37 / 48
36:専属騎士
しおりを挟む
「初めまして、シルティア・ワングレイ様」
特に何も予定がなかった日の午前中、レイモンドと共に庭園を散歩をしていた最中に聞こえた凛とした声。
振り向いた先には、美しいブラウンの毛並みを持つ犬獣人の女性が立っていた。
貴族のご令嬢にしては珍しい、パンツスタイル。腰には剣を佩いているので、もしかしたら騎士なのかもしれない。
俺の知識の中に居ない令嬢の姿に、少々困惑する。現在進行形でこの国の有力貴族を覚えている真っ最中の俺は、正直言って魔術と基本マナー以外の学が無い。
だけどそのブラウンの毛並み、犬獣人…一人、思い当たる人物が居た。
「ハーティア公爵家の、ダイアン様でしょうか?」
「よくご存知でしたね…仰るとおりハーティア公爵家長女、ダイアン・ハーティアと申します」
彼女は一瞬驚いたように目を見開いた後、さっと騎士の礼をした。
その仕草は洗練されていて美しく、格好いい。ヴィンスももちろん格好良いが、彼女は彼女の良さがある。
そんな彼女が俺に近寄る。何を言われるのか分からなくて困惑していれば、そのまま彼女が跪いた。
「え、あの、ダイアン様…!」
「先程陛下より、シルティア様の専属騎士を拝命いたしました。不肖ダイアン・ハーティア、命を以って貴方様にお仕えいたします」
「…俺の、専属騎士」
彼女の言葉を反芻すると、はいと優しく微笑まれた。
そっと手を取られ、優しく両手で握り込まれる。彼女の手はあたたかくて、何処かヴィンスに似ていた。
同じイヌ科の獣人だからだろうか?手に触れるふにりとした肉球の感触も、似ている気がする。
でも突然どうしてだろう?護衛なら事足りてるし、今更専属騎士の意味なんて…それが顔に出ていたのか、ダイアン様は笑顔で説明してくれた。
「実は、私は以前から貴方の騎士になりたいと志願していたのです。ですが我が家の家格やシルティア様にもとある事情がある、と陛下から断られておりまして」
彼女の言葉で納得した。俺の事情とは、きっと呪い関連の事だろう。
しかも彼女は公爵家の長女。俺より家格が上だし、国賓ではあったものの他人に漏らせない事情があるから陛下が気を利かせて断ってくれていたんだ。
本当にこの国の人たちは、何処までも優しい。何でそんなに優しいのか分からないくらいだ…だけどそんな此処が、とても好きになっている。
思わず頬を緩めると、彼女も同じようにはにかんでくれた。
「っ…シル!」
聞きなれた声に、後ろを振り向く。予想通りの人物の登場に、俺も名前を呼ぼうと口を開いた。
…開いた、が。全速力で走って俺を抱き締めたヴィンスの胸元に吸い込まれた。
状況が分からなくて頭上に大量の疑問符を飛ばす。ぐるるる、不意に聞こえたヴィンスの威嚇に目を見開いた。
珍しい。いつだって冷静なヴィンスが、誰かに怒りの感情を剥き出しにするなんて。
「おや、ヴィンセント殿下。ご機嫌麗しゅう…シルティア様を離して差し上げては?」
「煩いぞ、ハーティア。シルに近寄るなと何度言えば分かるんだ」
「ふふ、それは出来ない相談ですね。私は正式にシルティア様の専属騎士になりましたので」
ダイアン様のその言葉を聞いた瞬間、ヴィンスがビシリと固まる。
恐る恐る腕の中の俺を見遣る彼に、こくりと頷いてみせた。ダイアン様の言ってる事は本当だと伝える為に。
正直、ヴィンスが何をそんなに怒っているのか分からない。けど、ダイアン様とは仲良くないんだろう。
珍しく負の感情を剥き出しているヴィンスの顔を、思わずじっと見つめてしまう。
「…シル?」
「ふふ。ううん、なんでもない」
困惑しているヴィンスと、機嫌の良さそうな俺。ダイアン様は俺達を嬉しそうに見守っていた。
特に何も予定がなかった日の午前中、レイモンドと共に庭園を散歩をしていた最中に聞こえた凛とした声。
振り向いた先には、美しいブラウンの毛並みを持つ犬獣人の女性が立っていた。
貴族のご令嬢にしては珍しい、パンツスタイル。腰には剣を佩いているので、もしかしたら騎士なのかもしれない。
俺の知識の中に居ない令嬢の姿に、少々困惑する。現在進行形でこの国の有力貴族を覚えている真っ最中の俺は、正直言って魔術と基本マナー以外の学が無い。
だけどそのブラウンの毛並み、犬獣人…一人、思い当たる人物が居た。
「ハーティア公爵家の、ダイアン様でしょうか?」
「よくご存知でしたね…仰るとおりハーティア公爵家長女、ダイアン・ハーティアと申します」
彼女は一瞬驚いたように目を見開いた後、さっと騎士の礼をした。
その仕草は洗練されていて美しく、格好いい。ヴィンスももちろん格好良いが、彼女は彼女の良さがある。
そんな彼女が俺に近寄る。何を言われるのか分からなくて困惑していれば、そのまま彼女が跪いた。
「え、あの、ダイアン様…!」
「先程陛下より、シルティア様の専属騎士を拝命いたしました。不肖ダイアン・ハーティア、命を以って貴方様にお仕えいたします」
「…俺の、専属騎士」
彼女の言葉を反芻すると、はいと優しく微笑まれた。
そっと手を取られ、優しく両手で握り込まれる。彼女の手はあたたかくて、何処かヴィンスに似ていた。
同じイヌ科の獣人だからだろうか?手に触れるふにりとした肉球の感触も、似ている気がする。
でも突然どうしてだろう?護衛なら事足りてるし、今更専属騎士の意味なんて…それが顔に出ていたのか、ダイアン様は笑顔で説明してくれた。
「実は、私は以前から貴方の騎士になりたいと志願していたのです。ですが我が家の家格やシルティア様にもとある事情がある、と陛下から断られておりまして」
彼女の言葉で納得した。俺の事情とは、きっと呪い関連の事だろう。
しかも彼女は公爵家の長女。俺より家格が上だし、国賓ではあったものの他人に漏らせない事情があるから陛下が気を利かせて断ってくれていたんだ。
本当にこの国の人たちは、何処までも優しい。何でそんなに優しいのか分からないくらいだ…だけどそんな此処が、とても好きになっている。
思わず頬を緩めると、彼女も同じようにはにかんでくれた。
「っ…シル!」
聞きなれた声に、後ろを振り向く。予想通りの人物の登場に、俺も名前を呼ぼうと口を開いた。
…開いた、が。全速力で走って俺を抱き締めたヴィンスの胸元に吸い込まれた。
状況が分からなくて頭上に大量の疑問符を飛ばす。ぐるるる、不意に聞こえたヴィンスの威嚇に目を見開いた。
珍しい。いつだって冷静なヴィンスが、誰かに怒りの感情を剥き出しにするなんて。
「おや、ヴィンセント殿下。ご機嫌麗しゅう…シルティア様を離して差し上げては?」
「煩いぞ、ハーティア。シルに近寄るなと何度言えば分かるんだ」
「ふふ、それは出来ない相談ですね。私は正式にシルティア様の専属騎士になりましたので」
ダイアン様のその言葉を聞いた瞬間、ヴィンスがビシリと固まる。
恐る恐る腕の中の俺を見遣る彼に、こくりと頷いてみせた。ダイアン様の言ってる事は本当だと伝える為に。
正直、ヴィンスが何をそんなに怒っているのか分からない。けど、ダイアン様とは仲良くないんだろう。
珍しく負の感情を剥き出しているヴィンスの顔を、思わずじっと見つめてしまう。
「…シル?」
「ふふ。ううん、なんでもない」
困惑しているヴィンスと、機嫌の良さそうな俺。ダイアン様は俺達を嬉しそうに見守っていた。
54
お気に入りに追加
198
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
婚約破棄されて捨てられた精霊の愛し子は二度目の人生を謳歌する
135
BL
春波湯江には前世の記憶がある。といっても、日本とはまったく違う異世界の記憶。そこで湯江はその国の王子である婚約者を救世主の少女に奪われ捨てられた。
現代日本に転生した湯江は日々を謳歌して過ごしていた。しかし、ハロウィンの日、ゾンビの仮装をしていた湯江の足元に見覚えのある魔法陣が現れ、見覚えのある世界に召喚されてしまった。ゾンビの格好をした自分と、救世主の少女が隣に居て―…。
最後まで書き終わっているので、確認ができ次第更新していきます。7万字程の読み物です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!
音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに!
え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!!
調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。
悩める文官のひとりごと
きりか
BL
幼い頃から憧れていた騎士団に入りたくても、小柄でひ弱なリュカ・アルマンは、学校を卒業と同時に、文官として騎士団に入団する。方向音痴なリュカは、マルーン副団長の部屋と間違え、イザーク団長の部屋に入り込む。
そこでは、惚れ薬を口にした団長がいて…。
エチシーンが書けなくて、朝チュンとなりました。
ムーンライト様にも掲載しております。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
使命を全うするために俺は死にます。
あぎ
BL
とあることで目覚めた主人公、「マリア」は悪役というスペックの人間だったことを思い出せ。そして悲しい過去を持っていた。
とあることで家族が殺され、とあることで婚約破棄をされ、その婚約破棄を言い出した男に殺された。
だが、この男が大好きだったこともしかり、その横にいた女も好きだった
なら、昔からの使命である、彼らを幸せにするという使命を全うする。
それが、みなに忘れられても_
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
前世である母国の召喚に巻き込まれた俺
るい
BL
国の為に戦い、親友と言える者の前で死んだ前世の記憶があった俺は今世で今日も可愛い女の子を口説いていた。しかし何故か気が付けば、前世の母国にその女の子と召喚される。久しぶりの母国に驚くもどうやら俺はお呼びでない者のようで扱いに困った国の者は騎士の方へ面倒を投げた。俺は思った。そう、前世の職場に俺は舞い戻っている。
捨て猫はエリート騎士に溺愛される
135
BL
絶賛反抗期中のヤンキーが異世界でエリート騎士に甘やかされて、飼い猫になる話。
目つきの悪い野良猫が飼い猫になって目きゅるんきゅるんの愛される存在になる感じで読んでください。
お話をうまく書けるようになったら続きを書いてみたいなって。
京也は総受け。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる