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原作開始前
08:朝露の反射
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クロ様が学園に入学して以降、俺は退屈な日々を過ごしている。
時折第二王子が公爵邸に何故か乗り込んでくるけど、俺の得意な水魔法と風魔法を操り空中に浮く魚や蝶を作ってやると、きゃっきゃ喜んでおとなしくなる。
あれ、第二王子ってこんな可愛かったっけ?
それはさておき、あの日見た夢を最近頻繁に見る様になった。
相変わらず俺は暗闇にいて、上の方からレオの声と医者の声が聞こえる。
毎回懐妊を告げられ、喜んでいるレオの声が聞こえた辺りで目が覚めてしまう…これは一体、何だろうか?
今もその夢を見て、飛び起きた所だ。
カーテンを開けると、まだ外は暗い…うっすらと遠くの空が白み始めている。
嫌な汗で背中が濡れて気持ち悪い。
何となく寝付けなくて、薄手の上着を着込み公爵邸の庭へと出た。
早朝のひんやりとした空気。少し鼻が痛くなったが、爽やかに吹く風で少し気分が軽くなる。
あぁ、早くクロ様に会いたいなぁ。
先日届いた手紙に、すぐ返事を出した。
今頃学園に届いてる頃だろうか…クロ様の手紙には、いつも俺への愛情がびっしりと書き記されている。
俺がいなくて寂しい、会って話がしたい、抱きしめたい…く、口付けたい。
駄目だ、思い出すと恥ずかしくなってくる。
僅かに熱を持った頬を撫でる風が心地良い…恥ずかしさは抜けないけれど。
こんなに愛されて甘やかされて、駄目になってしまいそうだ。
ふらふらと当てもなく散歩していれば、微かに何かの音が聞こえる。
ビュッと、剣を振っている様な風切り音。
誰か鍛錬でもしているのだろうか?公爵家の騎士団は精鋭揃いで、皆努力家だから…。
少しくらい、様子を見たいな。
一定の間隔で聞こえる音を頼りに、誰かわからない剣士の方向へ歩みを進めた。
公爵邸の庭園の奥の方、密集した小さな森の中にある開けた土地。
中央に透き通った小さな泉があり、足元は可愛らしい小さな花が咲いている。
こんな場所、知らなかった。
その美しい光景を前に、剣を振っている一人の少年。
リオが、鍛錬していた。
何故リオが?俺の侍従見習いだからだろうか?
俺の護衛自体は、父が選んだ優秀な騎士が数名いる…リオは基本的に守られる側のはずだ。
パキッ
俺の足元で、枝が音を立てて割れた。
瞬時に振り向くリオ、警戒した様な瞳が俺を捉えた瞬間、すぐに柔らかく緩められた。
「レオ!……し、失礼しました!レオンハルト様。」
俺を呼ぶ嬉しそうな声。
直ぐ自分の失言に気づいたのか、跪き首を垂れたリオ…俺の愛称を呼ぶ声には、確かな親愛の情が滲んでいた。
俺はリオに、愛称で呼ばれた事は一度もない。
リオが公爵邸へ押し掛けた日から今まで、一度もレオと呼ばれていない。
何故彼は、俺を愛称で呼んだのか?
思わず身体が強張る。彼は一体何者だ?
「…俺が相手でよかったね、失言は聞き逃してあげる。リオは、毎日此処で鍛錬を?」
「は、はい…お恥ずかしながら、騎士団の皆様の足元にすら及びませんけど」
そう言って恥ずかしそうにはにかむリオは、紛れもない美少年だ。
俺より小柄な体躯の持ち主だが、シャツ越しでも分かるくらいちゃんとした筋肉が付いている。
俺が知るリオは、華奢な美青年だけだ。
こんなの、知らない。
「…リオは、花束を愛しの君にって物語は知ってる?」
「花束を愛しの君に…ロマンス小説か何かでしょうか?」
リオの顔をじっと見つめる。
きょとりと首を傾げ、不思議そうな表情だ…本当に知らないらしい。
演技だとしたら、相当恐ろしいけど。
「ううん、知らないなら良いんだ…知り合いが面白いって教えてくれただけだから」
「そうなんですね、今度探してみます」
無邪気に笑う姿は、確かに花いとの主人公のそれで。
俺のせいで歪んでしまった彼の人生に、なんだか無性にやるせなくなった。
「レオンハルト様、何処か具合でも悪いのですか?」
黙りこくった俺を心配する声も、顔も。
全部リオのものなのに、彼が全然違う人に思えてしまって、戸惑った。
無理に笑みを浮かべると、彼に命令を一つ。
「お腹すいたから、公爵邸まで送ってくれる?」
「はい、もちろん!喜んでお供します」
そう言って彼は、花が咲く様な笑顔を浮かべた。
時折第二王子が公爵邸に何故か乗り込んでくるけど、俺の得意な水魔法と風魔法を操り空中に浮く魚や蝶を作ってやると、きゃっきゃ喜んでおとなしくなる。
あれ、第二王子ってこんな可愛かったっけ?
それはさておき、あの日見た夢を最近頻繁に見る様になった。
相変わらず俺は暗闇にいて、上の方からレオの声と医者の声が聞こえる。
毎回懐妊を告げられ、喜んでいるレオの声が聞こえた辺りで目が覚めてしまう…これは一体、何だろうか?
今もその夢を見て、飛び起きた所だ。
カーテンを開けると、まだ外は暗い…うっすらと遠くの空が白み始めている。
嫌な汗で背中が濡れて気持ち悪い。
何となく寝付けなくて、薄手の上着を着込み公爵邸の庭へと出た。
早朝のひんやりとした空気。少し鼻が痛くなったが、爽やかに吹く風で少し気分が軽くなる。
あぁ、早くクロ様に会いたいなぁ。
先日届いた手紙に、すぐ返事を出した。
今頃学園に届いてる頃だろうか…クロ様の手紙には、いつも俺への愛情がびっしりと書き記されている。
俺がいなくて寂しい、会って話がしたい、抱きしめたい…く、口付けたい。
駄目だ、思い出すと恥ずかしくなってくる。
僅かに熱を持った頬を撫でる風が心地良い…恥ずかしさは抜けないけれど。
こんなに愛されて甘やかされて、駄目になってしまいそうだ。
ふらふらと当てもなく散歩していれば、微かに何かの音が聞こえる。
ビュッと、剣を振っている様な風切り音。
誰か鍛錬でもしているのだろうか?公爵家の騎士団は精鋭揃いで、皆努力家だから…。
少しくらい、様子を見たいな。
一定の間隔で聞こえる音を頼りに、誰かわからない剣士の方向へ歩みを進めた。
公爵邸の庭園の奥の方、密集した小さな森の中にある開けた土地。
中央に透き通った小さな泉があり、足元は可愛らしい小さな花が咲いている。
こんな場所、知らなかった。
その美しい光景を前に、剣を振っている一人の少年。
リオが、鍛錬していた。
何故リオが?俺の侍従見習いだからだろうか?
俺の護衛自体は、父が選んだ優秀な騎士が数名いる…リオは基本的に守られる側のはずだ。
パキッ
俺の足元で、枝が音を立てて割れた。
瞬時に振り向くリオ、警戒した様な瞳が俺を捉えた瞬間、すぐに柔らかく緩められた。
「レオ!……し、失礼しました!レオンハルト様。」
俺を呼ぶ嬉しそうな声。
直ぐ自分の失言に気づいたのか、跪き首を垂れたリオ…俺の愛称を呼ぶ声には、確かな親愛の情が滲んでいた。
俺はリオに、愛称で呼ばれた事は一度もない。
リオが公爵邸へ押し掛けた日から今まで、一度もレオと呼ばれていない。
何故彼は、俺を愛称で呼んだのか?
思わず身体が強張る。彼は一体何者だ?
「…俺が相手でよかったね、失言は聞き逃してあげる。リオは、毎日此処で鍛錬を?」
「は、はい…お恥ずかしながら、騎士団の皆様の足元にすら及びませんけど」
そう言って恥ずかしそうにはにかむリオは、紛れもない美少年だ。
俺より小柄な体躯の持ち主だが、シャツ越しでも分かるくらいちゃんとした筋肉が付いている。
俺が知るリオは、華奢な美青年だけだ。
こんなの、知らない。
「…リオは、花束を愛しの君にって物語は知ってる?」
「花束を愛しの君に…ロマンス小説か何かでしょうか?」
リオの顔をじっと見つめる。
きょとりと首を傾げ、不思議そうな表情だ…本当に知らないらしい。
演技だとしたら、相当恐ろしいけど。
「ううん、知らないなら良いんだ…知り合いが面白いって教えてくれただけだから」
「そうなんですね、今度探してみます」
無邪気に笑う姿は、確かに花いとの主人公のそれで。
俺のせいで歪んでしまった彼の人生に、なんだか無性にやるせなくなった。
「レオンハルト様、何処か具合でも悪いのですか?」
黙りこくった俺を心配する声も、顔も。
全部リオのものなのに、彼が全然違う人に思えてしまって、戸惑った。
無理に笑みを浮かべると、彼に命令を一つ。
「お腹すいたから、公爵邸まで送ってくれる?」
「はい、もちろん!喜んでお供します」
そう言って彼は、花が咲く様な笑顔を浮かべた。
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