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41:殿下の独り言②
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「……」
ただただじっと、隣で眠るシルの顔を眺める
すやすやと心地良さそうな寝息を立てるその姿に、口角が上がったまま降りてこない。
可愛い、私のシルティア。絶対に離さない。
極限まで甘ったるく煮詰めた愛と、どろりと汚い独占欲。
彼の身体中に咲く紅い花弁と、くっきりと残った噛み跡が私の想いを物語っている。
今まで万が一があった時直ぐに反撃できるようにと鋭く尖らせていた爪も、今は丸く滑らかに。
誰か特定の人物との噂が立たないようにと、年に一度の舞踏会でパートナーは作らなかった。壁の花を徹し、最低限の挨拶のみに留めていた。
なのにどうだ、今年はシルと出席している。まぁ、その後色々と事件はあったが。
「…シル」
名前を呼んでも、深い眠りに落ちている彼は応えない。
悪戯をするように柔らかな唇に触れる。ふにりとした感触に、先程の情事を思い出した。
シルの甘やかな嬌声、部屋中に響く淫らな水音、互いの熱い吐息…ふるりと、思わず背筋が震えた。
初めてだった。こんなに、お互いを求め合ったのは。
心の底から、幸せだと思った。この時間が永遠に続けばいいと願った。
誰にも邪魔される事なく、二人きりで永遠に…許されるなら、どこか遠い田舎町で暮らすのも良いな。
私たちを誰も知らない、平和な場所で。シルと二人きり。
「…兄上に、進言してみるか」
さらり、艶やかな彼の髪を優しく撫でる。婚姻後、シルが同じ事を望んでくれたなら兄に頼もう。
広大な田畑がある場所も良いし、海が見える港町でも良い。あぁ、まだ婚姻まで数ヶ月以上時間があるのに年甲斐もなくワクワクしてしまう。
シルと一緒なら、どんな場所でも…どんな事でも、乗り越えられる気がする。
こんな事、シルに出会う前の私だったら思いもしなかっただろう。
「愛してる、シル…君を絶対に、危険な目に遭わせたりしない」
眠る彼の額に口付ける。誓いの言葉を一人で紡ぎ、己自身を戒めた。
ここ数日、言い難い不安に駆られる事があった。それらは全て、シルと一緒に居る時だった。
獣人族としての本能が何かを訴えているのかもしれない。昔父である先王も近隣国が戦争を仕掛けようと水面下で動いていた時、何かしらを感じ取ったらしい。
私の場合は、シルに関することだろう。それも、以前の呪いに関する事以上の何かが。
シルの身に、何かが起こる気がして堪らない。そんな焦りから、シルを性急に抱いてしまったのかもしれない。
何事もなく、平和に…そう望むたび、不安がどんどん大きくなっていく。
一体何が起こるのだろうか。本当に嫌だが、後でハーティアにシルの警備を固めておくのを進言するか。
…本当に、本当に嫌だが。彼女の腕は確かだ、それは私が一番よく知っている。
この国で一番優秀な騎士と言っても過言ではない。現に私は、彼女に剣術で勝てた例が一度もない。だからシルの専属にするなら、ハーティア以上の適任が居ないんだが。
何はともあれ、今は愛しい彼の横で休もう。毛布の中へと潜り込み、シルをそっと抱き寄せる。
「…おやすみ、シル」
もう一度額に口付け、目を閉じた。私の抱えている心配は、数日後見事に的中する事になる。
ただただじっと、隣で眠るシルの顔を眺める
すやすやと心地良さそうな寝息を立てるその姿に、口角が上がったまま降りてこない。
可愛い、私のシルティア。絶対に離さない。
極限まで甘ったるく煮詰めた愛と、どろりと汚い独占欲。
彼の身体中に咲く紅い花弁と、くっきりと残った噛み跡が私の想いを物語っている。
今まで万が一があった時直ぐに反撃できるようにと鋭く尖らせていた爪も、今は丸く滑らかに。
誰か特定の人物との噂が立たないようにと、年に一度の舞踏会でパートナーは作らなかった。壁の花を徹し、最低限の挨拶のみに留めていた。
なのにどうだ、今年はシルと出席している。まぁ、その後色々と事件はあったが。
「…シル」
名前を呼んでも、深い眠りに落ちている彼は応えない。
悪戯をするように柔らかな唇に触れる。ふにりとした感触に、先程の情事を思い出した。
シルの甘やかな嬌声、部屋中に響く淫らな水音、互いの熱い吐息…ふるりと、思わず背筋が震えた。
初めてだった。こんなに、お互いを求め合ったのは。
心の底から、幸せだと思った。この時間が永遠に続けばいいと願った。
誰にも邪魔される事なく、二人きりで永遠に…許されるなら、どこか遠い田舎町で暮らすのも良いな。
私たちを誰も知らない、平和な場所で。シルと二人きり。
「…兄上に、進言してみるか」
さらり、艶やかな彼の髪を優しく撫でる。婚姻後、シルが同じ事を望んでくれたなら兄に頼もう。
広大な田畑がある場所も良いし、海が見える港町でも良い。あぁ、まだ婚姻まで数ヶ月以上時間があるのに年甲斐もなくワクワクしてしまう。
シルと一緒なら、どんな場所でも…どんな事でも、乗り越えられる気がする。
こんな事、シルに出会う前の私だったら思いもしなかっただろう。
「愛してる、シル…君を絶対に、危険な目に遭わせたりしない」
眠る彼の額に口付ける。誓いの言葉を一人で紡ぎ、己自身を戒めた。
ここ数日、言い難い不安に駆られる事があった。それらは全て、シルと一緒に居る時だった。
獣人族としての本能が何かを訴えているのかもしれない。昔父である先王も近隣国が戦争を仕掛けようと水面下で動いていた時、何かしらを感じ取ったらしい。
私の場合は、シルに関することだろう。それも、以前の呪いに関する事以上の何かが。
シルの身に、何かが起こる気がして堪らない。そんな焦りから、シルを性急に抱いてしまったのかもしれない。
何事もなく、平和に…そう望むたび、不安がどんどん大きくなっていく。
一体何が起こるのだろうか。本当に嫌だが、後でハーティアにシルの警備を固めておくのを進言するか。
…本当に、本当に嫌だが。彼女の腕は確かだ、それは私が一番よく知っている。
この国で一番優秀な騎士と言っても過言ではない。現に私は、彼女に剣術で勝てた例が一度もない。だからシルの専属にするなら、ハーティア以上の適任が居ないんだが。
何はともあれ、今は愛しい彼の横で休もう。毛布の中へと潜り込み、シルをそっと抱き寄せる。
「…おやすみ、シル」
もう一度額に口付け、目を閉じた。私の抱えている心配は、数日後見事に的中する事になる。
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