推しは未来の魔王様!?

柴傘

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それから

閑話46.5:王妃と令嬢

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結論から言うと、私の恋は実らなかった。


私の要望で、我が家が彼女の家へ婚約を申し込んだ手紙。
それは一度当主の手に渡ったが、彼女へ話が行く前にお父様達の判断で処分してしまったらしい。


私より先に、彼女に婚約を申し込んだ家があった。


たったそれだけの事だった。
シャスイン家より、高位の貴族…ライラック家からの、縁談らしい。


そんなの、私が勝てる訳無いじゃない。


彼女の家は、ライラック家を選んだ。
お父様も、私の気持ちを優先するより世間体を選んだ…ライラック家に逆らわず、屈した。


当たり前だ。
我が家より家格も高くて、王家の側近であるライラック家に勝てるわけが無い。
それが貴族として正しい。だけど、悔しい。


政略結婚は、貴族としての義務だ。


自分の領地を守る為、互いの家の力を高める為…。
理由は色々だが、平民と違い恋愛結婚は少ないだろう。
私の両親も、政略結婚だった。


愛がない訳ではないが、何処か仕事上でのパートナーとしての印象が強い。


私もいつか、そんな結婚をするのだろうか。
彼女と番えない現実を受け止めきれず、それから数日体調を崩した。


身体は回復しても、ショックが抜け切らなかった。


そんな私に追い討ちを掛けたのは、他でもない彼女。
とても綺麗な笑顔で、私の心を突き刺す言葉を告げてくる。
誰に何を言われるより、私は傷ついた。


「リリー、聞いて!私リモーネ様…リモーネ・ライラック様と婚約することになったの!」


心底嬉しそうに笑う彼女。
私に向けた事がない、キラキラとした瞳。
知らない、セシルがこんな風に笑うなんて…まるで、恋する少女のような。


認めたくなかった、彼女の心は私に傾いて居たと思っていた。


「私、ずっと憧れていて…何回かお話しした事があるんだけど、リモーネ様も私が気になっていたんですって!」


嬉しいと。
全身から嬉しそうな気持ちを醸し出すセシルが、憎い。
私はこんなにも傷ついているのに、貴女は何で。


何でそんなに、嬉しそうなの?


「両思い、って言ったら恥ずかしいけど…私きっと、リモーネ様と素敵な家庭を築いてみせるわ!」


私の大好きな笑顔で、無邪気に宣言する。


どろり、黒い感情が胸の中に渦巻く。
セシルに対して、こんな気持ちになった事なんてなかった。
理不尽だと、自覚はしている。


だけど、恨まずにはいられなかった。


私はこんなにも貴女に焦がれているのに。
どうして、その気持ちを踏み躙ったりするの?
どうして貴女は、気付いてくれないの。


「…リリー。私が結婚しても、私たちは親友のままだからね」


ずきり、胸が痛む。


彼女にとって私は、その程度だった。
最初から興味を持たれていなかったのは知っている…けど、少しは近付けたと思っていた。
彼女の中に、私はいないのだと。


知りたくなかった事実を、知ってしまった。


「…勿論よ、セシル。私達が誰の元へ嫁ごうとも、この友情は永遠だわ」


心にもない言葉だこと。
自分で言っていて、呆れてしまう。よくもまぁ、こんな嘘を易々と吐けるものだ。
…今にも、苦しさで潰れてしまいそうなのに。


にこ、今の私にできる精一杯の笑顔を浮かべる。


優しく両手を握ってあげると、軽く握り返された。
彼女の温かい体温が、今は酷く辛く感じる。
この子の全てが憎いようで愛おしい。


「大好きよ、リリー…私の一番の親友」


彼女の笑顔は、私にとって毒にしかならなくなってしまった。
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