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それから
閑話47.5:王妃と公爵夫人
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セシルがリモーネ・ライラックと婚約式を挙げた数日後、私の元へ王子殿下からの縁談が届いた。
狙ったかのようなタイミングに、思わず笑いが溢れる。
今頃彼は、失恋した私を嘲笑っているのだろうか?
そんな事は無いと分かっていても、自嘲は次から次へと溢れてくる。
王家から縁談が来た以上、私は彼の元へ嫁がねばならない。
私に拒否権など、無いのだから。
両親は私の縁談を喜んだ。可愛い妹でさえも、嬉しそうに笑う。
皆、私の気持ちはどうだって良いんだろう。
シャスイン家の血が、王族に混ざるのが嬉しいだけ。
そう考えないとやってられなかった。
心は今にも張り裂けそうで、苦しくて耐えられなかった。
心の中で家族に八つ当たりする事しか、今の私には出来なかった。
それ程、私の周りには理解者がいなかった。
あれから数年後、私は無事王家に嫁ぎ第一王妃を賜った。
当初王妃は私だけだったが、もし私に万が一があった時の予防策に、第二王妃が据え置かれた。
彼女は辺境伯の娘で、とても美しい少女だった。
何処かセシルに似ている…柔らかな表情浮かべているが、その瞳に強かさを感じる。
私より、よっぽど強い女性だ。
それは何となくの直感で、事実だった。
そんな彼女が、私よりも先に世継ぎを身籠る事になる。
それが、私にとって最悪の事態である事。
これからの人生を棒に振る選択をしてしまう切っ掛けだと言う事。
そうとは気付かずに、ただただ私は彼女を祝っていた。
第二王妃がクロムウェル殿下を産んだ2年後、漸く私は身籠った。
日に日に大きくなっていくお腹、元気に動く我が子。
先に出産を経験している第二王妃に支えられて、順調に出産までの日々を過ごしている。
そんな最中、とある男が私に面会を申し入れてきた。
リモーネ・ライラック。
私から、セシルを奪った男…憎い、恋敵。
きらりと艶めく亜麻色の髪に、翡翠のような緑眼。
見目麗しい、美貌の公爵。
話してみれば物腰柔らかく、とても礼儀正しい…人好きのする性格。
然し、笑みの奥に何かが隠れているような。
陛下と同じ、腹黒さを感じた。
あぁ、私はこの人が嫌いだ。
大きなお腹を撫でながらそう思う。というか、セシルを奪った時点で大嫌いだ。
危ない、顔の良さで絆される所だったわ。
「ご無沙汰しております、リリアンヌ妃殿下…私の妻が、妃殿下にどうしてもお会いしたいと仰ってまして…一度、会っては頂けませんでしょうか?」
面会理由は、セシルだった。
彼女が私に会いたい?何のために?どうして?
頭の中は疑問符でいっぱいだ。
さっぱり理由が分からない…彼女は、私の事なんて忘れて幸せに生きていると思っていたのに。
もしかしたら、何か言いたい事があるのかもしれない。
そう思い、私はセシルとの面会を許可した。
数日後、どうにか少しだけ時間を作った私はセシルとあいまみえる。
何を話したら良いだろう、元気だったとか?
あぁ、わからない…昔は、どんなふうに会話してたっけ?
久々の想い人との再会に、何処か心が弾んでいる自分がいる。
そんな高揚した気持ちは、一瞬で砕かれる事になる。
彼女が抱いていた、1人の赤ん坊によって。
セシルのプラチナブロンドに、リモーネ・ライラックの緑眼。
赤ん坊特有のふっくらとした頬は桃色で、肌の白さが際立っている。
まだ生後2ヶ月程度だろうか?
生まれたばかりだと言うのに、この子は将来セシルに良く似た美人になるだろうと思う。
それ程、両親の美貌を受け継いでいた。
天使だ。
あの子はこの世に舞い降りた天使だと。
そう思った。素直に感じたことを、口に出していた。
私の言葉を聞いてセシルが笑う。
その姿はまるで女神のようで…完成された、美しさだった。
あぁ、あの男がこの光景を生み出したのか。
私では絶対、成し得なかった事だ。
彼女も、腕の中の子も…ライラック公爵も。
全てが憎く、美しく、儚い。
私がこの手で壊してやりたい…この親子が悲しみで表情を歪める瞬間を、見たい。
私は既に可笑しくなっていたのかもしれない。
…いや、可笑しかったのだ。
心の底から愛した女性を壊したいなんて、異常だ。
分かっているのに、衝動はどんどん溢れ出てくる。
憎い、殺したい、酷い目に合わせたい。
これが、私の本性なんだろう。
目の前で微笑む女神に、私は歪な笑みを浮かべた。
狙ったかのようなタイミングに、思わず笑いが溢れる。
今頃彼は、失恋した私を嘲笑っているのだろうか?
そんな事は無いと分かっていても、自嘲は次から次へと溢れてくる。
王家から縁談が来た以上、私は彼の元へ嫁がねばならない。
私に拒否権など、無いのだから。
両親は私の縁談を喜んだ。可愛い妹でさえも、嬉しそうに笑う。
皆、私の気持ちはどうだって良いんだろう。
シャスイン家の血が、王族に混ざるのが嬉しいだけ。
そう考えないとやってられなかった。
心は今にも張り裂けそうで、苦しくて耐えられなかった。
心の中で家族に八つ当たりする事しか、今の私には出来なかった。
それ程、私の周りには理解者がいなかった。
あれから数年後、私は無事王家に嫁ぎ第一王妃を賜った。
当初王妃は私だけだったが、もし私に万が一があった時の予防策に、第二王妃が据え置かれた。
彼女は辺境伯の娘で、とても美しい少女だった。
何処かセシルに似ている…柔らかな表情浮かべているが、その瞳に強かさを感じる。
私より、よっぽど強い女性だ。
それは何となくの直感で、事実だった。
そんな彼女が、私よりも先に世継ぎを身籠る事になる。
それが、私にとって最悪の事態である事。
これからの人生を棒に振る選択をしてしまう切っ掛けだと言う事。
そうとは気付かずに、ただただ私は彼女を祝っていた。
第二王妃がクロムウェル殿下を産んだ2年後、漸く私は身籠った。
日に日に大きくなっていくお腹、元気に動く我が子。
先に出産を経験している第二王妃に支えられて、順調に出産までの日々を過ごしている。
そんな最中、とある男が私に面会を申し入れてきた。
リモーネ・ライラック。
私から、セシルを奪った男…憎い、恋敵。
きらりと艶めく亜麻色の髪に、翡翠のような緑眼。
見目麗しい、美貌の公爵。
話してみれば物腰柔らかく、とても礼儀正しい…人好きのする性格。
然し、笑みの奥に何かが隠れているような。
陛下と同じ、腹黒さを感じた。
あぁ、私はこの人が嫌いだ。
大きなお腹を撫でながらそう思う。というか、セシルを奪った時点で大嫌いだ。
危ない、顔の良さで絆される所だったわ。
「ご無沙汰しております、リリアンヌ妃殿下…私の妻が、妃殿下にどうしてもお会いしたいと仰ってまして…一度、会っては頂けませんでしょうか?」
面会理由は、セシルだった。
彼女が私に会いたい?何のために?どうして?
頭の中は疑問符でいっぱいだ。
さっぱり理由が分からない…彼女は、私の事なんて忘れて幸せに生きていると思っていたのに。
もしかしたら、何か言いたい事があるのかもしれない。
そう思い、私はセシルとの面会を許可した。
数日後、どうにか少しだけ時間を作った私はセシルとあいまみえる。
何を話したら良いだろう、元気だったとか?
あぁ、わからない…昔は、どんなふうに会話してたっけ?
久々の想い人との再会に、何処か心が弾んでいる自分がいる。
そんな高揚した気持ちは、一瞬で砕かれる事になる。
彼女が抱いていた、1人の赤ん坊によって。
セシルのプラチナブロンドに、リモーネ・ライラックの緑眼。
赤ん坊特有のふっくらとした頬は桃色で、肌の白さが際立っている。
まだ生後2ヶ月程度だろうか?
生まれたばかりだと言うのに、この子は将来セシルに良く似た美人になるだろうと思う。
それ程、両親の美貌を受け継いでいた。
天使だ。
あの子はこの世に舞い降りた天使だと。
そう思った。素直に感じたことを、口に出していた。
私の言葉を聞いてセシルが笑う。
その姿はまるで女神のようで…完成された、美しさだった。
あぁ、あの男がこの光景を生み出したのか。
私では絶対、成し得なかった事だ。
彼女も、腕の中の子も…ライラック公爵も。
全てが憎く、美しく、儚い。
私がこの手で壊してやりたい…この親子が悲しみで表情を歪める瞬間を、見たい。
私は既に可笑しくなっていたのかもしれない。
…いや、可笑しかったのだ。
心の底から愛した女性を壊したいなんて、異常だ。
分かっているのに、衝動はどんどん溢れ出てくる。
憎い、殺したい、酷い目に合わせたい。
これが、私の本性なんだろう。
目の前で微笑む女神に、私は歪な笑みを浮かべた。
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