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えくすとらすてーじ
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『カナタ、未来永劫君だけを愛している』
そんな、優しい声が聞こえた気がした。
いつも通りの授業に、友人とのやり取り。変わり映えしない帰り道。
特に何の変哲もない日だった。強いて言うなら、不思議な声を聞いた事くらいか。
夕焼けがやけに綺麗で、いつも見ている筈なのに初めて見る景色のようで。
あの声を聞いた後から、世界がぐるっと変わった気がする。いや、絶対変わってなんかいやしないけど、でもやっぱり変わった。
色が鮮やかになった。鮮烈なオレンジも、木々を彩る緑も。全てが綺麗に色づいた。
まるで今までがモノクロだったみたいだ。何かが絶対的に足りなくて、俺はずっとそれを探していて。
フラフラ、足が赴くまま入った事もない道を通る。
知らない路地裏を通って、階段を降りて下って。気がつけば、蔦や苔まみれのくすんだ鳥居の前に立っていた。
その奥に見える階段も古ぼけている。でも、この先に行かなきゃいけない気がした。
「…行かなきゃ」
ぽつり、無意識に呟く。この神社の何が俺を駆り立てると言うんだろうか。
学生鞄を持ち直し、脆くなった階段を少しずつ進む。綺麗な夕焼けはいつの間にか夜空へと変わっていて、キラキラと星が煌めいていた。
僅かに上がった息を整え、最後の一段を登り切る。
見えたのは、一人の男性とぼろいお社。彼は俺の存在を察知したかのように振り返る。
「…ぁ、」
俺の口から、小さな声が漏れ出る。殆ど本能的に漏れ出た声だ。
瞬間、目まぐるしい記憶が脳内を駆け巡る。突然異世界に飛ばされ、魔王に出会い、愛されて。
穏やかな日常、幸せな空気…少し天然で暴走気味な彼は、俺を慈愛に満ちた眼差しで見送ってくれた。
彼のルビーのような瞳と視線が交わる。気付けば俺は、ボロボロと涙を流していた。
「なっ…どうした、どこか怪我でもしたのか…?」
慌てて駆け寄ってきた彼は、相変わらず天然を発揮していた。そんな姿に安心して、少しだけ笑えてくる。
俺は、彼を置いてきてしまった。彼は、どれだけ悲しかっただろう。見送る者の辛さは、きっと俺にはまだ分からない。
だけど彼は、追いかけてきてくれた。どうやったのかは分からないけど、けどきっととても難しかったはずだ。成功率だって、ゼロに近かったのかもしれない。
でも、来てくれた。彼は今、本当にここにいる。触れ合う距離に、居てくれる。
「…へへ。大好き、オリオン」
「私も愛してるよ、カナタ。もう一度私と生きててくれるか?」
「うん、喜んで。今度は俺が看取ってあげるね」
「ほう、ならうんと長生きしないとな」
そう言いながら近づいて来た彼の唇を受け入れる。空には、オリオン座が光り輝いていた。
そんな、優しい声が聞こえた気がした。
いつも通りの授業に、友人とのやり取り。変わり映えしない帰り道。
特に何の変哲もない日だった。強いて言うなら、不思議な声を聞いた事くらいか。
夕焼けがやけに綺麗で、いつも見ている筈なのに初めて見る景色のようで。
あの声を聞いた後から、世界がぐるっと変わった気がする。いや、絶対変わってなんかいやしないけど、でもやっぱり変わった。
色が鮮やかになった。鮮烈なオレンジも、木々を彩る緑も。全てが綺麗に色づいた。
まるで今までがモノクロだったみたいだ。何かが絶対的に足りなくて、俺はずっとそれを探していて。
フラフラ、足が赴くまま入った事もない道を通る。
知らない路地裏を通って、階段を降りて下って。気がつけば、蔦や苔まみれのくすんだ鳥居の前に立っていた。
その奥に見える階段も古ぼけている。でも、この先に行かなきゃいけない気がした。
「…行かなきゃ」
ぽつり、無意識に呟く。この神社の何が俺を駆り立てると言うんだろうか。
学生鞄を持ち直し、脆くなった階段を少しずつ進む。綺麗な夕焼けはいつの間にか夜空へと変わっていて、キラキラと星が煌めいていた。
僅かに上がった息を整え、最後の一段を登り切る。
見えたのは、一人の男性とぼろいお社。彼は俺の存在を察知したかのように振り返る。
「…ぁ、」
俺の口から、小さな声が漏れ出る。殆ど本能的に漏れ出た声だ。
瞬間、目まぐるしい記憶が脳内を駆け巡る。突然異世界に飛ばされ、魔王に出会い、愛されて。
穏やかな日常、幸せな空気…少し天然で暴走気味な彼は、俺を慈愛に満ちた眼差しで見送ってくれた。
彼のルビーのような瞳と視線が交わる。気付けば俺は、ボロボロと涙を流していた。
「なっ…どうした、どこか怪我でもしたのか…?」
慌てて駆け寄ってきた彼は、相変わらず天然を発揮していた。そんな姿に安心して、少しだけ笑えてくる。
俺は、彼を置いてきてしまった。彼は、どれだけ悲しかっただろう。見送る者の辛さは、きっと俺にはまだ分からない。
だけど彼は、追いかけてきてくれた。どうやったのかは分からないけど、けどきっととても難しかったはずだ。成功率だって、ゼロに近かったのかもしれない。
でも、来てくれた。彼は今、本当にここにいる。触れ合う距離に、居てくれる。
「…へへ。大好き、オリオン」
「私も愛してるよ、カナタ。もう一度私と生きててくれるか?」
「うん、喜んで。今度は俺が看取ってあげるね」
「ほう、ならうんと長生きしないとな」
そう言いながら近づいて来た彼の唇を受け入れる。空には、オリオン座が光り輝いていた。
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