満月に囚われる。

柴傘

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10:形見

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あの話し合いの後、俺は今暮らしている部屋へ戻りある物を探し始めた。

枕の下に隠すように置いていた小さな小箱。その箱をパカリと開くと、きらりと光る小さな指輪。
中心には、指輪のサイズに見合う透明な水晶が嵌め込まれていた。

この指輪は、俺を産んだ母が残した指輪だ。所謂、形見。

「…母上、どうか皆をお守り下さい」

両手でぎゅっと指輪を握り込み、祈る。小さい頃からの癖だ。

何かお願い事があれば、いつもこうして祈っていた。俺が生まれて直ぐに亡くなってしまった母が、俺に唯一残してくれた物。
母がどうにかしてくれるような気がしたから。ただ単に、寂しさを紛らわせたかっただけかもしれないけど。

それでも、祈らずにはいられなかった。

「……え?」

じわり、手の中の指輪が僅かに熱を放った気がした。驚いて素っ頓狂な声を上げ、慌てて指輪を確認する。

何も、変化はなかった。透明な水晶も、銀でできたリング部分もいつも通りのままだ。
きっと、俺が勘違いしたんだろう。強く握り込みすぎて、俺の体温が移ってしまっただけかもしれない。

呪いと聞いて、酷く不安に駆られた。それでも俺を守ろうとするアルフォンスとヴィンスに、申し訳なさと同時に恐怖が湧き上がった。
俺のせいで2人が傷付いてしまったら?2人だけじゃ無い。ザックにも危害が及んだら、どうしよう。

その気持ちを2人には話せなかった。これ以上心配かけさせたくなかった。

「…俺が、大人しく死んでしまえば」

そんな弱気な言葉さえ出てきてしまう。こんな気分が落ち込むなんて、可笑しい。

これも呪いの影響だろうか?それとも、単に気が滅入ってしまっているだけか。
はぁ、大きくため息を吐き出す。これ以上は良くない、どんどんマイナス思考に陥るだけだ。

俺は指輪を右手の小指に嵌め、ベッドの中へと潜り込んだ。

暗闇の中、右手を翳し指輪をじっと見つめる。母は、天国で俺の事を見守ってくれているだろうか?
そうだと、嬉しい。母の顔も声も知らないが、天で見守ってくれていると思うだけで少し心が軽くなる。

「おやすみなさい、母上」

静かな部屋に、俺の声が木霊する。そっと目を閉じれば、自然と眠気が襲ってきた。

うとうとと微睡んでいれば、ふわりと何かが髪に触れる。それはとても暖かくて、心の底から安心できる心地よさに溢れていた。
俺しかいない部屋の中で、それはおかしな事だけど。それを疑える程、俺の意識は残っていない。

『愛してるわ、シル…』

そんな優しい女性の声が、聞こえてきたような気がした。
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