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07:花祭り
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翌朝。俺とザック、アルフォンスはヴィンスが事前に用意しておいてくれた花祭りの伝統的な衣装に袖を通していた。
花祭りという名に相応しく、男性用ではあるが見事な花の刺繍が至る所に施されている。
服の基本的な色合いは深い藍色で、動きやすいように緩めのパンツスタイルだ。
見た事のない服に喜ぶザックは、昨日アルフォンスを罵った事はすっかり忘れているようだ。今は、アルフォンスと楽しそうに笑い合っている。
そこはまだ、子供でよかったと思う。ある程度大きくなっていたら、本当に取り返しのつかない事になっていた。
「おにーさま、おきれいです!」
「ありがとう、ザック。ザックもとても似合ってるよ」
「いえ、僕よりおにーさまのほうがずっとずーっときれいです!」
弟からの手放しの賛辞に、なんだか気恥ずかしい気持ちになる。
さっきから黙っているアルフォンスが気になって振り向けば、微笑ましそうに笑っていた。う、余計に恥ずかしいな。
こほん、一つ咳払いをしてその場を誤魔化そうとすると、軽いノックの後ヴィンスがひょこりと顔を出した。
深い藍色の生地が、ヴィンスの白銀の毛並みを引き立てている。同じ形の衣装のはずなのに、ヴィンスだけ異常に神々しく思えて仕方ない。
「3人とも、よく似合ってる。サイズは大丈夫そうか?もし苦しいところがあるなら言ってくれ」
「大丈夫、丁度良いよ…その、ヴィンスも似合ってるな」
「…あぁ、ありがとう」
何だかとても恥ずかしい。思わずふいと視線を逸らすと、アルフォンスとバチリと目が合った。
何処か揶揄うような意味ありげな視線に、カッと身体が熱くなる。それを誤魔化すように、足元にいたザックを抱き上げた。
俺に抱っこされて嬉しいのか、ザックは嬉しそうに笑っている。昨日すぐに打ち解けたヴィンスがザックの頭を撫でれば、一層嬉しそうな笑い声を上げた。
そんな様子を見て、アルフォンスが余計な一言を呟く。
「こうして見ると、3人はまるで親子みたいだね」
その言葉に、俺はつい慌てて否定してしまうのだった。
◇
「わぁ、すごい…花が降ってる」
陛下が祭りの開始を宣言し、花祭りが始まった。辺り一面に花が舞い、誰彼構わず踊っている。
花祭りとは、文字通りの花のお祭り。豊かな自然に感謝し、天に向かって綺麗な花々を捧げる為のお祭りだ。まぁ、それはあくまで体裁だけらしいけど。
実際は、平民も貴族も関係なく息抜きする日らしい。今日仕事をしているのは、警備の人や騎士団の人たちだけだという。その人たちも、花祭りの終了後に順番に休むそうだ。
俺の腕に抱かれているザックも、空から降り注ぐ花に大興奮だ。この分だと、今日は直ぐに昼寝をしそうだな。
「シル、気に入ってくれたか?」
「うん、勿論。凄く綺麗で、楽しい…ザックも喜んでるし、誘ってくれてありがとう」
「…いや、その。気晴らしになったなら、良かった」
照れたように目をそらすヴィンスが、何だか可愛く見えてしまう。
俺よりも頭一つ分ほど背が高くて、体つきも確りしてて、男の俺から見てもヴィンスはかっこいい。だけど凄く優しくて気遣いが出来るのに、少し照れ屋だ。
そのギャップが本当に可愛くて、自然と笑みがこぼれていく。出会った当初から、俺に心を砕いてくれている。
ヴィンスの隣は居心地が良い。だからこそ、離れなければと思う。
「…俺は、」
「ん?何か言ったか」
「ううん、何でもない…行こうか」
今はただ、この幸せな時間を楽しんでいたかった。
花祭りという名に相応しく、男性用ではあるが見事な花の刺繍が至る所に施されている。
服の基本的な色合いは深い藍色で、動きやすいように緩めのパンツスタイルだ。
見た事のない服に喜ぶザックは、昨日アルフォンスを罵った事はすっかり忘れているようだ。今は、アルフォンスと楽しそうに笑い合っている。
そこはまだ、子供でよかったと思う。ある程度大きくなっていたら、本当に取り返しのつかない事になっていた。
「おにーさま、おきれいです!」
「ありがとう、ザック。ザックもとても似合ってるよ」
「いえ、僕よりおにーさまのほうがずっとずーっときれいです!」
弟からの手放しの賛辞に、なんだか気恥ずかしい気持ちになる。
さっきから黙っているアルフォンスが気になって振り向けば、微笑ましそうに笑っていた。う、余計に恥ずかしいな。
こほん、一つ咳払いをしてその場を誤魔化そうとすると、軽いノックの後ヴィンスがひょこりと顔を出した。
深い藍色の生地が、ヴィンスの白銀の毛並みを引き立てている。同じ形の衣装のはずなのに、ヴィンスだけ異常に神々しく思えて仕方ない。
「3人とも、よく似合ってる。サイズは大丈夫そうか?もし苦しいところがあるなら言ってくれ」
「大丈夫、丁度良いよ…その、ヴィンスも似合ってるな」
「…あぁ、ありがとう」
何だかとても恥ずかしい。思わずふいと視線を逸らすと、アルフォンスとバチリと目が合った。
何処か揶揄うような意味ありげな視線に、カッと身体が熱くなる。それを誤魔化すように、足元にいたザックを抱き上げた。
俺に抱っこされて嬉しいのか、ザックは嬉しそうに笑っている。昨日すぐに打ち解けたヴィンスがザックの頭を撫でれば、一層嬉しそうな笑い声を上げた。
そんな様子を見て、アルフォンスが余計な一言を呟く。
「こうして見ると、3人はまるで親子みたいだね」
その言葉に、俺はつい慌てて否定してしまうのだった。
◇
「わぁ、すごい…花が降ってる」
陛下が祭りの開始を宣言し、花祭りが始まった。辺り一面に花が舞い、誰彼構わず踊っている。
花祭りとは、文字通りの花のお祭り。豊かな自然に感謝し、天に向かって綺麗な花々を捧げる為のお祭りだ。まぁ、それはあくまで体裁だけらしいけど。
実際は、平民も貴族も関係なく息抜きする日らしい。今日仕事をしているのは、警備の人や騎士団の人たちだけだという。その人たちも、花祭りの終了後に順番に休むそうだ。
俺の腕に抱かれているザックも、空から降り注ぐ花に大興奮だ。この分だと、今日は直ぐに昼寝をしそうだな。
「シル、気に入ってくれたか?」
「うん、勿論。凄く綺麗で、楽しい…ザックも喜んでるし、誘ってくれてありがとう」
「…いや、その。気晴らしになったなら、良かった」
照れたように目をそらすヴィンスが、何だか可愛く見えてしまう。
俺よりも頭一つ分ほど背が高くて、体つきも確りしてて、男の俺から見てもヴィンスはかっこいい。だけど凄く優しくて気遣いが出来るのに、少し照れ屋だ。
そのギャップが本当に可愛くて、自然と笑みがこぼれていく。出会った当初から、俺に心を砕いてくれている。
ヴィンスの隣は居心地が良い。だからこそ、離れなければと思う。
「…俺は、」
「ん?何か言ったか」
「ううん、何でもない…行こうか」
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