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11:殿下の調べ物
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3人での話し合いを終えた後、シルを部屋に送り届けた私はその足で図書室へ向かった。
本当は彼の傍に居たかったが、彼にも心の整理をする時間が必要だろう。何より、今の彼は私を求めていないような気がした。
まだ私は、彼の隣に居ない。それは酷く悲しい事だけど、いつか隣に寄り添える関係になれればと思う。
今は何より、彼の身を蝕む呪いについて調べなければ。
「…これと、これか。あぁ、これもだな」
我が国は魔術に長けた者が少ない。故に魔術書等は少なく、呪いに関しての本も少ない。
少ないながらも、研究をしている者が居る。この図書室は、そんな研究者達の論文を本にして纏めた物が置かれている場所だ。
普段は私や研究者達しか利用しない。だから部屋は狭く、机も小さい…だが、居心地はいい。
ペラリ、私が本を捲る音と時折書き物をする音だけが響く。
「…呪いを無効化する、聖魔術…?」
読み進めていた本の中に、気になる記述があった。聖魔術なんて、聞いたことが無い。
本を読み進めていくも、聖魔術について詳しい内容は殆ど書かれていなかった。選ばれし者しか使えない事、その選ばれし者は聖女や聖人などと呼ばれるという事。
聖魔術で国を祝福すると、その国はそれから数十年以上不幸が訪れないらしい。
そんな、夢物語のような話があるのだろうか。
「著者は、サーザンド…平民、か?」
本の最後のページに書かれていた名前は、家名が無い。平民だから家名がないのか、態と家名を伏せているのか。
どちらにせよ、この文献は調べてみる価値がありそうだ。幸いここの書物は持ち出し厳禁ではないので、シルにも読んでもらった方が良いかもしれない。
私よりシルの方が、魔術の知識が豊富だから。何か、聖魔術について心当たりがあるかもしれない。
他にも、サーザンドの書いた書物はないだろうか?
「……ふむ、あれだけか。サーザンドについても、調べてみた方が良さそうだな」
本棚の著者を全て見たが、同名の作者の本は見当たらなかった。
手がかりは、この一冊の本だけ。執筆日も刊行日も書いていないので、著者が生きているのかすら分からない。
本自体はそんなに古くないようではあるが、手入れがしっかりしているだけかもしれないしな。
一先ず、本の内容の裏付けを取ってからにしよう。不完全な情報で、シルを振り回したくない。
「…そうだ、髪飾り。今度、街にでも誘ってみるか…?」
ふと彼にあげたいプレゼントを思い出す。危険かもしれないが、護衛を増やせば大丈夫だろうか。
何より城に閉じこもりっぱなしでは、精神衛生上良くないだろう。シルの様子を見ながら、慎重に準備を進めよう。街の古い本屋なら、何か手掛かりがあるかもしれないし。
彼の心の負担が、少しでも軽くなるように。守ると誓ったのだから、身体だけではなく心も守ろう。
あの時は友と例えたが、シルはもう私の大切な…。
「…いや、止そう。今は負担を増やしたくない」
私の想いを伝え、受け入れてくれたらどれ程幸せだろう。
そうは思えど、彼の気持ちが私に傾いていないのならただただ負担になってしまう。それだけは、避けたい。
…いや、違うな。これはそんな、綺麗な感情じゃない。
「怖い、だけだな…はは、私とした事が、情けない」
ただ、怖い。彼に拒絶される事が。
シルに傷ついて欲しくない、心からそう思っている。だけど私は、今のこの関係を壊したくないとも思っている。
友を守る、それは私の逃げだ。本当は恋しい彼を、腕に閉じ込めてずっと傍で守っていたい。
この感情を知った時、シルはどうするのだろうか?
「隠さなければ、いけないよなぁ…」
口から漏れ出た自嘲混じりの笑い声が、部屋に虚しく響いていた。
本当は彼の傍に居たかったが、彼にも心の整理をする時間が必要だろう。何より、今の彼は私を求めていないような気がした。
まだ私は、彼の隣に居ない。それは酷く悲しい事だけど、いつか隣に寄り添える関係になれればと思う。
今は何より、彼の身を蝕む呪いについて調べなければ。
「…これと、これか。あぁ、これもだな」
我が国は魔術に長けた者が少ない。故に魔術書等は少なく、呪いに関しての本も少ない。
少ないながらも、研究をしている者が居る。この図書室は、そんな研究者達の論文を本にして纏めた物が置かれている場所だ。
普段は私や研究者達しか利用しない。だから部屋は狭く、机も小さい…だが、居心地はいい。
ペラリ、私が本を捲る音と時折書き物をする音だけが響く。
「…呪いを無効化する、聖魔術…?」
読み進めていた本の中に、気になる記述があった。聖魔術なんて、聞いたことが無い。
本を読み進めていくも、聖魔術について詳しい内容は殆ど書かれていなかった。選ばれし者しか使えない事、その選ばれし者は聖女や聖人などと呼ばれるという事。
聖魔術で国を祝福すると、その国はそれから数十年以上不幸が訪れないらしい。
そんな、夢物語のような話があるのだろうか。
「著者は、サーザンド…平民、か?」
本の最後のページに書かれていた名前は、家名が無い。平民だから家名がないのか、態と家名を伏せているのか。
どちらにせよ、この文献は調べてみる価値がありそうだ。幸いここの書物は持ち出し厳禁ではないので、シルにも読んでもらった方が良いかもしれない。
私よりシルの方が、魔術の知識が豊富だから。何か、聖魔術について心当たりがあるかもしれない。
他にも、サーザンドの書いた書物はないだろうか?
「……ふむ、あれだけか。サーザンドについても、調べてみた方が良さそうだな」
本棚の著者を全て見たが、同名の作者の本は見当たらなかった。
手がかりは、この一冊の本だけ。執筆日も刊行日も書いていないので、著者が生きているのかすら分からない。
本自体はそんなに古くないようではあるが、手入れがしっかりしているだけかもしれないしな。
一先ず、本の内容の裏付けを取ってからにしよう。不完全な情報で、シルを振り回したくない。
「…そうだ、髪飾り。今度、街にでも誘ってみるか…?」
ふと彼にあげたいプレゼントを思い出す。危険かもしれないが、護衛を増やせば大丈夫だろうか。
何より城に閉じこもりっぱなしでは、精神衛生上良くないだろう。シルの様子を見ながら、慎重に準備を進めよう。街の古い本屋なら、何か手掛かりがあるかもしれないし。
彼の心の負担が、少しでも軽くなるように。守ると誓ったのだから、身体だけではなく心も守ろう。
あの時は友と例えたが、シルはもう私の大切な…。
「…いや、止そう。今は負担を増やしたくない」
私の想いを伝え、受け入れてくれたらどれ程幸せだろう。
そうは思えど、彼の気持ちが私に傾いていないのならただただ負担になってしまう。それだけは、避けたい。
…いや、違うな。これはそんな、綺麗な感情じゃない。
「怖い、だけだな…はは、私とした事が、情けない」
ただ、怖い。彼に拒絶される事が。
シルに傷ついて欲しくない、心からそう思っている。だけど私は、今のこの関係を壊したくないとも思っている。
友を守る、それは私の逃げだ。本当は恋しい彼を、腕に閉じ込めてずっと傍で守っていたい。
この感情を知った時、シルはどうするのだろうか?
「隠さなければ、いけないよなぁ…」
口から漏れ出た自嘲混じりの笑い声が、部屋に虚しく響いていた。
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