満月に囚われる。

柴傘

文字の大きさ
上 下
15 / 48

14:誓い

しおりを挟む
「私、ヴィンセント・ロルフ・ユースチスは誓います。シルティア・ワングレイをあらゆる危険から命をかけて守り切ると。私の誓いを、受け取って頂けますか?」

凛とした声が、廊下に響く。

知ってる。これは、命の誓いだ。本来は騎士が一生の主人を決めた時にするもの。
ヴィンスは王弟で、寧ろそれを受け取る側だ。そんな立場の人物が誓いを立てるのには、意味が二種類ある。

一つは己の身分を捨て、人生を主人に捧げる場合。もう一つは…。

「ヴィンス、これは…どっち?」
「…伴侶の方、と言ったら君は困ってしまうだろうか?」

もう一つは、生涯の伴侶と決めた人に贈るプロポーズ。

スッと顔を上げ、俺の目をじっと見つめるヴィンス。彼は、伴侶の方と断言した。
そう、断言した。ヴィンスは俺と、結婚したいと思ってくれている…そして俺は、驚いた事に全然嫌じゃない。

嫌じゃないから困ってる。俺は、そういう意味でヴィンスの事が好きなのだろうか?

「…困ってる」
「そうか…じゃあ、忘れてくれ。私は決して、君を困らせたい訳じゃない。断ったからと言って、君を守る事を止めるわけでも…」
「嫌じゃないから、困ってる。けど、俺のヴィンスに対する感情が恋愛なのか親愛なのか…それがまだ、分からない。ごめん。」

素直に謝罪を口にすれば、ヴィンスが驚いた様に目を見開いていた。

ヴィンスの気持ちは、嬉しい。何でこのタイミングなのかは分からないけど、彼の真剣な気持ちが伝わって来る。
でも、俺はまだヴィンスをそういう目で見れていない。いや、同性としてかっこいいと思ってる。だけどこれは憧れであって、恋ではない。

まだ、分からない。自覚するのが怖いのかもしれない。

「正直に言ってくれて、ありがとう。返事は今じゃなくて良い…が、私もシルに対してアプローチをする」
「俺に、アプローチ?」
「あぁ。スキンシップを取ったり、物を贈ったり…好きだと、伝えたり」

再びちゅっと手の甲に口付けられる。ぶわ、頬が一気に熱くなった。

これが単なる照れなのか、それとも俺は既にヴィンスへ気持ちが傾いているのか…分からないけど、兎に角恥ずかしい。
でも嫌悪感は沸いてこない。寧ろ触れ合えて嬉しい…って。

最早それは、惚れているのでは?いやでも、ヴィンスとそういう関係になりたいとはまだ思わないし…。

頭がこんがらがって、熱が出そうだ。俺のそんな様子を見て、ヴィンスは苦笑した後立ち上がった。
片手を握ったままエスコートされ、いつの間にやら部屋の前に到着している。

扉を開けて、ヴィンスに就寝の挨拶をしようと振り向いた。

「おやすみ、シル。良い夢を」

ちゅ、小さく聞こえた三度目のリップ音。額に口付けられたのだと気付いたのは、数秒後。

「お、やすみ…ゔぃんす、」

どうにか挨拶を口にした後、俺は勢いよく扉を閉めベッドへと潜り込んだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

飼われる側って案外良いらしい。

なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。 なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。 「まあ何も変わらない、はず…」 ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。 ほんとに。ほんとうに。 紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22) ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。 変化を嫌い、現状維持を好む。 タルア=ミース(347) 職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。 最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?

婚約破棄されて捨てられた精霊の愛し子は二度目の人生を謳歌する

135
BL
春波湯江には前世の記憶がある。といっても、日本とはまったく違う異世界の記憶。そこで湯江はその国の王子である婚約者を救世主の少女に奪われ捨てられた。 現代日本に転生した湯江は日々を謳歌して過ごしていた。しかし、ハロウィンの日、ゾンビの仮装をしていた湯江の足元に見覚えのある魔法陣が現れ、見覚えのある世界に召喚されてしまった。ゾンビの格好をした自分と、救世主の少女が隣に居て―…。 最後まで書き終わっているので、確認ができ次第更新していきます。7万字程の読み物です。

伯爵家のいらない息子は、黒竜様の花嫁になる

ハルアキ
BL
伯爵家で虐げられていた青年と、洞窟で暮らす守護竜の異類婚姻譚。

婚約破棄されたから伝説の血が騒いでざまぁしてやった令息

ミクリ21 (新)
BL
婚約破棄されたら伝説の血が騒いだ話。

【完結】オーロラ魔法士と第3王子

N2O
BL
全16話 ※2022.2.18 完結しました。ありがとうございました。 ※2023.11.18 文章を整えました。 辺境伯爵家次男のリーシュ・ギデオン(16)が、突然第3王子のラファド・ミファエル(18)の専属魔法士に任命された。 「なんで、僕?」 一人狼第3王子×黒髪美人魔法士 設定はふんわりです。 小説を書くのは初めてなので、何卒ご容赦ください。 嫌な人が出てこない、ふわふわハッピーエンドを書きたくて始めました。 感想聞かせていただけると大変嬉しいです。 表紙絵 ⇨ キラクニ 様 X(@kirakunibl)

婚約破棄されたショックで前世の記憶&猫集めの能力をゲットしたモブ顔の僕!

ミクリ21 (新)
BL
婚約者シルベスター・モンローに婚約破棄されたら、そのショックで前世の記憶を思い出したモブ顔の主人公エレン・ニャンゴローの話。

見ぃつけた。

茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは… 他サイトにも公開しています

王子様から逃げられない!

白兪
BL
目を覚ますとBLゲームの主人公になっていた恭弥。この世界が受け入れられず、何とかして元の世界に戻りたいと考えるようになる。ゲームをクリアすれば元の世界に戻れるのでは…?そう思い立つが、思わぬ障壁が立ち塞がる。

処理中です...