」
「名前が違うだけで同じ効果のスキルなんやろか」

楽し気に何気ない会話をするこの二人の人間に拉致され、今まさに空を飛んでいるゴブリンはどんな気持ちなんだろう。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

(完結)貴方から解放してくださいー私はもう疲れました(全4話)

青空一夏
恋愛
私はローワン伯爵家の一人娘クララ。私には大好きな男性がいるの。それはイーサン・ドミニク。侯爵家の子息である彼と私は相思相愛だと信じていた。 だって、私のお誕生日には私の瞳色のジャボ(今のネクタイのようなもの)をして参加してくれて、別れ際にキスまでしてくれたから。 けれど、翌日「僕の手紙を君の親友ダーシィに渡してくれないか?」と、唐突に言われた。意味がわからない。愛されていると信じていたからだ。 「なぜですか?」 「うん、実のところ私が本当に愛しているのはダーシィなんだ」 イーサン様は私の心をかき乱す。なぜ、私はこれほどにふりまわすの? これは大好きな男性に心をかき乱された女性が悩んで・・・・・・結果、幸せになったお話しです。(元さやではない) 因果応報的ざまぁ。主人公がなにかを仕掛けるわけではありません。中世ヨーロッパ風世界で、現代的表現や機器がでてくるかもしれない異世界のお話しです。ご都合主義です。タグ修正、追加の可能性あり。

【書籍化進行中、完結】私だけが知らない

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
ファンタジー
書籍化進行中です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

お爺様の贈り物

豆狸
ファンタジー
お爺様、素晴らしい贈り物を本当にありがとうございました。

処理中です...