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原作開始前
閑話7.5:涙の理由
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聖ポーリア学園へ入学する2日前、私はレオを王宮に呼び共に過ごした。
リシェや陛下を説得し、一日中レオと過ごす時間を手に入れた私は、今思えば浮かれすぎていたと思う。
それくらい、愛しい彼と共に過ごせるのが嬉しかった。
学園へ入学すれば、レオと過ごす時間は今まで以上に少なくなる。
年に3回の長期休暇はあるものの、帰城したとして待っているのは王子としての公務ばかり。
レオと過ごせる時間など、殆どないだろう。
そう言う理由から、入学前最後の逢瀬を画策したのだ。
今、私の愛しい姫君は腕の中で眠っている。
…天使の様な寝顔だ。いや、レオは天使だったな。間違えた。
暫くその可愛らしい顔を眺めた後、睡魔に促されるまま目を閉じた。
「……っ、」
小さく嗚咽を噛み殺す声で目が覚める。
寝起きと暗闇でぼやける視界の中、うっすら見えたのはレオの泣き顔。
一瞬で目が覚めた。何故彼は泣いている?怖い夢でも見たのだろうか。
泣いている理由を問えば、言いたくないと言わんばかりに首を振られてしまった。
困ったな、どうやったら泣き止んでくれるだろうか。
身体を起こしレオを腕の中へ収めると、控えめに胸元を掴まれる。
そのまま落ち着かせる様に背を撫でてやれば、レオの身体の震えがおさまり始めた。
やはり、悪夢でも見たのだろうか。
「大丈夫、大丈夫だから…レオを害する悪いモノは、私が全部蹴散らしてあげるからね」
「…それ、全然王子様っぽくない…です、」
そう言って小さく笑うレオ。
あぁ、その顔が見たかったんだ…レオに悲しい顔は似合わない。
「王子様じゃない私は嫌いかな?」
「クロ様がクロ様である限り、貴方が好きですよ」
「なら良いんだ。君にとっての1番で居れるなら、いくらでも悪役になってみせるさ」
そう言った瞬間、腕の中のレオの身体が強張った。
私は何か、失言しただろうか?
一抹の不安を抱えると、何処か必死な表情で訴えかけてくるレオ。
悪は駄目だと、そんな私は嫌いだと言う。
未来の王太子、国王として悪に手を染める気など毛頭ないが…私の冗談が、レオに伝わらなかった様だ。
綺麗な翡翠の瞳を見つめたまま、誠実に生きると誓い、未だ頬を濡らす涙の跡を指先で拭う。
ゆっくりと唇を重ねると、いつもの様にレオの瞼が下ろされた。
あぁ、離れ難い。
レオも2年後には学園に入学する。
そうすれば、自然と私と同じ部屋で暮らす事になる…王族の婚約者の伝統だ。
王家に忠誠を誓い、婚姻前であろうと不貞を働けない様同室にする。
こんな可愛らしいレオを、無礼な輩に目をつけられないよう守る為でもある。
後2年、私たちは離れて暮らさなければならない。
今までは互いに公爵邸と王宮を頻繁に行き来していたが、それももう出来ないだろう。
不安があるとしたら、我が愚弟の悪戯だけか。
どうやら、アルファストはレオに好意を抱いているらしい。
ちょっかいをかければ、優しいレオが構ってくれると。
好きな子ほど苛めたいとはよく言ったものだ。
学園へ発つ前に、きっちり灸を据えてやらねばな…くく。
「まだ早い、もう少し一緒に寝よう」
「…は、い」
私の腕の中でうとうとし始めたレオに提案すれば、素直に頷かれる。
ゆっくりとレオをベッドに寝かせ、額に口付けるとくすぐったそうに笑い、私の額にもお返しの口付けをしてくれた。
愛おしい、心の底からそう思う。
「おやすみ、レオ」
「…おやすみなさい、くろさま…」
眠気で舌足らずに挨拶をしたレオは、直ぐに寝息を立て始めた。
腕の中の可愛らしい存在を抱きしめ直し、幸福に浸りながら私も目を閉じる。
おやすみ、愛しい我が姫君。
リシェや陛下を説得し、一日中レオと過ごす時間を手に入れた私は、今思えば浮かれすぎていたと思う。
それくらい、愛しい彼と共に過ごせるのが嬉しかった。
学園へ入学すれば、レオと過ごす時間は今まで以上に少なくなる。
年に3回の長期休暇はあるものの、帰城したとして待っているのは王子としての公務ばかり。
レオと過ごせる時間など、殆どないだろう。
そう言う理由から、入学前最後の逢瀬を画策したのだ。
今、私の愛しい姫君は腕の中で眠っている。
…天使の様な寝顔だ。いや、レオは天使だったな。間違えた。
暫くその可愛らしい顔を眺めた後、睡魔に促されるまま目を閉じた。
「……っ、」
小さく嗚咽を噛み殺す声で目が覚める。
寝起きと暗闇でぼやける視界の中、うっすら見えたのはレオの泣き顔。
一瞬で目が覚めた。何故彼は泣いている?怖い夢でも見たのだろうか。
泣いている理由を問えば、言いたくないと言わんばかりに首を振られてしまった。
困ったな、どうやったら泣き止んでくれるだろうか。
身体を起こしレオを腕の中へ収めると、控えめに胸元を掴まれる。
そのまま落ち着かせる様に背を撫でてやれば、レオの身体の震えがおさまり始めた。
やはり、悪夢でも見たのだろうか。
「大丈夫、大丈夫だから…レオを害する悪いモノは、私が全部蹴散らしてあげるからね」
「…それ、全然王子様っぽくない…です、」
そう言って小さく笑うレオ。
あぁ、その顔が見たかったんだ…レオに悲しい顔は似合わない。
「王子様じゃない私は嫌いかな?」
「クロ様がクロ様である限り、貴方が好きですよ」
「なら良いんだ。君にとっての1番で居れるなら、いくらでも悪役になってみせるさ」
そう言った瞬間、腕の中のレオの身体が強張った。
私は何か、失言しただろうか?
一抹の不安を抱えると、何処か必死な表情で訴えかけてくるレオ。
悪は駄目だと、そんな私は嫌いだと言う。
未来の王太子、国王として悪に手を染める気など毛頭ないが…私の冗談が、レオに伝わらなかった様だ。
綺麗な翡翠の瞳を見つめたまま、誠実に生きると誓い、未だ頬を濡らす涙の跡を指先で拭う。
ゆっくりと唇を重ねると、いつもの様にレオの瞼が下ろされた。
あぁ、離れ難い。
レオも2年後には学園に入学する。
そうすれば、自然と私と同じ部屋で暮らす事になる…王族の婚約者の伝統だ。
王家に忠誠を誓い、婚姻前であろうと不貞を働けない様同室にする。
こんな可愛らしいレオを、無礼な輩に目をつけられないよう守る為でもある。
後2年、私たちは離れて暮らさなければならない。
今までは互いに公爵邸と王宮を頻繁に行き来していたが、それももう出来ないだろう。
不安があるとしたら、我が愚弟の悪戯だけか。
どうやら、アルファストはレオに好意を抱いているらしい。
ちょっかいをかければ、優しいレオが構ってくれると。
好きな子ほど苛めたいとはよく言ったものだ。
学園へ発つ前に、きっちり灸を据えてやらねばな…くく。
「まだ早い、もう少し一緒に寝よう」
「…は、い」
私の腕の中でうとうとし始めたレオに提案すれば、素直に頷かれる。
ゆっくりとレオをベッドに寝かせ、額に口付けるとくすぐったそうに笑い、私の額にもお返しの口付けをしてくれた。
愛おしい、心の底からそう思う。
「おやすみ、レオ」
「…おやすみなさい、くろさま…」
眠気で舌足らずに挨拶をしたレオは、直ぐに寝息を立て始めた。
腕の中の可愛らしい存在を抱きしめ直し、幸福に浸りながら私も目を閉じる。
おやすみ、愛しい我が姫君。
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