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それから
閑話48.5:女神の気持ち
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私には、唯一無二の親友がいる。
彼女の名前はリリアンヌ・シャスイン。
シャスイン侯爵家長女で、我が国の王太子殿下の婚約者候補筆頭。
歩く姿は凛としていて、絵に描いたようなご令嬢。
私みたいなしがない伯爵令嬢とは一生縁の無い人だと思っていた。
事実、私は彼女のお茶会に招待されるまで彼女を見たことなど一度もない。
認識すらされてないだろう、そう勝手に決めつけ興味を持とうとするのをやめた。
そんな彼女が、私に話しかけて来た時から私達は親友になる。
彼女と…リリーと一緒にいる時間は、とっても楽しい。
他の貴族の御令嬢みたく私の家を馬鹿にしないし、そんな差別なんてどうでも良いと言う。
令嬢の見本みたいだと言われるのも、嫌らしい。
誰もが自分を、自分自身を見てくれないのだと。
…私以外、リリーの本質を見ていないのだと言う。そんな事は、決してないのに。
彼女は本当に魅力的だ。
その笑みは儚さと美しさを共存していて、名前の由来である白百合を彷彿とさせる。
軽やかな声はまるで歌声のようで、ずっと聞いていたい。
彼女のそばにずっと居たい、そう思わせる人物だ。
彼女自身は知らないだろうが、今までリリーを巡った男女の争いは数多く存在する。
小さな口喧嘩から、傷害事件まで。
全て、リリーを手に入れたい者達の醜い戦争。
それをリリーの耳に入らないよう揉み消しているのは、王太子殿下だった。
王太子殿下が彼女に恋をしているのは、リリー以外の貴族が皆知っている。
だけど、彼がリリーに想いを告げたことは無い。
ただそっと、彼女の生活を守っているだけ。
健気な王太子殿下の行動に、誰もが心を打たれている。
少しずつ、リリーを巡る争いは消えていった。
全ては王太子殿下とリリーの為に。
貴族全員の想いが、一つになった瞬間だった。
ある日、私は気付いてしまう。
リリーは王太子殿下を愛していない。
彼女が想いを寄せているのは…私だ。
絶望した。
私はリリーに相応しくない。
彼女の友人である事すら烏滸がましいのに、これ以上近付くなんて耐えられない。
今ですら、リリアンヌ・シャスインの親友という立場が苦しいのに。
どうしよう、どうしよう。
薄々感づいてはいた。
最初に出会った頃と、今のリリーの視線に込められた熱が違う事には。
もっと早く、気づけば良かったのだ。
そうすれば、私の元にシャスイン家から縁談が来る事なんてなかった。
私を始め、両親とシャスイン侯爵夫妻は頭を抱えた。
リリー以外の貴族の間で周知の事実の、王太子殿下の恋心。
それを、たかが伯爵家が潰したとなると大問題だ。
シャスイン侯爵だって、どうなってしまうか分からない。
王太子殿下は心のお広い方だから、笑って許してくれるかもしれない。
だけど、許されたとしても私は自分を許せないだろう。
未来の陛下の、王妃を奪うなんて。
一番の問題は、私はリリーをそう言う目で見ていないと言う事だ。
少しでも恋慕があれば良かったのかもしれない。
然し、私はリリーを友人としてしか見ていない…愛を育むなんて、無理だ。
そんな時私を救ってくれたのが、ライラック家。
シャスイン家より先に私に縁談を申し込んだ事にしようと、提案してくれた。
ライラック家はシャスイン家より家格が上、然も長男には未だ婚約者が不在。
私さえ良ければ、正式な縁談として受け取ってほしいと。
私の家にとっても、シャスイン家にとっても凄く良い話だった。
公爵家を言い訳に使えば、リリーも納得してくれる。
そう考えた私達は、ライラック家の申し入れに二つ返事で頷いたのだ。
後日、シャスイン家からの縁談を知らないふりをして、リリーに私の婚約を伝えた。
一瞬だけ浮かべた明らかに傷ついた表情。
良心が痛み、胸が締め付けられる…でも、これでいいんだ。
これで、私もリリーも幸せになれるんだ。
そう無理やり自分に言い聞かせて、にこやかな笑みを浮かべた。
彼女の名前はリリアンヌ・シャスイン。
シャスイン侯爵家長女で、我が国の王太子殿下の婚約者候補筆頭。
歩く姿は凛としていて、絵に描いたようなご令嬢。
私みたいなしがない伯爵令嬢とは一生縁の無い人だと思っていた。
事実、私は彼女のお茶会に招待されるまで彼女を見たことなど一度もない。
認識すらされてないだろう、そう勝手に決めつけ興味を持とうとするのをやめた。
そんな彼女が、私に話しかけて来た時から私達は親友になる。
彼女と…リリーと一緒にいる時間は、とっても楽しい。
他の貴族の御令嬢みたく私の家を馬鹿にしないし、そんな差別なんてどうでも良いと言う。
令嬢の見本みたいだと言われるのも、嫌らしい。
誰もが自分を、自分自身を見てくれないのだと。
…私以外、リリーの本質を見ていないのだと言う。そんな事は、決してないのに。
彼女は本当に魅力的だ。
その笑みは儚さと美しさを共存していて、名前の由来である白百合を彷彿とさせる。
軽やかな声はまるで歌声のようで、ずっと聞いていたい。
彼女のそばにずっと居たい、そう思わせる人物だ。
彼女自身は知らないだろうが、今までリリーを巡った男女の争いは数多く存在する。
小さな口喧嘩から、傷害事件まで。
全て、リリーを手に入れたい者達の醜い戦争。
それをリリーの耳に入らないよう揉み消しているのは、王太子殿下だった。
王太子殿下が彼女に恋をしているのは、リリー以外の貴族が皆知っている。
だけど、彼がリリーに想いを告げたことは無い。
ただそっと、彼女の生活を守っているだけ。
健気な王太子殿下の行動に、誰もが心を打たれている。
少しずつ、リリーを巡る争いは消えていった。
全ては王太子殿下とリリーの為に。
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ある日、私は気付いてしまう。
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彼女が想いを寄せているのは…私だ。
絶望した。
私はリリーに相応しくない。
彼女の友人である事すら烏滸がましいのに、これ以上近付くなんて耐えられない。
今ですら、リリアンヌ・シャスインの親友という立場が苦しいのに。
どうしよう、どうしよう。
薄々感づいてはいた。
最初に出会った頃と、今のリリーの視線に込められた熱が違う事には。
もっと早く、気づけば良かったのだ。
そうすれば、私の元にシャスイン家から縁談が来る事なんてなかった。
私を始め、両親とシャスイン侯爵夫妻は頭を抱えた。
リリー以外の貴族の間で周知の事実の、王太子殿下の恋心。
それを、たかが伯爵家が潰したとなると大問題だ。
シャスイン侯爵だって、どうなってしまうか分からない。
王太子殿下は心のお広い方だから、笑って許してくれるかもしれない。
だけど、許されたとしても私は自分を許せないだろう。
未来の陛下の、王妃を奪うなんて。
一番の問題は、私はリリーをそう言う目で見ていないと言う事だ。
少しでも恋慕があれば良かったのかもしれない。
然し、私はリリーを友人としてしか見ていない…愛を育むなんて、無理だ。
そんな時私を救ってくれたのが、ライラック家。
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ライラック家はシャスイン家より家格が上、然も長男には未だ婚約者が不在。
私さえ良ければ、正式な縁談として受け取ってほしいと。
私の家にとっても、シャスイン家にとっても凄く良い話だった。
公爵家を言い訳に使えば、リリーも納得してくれる。
そう考えた私達は、ライラック家の申し入れに二つ返事で頷いたのだ。
後日、シャスイン家からの縁談を知らないふりをして、リリーに私の婚約を伝えた。
一瞬だけ浮かべた明らかに傷ついた表情。
良心が痛み、胸が締め付けられる…でも、これでいいんだ。
これで、私もリリーも幸せになれるんだ。
そう無理やり自分に言い聞かせて、にこやかな笑みを浮かべた。
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