61 / 72
それから
48:天使と元王妃
しおりを挟む
シャスイン元侯爵の処刑から数日後、俺はクロ様に内緒でリリアンヌ元王妃の面会にやってきていた。
勿論、護衛のリオとシンシア兄様も一緒だ。
レイチェルはお留守番。クロ様が俺を訪ねてきた時の足止め役をかって出てくれた。
彼女の現在位置は、王宮から大分離れた幽閉塔。
代々の王族やそれに属する者が罪を犯した際隔離される、魔法耐性のついた石材で積み上げられた場所。
如何なる者でも、ここからは抜け出せない。
脱走が分かった時点で、警報機が鳴るのだ。
何処かピリピリとした空気を纏うリオ、その様子を楽しそうに見守るシンシア兄様。
当初、護衛はシンシア兄様だけの予定だった…リオが、俺の護衛を強く望むまでは。
本当に、心配性なんだから…。
少し嬉しい俺がいた。
仄暗い石階段を上がる俺たちの足音。
彼女が閉じ込められている部屋に近付くにつれ、微かに綺麗な歌声が聞こえてきた。
何処か聞き覚えのあるメロディに不思議な感覚に陥る。
まるで、お母様に抱かれているような。
不思議な安心感が俺を包み込んだ。
彼女の牢へ辿り着くと、はっきりと聞こえる歌声。
最後に会った時より、少しだけ痩せたリリアンヌ様がいる。俺たちに気付いているけど、直ぐに視線を逸らされた。
尚も歌い続ける彼女。
俺たちの間を阻む檻をそっと掴む。
リオが俺を止めようとするけど、シンシア兄様がそれを静止した。
「…それ、よくお母様が歌って聴かせてくれました」
俺は思い出していた。
赤ん坊の頃、お母様がよく子守唄がわりに歌ってくれていた曲と同じだと。
母の作った曲だと、聞いた。
俺の言葉に、リリアンヌ様は不快そうに顔を歪める。
お前に何がわかる、そう言われているような気がした。
そんな彼女を、静かに見つめ返す。
「リリー。この曲名は、リリー…貴女の名前ですね」
お母様は、この曲を古い友人に贈ったと言っていた。
きっとそれは、彼女の事だ。
お母様は…彼女を想って、この曲を作ったんだ。
「…不快よ、帰ってちょうだい。そして、二度と顔を見せに来ないで」
俺から目を逸らし、再び歌声を響かせる彼女。
俺を罵倒した姿はとても凛としていて、この部屋から出られない絶望なんて欠片も感じなかった。
寧ろ、この状況を受け入れているような…。
そんな強い姿に、美しささえ感じる。
「…天使は、こんな穢れた場所に居てはいけないの。もう、自分の居場所へ帰りなさいな」
優しく、諭すように俺に告げられる言葉。
その端々に愛情を感じてしまい、疑問符が浮かんでしまう。
何故この人は、俺を天使と呼ぶのだろうか。
…なんで、俺に殺意を向けたのだろうか。
先日より僅かに大きくなったお腹を思わず撫でる。
俺を元気付けるように、お腹がぽこんと蹴られた…この間初めて胎動したっていうのに、元気な子だ。
「…貴女は、なんで俺を」
「貴方が知る必要は無いわ。早く帰りなさい…身体が冷えたらいけないのだから」
ちらり、俺のお腹をみやる彼女。
こんなに他人を慮れる人が、何で俺を害そうと思ったのか。
ただそれだけがわからなくて、もやもやする。
「…きっと、教えてくれないんでしょうね。でも俺、諦めませんから」
「そう…勝手になさい。絶対教えてあげないわ」
そっと、シンシア兄様に肩を抱かれる。
言外にもう時間だと言われたようなものだ…王宮に、戻らなければ。
再び歌を口ずさみ始めた彼女を見て、俺は塔を去る。
悲しみを帯びた歌声が、ずっと俺の心に引っかかっていた。
勿論、護衛のリオとシンシア兄様も一緒だ。
レイチェルはお留守番。クロ様が俺を訪ねてきた時の足止め役をかって出てくれた。
彼女の現在位置は、王宮から大分離れた幽閉塔。
代々の王族やそれに属する者が罪を犯した際隔離される、魔法耐性のついた石材で積み上げられた場所。
如何なる者でも、ここからは抜け出せない。
脱走が分かった時点で、警報機が鳴るのだ。
何処かピリピリとした空気を纏うリオ、その様子を楽しそうに見守るシンシア兄様。
当初、護衛はシンシア兄様だけの予定だった…リオが、俺の護衛を強く望むまでは。
本当に、心配性なんだから…。
少し嬉しい俺がいた。
仄暗い石階段を上がる俺たちの足音。
彼女が閉じ込められている部屋に近付くにつれ、微かに綺麗な歌声が聞こえてきた。
何処か聞き覚えのあるメロディに不思議な感覚に陥る。
まるで、お母様に抱かれているような。
不思議な安心感が俺を包み込んだ。
彼女の牢へ辿り着くと、はっきりと聞こえる歌声。
最後に会った時より、少しだけ痩せたリリアンヌ様がいる。俺たちに気付いているけど、直ぐに視線を逸らされた。
尚も歌い続ける彼女。
俺たちの間を阻む檻をそっと掴む。
リオが俺を止めようとするけど、シンシア兄様がそれを静止した。
「…それ、よくお母様が歌って聴かせてくれました」
俺は思い出していた。
赤ん坊の頃、お母様がよく子守唄がわりに歌ってくれていた曲と同じだと。
母の作った曲だと、聞いた。
俺の言葉に、リリアンヌ様は不快そうに顔を歪める。
お前に何がわかる、そう言われているような気がした。
そんな彼女を、静かに見つめ返す。
「リリー。この曲名は、リリー…貴女の名前ですね」
お母様は、この曲を古い友人に贈ったと言っていた。
きっとそれは、彼女の事だ。
お母様は…彼女を想って、この曲を作ったんだ。
「…不快よ、帰ってちょうだい。そして、二度と顔を見せに来ないで」
俺から目を逸らし、再び歌声を響かせる彼女。
俺を罵倒した姿はとても凛としていて、この部屋から出られない絶望なんて欠片も感じなかった。
寧ろ、この状況を受け入れているような…。
そんな強い姿に、美しささえ感じる。
「…天使は、こんな穢れた場所に居てはいけないの。もう、自分の居場所へ帰りなさいな」
優しく、諭すように俺に告げられる言葉。
その端々に愛情を感じてしまい、疑問符が浮かんでしまう。
何故この人は、俺を天使と呼ぶのだろうか。
…なんで、俺に殺意を向けたのだろうか。
先日より僅かに大きくなったお腹を思わず撫でる。
俺を元気付けるように、お腹がぽこんと蹴られた…この間初めて胎動したっていうのに、元気な子だ。
「…貴女は、なんで俺を」
「貴方が知る必要は無いわ。早く帰りなさい…身体が冷えたらいけないのだから」
ちらり、俺のお腹をみやる彼女。
こんなに他人を慮れる人が、何で俺を害そうと思ったのか。
ただそれだけがわからなくて、もやもやする。
「…きっと、教えてくれないんでしょうね。でも俺、諦めませんから」
「そう…勝手になさい。絶対教えてあげないわ」
そっと、シンシア兄様に肩を抱かれる。
言外にもう時間だと言われたようなものだ…王宮に、戻らなければ。
再び歌を口ずさみ始めた彼女を見て、俺は塔を去る。
悲しみを帯びた歌声が、ずっと俺の心に引っかかっていた。
77
お気に入りに追加
2,119
あなたにおすすめの小説
不夜島の少年~兵士と高級男娼の七日間~
四葉 翠花
BL
外界から隔離された巨大な高級娼館、不夜島。
ごく平凡な一介の兵士に与えられた褒賞はその島への通行手形だった。そこで毒花のような美しい少年と出会う。
高級男娼である少年に何故か拉致されてしまい、次第に惹かれていくが……。
※以前ムーンライトノベルズにて掲載していた作品を手直ししたものです(ムーンライトノベルズ削除済み)
■ミゼアスの過去編『きみを待つ』が別にあります(下にリンクがあります)
【完結済み】準ヒロインに転生したビッチだけど出番終わったから好きにします。
mamaマリナ
BL
【完結済み、番外編投稿予定】
別れ話の途中で転生したこと思い出した。でも、シナリオの最後のシーンだからこれから好きにしていいよね。ビッチの本領発揮します。
神様の手違いで死んだ俺、チート能力を授かり異世界転生してスローライフを送りたかったのに想像の斜め上をいく展開になりました。
篠崎笙
BL
保育園の調理師だった凛太郎は、ある日事故死する。しかしそれは神界のアクシデントだった。神様がお詫びに好きな加護を与えた上で異世界に転生させてくれるというので、定年後にやってみたいと憧れていたスローライフを送ることを願ったが……。
継母の心得
トール
恋愛
【本編第一部完結済、2023/10〜第二部スタート ☆書籍化 2024/11/22ノベル5巻、コミックス1巻同時刊行予定☆】
※継母というテーマですが、ドロドロではありません。ほっこり可愛いを中心に展開されるお話ですので、ドロドロ重い、が苦手の方にもお読みいただけます。
山崎 美咲(35)は、癌治療で子供の作れない身体となった。生涯独身だと諦めていたが、やはり子供は欲しかったとじわじわ後悔が募っていく。
治療の甲斐なくこの世を去った美咲が目を覚ますと、なんと生前読んでいたマンガの世界に転生していた。
不遇な幼少期を過ごした主人公が、ライバルである皇太子とヒロインを巡り争い、最後は見事ヒロインを射止めるというテンプレもののマンガ。その不遇な幼少期で主人公を虐待する悪辣な継母がまさかの私!?
前世の記憶を取り戻したのは、主人公の父親との結婚式前日だった!
突然3才児の母親になった主人公が、良い継母になれるよう子育てに奮闘していたら、いつの間にか父子に溺愛されて……。
オタクの知識を使って、子育て頑張ります!!
子育てに関する道具が揃っていない世界で、玩具や食器、子供用品を作り出していく、オタクが行う異世界育児ファンタジー開幕です!
番外編は10/7〜別ページに移動いたしました。
転生令息は冒険者を目指す!?
葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。
救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。
再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。
異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!
とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A
モフモフになった魔術師はエリート騎士の愛に困惑中
risashy
BL
魔術師団の落ちこぼれ魔術師、ローランド。
任務中にひょんなことからモフモフに変幻し、人間に戻れなくなってしまう。そんなところを騎士団の有望株アルヴィンに拾われ、命拾いしていた。
快適なペット生活を満喫する中、実はアルヴィンが自分を好きだと知る。
アルヴィンから語られる自分への愛に、ローランドは戸惑うものの——?
24000字程度の短編です。
※BL(ボーイズラブ)作品です。
この作品は小説家になろうさんでも公開します。
ハッピーエンドのために妹に代わって惚れ薬を飲んだ悪役兄の101回目
カギカッコ「」
BL
ヤられて不幸になる妹のハッピーエンドのため、リバース転生し続けている兄は我が身を犠牲にする。妹が飲むはずだった惚れ薬を代わりに飲んで。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる