48 / 48
47:執着
しおりを挟む
『シルティア、昨晩は何処に行っていたんだ?』
ただならぬ威圧感を放ちながら問い掛けてくるお父様に、ふるりと身体が震える。
下手な答えを口にしようものなら、殺されてしまうと思ってしまうほど。
今までお父様は、俺に対しここまで怒った事なんてなかった。それは俺が、この箱庭の中で大人しく過ごしていたからだ。
俺は昨晩、一時的ではあるがユースチスに戻った。それが、お父様の琴線に触れてしまった。
「…帰っていました。俺の、家に」
『シルティアの家は此処だろう?何が不満なんだ、言ってみなさい』
「お父様、もう分かっていらっしゃいますよね。俺は、彼の元に戻りたい…」
『駄目だ』
俺の言葉を遮るように、お父様の低く唸るような声が室内に響く。
じっと此方を見つめる眼差しには、確かな愛情と悲しみが混ざっていた。このただならない執着とも言える拘りに、何か事情があるのではないかと勘繰ってしまう。
不意に視線を逸らしたお父様は、近くにあった椅子にドカリと座った。
『…シルティアには、我の血が半分流れている。龍人族が他の種族とは決定的に異なる事は分かるな?』
「はい、それくらいは。その決定的な何かは分からないけど」
『…血だよ。我々龍人族は、そもそも他の種族と流れる血が違う』
静かに、然しよく響く声で告げられた言葉は、俺の腹の奥にずしりと響いた。
龍人族の血は、他の種族が飲めば万病が癒え寿命が伸びてしまう代物らしい。
故に度々龍人族を我が物にしようとする為の戦争が増え、龍人族の始祖と呼ばれる人達は空の上に避難した。
その中の一人が、龍神フィネア。俺達が崇めていた神であると。
『フィネア様は我々のはじまり…原点にして頂点。彼のお陰で我々は今の世を生き、平和に過ごせている。時に好奇心から地上に降り者も居るが、龍人族だとバレる事なく幸せに暮らしている』
「龍神フィネアが、俺の先祖…」
『あぁそうだ、フィネア様は今でも我々龍人族の行く末を見守ってくれている』
俺の呟きに、お父様は優しい笑みを浮かべてくれる。
でも、それと今俺が軟禁状態にあるのとは何の関係があるのだろうか。血が稀少で狙われるといけないから、っていう単純なものでもないだろう。
じっと見つめて続きを話すよう訴えれば、お父様は再び口を開いた。
『龍人族は、魔力とは別の力を持っている。それは神聖力と称される不思議なもので、フィネア様の御霊の加護がある箱庭周辺でしか回復しない…地上に降りれば、多かれ少なかれ段々と神聖力を消費してしまう』
「それが、俺にとって危険だと」
『そうだ。神聖力を失った龍人族は、数日以内に命を落とす。シルティアがあの時熱を出していた理由は、神聖力の枯渇によるものだ』
ここに来る前、酷く熱を出していたあの時。
薬を飲んで少しは和らいだけど、治りはしなかった。ただの酷い風邪だと診断され、それ以外の処方は受けられなかった。
当たり前だ、神聖力の枯渇なんて人族が知っているわけがない…ただの風邪だと、診断するしかない。
でも分からない。枯渇したらまた此処にくれば良いだけなんじゃないか?
『神聖力の減り具合は、なんとなく分かるものだ。だがシルティアの血は、半分人族…不完全故に、神聖力も不安定なのだ。大陸に降りた翌日に枯渇、という事も否定できない』
「でも俺、今までそんな事…」
『指輪の水晶が砕けただろう?あれは、我の鱗を加工したものだ…そこに我の神聖力とお主の母の魔力を込め、神聖力を定期的に供給する魔道具を作ったのだ』
両親の、俺を思いやる故のもの。あの指輪があったお陰で俺は、今まで何事もなく生きてこれた。
『本来は短期滞在用…お主の母が出産する際実家に戻りたがった故、急遽作ったのだ。その後、母と子に逃げられてしまったがな』
そう言って自虐的に笑ったお父様は、今にも消えてしまいそうなほど儚かった。
ただならぬ威圧感を放ちながら問い掛けてくるお父様に、ふるりと身体が震える。
下手な答えを口にしようものなら、殺されてしまうと思ってしまうほど。
今までお父様は、俺に対しここまで怒った事なんてなかった。それは俺が、この箱庭の中で大人しく過ごしていたからだ。
俺は昨晩、一時的ではあるがユースチスに戻った。それが、お父様の琴線に触れてしまった。
「…帰っていました。俺の、家に」
『シルティアの家は此処だろう?何が不満なんだ、言ってみなさい』
「お父様、もう分かっていらっしゃいますよね。俺は、彼の元に戻りたい…」
『駄目だ』
俺の言葉を遮るように、お父様の低く唸るような声が室内に響く。
じっと此方を見つめる眼差しには、確かな愛情と悲しみが混ざっていた。このただならない執着とも言える拘りに、何か事情があるのではないかと勘繰ってしまう。
不意に視線を逸らしたお父様は、近くにあった椅子にドカリと座った。
『…シルティアには、我の血が半分流れている。龍人族が他の種族とは決定的に異なる事は分かるな?』
「はい、それくらいは。その決定的な何かは分からないけど」
『…血だよ。我々龍人族は、そもそも他の種族と流れる血が違う』
静かに、然しよく響く声で告げられた言葉は、俺の腹の奥にずしりと響いた。
龍人族の血は、他の種族が飲めば万病が癒え寿命が伸びてしまう代物らしい。
故に度々龍人族を我が物にしようとする為の戦争が増え、龍人族の始祖と呼ばれる人達は空の上に避難した。
その中の一人が、龍神フィネア。俺達が崇めていた神であると。
『フィネア様は我々のはじまり…原点にして頂点。彼のお陰で我々は今の世を生き、平和に過ごせている。時に好奇心から地上に降り者も居るが、龍人族だとバレる事なく幸せに暮らしている』
「龍神フィネアが、俺の先祖…」
『あぁそうだ、フィネア様は今でも我々龍人族の行く末を見守ってくれている』
俺の呟きに、お父様は優しい笑みを浮かべてくれる。
でも、それと今俺が軟禁状態にあるのとは何の関係があるのだろうか。血が稀少で狙われるといけないから、っていう単純なものでもないだろう。
じっと見つめて続きを話すよう訴えれば、お父様は再び口を開いた。
『龍人族は、魔力とは別の力を持っている。それは神聖力と称される不思議なもので、フィネア様の御霊の加護がある箱庭周辺でしか回復しない…地上に降りれば、多かれ少なかれ段々と神聖力を消費してしまう』
「それが、俺にとって危険だと」
『そうだ。神聖力を失った龍人族は、数日以内に命を落とす。シルティアがあの時熱を出していた理由は、神聖力の枯渇によるものだ』
ここに来る前、酷く熱を出していたあの時。
薬を飲んで少しは和らいだけど、治りはしなかった。ただの酷い風邪だと診断され、それ以外の処方は受けられなかった。
当たり前だ、神聖力の枯渇なんて人族が知っているわけがない…ただの風邪だと、診断するしかない。
でも分からない。枯渇したらまた此処にくれば良いだけなんじゃないか?
『神聖力の減り具合は、なんとなく分かるものだ。だがシルティアの血は、半分人族…不完全故に、神聖力も不安定なのだ。大陸に降りた翌日に枯渇、という事も否定できない』
「でも俺、今までそんな事…」
『指輪の水晶が砕けただろう?あれは、我の鱗を加工したものだ…そこに我の神聖力とお主の母の魔力を込め、神聖力を定期的に供給する魔道具を作ったのだ』
両親の、俺を思いやる故のもの。あの指輪があったお陰で俺は、今まで何事もなく生きてこれた。
『本来は短期滞在用…お主の母が出産する際実家に戻りたがった故、急遽作ったのだ。その後、母と子に逃げられてしまったがな』
そう言って自虐的に笑ったお父様は、今にも消えてしまいそうなほど儚かった。
64
お気に入りに追加
191
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
記憶の欠けたオメガがヤンデレ溺愛王子に堕ちるまで
橘 木葉
BL
ある日事故で一部記憶がかけてしまったミシェル。
婚約者はとても優しいのに体は怖がっているのは何故だろう、、
不思議に思いながらも婚約者の溺愛に溺れていく。
---
記憶喪失を機に愛が重すぎて失敗した関係を作り直そうとする婚約者フェルナンドが奮闘!
次は行き過ぎないぞ!と意気込み、ヤンデレバレを対策。
---
記憶は戻りますが、パッピーエンドです!
⚠︎固定カプです
婚約破棄されて捨てられた精霊の愛し子は二度目の人生を謳歌する
135
BL
春波湯江には前世の記憶がある。といっても、日本とはまったく違う異世界の記憶。そこで湯江はその国の王子である婚約者を救世主の少女に奪われ捨てられた。
現代日本に転生した湯江は日々を謳歌して過ごしていた。しかし、ハロウィンの日、ゾンビの仮装をしていた湯江の足元に見覚えのある魔法陣が現れ、見覚えのある世界に召喚されてしまった。ゾンビの格好をした自分と、救世主の少女が隣に居て―…。
最後まで書き終わっているので、確認ができ次第更新していきます。7万字程の読み物です。
運命を変えるために良い子を目指したら、ハイスペ従者に溺愛されました
十夜 篁
BL
初めて会った家族や使用人に『バケモノ』として扱われ、傷ついたユーリ(5歳)は、階段から落ちたことがきっかけで神様に出会った。
そして、神様から教えてもらった未来はとんでもないものだった…。
「えぇ!僕、16歳で死んじゃうの!?
しかも、死ぬまでずっと1人ぼっちだなんて…」
ユーリは神様からもらったチートスキルを活かして未来を変えることを決意!
「いい子になってみんなに愛してもらえるように頑張ります!」
まずユーリは、1番近くにいてくれる従者のアルバートと仲良くなろうとするが…?
「ユーリ様を害する者は、すべて私が排除しましょう」
「うぇ!?は、排除はしなくていいよ!!」
健気に頑張るご主人様に、ハイスペ従者の溺愛が急成長中!?
そんなユーリの周りにはいつの間にか人が集まり…。
《これは、1人ぼっちになった少年が、温かい居場所を見つけ、運命を変えるまでの物語》
可愛くない僕は愛されない…はず
おがとま
BL
Ωらしくない見た目がコンプレックスな自己肯定感低めなΩ。痴漢から助けた女子高生をきっかけにその子の兄(α)に絆され愛されていく話。
押しが強いスパダリα ✕ 逃げるツンツンデレΩ
ハッピーエンドです!
病んでる受けが好みです。
闇描写大好きです(*´`)
※まだアルファポリスに慣れてないため、同じ話を何回か更新するかもしれません。頑張って慣れていきます!感想もお待ちしております!
また、当方最近忙しく、投稿頻度が不安定です。気長に待って頂けると嬉しいです(*^^*)
俺のまったり生活はどこへ?
グランラババー
BL
異世界に転生したリューイは、前世での死因を鑑みて、今世は若いうちだけ頑張って仕事をして、不労所得獲得を目指し、20代後半からはのんびり、まったり生活することにする。
しかし、次代の王となる第一王子に気に入られたり、伝説のドラゴンを倒したりと、今世も仕事からは逃れられそうにない。
さて、リューイは無事に不労所得獲得と、のんびり、まったり生活を実現できるのか?
「俺と第一王子との婚約なんて聞いてない!!」
BLではありますが、軽い恋愛要素があるぐらいで、R18には至りません。
以前は別の名前で投稿してたのですが、小説の内容がどうしても題名に沿わなくなってしまったため、題名を変更しました。
題名変更に伴い、小説の内容を少しずつ変更していきます。
小説の修正が終わりましたら、新章を投稿していきたいと思っています。
過食症の僕なんかが異世界に行ったって……
おがとま
BL
過食症の受け「春」は自身の醜さに苦しんでいた。そこに強い光が差し込み異世界に…?!
ではなく、神様の私欲の巻き添えをくらい、雑に異世界に飛ばされてしまった。まあそこでなんやかんやあって攻め「ギル」に出会う。ギルは街1番の鍛冶屋、真面目で筋肉ムキムキ。
凸凹な2人がお互いを意識し、尊敬し、愛し合う物語。
【完】俺の嫁はどうも悪役令息にしては優し過ぎる。
福の島
BL
日本でのびのび大学生やってたはずの俺が、異世界に産まれて早16年、ついに婚約者(笑)が出来た。
そこそこ有名貴族の実家だからか、婚約者になりたいっていう輩は居たんだが…俺の意見的には絶対NO。
理由としては…まぁ前世の記憶を思い返しても女の人に良いイメージがねぇから。
だが人生そう甘くない、長男の為にも早く家を出て欲しい両親VS婚約者ヤダー俺の勝負は、俺がちゃんと学校に行って婚約者を探すことで落ち着いた。
なんかいい人居ねぇかなとか思ってたら婚約者に虐められちゃってる悪役令息がいるじゃんと…
俺はソイツを貰うことにした。
怠慢だけど実はハイスペックスパダリ×フハハハ系美人悪役令息
弱ざまぁ(?)
1万字短編完結済み
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる