1 / 48
00:あ、俺悪役じゃん。
しおりを挟む
「僕は、彼と幸せになる」
俺の瞳を真っ直ぐ見つめる双眸は、その真剣さを物語っていた。悔しい、その一言が俺の頭の中を埋め尽くす。
彼に選ばれたかった、彼の唯一になりたかった。その気持ちは今も変わらない。あの日彼に告げた愛の言葉は、一言一句嘘偽りのないものだった。
なのになんだろう、この軽さは。肩の荷が下りたというか、酷く苦しい呪いから開放された気分だ。
それと同時に、今までの己の行いが非常に醜い物だと自覚する。俺はなんて、酷い事を。
「…アルフォンス、俺」
出した声は震えていた。あぁ、罪悪感で心が押し潰されてしまいそうだ。
俺は彼に何をした?告白を受け入れて貰えないからと賊を雇って誘拐し、その後手篭めにしようとした。
彼の誘拐に気づいた第一王子が俺を殴って止めてくれたから大事はなかったものの、彼は酷く傷ついたはずだ。怖かっただろう、屈辱だっただろう。俺は、投獄されても可笑しくないことをしてしまった。
なのに彼は、示談にした。この事件に関わった者皆に口止めをし、無かった事にした。
「…すまなかった、アルフォンス。今までの行い全て、謝罪する。」
「え、」
俺は勢い良く頭を下げた。その行動が予想外だったのか、気の抜けた声が聞こえてくる。
彼はきっと、俺が逆上すると思っていたんだろう。だから隣には、彼の一番の味方である第一王子が控えている。
万が一俺が、剣を抜いてしまった時に即時行動できるように。部屋の外にはきっと、第一王子に仕えている騎士達が何名も控えているはずだ。
ゆっくりと顔を上げる。驚いた様子のアルフォンスは、次第にその表情を花の様に綻ばせた。その光景は、何処か…。
「……え、?」
そんな間抜けな声を出してしまう。俺は今、何て考えた?
この光景に見覚えがあると、本気で。そんな訳がない。こんな事、二度もあってたまるか。
アルフォンスの本心を聞いたのも、今までの行いを悔いたのも、その事を心の底から謝罪したのも…全部、初めての筈だった。なのにやはり、見覚えがある。
この後第一王子はきっと、俺を隣国へ売り飛ばす。そんな事分からない筈なのに、そう確信している。
「シルティア・ワングレイ侯爵令息、君がアルフォンスにしてきた事は本来罰さなければならない。だが彼は、そんな事はしなくて良いという…彼の慈悲に感謝するんだな。それに丁度、ユースチス国の王から魔術に長けた者を王弟殿下の教育係として借り受けたいとの申し出があった所だ」
王子の台詞にも、見覚えがある。聞き覚えではなく、見覚えが。何だろうか、この違和感は…まるで、物語の世界に直接入り込んでしまっているような。
そう思った瞬間、ずきりと頭が酷く痛んだ。それと同時に、膨大な量の誰かの記憶が流れ込んでくる。
知らない、誰だこの男は。聞いたことない、日本という島国だなんて。だけど確かにそれは事実で、可笑しい筈なのに自然と受け入れてしまっている自分も居る。
知らない言語に、知らない土地。知らない記憶の一部に、良く知っている世界の物語。
「恐らくだが、教育係として君は近日隣国へ送られる…これを罰として受け入れ、励むことだ」
「…畏まりました」
俺、悪役じゃん!そう叫びたい衝動をぐっと堪え、第一王子とアルフォンスに向かって恭しく礼をした。
俺の瞳を真っ直ぐ見つめる双眸は、その真剣さを物語っていた。悔しい、その一言が俺の頭の中を埋め尽くす。
彼に選ばれたかった、彼の唯一になりたかった。その気持ちは今も変わらない。あの日彼に告げた愛の言葉は、一言一句嘘偽りのないものだった。
なのになんだろう、この軽さは。肩の荷が下りたというか、酷く苦しい呪いから開放された気分だ。
それと同時に、今までの己の行いが非常に醜い物だと自覚する。俺はなんて、酷い事を。
「…アルフォンス、俺」
出した声は震えていた。あぁ、罪悪感で心が押し潰されてしまいそうだ。
俺は彼に何をした?告白を受け入れて貰えないからと賊を雇って誘拐し、その後手篭めにしようとした。
彼の誘拐に気づいた第一王子が俺を殴って止めてくれたから大事はなかったものの、彼は酷く傷ついたはずだ。怖かっただろう、屈辱だっただろう。俺は、投獄されても可笑しくないことをしてしまった。
なのに彼は、示談にした。この事件に関わった者皆に口止めをし、無かった事にした。
「…すまなかった、アルフォンス。今までの行い全て、謝罪する。」
「え、」
俺は勢い良く頭を下げた。その行動が予想外だったのか、気の抜けた声が聞こえてくる。
彼はきっと、俺が逆上すると思っていたんだろう。だから隣には、彼の一番の味方である第一王子が控えている。
万が一俺が、剣を抜いてしまった時に即時行動できるように。部屋の外にはきっと、第一王子に仕えている騎士達が何名も控えているはずだ。
ゆっくりと顔を上げる。驚いた様子のアルフォンスは、次第にその表情を花の様に綻ばせた。その光景は、何処か…。
「……え、?」
そんな間抜けな声を出してしまう。俺は今、何て考えた?
この光景に見覚えがあると、本気で。そんな訳がない。こんな事、二度もあってたまるか。
アルフォンスの本心を聞いたのも、今までの行いを悔いたのも、その事を心の底から謝罪したのも…全部、初めての筈だった。なのにやはり、見覚えがある。
この後第一王子はきっと、俺を隣国へ売り飛ばす。そんな事分からない筈なのに、そう確信している。
「シルティア・ワングレイ侯爵令息、君がアルフォンスにしてきた事は本来罰さなければならない。だが彼は、そんな事はしなくて良いという…彼の慈悲に感謝するんだな。それに丁度、ユースチス国の王から魔術に長けた者を王弟殿下の教育係として借り受けたいとの申し出があった所だ」
王子の台詞にも、見覚えがある。聞き覚えではなく、見覚えが。何だろうか、この違和感は…まるで、物語の世界に直接入り込んでしまっているような。
そう思った瞬間、ずきりと頭が酷く痛んだ。それと同時に、膨大な量の誰かの記憶が流れ込んでくる。
知らない、誰だこの男は。聞いたことない、日本という島国だなんて。だけど確かにそれは事実で、可笑しい筈なのに自然と受け入れてしまっている自分も居る。
知らない言語に、知らない土地。知らない記憶の一部に、良く知っている世界の物語。
「恐らくだが、教育係として君は近日隣国へ送られる…これを罰として受け入れ、励むことだ」
「…畏まりました」
俺、悪役じゃん!そう叫びたい衝動をぐっと堪え、第一王子とアルフォンスに向かって恭しく礼をした。
73
お気に入りに追加
197
あなたにおすすめの小説
気づいたら周りの皆が僕を溺愛していた
しののめ
BL
クーレル侯爵家に末っ子として生まれたノエル・クーレルがなんだかんだあって、兄×2や学園の友達etc…に溺愛される???
家庭環境複雑だけれど、皆に愛されながら毎日を必死に生きる、ノエルの物語です。
R表現の際には※をつけさせて頂きます。当分は無い予定です。
現在文章の大工事中です。複数表現を改める、大きくシーンの描写を改める箇所があると思います。当時は時間が取れず以降の投稿が出来ませんでしたが、現在まで多くの方に閲覧頂いている為、改稿が終わり次第完結までの展開を書き進めようと思っております。閲覧ありがとうございます。
(第1章の改稿が完了しました。2024/11/17)
(第2章の改稿が完了しました。2024/12/18)
囚われた元王は逃げ出せない
スノウ
BL
異世界からひょっこり召喚されてまさか国王!?でも人柄が良く周りに助けられながら10年もの間、国王に準じていた
そうあの日までは
忠誠を誓ったはずの仲間に王位を剥奪され次々と手篭めに
なんで俺にこんな事を
「国王でないならもう俺のものだ」
「僕をあなたの側にずっといさせて」
「私の国の王妃にならないか」
いやいや、みんな何いってんの?
新しい道を歩み始めた貴方へ
mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。
そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。
その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。
あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。
あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?
※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。
普通の学生だった僕に男しかいない世界は無理です。帰らせて。
かーにゅ
BL
「君は死にました」
「…はい?」
「死にました。テンプレのトラックばーんで死にました」
「…てんぷれ」
「てことで転生させます」
「どこも『てことで』じゃないと思います。…誰ですか」
BLは軽い…と思います。というかあんまりわかんないので年齢制限のどこまで攻めるか…。
僕だけの番
五珠 izumi
BL
人族、魔人族、獣人族が住む世界。
その中の獣人族にだけ存在する番。
でも、番には滅多に出会うことはないと言われていた。
僕は鳥の獣人で、いつの日か番に出会うことを夢見ていた。だから、これまで誰も好きにならず恋もしてこなかった。
それほどまでに求めていた番に、バイト中めぐり逢えたんだけれど。
出会った番は同性で『番』を認知できない人族だった。
そのうえ、彼には恋人もいて……。
後半、少し百合要素も含みます。苦手な方はお気をつけ下さい。
あなたの隣で初めての恋を知る
ななもりあや
BL
5歳のときバス事故で両親を失った四季。足に大怪我を負い車椅子での生活を余儀なくされる。しらさぎが丘養護施設で育ち、高校卒業後、施設を出て一人暮らしをはじめる。
その日暮らしの苦しい生活でも決して明るさを失わない四季。
そんなある日、突然の雷雨に身の危険を感じ、雨宿りするためにあるマンションの駐車場に避難する四季。そこで、運命の出会いをすることに。
一回りも年上の彼に一目惚れされ溺愛される四季。
初めての恋に戸惑いつつも四季は、やがて彼を愛するようになる。
表紙絵は絵師のkaworineさんに描いていただきました。
傷だらけの僕は空をみる
猫谷 一禾
BL
傷を負った少年は日々をただ淡々と暮らしていく。
生を終えるまで、時を過ぎるのを暗い瞳で過ごす。
諦めた雰囲気の少年に声をかける男は軽い雰囲気の騎士団副団長。
身体と心に傷を負った少年が愛を知り、愛に満たされた幸せを掴むまでの物語。
ハッピーエンドです。
若干の胸くそが出てきます。
ちょっと痛い表現出てくるかもです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる