推しは未来の魔王様!?

柴傘

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原作突入中

26:決意と涙

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先日の窓ガラス事件から、俺への攻撃は一時形を潜めていた。
どうやら、パンジー姉様が宣言通り氷属性の魔力保持者に事情聴取をしているようだ。
姉様は筆頭侯爵家のご令嬢、しかも婚約者はライラック公爵家…逆らえる人間など、居ないに等しいほど力を持っている。


聴取の現場には必ずリシェ兄様が同伴し、虚偽の発言がないか見定めているらしい。


我が兄とその婚約者、敵に回したくない人間トップクラスだ…恐ろしいな。
姉様の負担を考え、1日1人の事情聴取。
毎日リシェ兄様が報告書を送ってくれる…まだ、めぼしい人間は見つかっていない。


クロ様の過保護に拍車がかかっている今、俺を害せるのはクロ様本人と俺の身内程度。
ガチガチに警護を固められ過ぎて、少し息苦しいのは内緒だ。


「…レイチェル、君は誰が怪しいと思う?」


俺の部屋で2人きり、レイチェルとお茶をしながら何気なく話題を振る。
リオは扉の前で警護中だ…というか、俺が追い出した。
リオがいると、花いとの話は出来ないからね。


「花いとアナザーでは、第一王妃様の侍女が怪しいって言ってましたわ。今回ばかりは私の記憶も役に立ちませんわね」


しゅん、垂れた犬耳と尻尾が見えそうな程落ち込むレイチェル。
最初から前世の知識面は期待してはいなかった。花いとアナザーはレオの死因を調べる話らしいし、襲撃事件となった今回とは毛色が違う。
俺は単純に、レイチェルの意見が聞きたかったんだけどな。


「違う違う…君の、率直な意見を聞きたい。前世は関係なく、この学園内で誰が怪しいと思う?」
「そう言う事でしたの!でも、レオ様を邪魔に思ってそうな令嬢子息は結構な数居るでしょうし、クロムウェル殿下を失墜させたい貴族も多そうですわ…」


うーん、考え込んでしまったレイチェルに思わず笑みが溢れる。
あぁ、俺はこんなにも真剣に思ってくれる友が居る…そう考えたら、少し楽になった。
俺の小さな笑い声に、首を傾げたレイチェルが此方を見つめる。


「レオ様、笑い事じゃありませんのよ…というか、こういうのはリオが得意なはずですわ!」
「ごめんごめん。花いとの話を溢しても大丈夫なの、レイチェルしかいないから…つい油断しちゃうんだ」
「まぁ!私が裏切り者だったらどうするんですか…絶対絶対ぜーったいありえませんけど!」


何処か嬉しそうに、そう宣言するレイチェル。
そんな姿に釣られるように、俺もくすくすと笑い声をこぼした。2人して、笑い合う。
笑いの波が一旦引いた後、レイチェルの綺麗で柔らかな両手を握り込んだ。


「…レイチェル、俺に…俺に、があったら、クロ様とリオを宜しくね」
「っ…いやですわ、そんな事仰らないで!レオ様は生きるんですの。生きて生きて、殿下と一緒に幸せになるんですのよ!?」


俺のお願いに、全力で拒否を示すレイチェル。
必死に俺を説得する姿に、胸が締め付けられる。こんなにも俺を好いてくれている人を、苦しめたくはないけど。
でも、もしも俺が死んでしまったら。


世界の強制力に、逆らえなかったら?


最悪の事態を想像する。
俺が死んだ後、クロ様は当然魔王化するだろう…この世に、絶望して。
何だかんだ冷静なリオも、どうなるか分かったもんじゃない。自惚れじゃないけど、レオ至上主義な所があるから。


「俺も諦めた訳じゃないよ。一応、念の為の保険…お願いしたからね、約束だ」
「絶対に嫌ですわ!お願いなんて聞いてあげません…そんな事言うレオ様なんて、嫌いです!」
「そう?俺はレイチェルの事大好きだよ、クロ様の次くらいに」
「え!殿下の次なのですか!?」


俺の発言に嬉しそうに目を輝かせるレイチェル…ちょろい。
確認する問いかけに頷いてやると、数十秒浮かれた様に頬を緩ませる…けど、すぐに眉を釣り上げた。


「だ、騙されませんわ!そんな事言ってもそんな約束守りません!」


うーん、そんなに甘く無かったか。
仕方ないと溜息を吐き出し、レイチェルに告げる。
“万が一があり得ないなんて、それこそあり得ないのだから”


「俺も、最善を尽くすよ…君達と共に歩む未来を、ちゃんと見届けたいんだ」
「れ、れお様…わた、わたくしっ…!」


泣き出してしまったレイチェル。
思わず苦笑を浮かべると、ぺちんと腕を叩かれた…全然痛くなくて、笑ってしまう。
彼女からの痛い程の愛情を、申し訳なく思ってしまう。


「ありがとう、レイチェル…君は俺の親友だよ」


柔らかな頬に伝う涙を、冷え切った指先で拭う…じんわりと、体温が伝わった。
ごめん、レイチェル。
きっと君に、沢山心配かけてしまう…涙を流させてしまう。


だけどどうか…どうか、レオンハルトを信じて欲しい。


誰よりも、未来を望んでいるのはレオンハルト俺自身なのだから。
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