厄災の街 神戸

Ryu-zu

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第一章 美咲と健斗

素の人間には負けないよ

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このマンションは2番街という名称で、1番街から6番街まである。

西側にある1番街と東側に立つ2番街は、形こそ違えどどちらも地上33階地下2階の高層タワーマンションだ。

2番街の北には連絡橋で繋がった六甲道勤労市民(灘文化)センターがあり、そのセンターを通り抜けるとまた連絡橋がありJR六甲道駅まで繋がっている。

南側には2番街から連絡橋で繋がる3番街、14階くらいの中層マンションが4つ並ぶ。その南には3番街から連絡橋で繋がった4番街30階くらいの高層マンションが国道2号線に面してそびえ立つ。

国道2号線からJR六甲道駅までの450mほどを、マンションや公共施設を通って雨の日でも濡れずに行ける。

その4番街の西隣には区役所があり、その西に5番街があり北の1番街との間に6番街がある。

吹き抜けマンションと同じように 口 の形に大マンション群が立ち並ぶ。
その真ん中に六甲道南公園が大きく口を開ける。

まずは区役所辺りに行こうとなった。理由は、避難してきた人々が区役所に集まって来てるかも知れないから。

「非難するとしたら、あとはやっぱり学校だよなー」
 「だねー 学校ならフェンスでガードされてるからゴブリンなら入ってこれないだろうし。」
「一番近くは烏帽子町のところにある中学校かな?行ってみる?」

まずは情報収集だ。

1階の西側エントランスに降りるとそこそこの人数の住人が居た。

「みなさん、大丈夫でしたか?」
 
 ワイワイガヤガヤ

  「外に出たいんやけど、なんか変な生き物の死体がたくさんあって出れないんよ。気持ち悪い」

午前中に倒したゴブリンの死体だった。
自分たちが放置してた死体なので、率先して外に出ていき二人で端っこに死体を寄せて振り返る。

「みなさんはどちらに避難するつもりですか?」
 「もうマンションの中のモンスターは全て退治しましたよ」
そう言うと住人は
  「いやいや、2階の連絡通路を通って暴れてるぞ」

取り合えず避難するなら中学校が良いんじゃないかと提案する。

食事の問題やトイレの問題とか色々あるだろうが、それはきっと考えてくれる人が居るはずだ。

特に震災を経験した人たちなら素晴らしいマニュアルを持ってるはず。


エントランスに集まってた人はほとんどが高齢の方で、若い人でも30台半ばくらいだろう。
だが、ご老人と呼ぶには皆さん足も腰もしっかりしてるし、なにより元気だ。

「少し外を見てきますね」
   「無茶はせんといてや」
 「大丈夫です。私たち、戦えるので安心していて下さい」

美咲のダブルピースサインにキョトンとする住人たちだが、ざわつく顔に少し期待をする様子も伺える。

二人でエントランスからの通路を出て左右を見渡すと、あちらこちらにゴブリンの固まりが見える。

左手に見る南公園はかなりの数のゴブリンが集まってて、足元には人やゴブリンの肉塊がゴロゴロ転がっている。

朝の自分ならそれを見ただけで吐いていただろう。

まるでジャパンファンタジーの血の池地獄を彷彿させるほど地面が真っ赤に染まりその中でうごめく生き物たち。

 「ちょっと数が多すぎるねー」

「いくら舞姫でもあの数は無理かぁ~?」
 「行ってみる?ふふふっ」

「いや、やめとこう」
 「ビビっとんや~」

「んじゃ行こか?」
 「いや、辞めておこう!」

「どっちやねん!」
 「けけけけっ♪」

どの道、避難民を引き連れて行ける様子じゃない。

エントランスに戻り最初に会話したご老人に、外からの避難は難しい事を伝える。

「ちょっと2階の方も見てきますね」
「もし通れそうなら、4番街まで下りてそこから区役者まで行ってみましょう。そこまでいけば中学校までもすぐだし」

ご老人との会話を聞いていた30代半ば~40歳前後くらいの夫婦っぽい中年二人が声を出す。

  「おまえら二人で逃げるつもりか!」 
  「うちらどないしたらえ~んやっ!」

言ってる意味がわからない。

「逃げるも何も、安全に避難地まで通れるかどうか見に行くって言ってるんですよ?」

  「そのまま帰ってけ~へんって保証はないやろがー」

知らんがな(笑)


「とにかく区役所か中学校かに避難するか、このまま救助が来るまで自宅に閉じこもるかです」

 「上のゴブリンは全部倒したって言ってるやん!」
 「文句あんなら、家帰れやー」

美咲がイラついた感じで物を言う。まさかノーマルな人間相手に切れないだろうけど。

  「じゃか~しぃわ!小娘ガキが!変なもんしやがって、ダボちゃうんか」
 「変なもんちゃうわー籠手やし!この子はメイちゃんって言うんやー」

美咲がヒートアップしてきたので間に入り二人を止める。

「何か勘違いされてるようですが、自分たちは自衛隊でも警察でもないですよ?」

「あなた方と同じ避難民です」


  「んでも怪物と戦えるんやったら、うちらを守る義務があるやろ」
女性の方がそう言ってくるが

  「いや、義務はないじゃろ」
ご老人が横から擁護の言葉をくれる。

「とにかく、電気が来てないんだから暗くなる前に移動した方が良いです」

  「んじゃーわしが見てくるからその剣、貸せや」

 「おっさん、頭わいとんか?」
いや、ほんと頭がおかしい。

「んじゃー彼女に腕相撲で勝てたら貸しますよ」
美咲の方を見ると、うんと頷いた。

  「あ~!やったら~、負けたら土下座せ~よ」

ニコッと笑って美咲が左腕を出す。

男は美咲の腕を掴み、ねじろうとしたがビクともしない。


二人とも床に寝転がり、腕相撲を始める。

男が余裕な雰囲気をかもし出すが、美咲も健斗も相手にならない事は初めからわかっている。

「んじゃ、よーいドン」
一瞬で男の腕は大理石の床に叩きつけられ、身体がグルンと1回転する。

 「よっわー」
美咲の挑発に男は言い訳を喚き散らす。

  「今のは掛け声が悪いんじゃー!普通はレディーゴーやろがー」
  「それに俺は右利きなんじゃ」
 「え~よえ~よ」

美咲がメイデンクローを外し、右手を出す。

男は、次こそは!と鼻息が荒いが、今の負け方を考えればわかりそうなもんだが。


  「次はうちがするわ、兄ちゃんどいとき」
二人が絡ませる拳を両手で覆い、嫁らしき女が掛け声を掛ける
 
  「レディ~   ゴー」
連れの女はゴーの時に男に有利な方向に力を入れたが、今の美咲を動かせるほど力がない。


2戦目も瞬殺で、今度はゴキっと音がして肩を脱臼したようだ。男が喚き泣き叫ぶ。


痛がる男の肩を、40台半ばの更年(高年)の男性がグイっとねじり関節を嵌める。

  「もう痛みは無いと思いますが、痛みがあれば骨折かヒビが入ったかも知れません」
柔術の経験者だと言う男がそう言ってこちらに向く。

  「失礼ですが何か格闘技か武道の心得が?」
  「その刀は本物ですか?」

進化した健斗とさほど変わらない身長の大柄の男が話しかけてくる。


「昔剣道をちょっとかじったくらいです。剣は本物でゴブリンを斬れます」

やからな夫婦は座り込み何も言わなくなった。



横で美咲が土下座しろ土下座しろとはやし立てているが、辞めとけと止めに入る。



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