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原作突入中
30:無属性
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身体を刺す様な冷たさが消え、思わず顔を上げる。
俺達を背後に庇うクロ様と、床にへたり込むシャスイン嬢…クロ様が魔法を行使したのは明らかだった。
腕の中に庇ったレイチェルが、状況を飲み込めないのか忙しなく視線を動かしている。
「…シャスイン嬢、君は私の大切な婚約者を命の危険に晒した。言い逃れは出来ないよ」
低く地を這う様なクロ様の声。
誰が見ても、怒っている…眉間に皺が刻まれ、いつも浮かべている穏やかな笑みの影すらない。
俺ですら、初めて見る表情だった。
「っち、違います!レオンハルト様が悪いのです!私からリオーネ様を奪い、あまつさえそんな女を当てがうなんて、」
「黙れ、発言を許可した覚えはない」
ぎゃんぎゃん喚き立てていたシャスイン嬢も、クロ様の一言で黙り込む。
漸く静かになった空間で、再びクロ様が口を開いた。
「先日、レオが寮内で襲撃された。私達の部屋は、皆が知っている通り強固な対魔法強化ガラスが窓に嵌めてある…犯人は、その窓を割りレオに怪我を負わせた」
ざわり、会場が再びざわめく。
貴族の子女なら誰でも知っている強力な窓ガラス…それを割るなんて。犯人であろうシャスイン嬢に恐怖の視線が向けられた。
そのざわめきを制する様に、クロ様が片手を上げる。
「実は、割ったのには仕掛があってね…至極簡単さ。窓ガラスの一番弱い部分に、純度の高い氷魔法と風魔法を当てたんだ」
クロ様に言われて、ハッとする。
そうだ、何故そんな簡単な事が思いつかなかったんだろう。
いくら強力と言えど、経年劣化と言うものがある。
そこを的確に狙えば…ある程度強い魔力を持った貴族なら割る事ができる。
「ち、違います!私はそんな事…!」
「君の友人のご令嬢方は、時折私達の部屋の真下に居る君を見かけたらしいけど?」
すかさず否定しようとする彼女を、遠慮なくぶった切る。
何も言えなくなってしまったシャスイン嬢は、許しを乞いながら泣き始めた。
“本当に傷付けるつもりは一切なかった”だの、“レイチェルを少しでも苦しめたかった”だの…今更ながら反省している素振りを見せる。
見苦しい姿を晒す彼女に、味方をする者は居なかった。
当たり前だ。善意で庇った所で、王家とライラック家に目を付けられるのは火を見るよりも明らかなのだから。
そんな愚かな人達は、この場には居ない。
皆、自分が可愛い。
彼女の味方は、この学園に1人として存在しなかった。
「…レオ、遅くなってすまない。怪我は無いね、良かった」
シャスイン嬢を騎士に突き出した後、クロ様は駆け寄って来て俺の無事を確認する。
俺と彼女の魔法の相性が最悪だったから、どうなる事かと思った。
クロ様のおかげで、助かった。
「クロムウェル殿下、何の魔法を使ったのですか?」
リオに無事を確認されながら問いかけるレイチェル。
そんな彼女に、クロ様はさも当たり前のように重要な事を告げた。
「あぁ、君はまだ知らなかったね。彼女の魔力暴走を、私の無属性魔法で無効化したんだよ」
「…は?」
ぽかん、そんな効果音がぴったりな顔をするレイチェル。
そう、クロ様は火、風…そして無属性の魔力の持ち主だ。
聖属性と同じくらい希少な無属性魔法。
使い手は王国内に、片手で数えられるくらいの人数しかいない。
さっきの眩い光は、無属性魔法発動時特有の物。
先程まで呆けていたレイチェルの顔は、みるみる内に輝いていく。
彼女の無邪気さに気が抜けてしまった俺は、かくんとその場に膝をついてしまった。
驚いたクロ様が、慌てたように俺を抱き上げた。
俺達を背後に庇うクロ様と、床にへたり込むシャスイン嬢…クロ様が魔法を行使したのは明らかだった。
腕の中に庇ったレイチェルが、状況を飲み込めないのか忙しなく視線を動かしている。
「…シャスイン嬢、君は私の大切な婚約者を命の危険に晒した。言い逃れは出来ないよ」
低く地を這う様なクロ様の声。
誰が見ても、怒っている…眉間に皺が刻まれ、いつも浮かべている穏やかな笑みの影すらない。
俺ですら、初めて見る表情だった。
「っち、違います!レオンハルト様が悪いのです!私からリオーネ様を奪い、あまつさえそんな女を当てがうなんて、」
「黙れ、発言を許可した覚えはない」
ぎゃんぎゃん喚き立てていたシャスイン嬢も、クロ様の一言で黙り込む。
漸く静かになった空間で、再びクロ様が口を開いた。
「先日、レオが寮内で襲撃された。私達の部屋は、皆が知っている通り強固な対魔法強化ガラスが窓に嵌めてある…犯人は、その窓を割りレオに怪我を負わせた」
ざわり、会場が再びざわめく。
貴族の子女なら誰でも知っている強力な窓ガラス…それを割るなんて。犯人であろうシャスイン嬢に恐怖の視線が向けられた。
そのざわめきを制する様に、クロ様が片手を上げる。
「実は、割ったのには仕掛があってね…至極簡単さ。窓ガラスの一番弱い部分に、純度の高い氷魔法と風魔法を当てたんだ」
クロ様に言われて、ハッとする。
そうだ、何故そんな簡単な事が思いつかなかったんだろう。
いくら強力と言えど、経年劣化と言うものがある。
そこを的確に狙えば…ある程度強い魔力を持った貴族なら割る事ができる。
「ち、違います!私はそんな事…!」
「君の友人のご令嬢方は、時折私達の部屋の真下に居る君を見かけたらしいけど?」
すかさず否定しようとする彼女を、遠慮なくぶった切る。
何も言えなくなってしまったシャスイン嬢は、許しを乞いながら泣き始めた。
“本当に傷付けるつもりは一切なかった”だの、“レイチェルを少しでも苦しめたかった”だの…今更ながら反省している素振りを見せる。
見苦しい姿を晒す彼女に、味方をする者は居なかった。
当たり前だ。善意で庇った所で、王家とライラック家に目を付けられるのは火を見るよりも明らかなのだから。
そんな愚かな人達は、この場には居ない。
皆、自分が可愛い。
彼女の味方は、この学園に1人として存在しなかった。
「…レオ、遅くなってすまない。怪我は無いね、良かった」
シャスイン嬢を騎士に突き出した後、クロ様は駆け寄って来て俺の無事を確認する。
俺と彼女の魔法の相性が最悪だったから、どうなる事かと思った。
クロ様のおかげで、助かった。
「クロムウェル殿下、何の魔法を使ったのですか?」
リオに無事を確認されながら問いかけるレイチェル。
そんな彼女に、クロ様はさも当たり前のように重要な事を告げた。
「あぁ、君はまだ知らなかったね。彼女の魔力暴走を、私の無属性魔法で無効化したんだよ」
「…は?」
ぽかん、そんな効果音がぴったりな顔をするレイチェル。
そう、クロ様は火、風…そして無属性の魔力の持ち主だ。
聖属性と同じくらい希少な無属性魔法。
使い手は王国内に、片手で数えられるくらいの人数しかいない。
さっきの眩い光は、無属性魔法発動時特有の物。
先程まで呆けていたレイチェルの顔は、みるみる内に輝いていく。
彼女の無邪気さに気が抜けてしまった俺は、かくんとその場に膝をついてしまった。
驚いたクロ様が、慌てたように俺を抱き上げた。
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