推しは未来の魔王様！？

プロローグ

その日は大学の講義が全部終わった後、意味もなく友達と駄弁って笑ってさよならして、いつもと同じ日常だったと思う。
いや、少しは非日常だったかも

だって…俺は死んだのだから。

目の前が真っ白に染まる、それが車のライトだと気づいた時にはもう遅かった。

ドンッ

鈍く聞こえた何かがぶつかる音と、身体に走る強い衝撃。
直後に襲う一瞬の激痛の後、べしゃりとアスファルトに叩きつけられた。
ぼんやりと霞み始めた視界、痛みは少し前から感じていない…麻痺してるんだと思う、痛すぎて。

俺を轢いた運転手は、慌てたように降りた後、また慌てたように逃げ出した。
ひき逃げかよ、クソっ…俺、ほんとに死んじゃうの？
まだ、恋人すらも出来たことない。家族以外の誰かに愛を捧ぐ事も知らないのに。

俺の双眸から、温かい涙が一筋溢れた



…そんな死に方をした筈なのに、俺はなぜか生きている。目が覚めたら見知らぬ天井だった。
見慣れた家でも、病院でもなさそうな天井に首を傾げる。

一体ここは何処なんだ？

そして俺は気づいてしまった
此処はとあるお貴族様の家で、俺はそこの赤ちゃんとして生まれてしまった事に


俺の名前は佐竹春親さたけはるちか
東京生まれ東京育ち、生粋の日本人で平凡な一般家庭で育った正真正銘の庶民だ。
そんな俺は、レオンハルト・ライラック…ライラック公爵家次男として生まれ変わった。

２つ上に見目麗しく優しい兄、両親も美形で…きっと俺も美形だろう。
というか、既に顔はわかっている気がする。

俺には前世で、凄くハマったスマホゲームがある。勿論課金もした、車買えるくらいの額は。
タイトルは「花束を愛しの君に」、通称花いと。
中世ヨーロッパみたいな世界観の、ファンタジー世界のBLゲームだ。

ゲーム自体はありがちで、可愛らしい見た目の伯爵家嫡男の主人公が、複数いる攻略対象の誰かを選び愛を育み幸せに暮らすと言う内容。
とってもありがち、王道ストーリー。

メインヒーローである第二王子のアルファスト・ロザリアのルートで謎の死を遂げる主人公の親友…それこそ、レオンハルト・ライラック。通称レオ。

そう、俺の事だ。

最初は聞きなれた名前に動揺した、でも珍しくない名前だし、赤の他人だろうと思った。
然し、両親の顔や幼い兄の容姿に絶望した…とても、ゲームの中の彼と似通っていたから。

嘘だと言って欲しかった、よく聞けば兄の名前も両親の名前も、どれもこれもが一致している。
絶望した、俺は恐らく若くして死んでしまうのだ。
原作を知っているのなら、原因を避ければ良いと思うだろうが、原作でレオの死因は一切明かされていない。

主人公の友人の突然死に、ファンも騒然となったしそれなりに炎上した。
あんなに良い子が何で死んだの、なんでエピローグで一切語られないの、私達にレオを返して！と

それに焦った運営が、新しい攻略対象を追加する…レオの婚約者である、第一王子のルートを。

その第一王子が追加される前に春親は死んでしまった。
俺に死因を事前に知る術は…無い。
原作でのレオはとっても善良で、主人公の親友だった。顔も良く、儚げな美形で人気キャラだった。

俺が、レオの死因を解明する。
誰が彼を殺したのか…何故殺されたのか。全てを白日の元に晒して見せる。

今度こそ、幸せな人生を送る為に。
こんなにも俺を愛してくれる両親や兄を悲しませない為にも。

決意を胸に、俺は今から彼に会う。レオンハルト・ライラックの婚約者である…第一王子、クロムウェル・ロザリアに。