推しは未来の魔王様！？

原作突入中

24:襲撃

「っレオ！」


兄様の悲鳴じみた声で、ふっと意識が覚醒する。
どうやら一瞬だけ気を失ってしまってたようだ…自分の左腕の、鮮血を見て。


ぞくりと背筋が震える。


前世での最後も、赤だった。
白い光に、飛び散る紅色…衝撃と、痛み。
心臓が掴まれた様に痛み、呼吸の仕方を忘れてしまう。


「レオ、レオ…大丈夫、ゆっくり空気を吸って。兄様は此処だよ」
「っは…はぁ、に、さま…」
「そう、レオの兄様は此処だ…安心して、もう危なくないからね」


俺を抱きしめ、背中を往復する温かい掌に酷く安心する。
そうだ。俺の傍には強くてかっこいいリシェ兄様に、賢いリオ、気高く冷静なパンジー姉様が居る。
大丈夫、此処は安全だ。しっかりしろ、レオ俺。


「…ごめんなさい、兄様」
「気にしないで。もっと兄様にくっついてなさい」


未だに恐怖で指先が震える。
兄様の提案に素直に頷けば、ぎゅうと優しく抱き締め直された。
落ち着くリシェ兄様の匂いを肺に満たせば、ゆっくり震えが止まってくる…その間、リオと兄様が何か話していた。


腕の傷はいつのまにか、リオが治してくれてたらしい。
痛みも出血も、すっかり止まっている。


「…純度の高い氷魔法を、風魔法で飛ばしたんでしょう。私の方で色々調べてみますわ」
「うん、お願いするよ…私は殿下と父上に報告する。リオはレオの側に居てあげて。出来ればレイチェル嬢も」
「勿論です。今すぐレイチェルを呼んできますので、もう少しレオンハルト様の警護をお願いしても？」
「それくらいお安い御用だよ、任せて」


その後、リオはレイチェルを呼びに部屋を飛び出す。
パンジー姉様も俺の頭を一撫でした後、部屋を出て行ってしまった。


「…レオ、今回ばかりはもう見過ごせないよ。全て、クロムウェル殿下に報告するからね」
「はい…ごめんなさい」


リシェ兄様は、知っていた。
学園内で度々俺が攻撃されている事を…俺が、報告していたから。
遅かれ早かれ兄様の耳に届くのならば、自己申告しよう。そして、口止めしようと。


兄様は俺の意図を汲んで、黙っていてくれた。


「殿下も、多分知ってるよ…だけど、レオが自分から頼ってくれるのを待ってたんだ」
「え？」
「当たり前じゃないか、あの腹黒殿下だよ？口を出さなかったのは、レオが隠しているのを知ってたから…。
君の事を尊重して、知らないふりをし続けてくれてたんだ…でも、怪我をした以上そのフリも終わりだよ」


厳しい瞳で俺を見つめる兄様。
分かってる。犯人に明確な殺意を向けられた以上、このままにはしておけない…立派な、国家反逆罪だ。
次期王太子の婚約者を狙うという事は、そういう事だ。


「でも、今回は流石に肝が冷えたよ…まさか、レオの部屋の窓を割る程強力な魔法を使ってくるなんて」


兄様がため息を吐き出す。
そう、問題は窓ガラスを破った事にある…対魔法用強化ガラスをはめ込んだこの部屋は、代々王族とその婚約者が使ってきた。
相当な魔法の使い手ではない限り、この窓は突破できない。


相手は、下手すると兄様より魔力が強い可能性がある。


兄様でさえ、この窓を割る事はそう簡単ではない。
そうなると確実に高位の貴族…侯爵家の誰かだ。
氷魔法の使い手は少ないが、学園内にいない訳ではない…生徒全員を対象とするならば、それなりの数が居る。


証拠も含め捜査するのは、骨が折れるだろう。


「さ、まずはその服を着替えようか？」


俺が一人考え事に耽っていると、兄様が明るい声を出す。
言われてみればその通りだ。いつまで経っても血まみれの服を着てる訳にはいかない。


こくりと頷き、立ち上がる。


「おっと、大丈夫かい？」


血液が足りないのか、はたまた精神的ショックが大きかったからなのか。
立ち上がった瞬間よろめいてしまった…すかさず、兄様に抱えられる。
一言お礼を言うと、額に口付けを落とされた。


「レオ様ああああ！！！」


部屋の向こうから聞こえた女性の叫び声、走る足音。
誰が来たか簡単に想像できてしまう…思わず、笑みが溢れた。


数秒後、現れたレイチェルがリオに怒られたのは言うまでもない。