満月に囚われる。

柴傘

文字の大きさ
上 下
39 / 48

38:想定外

しおりを挟む
「おぉ、凄いな」

ヴィンスとの魔術の授業、今日は防御壁を張る魔術の実践をしている。

この魔術は術者の魔力量や思いの強さによって硬度が代わり、弱いものから強いものまで様々。
でも最低限の強さでも剣や弓は弾けるから、王族であるヴィンスには丁度いいだろう。万が一、がないなんて言い切れないし。

お手本として俺の周りに防御壁を張る。今はそんなに魔力を込めてないから強くないが、半透明のドームに包まれている様な姿の俺を見れば多少はイメージしやすいだろう。

何よりも魔術に一番必要なのは、イメージ。想像力がものを言うからな。

「魔術の使用後のイメージはこんな感じ。重要なのは、何を守りたいか…自分が一番守りたいものを思い浮かべると良いよ」
「…私が一番、守りたい者」

ぽつり、ヴィンスが小さく呟いた後目を閉じる。

少ししてからふわりと小さな風が起こる。ヴィンスの魔力が、周囲に溢れ出ている。
今までこんな事なかった。体外に少しだけ漏れ出る事はあっても、こんなにも大量の魔力が身体から溢れ出るなんて…それくらい強い魔術を、使う気なのかな。
ヴィンスを中心に、俺の周囲まで満ちる心地いい魔力。時折光の粒が舞い、ヴィンスの白銀の毛並みを輝かせる。

その光景があまりにも綺麗で、愛おしくて…俺はただぼんやりと見惚れているだけだった。

「…っシル、出来たぞ!」
「う、うん。初めてなのに凄いな、とても強い防御壁になってる…これなら、ドラゴンの攻撃も防げそうだ」

ヴィンスの嬉しそうな声にはっとする。

さっき俺が作った半透明なドームと違い、ヴィンスの魔力をこれでもかと詰め込んだ防御壁は無色透明だ。
よく目を凝らしても見えない。そっと手を伸ばせば、あたたかな見えない壁に触れる事ができる。こんなにも強力な防御壁は、俺でさえ作るのは難しい。

きっとそれだけ、ヴィンスの気持ちが強いんだろう。

「シルの事を考えたんだ。私がこの世で命を賭けて守りたいのは、シルだから」
「…ヴィンス、」

至極素直な笑みと共に告げられる言葉に、じわじわと顔に熱が集まっていく。

思わずふい、と顔を逸らしてしまった。だって、余りにも恥ずかしい…それ以上に嬉しくて、どうしていいか分からなくなる。
衝動的にヴィンスに抱きつきたくなってしまう。それすら恥ずかしくて出来ないんだけど…うう、俺ってヘタレだなぁ。

ふと、ヴィンスが此方に近寄ってくる気配がした。その後直ぐ、壊れ物を扱うかのような丁寧さで抱き締められる。

「…シルがあまりにも可愛い反応をするから、つい」
「ヴィンスが照れさせる様な事言うからだろ」

俺の旋毛や頬に口付けながら、ヴィンスが苦笑混じりに言う。

それに反抗する様に唇を尖らせ拗ねた声を出せば、すまないと謝る気のなさそうな声が返ってきた。
その声にまた意義を唱えようと顔をあげれば、想像以上に近付いていたヴィンスの顔。

そのまま唇に口付けられ、そっと目を閉じる。

ちゅ、ちゅうと可愛らしい音を立てながら唇を啄まれ、少しの物足りなさと欲求に薄っすら口を開いた。
その僅かな隙を逃さないと言わんばかりにぬるりとヴィンスの長い舌が咥内に入ってくる。

そのまま俺の舌先を絡め取られ、擦り合わせ吸い上げられて…息苦しさと快感に、頭がぼうっとしてくる。

「っ、は、ぅん…ゔぃ、ン、」
「…シル、」

俺の名前を呼ぶ熱っぽい声に、ぞくぞくと背筋が震えた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【側妻になった男の僕。】【何故か正妻になった男の僕。】アナザーストーリー

selen
BL
【側妻になった男の僕。】【何故か正妻になった男の僕。】のアナザーストーリーです。 幸せなルイスとウィル、エリカちゃん。(⌒▽⌒)その他大勢の生活なんかが覗けますよ(⌒▽⌒)(⌒▽⌒)

目覚めたらヤバそうな男にキスされてたんですが!?

キトー
BL
傭兵として働いていたはずの青年サク。 目覚めるとなぜか廃墟のような城にいた。 そしてかたわらには、伸びっぱなしの黒髪と真っ赤な瞳をもつ男が自分の手を握りしめている。 どうして僕はこんな所に居るんだろう。 それに、どうして僕は、この男にキスをされているんだろうか…… コメディ、ほのぼの、時々シリアスのファンタジーBLです。 【執着が激しい魔王と呼ばれる男×気が弱い巻き込まれた一般人?】 反応いただけるととても喜びます! 匿名希望の方はX(元Twitter)のWaveboxやマシュマロからどうぞ(⁠^⁠^⁠)  

騎士団長の世話係に任命されました。

りまり
BL
 故郷で不遇の扱いを受けていた俺は一旗揚げようと王都に出てきた。  やみくもの出てきたわけではないぞ! 剣術の先生が王都で騎士試験が執り行われることを教えてくれたのでダメもとで受けることにしたのだ。  奮闘するまで

【第1部完結】悪役令息ですが、家族のため精一杯生きているので邪魔しないでください~僕の執事は僕にだけイケすぎたオジイです~

ちくわぱん
BL
【11/28第1部完結・12/8幕間完結】(第2部開始は年明け後の予定です)ハルトライアは前世を思い出した。自分が物語の当て馬兼悪役で、王子と婚約するがのちに魔王になって結局王子と物語の主役に殺される未来を。死にたくないから婚約を回避しようと王子から逃げようとするが、なぜか好かれてしまう。とにかく悪役にならぬように魔法も武術も頑張って、自分のそばにいてくれる執事とメイドを守るんだ!と奮闘する日々。そんな毎日の中、困難は色々振ってくる。やはり当て馬として死ぬしかないのかと苦しみながらも少しずつ味方を増やし成長していくハルトライア。そして執事のカシルもまた、ハルトライアを守ろうと陰ながら行動する。そんな二人の努力と愛の記録。両片思い。じれじれ展開ですが、ハピエン。

あと一度だけでもいいから君に会いたい

藤雪たすく
BL
異世界に転生し、冒険者ギルドの雑用係として働き始めてかれこれ10年ほど経つけれど……この世界のご飯は素材を生かしすぎている。 いまだ食事に馴染めず米が恋しすぎてしまった為、とある冒険者さんの事が気になって仕方がなくなってしまった。 もう一度あの人に会いたい。あと一度でもあの人と会いたい。 ※他サイト投稿済み作品を改題、修正したものになります

無自覚主人公の物語

裏道
BL
トラックにひかれて異世界転生!無自覚主人公の話

婚約破棄されて捨てられた精霊の愛し子は二度目の人生を謳歌する

135
BL
春波湯江には前世の記憶がある。といっても、日本とはまったく違う異世界の記憶。そこで湯江はその国の王子である婚約者を救世主の少女に奪われ捨てられた。 現代日本に転生した湯江は日々を謳歌して過ごしていた。しかし、ハロウィンの日、ゾンビの仮装をしていた湯江の足元に見覚えのある魔法陣が現れ、見覚えのある世界に召喚されてしまった。ゾンビの格好をした自分と、救世主の少女が隣に居て―…。 最後まで書き終わっているので、確認ができ次第更新していきます。7万字程の読み物です。

音楽の神と呼ばれた俺。なんか殺されて気づいたら転生してたんだけど⁉(完)

柿の妖精
BL
俺、牧原甲はもうすぐ二年生になる予定の大学一年生。牧原家は代々超音楽家系で、小さいころからずっと音楽をさせられ、今まで音楽の道を進んできた。そのおかげで楽器でも歌でも音楽に関することは何でもできるようになり、まわりからは、音楽の神と呼ばれていた。そんなある日、大学の友達からバンドのスケットを頼まれてライブハウスへとつながる階段を下りていたら後ろから背中を思いっきり押されて死んでしまった。そして気づいたら代々超芸術家系のメローディア公爵家のリトモに転生していた!?まぁ音楽が出来るなら別にいっか! そんな音楽の神リトモと呪いにかけられた第二王子クオレの恋のお話。 完全処女作です。温かく見守っていただけると嬉しいです。<(_ _)>

処理中です...