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35:まどろみ
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『シルティア、我が愛しい子』
きらきらと輝く誰かが、俺の身体を優しく抱き上げた。
そのまま逞しく優しい腕に抱かれ、眠るのを促すようにゆったりと揺さぶられる。その揺れが心地よくて頼もしくて、俺は直ぐにうとうとと船を漕ぎ始めた。
そんな俺を一組の男女が愛おしそうに見つめている。一人は俺の本当のお母様、もう一人は…。
『愛しているよ、シルティア。お主が無事に生きてくれるなら、我は何としてでも守り抜いてやる…この世のあらゆるもの全てから、たった一人シルティアを守るよ』
宝石のように輝くアメジストの双眸が、嬉しそうに眇められた。
「…なんだ、今の」
真夜中、ふと目が覚める。お母様ともう一人、見知らぬ男性が居た気がする。
誰だろう、あの人は。はっきりと顔を見たはずなのに、目が覚めた今靄がかかったようにぼんやりとしている。
お母様の顔は思い出せるのに。彼の顔が思い出せなくて、少しだけ悲しい。
何でこんなにも気になるのだろうか。ただの夢だ、そう思えている筈なのに。
「ヴィンス、」
愛しい彼の名前を呼ぶ。勿論この部屋には居ないから、返事なんて返ってこない。
そっとベッドから降り、部屋の奥の扉に手をかける。ヴィンスとの婚約が決まった後、彼の部屋と繋がっている部屋へ居を移した。
一緒に寝ている訳じゃない。だけど直ぐ近くに居たいと、彼が望んでくれたから部屋を移動した。俺も、少しでもヴィンスの近くに居たかったから。
まだこの扉から、ヴィンスの部屋へ行った事はない。だけど無性に、ヴィンスに会いたかった。今すぐ、彼の顔を見たくなった。
かちゃり、なるべく音を立てないように扉を開ける。天蓋付きのベッドに近寄れば、すやすやと眠る彼の姿。
「…ヴィンス、おれ」
何かを言いかけて、口を噤む。俺は今、何て言おうとした?
彼に触れようと伸ばしていた手を、そっと掴まれる。驚いてヴィンスの顔を見やれば、満月の双眸とかち合った。
どうやら起こしてしまったらしい。申し訳なくて謝ると、気にするなと言ってヴィンスは笑った。
身体を起こした彼は、ベッドに座るよう俺を促す。素直に従い、柔らかな布団の上へ腰掛けた。
「眠れないのか?それとも、怖い夢でも見たのか?」
俺の背を優しく撫でる掌に、自然と脱力していた。どうやら無意識に力んでいたらしい。
ヴィンスの肩に額を乗せる。俺の背を撫でていた手は、そっと俺の事を抱き上げていた。そのままヴィンスの腕の中へ移され、抱き締められる。
そっと胸元へ顔を寄せ、彼の心音に耳を澄ませる。とくとくと一定のリズムで動く音に、酷く心が穏やかになる。いつだって、ヴィンスの腕の中は安心できる。
ぎゅっと彼の服を握り締めると、旋毛に口付けを落とされた。
「今夜は一緒に眠ろうか」
「…うん、」
ヴィンスの甘やかなお誘いに、自然と頷いていた。
抱擁を解かれた後、もぞもぞとベッドの中へと潜り込む。俺の体勢が落ち着いた後、再びヴィンスの腕の中へと招かれた。
素直に腕の中へと収まり、胸元に顔を埋める。髪を梳くように撫でる掌の心地よさに、直ぐに眠気が訪れた。
何かヴィンスと喋っていたけど、眠気で言葉になっていない気がする。
「おやすみ、シル」
彼の愛おしい声が聞こえたのを最後に、俺は再び眠りの世界へ落ちていった。
きらきらと輝く誰かが、俺の身体を優しく抱き上げた。
そのまま逞しく優しい腕に抱かれ、眠るのを促すようにゆったりと揺さぶられる。その揺れが心地よくて頼もしくて、俺は直ぐにうとうとと船を漕ぎ始めた。
そんな俺を一組の男女が愛おしそうに見つめている。一人は俺の本当のお母様、もう一人は…。
『愛しているよ、シルティア。お主が無事に生きてくれるなら、我は何としてでも守り抜いてやる…この世のあらゆるもの全てから、たった一人シルティアを守るよ』
宝石のように輝くアメジストの双眸が、嬉しそうに眇められた。
「…なんだ、今の」
真夜中、ふと目が覚める。お母様ともう一人、見知らぬ男性が居た気がする。
誰だろう、あの人は。はっきりと顔を見たはずなのに、目が覚めた今靄がかかったようにぼんやりとしている。
お母様の顔は思い出せるのに。彼の顔が思い出せなくて、少しだけ悲しい。
何でこんなにも気になるのだろうか。ただの夢だ、そう思えている筈なのに。
「ヴィンス、」
愛しい彼の名前を呼ぶ。勿論この部屋には居ないから、返事なんて返ってこない。
そっとベッドから降り、部屋の奥の扉に手をかける。ヴィンスとの婚約が決まった後、彼の部屋と繋がっている部屋へ居を移した。
一緒に寝ている訳じゃない。だけど直ぐ近くに居たいと、彼が望んでくれたから部屋を移動した。俺も、少しでもヴィンスの近くに居たかったから。
まだこの扉から、ヴィンスの部屋へ行った事はない。だけど無性に、ヴィンスに会いたかった。今すぐ、彼の顔を見たくなった。
かちゃり、なるべく音を立てないように扉を開ける。天蓋付きのベッドに近寄れば、すやすやと眠る彼の姿。
「…ヴィンス、おれ」
何かを言いかけて、口を噤む。俺は今、何て言おうとした?
彼に触れようと伸ばしていた手を、そっと掴まれる。驚いてヴィンスの顔を見やれば、満月の双眸とかち合った。
どうやら起こしてしまったらしい。申し訳なくて謝ると、気にするなと言ってヴィンスは笑った。
身体を起こした彼は、ベッドに座るよう俺を促す。素直に従い、柔らかな布団の上へ腰掛けた。
「眠れないのか?それとも、怖い夢でも見たのか?」
俺の背を優しく撫でる掌に、自然と脱力していた。どうやら無意識に力んでいたらしい。
ヴィンスの肩に額を乗せる。俺の背を撫でていた手は、そっと俺の事を抱き上げていた。そのままヴィンスの腕の中へ移され、抱き締められる。
そっと胸元へ顔を寄せ、彼の心音に耳を澄ませる。とくとくと一定のリズムで動く音に、酷く心が穏やかになる。いつだって、ヴィンスの腕の中は安心できる。
ぎゅっと彼の服を握り締めると、旋毛に口付けを落とされた。
「今夜は一緒に眠ろうか」
「…うん、」
ヴィンスの甘やかなお誘いに、自然と頷いていた。
抱擁を解かれた後、もぞもぞとベッドの中へと潜り込む。俺の体勢が落ち着いた後、再びヴィンスの腕の中へと招かれた。
素直に腕の中へと収まり、胸元に顔を埋める。髪を梳くように撫でる掌の心地よさに、直ぐに眠気が訪れた。
何かヴィンスと喋っていたけど、眠気で言葉になっていない気がする。
「おやすみ、シル」
彼の愛おしい声が聞こえたのを最後に、俺は再び眠りの世界へ落ちていった。
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