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12:動揺
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「おにーさま、おはようございます!」
「おはよう、ザック」
翌朝、朝食を取ろうと部屋を出ればザックを連れたヴィンスが待ってくれていた。
俺に駆け寄ってくるザックを抱き上げ、挨拶を交わす。ぎゅっと首元に抱き付いてくる温かな存在に、自然と心が穏やかになった。
ザックは今日の昼、母国へと帰っていく。愛しい弟と過ごす時間も後少しだけだ。
それが顔に出ていたのか、ヴィンスが柔らかな声で提案してくれた。
「折角だし、朝食は弟君と2人で食べたらどうだ?庭園のテラスに用意させるが」
「ありがとう、ヴィンス。そうさせてくれると嬉しい」
「これくらい構わないさ。弟君、シルの護衛を私の代わりにお願いしても?」
「もちろん!おにーさまは僕がまもります!」
えへん、そう言いながら胸を張るザックに頬が緩む。
お礼を込めてザックの頬へキスを落とすと、きゃらきゃらと嬉しそうに笑ってくれた。
ふと視線を感じ、ヴィンスの方を振り向く。何故か俺達をじっと見つめる瞳を不思議に思って首を傾げると、何でもないと顔をそらされてしまった。
その意味が分からなくて困惑するが、ザックが腕の中で俺達を急かす声に応えるべく移動を開始した。
「ザック、美味しい?」
「はい!おにーさまと2人きりだからいつも以上においしいです!」
「そっか、ならよかった」
俺の膝の上でサンドイッチにぱくついているザックの頭を優しく撫でる。
本当は膝の上に座らせるのはお行儀が悪いけど、今日くらい良いかなって思って甘やかしていた。
ザックの滑らかな金髪に指を通し、絡めて遊ぶ。ザック自身は俺と一緒に居れる事が嬉しいらしく、特に文句も言わない。
時折口元を拭いたりと世話を焼く。ふと何かに気が付いたのか、ザックが不思議そうに問いかけた。
「おにーさま、この指輪どうしたんですか?」
そう言って、俺が小指に付けている指輪を指し示すザック。
そういえば、侯爵邸ではこの指輪をした事がなかった。大切なものだから、箱に仕舞い続けていた気がする。
今つけているのは、お守りがわりになるかなって思っただけだけど…。
ザックからしたら、何か特別な物に見えたのかもしれない。
「…これはね、大事な人から貰った物なんだ」
「おにーさまの、大事なひと…?」
「うん、俺のとっても大事な人」
ザックにはまだ、俺達が異母兄弟だとは教えていない。
その内知る事にはなるだろうけど、今教えられてもきっとピンと来ないだろう。
だから今はまだ良いかなってぼかしたけど、神妙な顔で何か考え始めてしまった。
「えーと、ザック?そんなに引っかかるならあとで外すから…」
「おにーさまの大事なひとって、ヴィンスさんのことですか?」
「え?」
ザックの一言に、びくりと肩が跳ねる。
俺の大事な人が、ヴィンス?何でそう思ったんだろうか。確かに俺たちは仲が良いけど、でも、確かに大事だと言われれば大事だ。
というか、俺は何故こんなに動揺してるんだろうか。
「えーっと、確かにヴィンスは大事な人だけど…指輪をくれたのは、違う人だよ」
「そっか、良かったです。おにーさまの指のサイズも分からない人にまかせられませんし!」
にぱー、嬉しそうに笑うザックに今度は思考が停止する。
任せる?何を、俺を?この子が言ってる意味が全然分からない。
あれだ、俺がユースチスで暮らしている間に任せるって話だろう。友人として、この国の王族として。
きっとそうだ、そうに決まってる。
「おにーさまを幸せにできるのは、僕とヴィンスさんだけですから!」
「…そ、うだね。はは」
思わず漏れ出た乾いた笑い声は、俺の動揺を如実に表していた。
「おはよう、ザック」
翌朝、朝食を取ろうと部屋を出ればザックを連れたヴィンスが待ってくれていた。
俺に駆け寄ってくるザックを抱き上げ、挨拶を交わす。ぎゅっと首元に抱き付いてくる温かな存在に、自然と心が穏やかになった。
ザックは今日の昼、母国へと帰っていく。愛しい弟と過ごす時間も後少しだけだ。
それが顔に出ていたのか、ヴィンスが柔らかな声で提案してくれた。
「折角だし、朝食は弟君と2人で食べたらどうだ?庭園のテラスに用意させるが」
「ありがとう、ヴィンス。そうさせてくれると嬉しい」
「これくらい構わないさ。弟君、シルの護衛を私の代わりにお願いしても?」
「もちろん!おにーさまは僕がまもります!」
えへん、そう言いながら胸を張るザックに頬が緩む。
お礼を込めてザックの頬へキスを落とすと、きゃらきゃらと嬉しそうに笑ってくれた。
ふと視線を感じ、ヴィンスの方を振り向く。何故か俺達をじっと見つめる瞳を不思議に思って首を傾げると、何でもないと顔をそらされてしまった。
その意味が分からなくて困惑するが、ザックが腕の中で俺達を急かす声に応えるべく移動を開始した。
「ザック、美味しい?」
「はい!おにーさまと2人きりだからいつも以上においしいです!」
「そっか、ならよかった」
俺の膝の上でサンドイッチにぱくついているザックの頭を優しく撫でる。
本当は膝の上に座らせるのはお行儀が悪いけど、今日くらい良いかなって思って甘やかしていた。
ザックの滑らかな金髪に指を通し、絡めて遊ぶ。ザック自身は俺と一緒に居れる事が嬉しいらしく、特に文句も言わない。
時折口元を拭いたりと世話を焼く。ふと何かに気が付いたのか、ザックが不思議そうに問いかけた。
「おにーさま、この指輪どうしたんですか?」
そう言って、俺が小指に付けている指輪を指し示すザック。
そういえば、侯爵邸ではこの指輪をした事がなかった。大切なものだから、箱に仕舞い続けていた気がする。
今つけているのは、お守りがわりになるかなって思っただけだけど…。
ザックからしたら、何か特別な物に見えたのかもしれない。
「…これはね、大事な人から貰った物なんだ」
「おにーさまの、大事なひと…?」
「うん、俺のとっても大事な人」
ザックにはまだ、俺達が異母兄弟だとは教えていない。
その内知る事にはなるだろうけど、今教えられてもきっとピンと来ないだろう。
だから今はまだ良いかなってぼかしたけど、神妙な顔で何か考え始めてしまった。
「えーと、ザック?そんなに引っかかるならあとで外すから…」
「おにーさまの大事なひとって、ヴィンスさんのことですか?」
「え?」
ザックの一言に、びくりと肩が跳ねる。
俺の大事な人が、ヴィンス?何でそう思ったんだろうか。確かに俺たちは仲が良いけど、でも、確かに大事だと言われれば大事だ。
というか、俺は何故こんなに動揺してるんだろうか。
「えーっと、確かにヴィンスは大事な人だけど…指輪をくれたのは、違う人だよ」
「そっか、良かったです。おにーさまの指のサイズも分からない人にまかせられませんし!」
にぱー、嬉しそうに笑うザックに今度は思考が停止する。
任せる?何を、俺を?この子が言ってる意味が全然分からない。
あれだ、俺がユースチスで暮らしている間に任せるって話だろう。友人として、この国の王族として。
きっとそうだ、そうに決まってる。
「おにーさまを幸せにできるのは、僕とヴィンスさんだけですから!」
「…そ、うだね。はは」
思わず漏れ出た乾いた笑い声は、俺の動揺を如実に表していた。
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