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31:お母様
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あれから宮廷医師の診察と治療を受け、数日が経過した。
あの舞踏会の日から、俺は一週間程眠り続けたらしい。どうりで、声が出なくなる訳だ。
あの日呪いに思考を乗っ取られた俺は、ヴィンスに襲いかかった。途中で意識を僅かに取り戻し、何かしらの魔術を使用した。
その反動で一週間も眠っていたと説明されたが、俺はいまいち納得出来ていなかった。
「一つだけ、心当たりがあるんだ」
「心当たり?」
医者に出された苦い薬湯と戦っている最中、ヴィンスが呟いた。
ヴィンスは暫く悩む様に唸った後、意を決したのかゆっくりと口を開く。
彼の口から出た話は、にわかに信じがたいものだった。
「もしかしたらシルは、聖魔術を使ったのかもしれない」
「聖魔術…?」
「あぁ。聖女や聖人が使えると言われる、唯一呪いを浄化する魔法だ」
そんな魔術、聞いた事がない。でもその話をするヴィンスの顔は、至って真面目だった。
気休めでだってそんな話はしないだろう。だけど聖女という言葉に、聞き覚えがあった。
俺に呪いを掛けた女…実際は老婆だった様だが、彼女の口から出た聖女様という単語。
きっとそれは、俺の事を指し示していた。俺は男だから、聖人の方だろうけど。
「調査の結果、あの老婆は数十年前に人気を博した教団の一員らしい。今ではもう廃れ、一部の人間がカルト宗教の様な事をしているらしい」
「…あいつ、先代聖女様がどうとかって」
「あぁ…悍ましい話だが、奴らの本部から身元不明の女性の遺骨が何体も発見された。どうやら、若い女性を誘拐し聖女と崇め、その身体を食していたようだ」
ぞわり、肌が総毛立つ。一瞬想像してしまい、薬湯の入った器を握り締めた。
そんな俺の肩を、ヴィンスがそっと撫でる。その温かい掌に、少しだけ救われた様な気がした。
例のカルト教団は、俺に呪いを掛けた奴を含めて8人。例の老婆はあの日俺に渾身の呪いを掛けた反動で死に、残りの7人は大人しく捕まったそうだ。
だけど口を開けば聖女様、聖女様と話にならないらしい。俺を襲った理由も、謎のまま。
「ヴィンス、俺は多分聖人じゃない…あの魔術は、俺のお母様の魔術なんだと思う」
「シルのお母上…?でも、シルのお母上はもう…」
「とっくの昔に、死んでる。けど多分、これ…」
そう言って胸元から取り出した、形見の指輪。
丸く透き通った水晶が割れ、無惨な姿になっていた。多分あの日、眩い光を放ったのはこの指輪なんだと思う。
推測でしかない。けれど、そうだとしたら俺がお母様と会う夢を見たのと辻褄が合う。
お母様の魔力に触れ、夢に出てきた。多分だけど、そんな感じなんだろう。
「自分でも、おかしな話だと思うよ。でも、俺はそう信じたいんだ」
「…シルがそう思うなら、きっとそうなんだろう」
そう言って微笑んでくれたヴィンスに、俺も自然と微笑み返していた。
あの舞踏会の日から、俺は一週間程眠り続けたらしい。どうりで、声が出なくなる訳だ。
あの日呪いに思考を乗っ取られた俺は、ヴィンスに襲いかかった。途中で意識を僅かに取り戻し、何かしらの魔術を使用した。
その反動で一週間も眠っていたと説明されたが、俺はいまいち納得出来ていなかった。
「一つだけ、心当たりがあるんだ」
「心当たり?」
医者に出された苦い薬湯と戦っている最中、ヴィンスが呟いた。
ヴィンスは暫く悩む様に唸った後、意を決したのかゆっくりと口を開く。
彼の口から出た話は、にわかに信じがたいものだった。
「もしかしたらシルは、聖魔術を使ったのかもしれない」
「聖魔術…?」
「あぁ。聖女や聖人が使えると言われる、唯一呪いを浄化する魔法だ」
そんな魔術、聞いた事がない。でもその話をするヴィンスの顔は、至って真面目だった。
気休めでだってそんな話はしないだろう。だけど聖女という言葉に、聞き覚えがあった。
俺に呪いを掛けた女…実際は老婆だった様だが、彼女の口から出た聖女様という単語。
きっとそれは、俺の事を指し示していた。俺は男だから、聖人の方だろうけど。
「調査の結果、あの老婆は数十年前に人気を博した教団の一員らしい。今ではもう廃れ、一部の人間がカルト宗教の様な事をしているらしい」
「…あいつ、先代聖女様がどうとかって」
「あぁ…悍ましい話だが、奴らの本部から身元不明の女性の遺骨が何体も発見された。どうやら、若い女性を誘拐し聖女と崇め、その身体を食していたようだ」
ぞわり、肌が総毛立つ。一瞬想像してしまい、薬湯の入った器を握り締めた。
そんな俺の肩を、ヴィンスがそっと撫でる。その温かい掌に、少しだけ救われた様な気がした。
例のカルト教団は、俺に呪いを掛けた奴を含めて8人。例の老婆はあの日俺に渾身の呪いを掛けた反動で死に、残りの7人は大人しく捕まったそうだ。
だけど口を開けば聖女様、聖女様と話にならないらしい。俺を襲った理由も、謎のまま。
「ヴィンス、俺は多分聖人じゃない…あの魔術は、俺のお母様の魔術なんだと思う」
「シルのお母上…?でも、シルのお母上はもう…」
「とっくの昔に、死んでる。けど多分、これ…」
そう言って胸元から取り出した、形見の指輪。
丸く透き通った水晶が割れ、無惨な姿になっていた。多分あの日、眩い光を放ったのはこの指輪なんだと思う。
推測でしかない。けれど、そうだとしたら俺がお母様と会う夢を見たのと辻褄が合う。
お母様の魔力に触れ、夢に出てきた。多分だけど、そんな感じなんだろう。
「自分でも、おかしな話だと思うよ。でも、俺はそう信じたいんだ」
「…シルがそう思うなら、きっとそうなんだろう」
そう言って微笑んでくれたヴィンスに、俺も自然と微笑み返していた。
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