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それから
48:天使と元王妃
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シャスイン元侯爵の処刑から数日後、俺はクロ様に内緒でリリアンヌ元王妃の面会にやってきていた。
勿論、護衛のリオとシンシア兄様も一緒だ。
レイチェルはお留守番。クロ様が俺を訪ねてきた時の足止め役をかって出てくれた。
彼女の現在位置は、王宮から大分離れた幽閉塔。
代々の王族やそれに属する者が罪を犯した際隔離される、魔法耐性のついた石材で積み上げられた場所。
如何なる者でも、ここからは抜け出せない。
脱走が分かった時点で、警報機が鳴るのだ。
何処かピリピリとした空気を纏うリオ、その様子を楽しそうに見守るシンシア兄様。
当初、護衛はシンシア兄様だけの予定だった…リオが、俺の護衛を強く望むまでは。
本当に、心配性なんだから…。
少し嬉しい俺がいた。
仄暗い石階段を上がる俺たちの足音。
彼女が閉じ込められている部屋に近付くにつれ、微かに綺麗な歌声が聞こえてきた。
何処か聞き覚えのあるメロディに不思議な感覚に陥る。
まるで、お母様に抱かれているような。
不思議な安心感が俺を包み込んだ。
彼女の牢へ辿り着くと、はっきりと聞こえる歌声。
最後に会った時より、少しだけ痩せたリリアンヌ様がいる。俺たちに気付いているけど、直ぐに視線を逸らされた。
尚も歌い続ける彼女。
俺たちの間を阻む檻をそっと掴む。
リオが俺を止めようとするけど、シンシア兄様がそれを静止した。
「…それ、よくお母様が歌って聴かせてくれました」
俺は思い出していた。
赤ん坊の頃、お母様がよく子守唄がわりに歌ってくれていた曲と同じだと。
母の作った曲だと、聞いた。
俺の言葉に、リリアンヌ様は不快そうに顔を歪める。
お前に何がわかる、そう言われているような気がした。
そんな彼女を、静かに見つめ返す。
「リリー。この曲名は、リリー…貴女の名前ですね」
お母様は、この曲を古い友人に贈ったと言っていた。
きっとそれは、彼女の事だ。
お母様は…彼女を想って、この曲を作ったんだ。
「…不快よ、帰ってちょうだい。そして、二度と顔を見せに来ないで」
俺から目を逸らし、再び歌声を響かせる彼女。
俺を罵倒した姿はとても凛としていて、この部屋から出られない絶望なんて欠片も感じなかった。
寧ろ、この状況を受け入れているような…。
そんな強い姿に、美しささえ感じる。
「…天使は、こんな穢れた場所に居てはいけないの。もう、自分の居場所へ帰りなさいな」
優しく、諭すように俺に告げられる言葉。
その端々に愛情を感じてしまい、疑問符が浮かんでしまう。
何故この人は、俺を天使と呼ぶのだろうか。
…なんで、俺に殺意を向けたのだろうか。
先日より僅かに大きくなったお腹を思わず撫でる。
俺を元気付けるように、お腹がぽこんと蹴られた…この間初めて胎動したっていうのに、元気な子だ。
「…貴女は、なんで俺を」
「貴方が知る必要は無いわ。早く帰りなさい…身体が冷えたらいけないのだから」
ちらり、俺のお腹をみやる彼女。
こんなに他人を慮れる人が、何で俺を害そうと思ったのか。
ただそれだけがわからなくて、もやもやする。
「…きっと、教えてくれないんでしょうね。でも俺、諦めませんから」
「そう…勝手になさい。絶対教えてあげないわ」
そっと、シンシア兄様に肩を抱かれる。
言外にもう時間だと言われたようなものだ…王宮に、戻らなければ。
再び歌を口ずさみ始めた彼女を見て、俺は塔を去る。
悲しみを帯びた歌声が、ずっと俺の心に引っかかっていた。
勿論、護衛のリオとシンシア兄様も一緒だ。
レイチェルはお留守番。クロ様が俺を訪ねてきた時の足止め役をかって出てくれた。
彼女の現在位置は、王宮から大分離れた幽閉塔。
代々の王族やそれに属する者が罪を犯した際隔離される、魔法耐性のついた石材で積み上げられた場所。
如何なる者でも、ここからは抜け出せない。
脱走が分かった時点で、警報機が鳴るのだ。
何処かピリピリとした空気を纏うリオ、その様子を楽しそうに見守るシンシア兄様。
当初、護衛はシンシア兄様だけの予定だった…リオが、俺の護衛を強く望むまでは。
本当に、心配性なんだから…。
少し嬉しい俺がいた。
仄暗い石階段を上がる俺たちの足音。
彼女が閉じ込められている部屋に近付くにつれ、微かに綺麗な歌声が聞こえてきた。
何処か聞き覚えのあるメロディに不思議な感覚に陥る。
まるで、お母様に抱かれているような。
不思議な安心感が俺を包み込んだ。
彼女の牢へ辿り着くと、はっきりと聞こえる歌声。
最後に会った時より、少しだけ痩せたリリアンヌ様がいる。俺たちに気付いているけど、直ぐに視線を逸らされた。
尚も歌い続ける彼女。
俺たちの間を阻む檻をそっと掴む。
リオが俺を止めようとするけど、シンシア兄様がそれを静止した。
「…それ、よくお母様が歌って聴かせてくれました」
俺は思い出していた。
赤ん坊の頃、お母様がよく子守唄がわりに歌ってくれていた曲と同じだと。
母の作った曲だと、聞いた。
俺の言葉に、リリアンヌ様は不快そうに顔を歪める。
お前に何がわかる、そう言われているような気がした。
そんな彼女を、静かに見つめ返す。
「リリー。この曲名は、リリー…貴女の名前ですね」
お母様は、この曲を古い友人に贈ったと言っていた。
きっとそれは、彼女の事だ。
お母様は…彼女を想って、この曲を作ったんだ。
「…不快よ、帰ってちょうだい。そして、二度と顔を見せに来ないで」
俺から目を逸らし、再び歌声を響かせる彼女。
俺を罵倒した姿はとても凛としていて、この部屋から出られない絶望なんて欠片も感じなかった。
寧ろ、この状況を受け入れているような…。
そんな強い姿に、美しささえ感じる。
「…天使は、こんな穢れた場所に居てはいけないの。もう、自分の居場所へ帰りなさいな」
優しく、諭すように俺に告げられる言葉。
その端々に愛情を感じてしまい、疑問符が浮かんでしまう。
何故この人は、俺を天使と呼ぶのだろうか。
…なんで、俺に殺意を向けたのだろうか。
先日より僅かに大きくなったお腹を思わず撫でる。
俺を元気付けるように、お腹がぽこんと蹴られた…この間初めて胎動したっていうのに、元気な子だ。
「…貴女は、なんで俺を」
「貴方が知る必要は無いわ。早く帰りなさい…身体が冷えたらいけないのだから」
ちらり、俺のお腹をみやる彼女。
こんなに他人を慮れる人が、何で俺を害そうと思ったのか。
ただそれだけがわからなくて、もやもやする。
「…きっと、教えてくれないんでしょうね。でも俺、諦めませんから」
「そう…勝手になさい。絶対教えてあげないわ」
そっと、シンシア兄様に肩を抱かれる。
言外にもう時間だと言われたようなものだ…王宮に、戻らなければ。
再び歌を口ずさみ始めた彼女を見て、俺は塔を去る。
悲しみを帯びた歌声が、ずっと俺の心に引っかかっていた。
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