満月に囚われる。

柴傘

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47:執着

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『シルティア、昨晩は何処に行っていたんだ?』

ただならぬ威圧感を放ちながら問い掛けてくるお父様に、ふるりと身体が震える。

下手な答えを口にしようものなら、殺されてしまうと思ってしまうほど。
今までお父様は、俺に対しここまで怒った事なんてなかった。それは俺が、この箱庭の中で大人しく過ごしていたからだ。

俺は昨晩、一時的ではあるがユースチスに戻った。それが、お父様の琴線に触れてしまった。

「…帰っていました。俺の、家に」
『シルティアの家は此処だろう?何が不満なんだ、言ってみなさい』
「お父様、もう分かっていらっしゃいますよね。俺は、彼の元に戻りたい…」
『駄目だ』

俺の言葉を遮るように、お父様の低く唸るような声が室内に響く。

じっと此方を見つめる眼差しには、確かな愛情と悲しみが混ざっていた。このただならない執着とも言える拘りに、何か事情があるのではないかと勘繰ってしまう。

不意に視線を逸らしたお父様は、近くにあった椅子にドカリと座った。

『…シルティアには、我の血が半分流れている。龍人族が他の種族とは決定的に異なる事は分かるな?』
「はい、それくらいは。その決定的なは分からないけど」
『…血だよ。我々龍人族は、そもそも他の種族と流れる血が違う』

静かに、然しよく響く声で告げられた言葉は、俺の腹の奥にずしりと響いた。

龍人族の血は、他の種族が飲めば万病が癒え寿命が伸びてしまう代物らしい。
故に度々龍人族を我が物にしようとする為の戦争が増え、龍人族の始祖と呼ばれる人達は空の上に避難した。

その中の一人が、龍神フィネア。俺達が崇めていた神であると。

『フィネア様は我々のはじまり…原点にして頂点。彼のお陰で我々は今の世を生き、平和に過ごせている。時に好奇心から地上に降り者も居るが、龍人族だとバレる事なく幸せに暮らしている』
「龍神フィネアが、俺の先祖…」
『あぁそうだ、フィネア様は今でも我々龍人族の行く末を見守ってくれている』

俺の呟きに、お父様は優しい笑みを浮かべてくれる。

でも、それと今俺が軟禁状態にあるのとは何の関係があるのだろうか。血が稀少で狙われるといけないから、っていう単純なものでもないだろう。

じっと見つめて続きを話すよう訴えれば、お父様は再び口を開いた。

『龍人族は、魔力とは別の力を持っている。それは神聖力と称される不思議なもので、フィネア様の御霊の加護がある箱庭周辺でしか回復しない…地上に降りれば、多かれ少なかれ段々と神聖力を消費してしまう』
「それが、俺にとって危険だと」
『そうだ。神聖力を失った龍人族は、数日以内に命を落とす。シルティアがあの時熱を出していた理由は、神聖力の枯渇によるものだ』

ここに来る前、酷く熱を出していたあの時。

薬を飲んで少しは和らいだけど、治りはしなかった。ただの酷い風邪だと診断され、それ以外の処方は受けられなかった。
当たり前だ、神聖力の枯渇なんて人族が知っているわけがない…ただの風邪だと、診断するしかない。

でも分からない。枯渇したらまた此処にくれば良いだけなんじゃないか?

『神聖力の減り具合は、なんとなく分かるものだ。だがシルティアの血は、半分人族…不完全故に、神聖力も不安定なのだ。大陸に降りた翌日に枯渇、という事も否定できない』
「でも俺、今までそんな事…」
『指輪の水晶が砕けただろう?あれは、我の鱗を加工したものだ…そこに我の神聖力とお主の母の魔力を込め、神聖力を定期的に供給する魔道具を作ったのだ』

両親の、俺を思いやる故のもの。あの指輪があったお陰で俺は、今まで何事もなく生きてこれた。

『本来は短期滞在用…お主の母が出産する際実家に戻りたがった故、急遽作ったのだ。その後、母と子に逃げられてしまったがな』

そう言って自虐的に笑ったお父様は、今にも消えてしまいそうなほど儚かった。
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