上 下
40 / 62

青髪の山姥とその母親にからまれました

しおりを挟む
翌日はお休みだった。朝食はこの部屋で準備してもらった。食べるや否や、母は早速王妃様に呼びつけられていた。

結局、昨日はあの後、母らの昔談義が始まってあっという間に私たちは蚊帳の外になってたのだ。手持無沙汰になった陛下と父は何故か仕事の話を二人で始めた。私達子供四人は固まって、どうしようもない、母親たちに呆れていたのだ。

結局、タチアナの父の公爵閣下が迎えに来るまでこのカオスな状態は続いたのだった。



私は休みの今日王宮でどうしようかと悩んでいると、いきなり女官が私と弟を王妃様の所に呼びに来たのだ。


私達は女官に連れられて、渡り廊下を歩いていると、前方の渡り廊下の溜まり場に着飾った令嬢が侍女を連れて立っているのが見えた。

その青髪は、一番会いたくない山姥だった。
一人だったら逃げ出したんだけど、ここは弟も侍女もいる。逃げようは無かった。

「あーら、平民風情が何故王宮になんかいるのかしら?」
心底不思議そうに山姥は言ってくれたのだ。
こいつ、弟の前でよくも。いつもは生意気な弟だが、その弟の前で赤の他人に、威張られる筋合いは無かった。

「エルダー、知らない人に会った時は、まず、挨拶しなければならないのよ。こんな礼儀知らずの令嬢になってはいけないわよ」
そう言うと私は弟に対して微笑みかけたのだ。

「な、何ですって!」
山姥はきっとしてこちらを睨み付けてきた。
弟はぎょっとしてこちらを見たが、私が微笑みかけたのを見て、諦めたみたいだ。

「本当だね。姉さん。お貴族様の中にも礼儀作法が出来ない人がいるんだね」
「な、な、あんた達、侯爵令嬢の私の前でよくも、そんな失礼な事が言えたわね」
山姥が青髪を逆立てて、吠えたてて来たのだ。

まあ、別に私は怖い事無いけど。何しろ私の親友が公爵令嬢だし、友人が王子殿下だ。母親は悪魔の三つ子だし。

私がびくともした様子がないので山姥は、焦ったみたいだった。 イライラしていたが急遽救いの神を見たように、私の後ろを振り向いたのだった。

「お母様!」
後ろを振り返ると、お貴族様の着飾った10人くらいのおば様軍団がこちらに向かって来るところだった。

げっ、あれはテレシア様と王妃様が目の敵にしているトゥーナ侯爵婦人だろう。確か男やもめの侯爵の後妻に入ったとかいう。
顔の化粧はいかにもケバケバしかった。衣装も原色をこれでもかと取り揃えた、派手な衣装だったのだ。

さすが、山姥の母、センスがない!
本人が聞いたら、確実に切れそうな事を私は思った。

「ちょっとお母様、遅いじゃない!」
「ごめんなさいね! 折角集まったので、昔話に花が咲いて」
「本当にもう!」

私達は目立たないように、横に避けたのだ。目立たないように!

でも、そんな私達を山姥が許すわけもなく、

「お母様、あちらが、今、王太子殿下を、色香で誑かしている、平民の女よ」
「まあ、そうなの? そこのあなた、私が今から、王妃様に拝謁しに行くと、妃殿下にお伝えしに行って頂けるかしら」
原色お化けは、私達に付いた女官に声をかけた。

「しかし・・・・」
「あなた、私に逆らうわけ?」
「い、いえ」
女官は慌てて、立ち去ったのだ。

ちょっと、私達を見捨てないでよ!
私の心の声は全く聞こえなかったみたいだった。

「でも、ステファニー! この平民の子、色香って、そんなのあるの?」
馬鹿にしたように原色お化けが見下した。

「ほんとですわ、着ている服も貧しいものですし」
「本当にみすぼらしいですわ」
「どこの乞食が歩いているのかと思いましたわ」
取り巻き達が口々に言う。

弟がムッとして何か言おうとしたのを私が止める。さすがに侯爵夫人と争うのは不味い。ここまでは私も理性があったのだ。

「それに全然胸が無いんだけど、こんな胸じゃ、殿下どころか、その辺の乞食にすら相手にされないんじゃないの?」
私はその原色お化けの言葉に、完全に切れてしまったのだった。
弟が慌てて止めようとしてくれたが、間に合わなかった。

「エルダー! ここは、皆の憧れの王宮で、センスのある方々しか、いないと思っていたけど、いつからお化け屋敷になったのかしら?」
私は無いと言われた胸を張って言ってやったのだった。

弟はさすがにぎょっとして
「姉さん、お化けって」
「そこのおばさん、皆さま方に見せられないほど酷いのか、元の顔形が変わってしまう程、化粧をしているし、着ている服がセンスの欠片もない原色お化けじゃない」
胸について言われた私は切れていたのだ。

「何ですって!」
原色お化けは私の言葉に切れた。
「あなた平民の分際で、よりにもよって侯爵夫人の私をお化けですって!」
原色お化けがつかつかと歩いて来た。

ヤバい、これは本当に怒らせたかも!
私は少し焦ったがこうなったら、もうどうにでもなれって感じだ。

原色お化けがあろうことか手を振り上げたのだ。

ひっぱたかれる!私は衝撃に耐えようとしたのだ。

しかし、

パシン

と言う音と共に張られたのは、私を庇って前に出た弟だった。

私はそれを見て更に切れてしまった。

「あんた良くも私の弟に!」
もう私は切れていたのだ。普通なら絶対にこんな事はしなかったのに、水魔術を侯爵夫人に向けて放っていたのだ。

しかし、私のノーコン魔術で当たるわけもなく、

ドバッ

と大量の水を浴びたのは、原色お化けの付き添いの取り巻き達と山姥だった。

ええええ! 関係ない奴らを巻き込んでしまった!

もっとも取り巻きしている段階で、無関係ではなかったけど!

でも次の瞬間、その原色お化けも、何故か、私の放った水量の何十倍もの水をぶっ被っていたのだ!

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】ある日突然透明人間になった伯爵令嬢は、国一番のイケメン騎士に溺愛される

細木あすか(休止中)
恋愛
私の住む国ラフザールには、昔から稀に異術を持つ人間が生まれる。生まれながらにして持っている人、成長につれて宿す人の2パターンでそれは発覚するらしい。 私の妹は、後者だった。突然なんの前触れもなく、身体が光って異術を宿したの。 それまでは、お父様とお母様に与えられる優しさを目一杯受けて幸せだったわ。なのに、その生活は妹が異術を宿したことによって一転する。 今まで本邸の1人部屋に居た私は、使用人が寝泊まりする別邸に押し込められてまるで透明人間にでもなったかのような扱いをされるようになった。食事や服装も、使用人レベルのものしかない。 「せめて親孝行しなさい」と渡されたお仕事を別邸で黙々とこなす私は、成人になったら王宮で住み込み司書をすると決めている。 その夢に向かって前向きに努力する日々を送る中、ある1通の宛先不明の手紙を受け取った。 これは、ある日突然家族に愛されなくなった伯爵令嬢が、国でもっとも人気のある軍人に溺愛されていくお話。 ※基本毎日投稿 ※10万字完結予定でしたが15万字完結目指しますと思ったのに、20万字行きそうで震えています…

転生したら地味ダサ令嬢でしたが王子様に助けられて何故か執着されました

古里@3巻電子書籍化『王子に婚約破棄され
恋愛
皆様の応援のおかげでHOT女性向けランキング第7位獲得しました。 前世病弱だったニーナは転生したら周りから地味でダサいとバカにされる令嬢(もっとも平民)になっていた。「王女様とか公爵令嬢に転生したかった」と祖母に愚痴ったら叱られた。そんなニーナが祖母が死んで冒険者崩れに襲われた時に助けてくれたのが、ウィルと呼ばれる貴公子だった。 恋に落ちたニーナだが、平民の自分が二度と会うことはないだろうと思ったのも、束の間。魔法が使えることがバレて、晴れて貴族がいっぱいいる王立学園に入ることに! しかし、そこにはウィルはいなかったけれど、何故か生徒会長ら高位貴族に絡まれて学園生活を送ることに…… 見た目は地味ダサ、でも、行動力はピカ一の地味ダサ令嬢の巻き起こす波乱万丈学園恋愛物語の始まりです!? 小説家になろうでも公開しています。 第9回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作品

婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。

束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。 だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。 そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。 全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。 気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。 そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。 すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結】悪役令嬢の妹に転生しちゃったけど推しはお姉様だから全力で断罪破滅から守らせていただきます!

くま
恋愛
え?死ぬ間際に前世の記憶が戻った、マリア。 ここは前世でハマった乙女ゲームの世界だった。 マリアが一番好きなキャラクターは悪役令嬢のマリエ! 悪役令嬢マリエの妹として転生したマリアは、姉マリエを守ろうと空回り。王子や執事、騎士などはマリアにアプローチするものの、まったく鈍感でアホな主人公に周りは振り回されるばかり。 少しずつ成長をしていくなか、残念ヒロインちゃんが現る!! ほんの少しシリアスもある!かもです。 気ままに書いてますので誤字脱字ありましたら、すいませんっ。 月に一回、二回ほどゆっくりペースで更新です(*≧∀≦*)

申し訳ないけど、悪役令嬢から足を洗らわせてもらうよ!

甘寧
恋愛
この世界が小説の世界だと気づいたのは、5歳の頃だった。 その日、二つ年上の兄と水遊びをしていて、足を滑らせ溺れた。 その拍子に前世の記憶が凄まじい勢いで頭に入ってきた。 前世の私は東雲菜知という名の、極道だった。 父親の後を継ぎ、東雲組の頭として奮闘していたところ、組同士の抗争に巻き込まれ32年の生涯を終えた。 そしてここは、その当時読んでいた小説「愛は貴方のために~カナリヤが望む愛のカタチ~」の世界らしい。 組の頭が恋愛小説を読んでるなんてバレないよう、コソコソ隠れて読んだものだ。 この小説の中のミレーナは、とんだ悪役令嬢で学園に入学すると、皆に好かれているヒロインのカナリヤを妬み、とことん虐め、傷ものにさせようと刺客を送り込むなど、非道の限りを尽くし断罪され死刑にされる。 その悪役令嬢、ミレーナ・セルヴィロが今の私だ。 ──カタギの人間に手を出しちゃ、いけないねぇ。 昔の記憶が戻った以上、原作のようにはさせない。 原作を無理やり変えるんだ、もしかしたらヒロインがハッピーエンドにならないかもしれない。 それでも、私は悪役令嬢から足を洗う。 小説家になろうでも連載してます。 ※短編予定でしたが、長編に変更します。

目が覚めたら夫と子供がいました

青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。 1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。 「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」 「…あなた誰?」 16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。 シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。 そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。 なろう様でも同時掲載しています。

宮廷外交官の天才令嬢、王子に愛想をつかれて婚約破棄されたあげく、実家まで追放されてケダモノ男爵に読み書きを教えることになりました

悠木真帆
恋愛
子爵令嬢のシャルティナ・ルーリックは宮廷外交官として日々忙しくはたらく毎日。 クールな見た目と頭の回転の速さからついたあだ名は氷の令嬢。 婚約者である王子カイル・ドルトラードを長らくほったらかしてしまうほど仕事に没頭していた。 そんなある日の夜会でシャルティナは王子から婚約破棄を宣言されてしまう。 そしてそのとなりには見知らぬ令嬢が⋯⋯ 王子の婚約者ではなくなった途端、シャルティナは宮廷外交官の立場まで失い、見かねた父の強引な勧めで冒険者あがりの男爵のところへ行くことになる。 シャルティナは宮廷外交官の実績を活かして辣腕を振るおうと張り切るが、男爵から命じられた任務は男爵に文字の読み書きを教えることだった⋯⋯

処理中です...