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帝国第三皇子視点4 パティが夢にまで見たピンクの君だと判りました

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いくら考えても、俺はパティという子があのピンクの君なのかどうか確信が持てなかった。

しかし、信じられないことに、彼女は古代竜の子供をペットとして育てているのだ。普通の人間に出来ることではなかった。

それに、侯爵家の嫡男のブラッドが、その男爵令嬢でしかないパティのことをやたら構っているのが気になった。古くからある侯爵家のローズとの婚約を解消してまで、気にかけるなんてことは普通はあり得ないことなのだ。

その上、調べたところでは、あの帝国一の問題児マチルダも、わざわざこの国に来てパティに会うためだけに俺と婚約したというのだ。

その点を鑑みるとパティは限りなくピンクの君だった。

でも、あいつにらはどこでパティと接点があったんだろう?
ブラッドはローズのところでパティが働いていた関係で知り得たのかもしれないが、マチルダなんて会ったことも無いはずだった。
判らないことだらけだった。


そのパティだが、あろうことかマチルダと一緒になって、入学式をいきなりぶっちしてくれたのだ。
俺には信じられなかった。
その放課後、職員室に二人が担任に呼ばれたと聞いたので、気になるブラッドと一緒に見に行ったのだ。

「先生。申し訳ありませんが、私、帝国の皇帝陛下からは二度と式典に出なくて良いとお許しをもらっておりますの」
そこで鼻高々とマチルダが自慢するんだけど、あまりにも悪戯が酷いから、もう二度と出てくるなと皇帝から言われたはずだ。許してもらったってそれは違うだろう!
そのままパティの方をマチルダが見るんだけど。

「まあ、先生。おそらく、陛下はマチルダさんが出ない方が帝国の他の貴族の方々のためになると思われたのでは」
なんとマチルダの侍女になったパティという少女は、マチルダの本質を知っていた。でも、マチルダの前でそんな事言っても良いのか? 

でも、いつもは怒り出す我儘お嬢様のマチルダが、何故か静かだ。何故だ?
それに、このパティという少女はやたらマチルダにも馴れ馴れしいのだ。ブラッドに対しても感じたが、この子は男爵令嬢という身分の割にはこの二人に対して態度がでかい。俺から見るとあたかもパティがピンクの君だから、対等に話すのを二人が許しているように見えるんだが。

「ちょっと、パティ、どういう事よ?」
文句を言っても口調がまだ大人しいのだ。

「じゃあ、何故、陛下がそう言われたの?」
マチルダの怒りにもパティは同級生のように話しているし。
まあ、たしかにパティとマチルダは同級生でクラスメイトだが、マチルダは帝国の公爵家の令嬢なのだ。校則では皆平等を謳っているが、そんなのは建前のはずだ。
でも、そんなのはお構いなしにパティは話しているのだ。


「陛下はお優しいから、私の美貌に免じて許して頂けたのよ」
マチルダは言い切ったが、帝国貴族なら、絶対にそんな言葉を信じない。

俺はこれには吹き出した。そんな訳はない。

「宰相のかつらをみんなの前で釣り上げたんだよ」
思わず正直にバラしてしまったのだ。

「えっ? 本当に!」
パティはまじまじとマチルダを見ている。知らなかったんだ。帝国では有名なのに!

「ちょっとジル、何をバラしてくれるのよ」
ムッとしてマチルダが言うんだけど。

「ごめん、陰で見ていたら、君がとんでもないことを言っていたから」
「何を言っているのよ。皇帝陛下は私の美貌に……」
「スキンヘッドの子爵の頭に禿げって落書きしたり、髪の毛があと一本しか無かった、侯爵の最後の一本を引き抜いたり、王妃様の事を着飾ったお化けと呼んでみたり……」
俺はふざけたことを言うマチルダに、思わずペラペラとバラしていたのだ。

「判りました。マチルダさんの帝国でのご活躍が良く判りました。いかに、帝国では皇帝陛下のお許しがあろうが、ここはリーズ王国の王立学園です。王立学園には王立学園のやり方があるのです」
担任の先生はきっとして言い切ったのだ。このマチルダ相手に言い切るなんて凄いと俺は思った。

「そうなのですね。さすが王国は違いますわ。進んでいらっしゃるのですね。我が帝国では、道徳を重んじておりまして、公衆の面前で王族の方と侯爵令嬢が愛を語り合って抱き合うなんてことは、絶対に許されませんのに。私は白昼堂々の逢引きの現場に遭遇するなどという人生初めての経験にの動揺してしまって、外でその動揺を鎮めないといけない羽目に陥りましたのに!」
だがマチルダはその上手を行く。

「ちょっと、私達は逢引きなどしていないわ」
「そうだ。マチルダ嬢。私はローズ嬢と愛を語り合うなんてことはしていないぞ」
おいおい、マチルダのペースにはまっているぞ。俺はこの二人が可哀想になった。やっぱり王国の人間ではマチルダには勝てまい。

「確かに、私は愛を語り合ったかどうかの声までは聞こえませんでしたが、でも、ヒシっと抱き合っておられましたわ。ローズ様も王太子殿下の胸にはっきりと顔を寄せていらっしゃいました」
「いや、それは泣いている女性をほっておくわけには」
「そうよ。殿下はお優しいだけで」
マチルダの声に二人が反論するが、マチルダは顔を覆って、

「でも、何も婚約もしていない男女が抱き合わなくても良かったのでは。私、公衆の面前で抱き合うお二人を見て動揺してしまって」
もう完全にマチルダのペースだ。

「殿下、ローズさん。あなた達は婚約もしていないのに、公衆の面前で抱き合っていたのですか」
担任の声も厳しい。

「いや、あの、思わず取り乱してしまって」
「そうなんです。先生。泣いている女性をほってはおけなくて」
「でも、抱き合う必要は無いですよね」
「いや、それは」
マチルダの声に思わず二人は目を逸らしたんだけど。

「殿下。生徒のお手本にならないといけない、生徒会長でもあられる殿下が何をしておられるのですか?」
先生は怒って言った。

「いや、まあ、申し訳ない」
「ローズ嬢もです」
「すみません」
完全にマチルダのペースだった。俺はこれでこの王国もマチルダが牛耳ると思ってしまったのだ。王太子と侯爵令嬢が完全に飲まれている。

「お二人は明日までに反省文を、私に提出するように」
「判りました」
二人はしぶしぶ頷いた。

「そして、入学式をサボったマチルダさんとパトリシアさんはこの学園の校則を書き写して明日までに提出するように」
俺は先生の言葉に目を疑った。皆帝国の公爵家の令嬢には甘いのだ。それがこの先生は堂々と正論を言うではないか。

「えっ? そんな、校則を書き写す方が時間がかかりますわ」
マチルダが文句を言うが、先生は聞き入れそうにない。これは長くなるか。やっぱり見に来るんではなかった。俺が諦めた時だ。

「判りました。ちゃんと書き写してきます。マチルダ様にも必ずさせますから」
「ちょっとパティ」
なんと男爵令嬢が強引にマチルダにさせると言い切ると職員室を出ていったのだ。俺は目が点になった。

なんて強引なんだ。それでもマチルダが言うことを聞いているんだけど。これだけでも絶対に彼女は特殊だ。
「やばい、このままでは可愛いパティがあのマチルダとかいう我儘女に酷い目に遭うに違いない」
何かブラッドは一人早合点して追いかけていくんだが。
俺はパティがマチルダに一方的にやらされるとは思ってもいなかった。


「何言っているのよ。あんたが私の代わりに私の分も書き写すのよ」
追いつくと流石にマチルダがパティに宿題をさせようとしていたが、
「なんで私が、そんなことする必要あるのよ」
パティはなんと反論しているのだ。凄い。帝国ではありえない行為だった。

「そうだ。パティはその女のいう事を聞く必要はないぞ」
いきなり後ろからブラッドがパティに抱きついていた。俺は何故かむっとした。

「あーーーーら。女の魅力の全くないパティの色香に迷わされて婚約破棄したブラッドじゃない」
マチルダの嫌味攻撃は流石だ。ブラッドはどう反撃する。というか、さっさとパティから離れろよ!

「何を言う。お前はパティの素晴らしさを知らないから言うんだ。ピンクの衣をまとったパティの女神のような神々しさを」
な、何だと。俺はブラッドの言葉に天啓を受けたのだ。
「ちょっと待て、ブラッド! パティのピンクの衣ってなんだ」
俺はその瞬間、パティがピンクの君だと判ったのだ。

「ふん、貴様も知らないと思うが……」
「ブラッド! 余計なこと言わないで!」
パティがブラッドの口を抑えるが、ちょっと近すぎないか。

「ちょっとそこの二人も不純異性行為よ」
マチルダが強引に二人を引き剥がして、自分の屋敷に連れて行ったのだ。

そうか、ピンクの君はやはりパティだったんだ。
俺はとても嬉しくなった。夢にまで見たピンクの君についに会えたのだ。
そして、早速ピンクの君に会いに行けるように段取りを始めたのだった。
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