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20:殿下のデート
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私と手を繋ぎ、王都の街並みを楽しそうに眺めているシルの姿に思わず頬がゆるむ。
先日、シルを王都観光に誘った。私が付き添う事で、色々護衛やらなにやらを手配するのに時間がかかったが、今こうして実現している。
私たちの姿を変える魔術は、シル自ら施してくれた。
久しぶりに感じた彼の魔力は、相変わらずあたたかく優しい。まるで、彼の心そのものだ。
まだまだ魔術に関しては彼に及ばない。が、腕っぷしだけは自信がある。伊達に王族の血筋じゃないからな。
いざという時は、私の身を挺してても彼を守り切りたい。そう言ったら、彼はどう思うだろうか?
優しい彼の事だから、そんな事しなくて良いと怒られそうだ。
「…ふふ、」
「ヴィンス、何か面白い事でもあったのか?」
思わずこぼれた笑い声に反応したシルは、不思議そうに首を傾げて私を見上げる。
その姿が小動物にしか見えなくて、愛おしさが込み上げてきた。彼を守りたい、可愛がりたい、愛したい。
肉欲が無いわけではないが、それ以上に彼を大事に大事に囲いたいと思ってしまう。それは獣人族としての本能か、自身の性格か。
まぁ、そんな事はどうでもいいか。未だ不思議そうに首を傾げる彼には、シルが可愛いから笑ったと答えておく。
みるみる真っ赤に染まり上がる白磁の肌が、何だか艶かしい。
そう感じてしまい、咄嗟に自身の身体でシルの姿を隠した。今私達の姿は一般的な犬獣人と、素朴な人族に見えているというのに。
反射的な己の行動に苦笑が漏れる。この姿を、誰にも見せたくないだなんて。
子供じみた独占欲に、シルは呆れてしまうだろうか。
「ヴィンス、次はあっちに行ってみよう」
「…あぁ、勿論」
どうやら私の行動には気づいていないようだった。それにほっと胸をなでおろすと、シルの指差す方向へと歩き出す。
日に日に増していく愛おしさに、どうにかなってしまいそうだ。彼からあの日の返事は聞けていないが、嫌われていない事は確かだと思う。
寧ろ彼からの好意さえ感じる。だけど返事を貰えないのは、彼の命を狙っているという誰かしらの存在のせいか。
酷く心根の優しい彼の事だ、私を巻き込んでしまうのが心苦しいんだろう。
彼の気持ちは十二分に理解している。私が彼と同じ立場なら、好いている人物を巻き込むまいと一人でどうにかしようとするだろう。
だけど反対に、巻き込んで欲しいとも思う。私が君を守るから、だからどうか。
ふと視界の端で、黒い何かが動いた。咄嗟にシルを引き寄せるものの、彼にぶつかったのか軽い衝撃が伝わってくる。
「シル、間に合わなくてすまない…大丈夫か?」
「全然平気。ありがとう…っ、」
身じろいだ彼が、小さく息を詰め自身の手を見る。ぶつかったときに何かに引っ掛けたのだろう、小さな引っかき傷から赤い血が滲んでいた。
僅かに感じる鉄の匂い。それに混ざる、芳しい花のような甘い香り。周囲を見渡しても花などなく、疑問が浮かぶ。
鉄の匂いは理解できる、シルの血の匂いだ。だがこの甘い香りは一体なんだ?シルの血液から、香ってくるとでもいうのだろうか。
ハンカチを取り出し、僅かに滲む血を拭う。すると今度はハンカチから甘い香りが漂ってきた。
「ご、ごめんヴィンス。ちゃんと洗って返すから」
「いや、それは構わないんだが…城に戻ったら、ちゃんと治療しよう。化膿したら大変だ」
「大げさだって…でも、ありがとう」
そう言って微笑むシルに、一抹の不安を抱えたまま微笑み返した。
先日、シルを王都観光に誘った。私が付き添う事で、色々護衛やらなにやらを手配するのに時間がかかったが、今こうして実現している。
私たちの姿を変える魔術は、シル自ら施してくれた。
久しぶりに感じた彼の魔力は、相変わらずあたたかく優しい。まるで、彼の心そのものだ。
まだまだ魔術に関しては彼に及ばない。が、腕っぷしだけは自信がある。伊達に王族の血筋じゃないからな。
いざという時は、私の身を挺してても彼を守り切りたい。そう言ったら、彼はどう思うだろうか?
優しい彼の事だから、そんな事しなくて良いと怒られそうだ。
「…ふふ、」
「ヴィンス、何か面白い事でもあったのか?」
思わずこぼれた笑い声に反応したシルは、不思議そうに首を傾げて私を見上げる。
その姿が小動物にしか見えなくて、愛おしさが込み上げてきた。彼を守りたい、可愛がりたい、愛したい。
肉欲が無いわけではないが、それ以上に彼を大事に大事に囲いたいと思ってしまう。それは獣人族としての本能か、自身の性格か。
まぁ、そんな事はどうでもいいか。未だ不思議そうに首を傾げる彼には、シルが可愛いから笑ったと答えておく。
みるみる真っ赤に染まり上がる白磁の肌が、何だか艶かしい。
そう感じてしまい、咄嗟に自身の身体でシルの姿を隠した。今私達の姿は一般的な犬獣人と、素朴な人族に見えているというのに。
反射的な己の行動に苦笑が漏れる。この姿を、誰にも見せたくないだなんて。
子供じみた独占欲に、シルは呆れてしまうだろうか。
「ヴィンス、次はあっちに行ってみよう」
「…あぁ、勿論」
どうやら私の行動には気づいていないようだった。それにほっと胸をなでおろすと、シルの指差す方向へと歩き出す。
日に日に増していく愛おしさに、どうにかなってしまいそうだ。彼からあの日の返事は聞けていないが、嫌われていない事は確かだと思う。
寧ろ彼からの好意さえ感じる。だけど返事を貰えないのは、彼の命を狙っているという誰かしらの存在のせいか。
酷く心根の優しい彼の事だ、私を巻き込んでしまうのが心苦しいんだろう。
彼の気持ちは十二分に理解している。私が彼と同じ立場なら、好いている人物を巻き込むまいと一人でどうにかしようとするだろう。
だけど反対に、巻き込んで欲しいとも思う。私が君を守るから、だからどうか。
ふと視界の端で、黒い何かが動いた。咄嗟にシルを引き寄せるものの、彼にぶつかったのか軽い衝撃が伝わってくる。
「シル、間に合わなくてすまない…大丈夫か?」
「全然平気。ありがとう…っ、」
身じろいだ彼が、小さく息を詰め自身の手を見る。ぶつかったときに何かに引っ掛けたのだろう、小さな引っかき傷から赤い血が滲んでいた。
僅かに感じる鉄の匂い。それに混ざる、芳しい花のような甘い香り。周囲を見渡しても花などなく、疑問が浮かぶ。
鉄の匂いは理解できる、シルの血の匂いだ。だがこの甘い香りは一体なんだ?シルの血液から、香ってくるとでもいうのだろうか。
ハンカチを取り出し、僅かに滲む血を拭う。すると今度はハンカチから甘い香りが漂ってきた。
「ご、ごめんヴィンス。ちゃんと洗って返すから」
「いや、それは構わないんだが…城に戻ったら、ちゃんと治療しよう。化膿したら大変だ」
「大げさだって…でも、ありがとう」
そう言って微笑むシルに、一抹の不安を抱えたまま微笑み返した。
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