12 / 48
11:殿下の調べ物
しおりを挟む
3人での話し合いを終えた後、シルを部屋に送り届けた私はその足で図書室へ向かった。
本当は彼の傍に居たかったが、彼にも心の整理をする時間が必要だろう。何より、今の彼は私を求めていないような気がした。
まだ私は、彼の隣に居ない。それは酷く悲しい事だけど、いつか隣に寄り添える関係になれればと思う。
今は何より、彼の身を蝕む呪いについて調べなければ。
「…これと、これか。あぁ、これもだな」
我が国は魔術に長けた者が少ない。故に魔術書等は少なく、呪いに関しての本も少ない。
少ないながらも、研究をしている者が居る。この図書室は、そんな研究者達の論文を本にして纏めた物が置かれている場所だ。
普段は私や研究者達しか利用しない。だから部屋は狭く、机も小さい…だが、居心地はいい。
ペラリ、私が本を捲る音と時折書き物をする音だけが響く。
「…呪いを無効化する、聖魔術…?」
読み進めていた本の中に、気になる記述があった。聖魔術なんて、聞いたことが無い。
本を読み進めていくも、聖魔術について詳しい内容は殆ど書かれていなかった。選ばれし者しか使えない事、その選ばれし者は聖女や聖人などと呼ばれるという事。
聖魔術で国を祝福すると、その国はそれから数十年以上不幸が訪れないらしい。
そんな、夢物語のような話があるのだろうか。
「著者は、サーザンド…平民、か?」
本の最後のページに書かれていた名前は、家名が無い。平民だから家名がないのか、態と家名を伏せているのか。
どちらにせよ、この文献は調べてみる価値がありそうだ。幸いここの書物は持ち出し厳禁ではないので、シルにも読んでもらった方が良いかもしれない。
私よりシルの方が、魔術の知識が豊富だから。何か、聖魔術について心当たりがあるかもしれない。
他にも、サーザンドの書いた書物はないだろうか?
「……ふむ、あれだけか。サーザンドについても、調べてみた方が良さそうだな」
本棚の著者を全て見たが、同名の作者の本は見当たらなかった。
手がかりは、この一冊の本だけ。執筆日も刊行日も書いていないので、著者が生きているのかすら分からない。
本自体はそんなに古くないようではあるが、手入れがしっかりしているだけかもしれないしな。
一先ず、本の内容の裏付けを取ってからにしよう。不完全な情報で、シルを振り回したくない。
「…そうだ、髪飾り。今度、街にでも誘ってみるか…?」
ふと彼にあげたいプレゼントを思い出す。危険かもしれないが、護衛を増やせば大丈夫だろうか。
何より城に閉じこもりっぱなしでは、精神衛生上良くないだろう。シルの様子を見ながら、慎重に準備を進めよう。街の古い本屋なら、何か手掛かりがあるかもしれないし。
彼の心の負担が、少しでも軽くなるように。守ると誓ったのだから、身体だけではなく心も守ろう。
あの時は友と例えたが、シルはもう私の大切な…。
「…いや、止そう。今は負担を増やしたくない」
私の想いを伝え、受け入れてくれたらどれ程幸せだろう。
そうは思えど、彼の気持ちが私に傾いていないのならただただ負担になってしまう。それだけは、避けたい。
…いや、違うな。これはそんな、綺麗な感情じゃない。
「怖い、だけだな…はは、私とした事が、情けない」
ただ、怖い。彼に拒絶される事が。
シルに傷ついて欲しくない、心からそう思っている。だけど私は、今のこの関係を壊したくないとも思っている。
友を守る、それは私の逃げだ。本当は恋しい彼を、腕に閉じ込めてずっと傍で守っていたい。
この感情を知った時、シルはどうするのだろうか?
「隠さなければ、いけないよなぁ…」
口から漏れ出た自嘲混じりの笑い声が、部屋に虚しく響いていた。
本当は彼の傍に居たかったが、彼にも心の整理をする時間が必要だろう。何より、今の彼は私を求めていないような気がした。
まだ私は、彼の隣に居ない。それは酷く悲しい事だけど、いつか隣に寄り添える関係になれればと思う。
今は何より、彼の身を蝕む呪いについて調べなければ。
「…これと、これか。あぁ、これもだな」
我が国は魔術に長けた者が少ない。故に魔術書等は少なく、呪いに関しての本も少ない。
少ないながらも、研究をしている者が居る。この図書室は、そんな研究者達の論文を本にして纏めた物が置かれている場所だ。
普段は私や研究者達しか利用しない。だから部屋は狭く、机も小さい…だが、居心地はいい。
ペラリ、私が本を捲る音と時折書き物をする音だけが響く。
「…呪いを無効化する、聖魔術…?」
読み進めていた本の中に、気になる記述があった。聖魔術なんて、聞いたことが無い。
本を読み進めていくも、聖魔術について詳しい内容は殆ど書かれていなかった。選ばれし者しか使えない事、その選ばれし者は聖女や聖人などと呼ばれるという事。
聖魔術で国を祝福すると、その国はそれから数十年以上不幸が訪れないらしい。
そんな、夢物語のような話があるのだろうか。
「著者は、サーザンド…平民、か?」
本の最後のページに書かれていた名前は、家名が無い。平民だから家名がないのか、態と家名を伏せているのか。
どちらにせよ、この文献は調べてみる価値がありそうだ。幸いここの書物は持ち出し厳禁ではないので、シルにも読んでもらった方が良いかもしれない。
私よりシルの方が、魔術の知識が豊富だから。何か、聖魔術について心当たりがあるかもしれない。
他にも、サーザンドの書いた書物はないだろうか?
「……ふむ、あれだけか。サーザンドについても、調べてみた方が良さそうだな」
本棚の著者を全て見たが、同名の作者の本は見当たらなかった。
手がかりは、この一冊の本だけ。執筆日も刊行日も書いていないので、著者が生きているのかすら分からない。
本自体はそんなに古くないようではあるが、手入れがしっかりしているだけかもしれないしな。
一先ず、本の内容の裏付けを取ってからにしよう。不完全な情報で、シルを振り回したくない。
「…そうだ、髪飾り。今度、街にでも誘ってみるか…?」
ふと彼にあげたいプレゼントを思い出す。危険かもしれないが、護衛を増やせば大丈夫だろうか。
何より城に閉じこもりっぱなしでは、精神衛生上良くないだろう。シルの様子を見ながら、慎重に準備を進めよう。街の古い本屋なら、何か手掛かりがあるかもしれないし。
彼の心の負担が、少しでも軽くなるように。守ると誓ったのだから、身体だけではなく心も守ろう。
あの時は友と例えたが、シルはもう私の大切な…。
「…いや、止そう。今は負担を増やしたくない」
私の想いを伝え、受け入れてくれたらどれ程幸せだろう。
そうは思えど、彼の気持ちが私に傾いていないのならただただ負担になってしまう。それだけは、避けたい。
…いや、違うな。これはそんな、綺麗な感情じゃない。
「怖い、だけだな…はは、私とした事が、情けない」
ただ、怖い。彼に拒絶される事が。
シルに傷ついて欲しくない、心からそう思っている。だけど私は、今のこの関係を壊したくないとも思っている。
友を守る、それは私の逃げだ。本当は恋しい彼を、腕に閉じ込めてずっと傍で守っていたい。
この感情を知った時、シルはどうするのだろうか?
「隠さなければ、いけないよなぁ…」
口から漏れ出た自嘲混じりの笑い声が、部屋に虚しく響いていた。
65
お気に入りに追加
198
あなたにおすすめの小説
婚約破棄されて捨てられた精霊の愛し子は二度目の人生を謳歌する
135
BL
春波湯江には前世の記憶がある。といっても、日本とはまったく違う異世界の記憶。そこで湯江はその国の王子である婚約者を救世主の少女に奪われ捨てられた。
現代日本に転生した湯江は日々を謳歌して過ごしていた。しかし、ハロウィンの日、ゾンビの仮装をしていた湯江の足元に見覚えのある魔法陣が現れ、見覚えのある世界に召喚されてしまった。ゾンビの格好をした自分と、救世主の少女が隣に居て―…。
最後まで書き終わっているので、確認ができ次第更新していきます。7万字程の読み物です。

転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!
音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに!
え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!!
調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。
【奨励賞】恋愛感情抹消魔法で元夫への恋を消去する
SKYTRICK
BL
☆11/28完結しました。
☆第11回BL小説大賞奨励賞受賞しました。ありがとうございます!
冷酷大元帥×元娼夫の忘れられた夫
——「また俺を好きになるって言ったのに、嘘つき」
元娼夫で現魔術師であるエディことサラは五年ぶりに祖国・ファルンに帰国した。しかし暫しの帰郷を味わう間も無く、直後、ファルン王国軍の大元帥であるロイ・オークランスの使者が元帥命令を掲げてサラの元へやってくる。
ロイ・オークランスの名を知らぬ者は世界でもそうそういない。魔族の血を引くロイは人間から畏怖を大いに集めながらも、大将として国防戦争に打ち勝ち、たった二十九歳で大元帥として全軍のトップに立っている。
その元帥命令の内容というのは、五年前に最愛の妻を亡くしたロイを、魔族への本能的な恐怖を感じないサラが慰めろというものだった。
ロイは妻であるリネ・オークランスを亡くし、悲しみに苛まれている。あまりの辛さで『奥様』に関する記憶すら忘却してしまったらしい。半ば強引にロイの元へ連れていかれるサラは、彼に己を『サラ』と名乗る。だが、
——「失せろ。お前のような娼夫など必要としていない」
噂通り冷酷なロイの口からは罵詈雑言が放たれた。ロイは穢らわしい娼夫を睨みつけ去ってしまう。使者らは最愛の妻を亡くしたロイを憐れむばかりで、まるでサラの様子を気にしていない。
誰も、サラこそが五年前に亡くなった『奥様』であり、最愛のその人であるとは気付いていないようだった。
しかし、最大の問題は元夫に存在を忘れられていることではない。
サラが未だにロイを愛しているという事実だ。
仕方なく、『恋愛感情抹消魔法』を己にかけることにするサラだが——……
☆描写はありませんが、受けがモブに抱かれている示唆はあります(男娼なので)
☆お読みくださりありがとうございます。良ければ感想などいただけるとパワーになります!


婚約破棄された悪役令息は従者に溺愛される
田中
BL
BLゲームの悪役令息であるリアン・ヒスコックに転生してしまった俺は、婚約者である第二王子から断罪されるのを待っていた!
なぜなら断罪が領地で療養という軽い処置だから。
婚約破棄をされたリアンは従者のテオと共に領地の屋敷で暮らすことになるが何気ないリアンの一言で、テオがリアンにぐいぐい迫ってきてーー?!
従者×悪役令息

誰よりも愛してるあなたのために
R(アール)
BL
公爵家の3男であるフィルは体にある痣のせいで生まれたときから家族に疎まれていた…。
ある日突然そんなフィルに騎士副団長ギルとの結婚話が舞い込む。
前に一度だけ会ったことがあり、彼だけが自分に優しくしてくれた。そのためフィルは嬉しく思っていた。
だが、彼との結婚生活初日に言われてしまったのだ。
「君と結婚したのは断れなかったからだ。好きにしていろ。俺には構うな」
それでも彼から愛される日を夢見ていたが、最後には殺害されてしまう。しかし、起きたら時間が巻き戻っていた!
すれ違いBLです。
初めて話を書くので、至らない点もあるとは思いますがよろしくお願いします。
(誤字脱字や話にズレがあってもまあ初心者だからなと温かい目で見ていただけると助かります)

巻き戻りした悪役令息は最愛の人から離れて生きていく
藍沢真啓/庚あき
BL
婚約者ユリウスから断罪をされたアリステルは、ボロボロになった状態で廃教会で命を終えた……はずだった。
目覚めた時はユリウスと婚約したばかりの頃で、それならばとアリステルは自らユリウスと距離を置くことに決める。だが、なぜかユリウスはアリステルに構うようになり……
巻き戻りから人生をやり直す悪役令息の物語。
【感想のお返事について】
感想をくださりありがとうございます。
執筆を最優先させていただきますので、お返事についてはご容赦願います。
大切に読ませていただいてます。執筆の活力になっていますので、今後も感想いただければ幸いです。
他サイトでも公開中

【完結】テルの異世界転換紀?!転がり落ちたら世界が変わっていた。
カヨワイさつき
BL
小学生の頃両親が蒸発、その後親戚中をたらいまわしにされ住むところも失った田辺輝(たなべ てる)は毎日切り詰めた生活をしていた。複数のバイトしていたある日、コスプレ?した男と出会った。
異世界ファンタジー、そしてちょっぴりすれ違いの恋愛。
ドワーフ族に助けられ家族として過ごす"テル"。本当の両親は……。
そして、コスプレと思っていた男性は……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる