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44:空の箱庭
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『もうそろそろ、外に出ても良い頃合いだろう』
お父様と暮らし始めて早一週間。漸く体調も良くなり、本日やっと外出許可が出たところだ。
実はこの一週間、早く外に出たくて堪らなかった。窓から見る景色はいつだって色鮮やかで、雨が降った日さえ美しかった。
早くこの自然を直接見たい、触れたい。何度そう思った事だろうか。
それが今日、叶うんだ。テンションが上がってしまっても仕方ないだろう。
そんな俺の頭を撫でながら穏やかに笑むお父様に、気恥ずかしさからふいと目を逸らす。
そんなあからさまな態度にも嬉しそうに笑う姿を見て、調子が狂ってしまう。
ただ、恥ずかしいだけなのだ。決して、お父様が嫌いなわけではない。
『ほら、シルティア…我と一緒に散歩に行こう。この景色が気になって仕方ないのだろう?』
そう言って差し出された掌に、俺はそっと手を重ねた。
「うわぁ…!」
思わず感嘆の声が漏れ出る。建物が殆どないせいか、物凄く空が広く感じる。
青々と澄み渡る空は雲一つない快晴で、色とりどりの花の側で小さくて白い蝶がひらひらと舞う。
大理石で出来た噴水は常に綺麗な水が湧いていて、陽の光に反射して煌めいていた。
美しかった、何もかもが。この景色を邪魔しないように作られている俺達の家も、何もかも。
『我々龍人族は、各々の家に箱庭を作る。そこへ愛する者達を囲い、慈しみ、景色を共に作っていく。この庭は、シルティアの母と我で共に作ったのだ』
「お母様と、お父様が…」
『あぁ、そうだ。彼女は何よりも自然を愛し、家族を愛していた』
お父様が、酷く寂しげな笑みを浮かべている。半ば諦めたような、そんな笑顔。
俺は思わずお父様に抱きついていた。そんな事しようと思っていなかったのに、身体が勝手に動いていた。
お父様は驚いたように軽く目を見開いた後、俺を優しく抱き締め返してくれる。その体温のあたたかさに、無性に泣きそうになってしまった。
お母様は何故、この家を立ち去ったのだろう。それに、龍人族という単語を、俺は瞬時に理解していた。
教わった事なんてないし、聞いた事もないはずの種族。でも俺は、知っていた。
龍人族はとても魔力が高く、どの種族よりも長い時を生きる。それ故に多種族と関わらず、余りパートナーも作らない。
…そして、龍人族特有の魔力で溢れた空島で生きていく。
『シルティア、我の愛しい子…どうか、どうかお主だけは我の事を置いていかないでおくれ』
「俺は、ずっとお父様の傍に…」
その後の言葉を続ける事が出来なかった。何かが、記憶の片隅で引っかかっている。
白銀に光り輝いていて、俺の事をずっと優しく包み込んでくれる…そんな、愛おしい誰かが。
黙り込んでしまった俺の頬を、お父様の大きな掌が包み込む。そのまま顔を上げさせられ、こつんと額が重ねられた。
至近距離で輝くアメジストの双眸から、目が離せない。
『…シルティアは、お父様が一番だろう?』
小さな子に言い聞かせるようなその言葉に、俺は無意識の内に頷いていた。
お父様と暮らし始めて早一週間。漸く体調も良くなり、本日やっと外出許可が出たところだ。
実はこの一週間、早く外に出たくて堪らなかった。窓から見る景色はいつだって色鮮やかで、雨が降った日さえ美しかった。
早くこの自然を直接見たい、触れたい。何度そう思った事だろうか。
それが今日、叶うんだ。テンションが上がってしまっても仕方ないだろう。
そんな俺の頭を撫でながら穏やかに笑むお父様に、気恥ずかしさからふいと目を逸らす。
そんなあからさまな態度にも嬉しそうに笑う姿を見て、調子が狂ってしまう。
ただ、恥ずかしいだけなのだ。決して、お父様が嫌いなわけではない。
『ほら、シルティア…我と一緒に散歩に行こう。この景色が気になって仕方ないのだろう?』
そう言って差し出された掌に、俺はそっと手を重ねた。
「うわぁ…!」
思わず感嘆の声が漏れ出る。建物が殆どないせいか、物凄く空が広く感じる。
青々と澄み渡る空は雲一つない快晴で、色とりどりの花の側で小さくて白い蝶がひらひらと舞う。
大理石で出来た噴水は常に綺麗な水が湧いていて、陽の光に反射して煌めいていた。
美しかった、何もかもが。この景色を邪魔しないように作られている俺達の家も、何もかも。
『我々龍人族は、各々の家に箱庭を作る。そこへ愛する者達を囲い、慈しみ、景色を共に作っていく。この庭は、シルティアの母と我で共に作ったのだ』
「お母様と、お父様が…」
『あぁ、そうだ。彼女は何よりも自然を愛し、家族を愛していた』
お父様が、酷く寂しげな笑みを浮かべている。半ば諦めたような、そんな笑顔。
俺は思わずお父様に抱きついていた。そんな事しようと思っていなかったのに、身体が勝手に動いていた。
お父様は驚いたように軽く目を見開いた後、俺を優しく抱き締め返してくれる。その体温のあたたかさに、無性に泣きそうになってしまった。
お母様は何故、この家を立ち去ったのだろう。それに、龍人族という単語を、俺は瞬時に理解していた。
教わった事なんてないし、聞いた事もないはずの種族。でも俺は、知っていた。
龍人族はとても魔力が高く、どの種族よりも長い時を生きる。それ故に多種族と関わらず、余りパートナーも作らない。
…そして、龍人族特有の魔力で溢れた空島で生きていく。
『シルティア、我の愛しい子…どうか、どうかお主だけは我の事を置いていかないでおくれ』
「俺は、ずっとお父様の傍に…」
その後の言葉を続ける事が出来なかった。何かが、記憶の片隅で引っかかっている。
白銀に光り輝いていて、俺の事をずっと優しく包み込んでくれる…そんな、愛おしい誰かが。
黙り込んでしまった俺の頬を、お父様の大きな掌が包み込む。そのまま顔を上げさせられ、こつんと額が重ねられた。
至近距離で輝くアメジストの双眸から、目が離せない。
『…シルティアは、お父様が一番だろう?』
小さな子に言い聞かせるようなその言葉に、俺は無意識の内に頷いていた。
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