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42:発熱
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「…ル…シル、大丈夫か?」
ゆさゆさ、軽く揺さぶられるような感覚に目を開ける。
頭がぼーっとしてうまく働かない。寝起きにしたって、これはいつもより酷い気がする。
ヴィンスが顔を覗き込んでくれているのに、視界もぼやけていて表情が分からない。だけど声に心配が滲んでいるから、きっと困った様な顔してるんだろう。
…何だか、熱っぽい。これは多分、気のせいじゃない。
「起こしてすまない、魘されていたからつい…今レイモンドが薬を持って来てくれるから、ちゃんと飲むんだぞ」
「…ゔぃ、んす」
「すまない、今日の公務を休む為に少しだけ離れる…ちゃんと戻ってくるから、待っててくれ」
ちゅ、ヴィンスの唇が俺の額に落とされた。
俺より体温が低いのか、少しだけ冷たく感じる。
行かないで、ずっと俺のそばにいて…何だか無性に不安になって、思わずヴィンスの腕を掴む。
そんな俺の様子を見たヴィンスは、優しく頭を撫でてくれた。
汗で張り付く前髪をどかされ、頬をするりとくすぐられる。
「大丈夫、本当に少しだけだ…ハーティアが外で待機してるが、部屋の中に居てもらおうか?」
ヴィンスの提案に、こくりと頷いた。今は兎に角、独りになりたくない。
部屋の扉が開き、ダイアン様が入ってくる。普段はあんなに仲が悪いのに、今は俺のことについて何か話し合っていた。
その間も絶え間なく優しく髪を撫でられる。その心地よさに、うとうとと舟をこいでしまう。
まだ駄目だ、ヴィンスをちゃんと見送らないと…今にも目を閉じてしまいそうで、ごしごしと瞼を擦る。
「擦るな、赤くなる…ゆっくり休んでくれ、シル」
そんな優しい声を聞いた後、俺の意識はゆっくりと落ちていった。
『可哀想に、こんなに弱ってしまって…』
不意に響く悲しげな声に、そっと目を開く。
ぼんやりと目の前の人物を見上げれば、嬉しそうに微笑まれた。艶やかな光沢を放つ漆黒の髪に、アメジストの様な鮮やかな紫の瞳。
神々しいまでの美貌を持つその人は、俺の髪を優しく撫でる。ヴィンスに撫でられる時とも少し違う心地よさに、思わず吐息が漏れた。
俺、知ってる。この感触、いつかどこかで。
『やはり、愚かな地上の民にこの子を任せたのは間違いだった…彼女がどうしてもと言うから受け入れたが、もう我慢ならん』
ひやり、額に触れる冷たい掌。その手から淡い光が放たれた後、息苦しかった呼吸が一瞬で楽になった。
それに驚いて何度も瞬きを繰り返して、上半身を起こす。本当についさっきまで指を動かす事すら怠かったのに、今はいつも通りに戻っていた。
そして漸く気づく。この部屋の、異様な光景に。
柔らかく微笑む麗人の後ろには、ダイアン様とヴィンスが倒れていた。
「ヴィンス、ダイアン様っ…!」
『こら、まだ動くんじゃない。さぁ行こう、しっかりと休まねばな』
そう言った麗人は、俺を軽々と抱き上げる。慌てて抵抗するけど、微動だにしない。
これは、駄目だ。俺の力じゃ敵わない。ヴィンスとダイアン様が敵わない相手に、俺が勝てるはずもない。
だけど嫌だ、俺は…俺はこの国で、ヴィンスと生きるって決めたんだ。
『……おやすみ、愛しい子』
酷く優しい声を最後に、俺の視界はブラックアウトしていった。
ゆさゆさ、軽く揺さぶられるような感覚に目を開ける。
頭がぼーっとしてうまく働かない。寝起きにしたって、これはいつもより酷い気がする。
ヴィンスが顔を覗き込んでくれているのに、視界もぼやけていて表情が分からない。だけど声に心配が滲んでいるから、きっと困った様な顔してるんだろう。
…何だか、熱っぽい。これは多分、気のせいじゃない。
「起こしてすまない、魘されていたからつい…今レイモンドが薬を持って来てくれるから、ちゃんと飲むんだぞ」
「…ゔぃ、んす」
「すまない、今日の公務を休む為に少しだけ離れる…ちゃんと戻ってくるから、待っててくれ」
ちゅ、ヴィンスの唇が俺の額に落とされた。
俺より体温が低いのか、少しだけ冷たく感じる。
行かないで、ずっと俺のそばにいて…何だか無性に不安になって、思わずヴィンスの腕を掴む。
そんな俺の様子を見たヴィンスは、優しく頭を撫でてくれた。
汗で張り付く前髪をどかされ、頬をするりとくすぐられる。
「大丈夫、本当に少しだけだ…ハーティアが外で待機してるが、部屋の中に居てもらおうか?」
ヴィンスの提案に、こくりと頷いた。今は兎に角、独りになりたくない。
部屋の扉が開き、ダイアン様が入ってくる。普段はあんなに仲が悪いのに、今は俺のことについて何か話し合っていた。
その間も絶え間なく優しく髪を撫でられる。その心地よさに、うとうとと舟をこいでしまう。
まだ駄目だ、ヴィンスをちゃんと見送らないと…今にも目を閉じてしまいそうで、ごしごしと瞼を擦る。
「擦るな、赤くなる…ゆっくり休んでくれ、シル」
そんな優しい声を聞いた後、俺の意識はゆっくりと落ちていった。
『可哀想に、こんなに弱ってしまって…』
不意に響く悲しげな声に、そっと目を開く。
ぼんやりと目の前の人物を見上げれば、嬉しそうに微笑まれた。艶やかな光沢を放つ漆黒の髪に、アメジストの様な鮮やかな紫の瞳。
神々しいまでの美貌を持つその人は、俺の髪を優しく撫でる。ヴィンスに撫でられる時とも少し違う心地よさに、思わず吐息が漏れた。
俺、知ってる。この感触、いつかどこかで。
『やはり、愚かな地上の民にこの子を任せたのは間違いだった…彼女がどうしてもと言うから受け入れたが、もう我慢ならん』
ひやり、額に触れる冷たい掌。その手から淡い光が放たれた後、息苦しかった呼吸が一瞬で楽になった。
それに驚いて何度も瞬きを繰り返して、上半身を起こす。本当についさっきまで指を動かす事すら怠かったのに、今はいつも通りに戻っていた。
そして漸く気づく。この部屋の、異様な光景に。
柔らかく微笑む麗人の後ろには、ダイアン様とヴィンスが倒れていた。
「ヴィンス、ダイアン様っ…!」
『こら、まだ動くんじゃない。さぁ行こう、しっかりと休まねばな』
そう言った麗人は、俺を軽々と抱き上げる。慌てて抵抗するけど、微動だにしない。
これは、駄目だ。俺の力じゃ敵わない。ヴィンスとダイアン様が敵わない相手に、俺が勝てるはずもない。
だけど嫌だ、俺は…俺はこの国で、ヴィンスと生きるって決めたんだ。
『……おやすみ、愛しい子』
酷く優しい声を最後に、俺の視界はブラックアウトしていった。
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