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05:はいけい、あにうえ
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「シル様、ザック様からお手紙来てますよ!」
そう嬉しそうに笑うレイモンド。彼が口にした名前に、俺も思わず心が躍る。
手紙を受け取り、差出人を確認する。そこには拙いながらも一生懸命な文字で、アイザック・ワングレイと書かれていた。
俺の義弟ザックこと、アイザック。今年で8歳になる。俺とザックは、腹違いの歳の離れた兄弟だ。父と同じ金髪に、義母そっくりな可愛らしい顔立ちと灰色の瞳。俺は良くも悪くも実の母にそっくりだから、ザックとあまり似ていない。
でもそんな俺に、ザックは良く懐いてくれていた。家を出る時も、酷く泣かれてしまった。
「手紙、なんて書いてあるんですか?」
「時候の挨拶…は、マナーの先生に書けって言われたんだろうな。あぁ、今すぐ会いたいって。ふふ、よっぽど俺が恋しいんだなぁ」
「そりゃあそうですよ。ザック様、誰よりも貴方の事が好きなんですから…知ってます?兄上と結婚するーってまだ言ってるんですよ」
「あはは、相変わらず熱烈だ」
レイモンドの言葉に思わず吹き出す。もっと小さい頃から俺と結婚するとは言っていたが、未だにそう思っていたなんて。
相変わらず可愛いなぁ、ザックは。俺もザックのことは好きだが、その内ちゃんと兄弟では結婚できないって教えてやらないとなぁ…あぁ、今すぐにでもザックに会いたい。これが俗うに言う、ホームシックというやつだろうか。
父には二度と会いたくないと思うのに、弟には会いたい。侯爵邸に帰りたくないのに、帰りたいと思ってしまう。
そんな矛盾した事をぐるぐると考えていれば、部屋の扉がノックされた。
「どうぞ…あぁ、ヴィンスか。どうかした?」
「シルに少し提案が…すまない、取り込み中だったか?」
俺の手元にある手紙を見て、ヴィンスは申し訳無さそうに耳を垂らした。表情は変わってないが、ヴィンスの感情は耳で分かる。
ゆるりと首を左右に振れば、今度はぴんと両耳が立った。そんな素直な姿に、ついつい笑みが溢れてしまう。
そんな俺に不思議そうに首を傾げながら、ヴィンスが部屋へと入ってきた。
「ご家族からの手紙か?随分、嬉しそうだ…あ、もしかして婚約者か?」
「家族からだよ、可愛い弟から。俺に会いたいんだって…此処に来る時も、凄く泣かれちゃってさ」
「あの時は、シル様からザック様を引き剥がすの大変でしたねぇ」
しみじみ、レイモンドが腕を組みながら当時の事を語る。
既に数週間が過ぎているが、まるで昨日の事のように思い出せる。怪獣の如く泣き喚くザックは、俺の腕にしがみついて離れようとしなかった。
それを必死に引き剥がそうとするメイドや執事達。ぎゃんぎゃん泣いていたザックはやがて疲れ果て、眠った隙を見計らって出発した。
逃げるように出てきてしまった事を、未だに後悔していたりする。あぁ、本当に今すぐ会いたい。
ザックの兄愛も強烈だが、俺の弟愛も中々のものだ。普段こそあまり口にはしないが、目に入れても痛くないと本気で思っていたりする。
だけどそろそろ、弟離れする頃合いかもなぁ…と思いつつ、出来る気はしないのだけど。
そんな俺たちに、ヴィンスは丁度いいとばかりに提案をしてくれた。
「そんなに会いたいのなら、招待すればいい。来月行われる花祭りに、シルの家族の招待を提案しようと思っていたんだ」
その言葉に、俺はすぐさま食いついたのだった。
そう嬉しそうに笑うレイモンド。彼が口にした名前に、俺も思わず心が躍る。
手紙を受け取り、差出人を確認する。そこには拙いながらも一生懸命な文字で、アイザック・ワングレイと書かれていた。
俺の義弟ザックこと、アイザック。今年で8歳になる。俺とザックは、腹違いの歳の離れた兄弟だ。父と同じ金髪に、義母そっくりな可愛らしい顔立ちと灰色の瞳。俺は良くも悪くも実の母にそっくりだから、ザックとあまり似ていない。
でもそんな俺に、ザックは良く懐いてくれていた。家を出る時も、酷く泣かれてしまった。
「手紙、なんて書いてあるんですか?」
「時候の挨拶…は、マナーの先生に書けって言われたんだろうな。あぁ、今すぐ会いたいって。ふふ、よっぽど俺が恋しいんだなぁ」
「そりゃあそうですよ。ザック様、誰よりも貴方の事が好きなんですから…知ってます?兄上と結婚するーってまだ言ってるんですよ」
「あはは、相変わらず熱烈だ」
レイモンドの言葉に思わず吹き出す。もっと小さい頃から俺と結婚するとは言っていたが、未だにそう思っていたなんて。
相変わらず可愛いなぁ、ザックは。俺もザックのことは好きだが、その内ちゃんと兄弟では結婚できないって教えてやらないとなぁ…あぁ、今すぐにでもザックに会いたい。これが俗うに言う、ホームシックというやつだろうか。
父には二度と会いたくないと思うのに、弟には会いたい。侯爵邸に帰りたくないのに、帰りたいと思ってしまう。
そんな矛盾した事をぐるぐると考えていれば、部屋の扉がノックされた。
「どうぞ…あぁ、ヴィンスか。どうかした?」
「シルに少し提案が…すまない、取り込み中だったか?」
俺の手元にある手紙を見て、ヴィンスは申し訳無さそうに耳を垂らした。表情は変わってないが、ヴィンスの感情は耳で分かる。
ゆるりと首を左右に振れば、今度はぴんと両耳が立った。そんな素直な姿に、ついつい笑みが溢れてしまう。
そんな俺に不思議そうに首を傾げながら、ヴィンスが部屋へと入ってきた。
「ご家族からの手紙か?随分、嬉しそうだ…あ、もしかして婚約者か?」
「家族からだよ、可愛い弟から。俺に会いたいんだって…此処に来る時も、凄く泣かれちゃってさ」
「あの時は、シル様からザック様を引き剥がすの大変でしたねぇ」
しみじみ、レイモンドが腕を組みながら当時の事を語る。
既に数週間が過ぎているが、まるで昨日の事のように思い出せる。怪獣の如く泣き喚くザックは、俺の腕にしがみついて離れようとしなかった。
それを必死に引き剥がそうとするメイドや執事達。ぎゃんぎゃん泣いていたザックはやがて疲れ果て、眠った隙を見計らって出発した。
逃げるように出てきてしまった事を、未だに後悔していたりする。あぁ、本当に今すぐ会いたい。
ザックの兄愛も強烈だが、俺の弟愛も中々のものだ。普段こそあまり口にはしないが、目に入れても痛くないと本気で思っていたりする。
だけどそろそろ、弟離れする頃合いかもなぁ…と思いつつ、出来る気はしないのだけど。
そんな俺たちに、ヴィンスは丁度いいとばかりに提案をしてくれた。
「そんなに会いたいのなら、招待すればいい。来月行われる花祭りに、シルの家族の招待を提案しようと思っていたんだ」
その言葉に、俺はすぐさま食いついたのだった。
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