上 下
39 / 82

王都に行く途中で、昔助けた高位貴族の男の子を拾いました

しおりを挟む
それから二年が経って私は十五歳になった。

そして、何故か私は王立学園に入ることになったのだ。
我が貧乏男爵家では、兄以来の学園生だ。
本来、我が家は女を学園になんて入れる金銭的余裕はないのだが、ブラッドリーがやらなくていいのに親と話をつけてくれたらしい。

学校には昔虐められていたので、あんまり良いイメージがない。
それに、今でもローズお嬢様の婚約者に色目を使って婚約解消させた私の噂は貴族の間では有名なのだ。
何しろ一か月とおかずにわが屋敷にその婚約者だったブラッドリーが訪ねてくるのだから。

こいつはいつも何しに来るのだ?

私が無敵だからって護衛にでもしたいのだろう。でも高々一侯爵家の為に私の力を使うのはどうかと思うのだ。

通えばほだされると思っているのか、来るたびに何か贈り物を持ってくるのだが……。

この前なんか、ピンクのめちゃくちゃ可愛らしい衣装を贈ってくれたんだけど、これは嫌味か?
私がピンクの魔法少女だからってこのど派手な衣装を着て、ブラッドリーを護衛しろって意味なんだろうか? ムカついた私は思わずその衣装を燃やしそうになった。

それに、私は貴族の護衛なんて七面倒くさいことは嫌なのだ。
貴族って皆威張っているし、碌なことはないように思う。

でも、折角王立学園に入れてくれるのならば、王宮で何らかの職を得ようと私は考えている。
この王国では王立学園を卒業できれば女の身でも官僚になれるらしい。
私はそのためにいろいろ勉強したし、これからもやっていきたいのだ。

そして、明日は入学式だ。今日は入学式に間に合うように学園に行くのに、私は辻馬車を乗り継いで行こうとしたのに、わざわざブラッドリーの奴は迎えに来たのだ。
男爵も義母もそれはそれは大変な歓迎のしようだった。何しろブラッドリーは来るたびに我が家に金を置いていってくれる福の神なのだ。もう、いつも、下にも置かない歓待のしようで、「良いわね。この金づるを絶対に離すんじゃないわよ」義母に釘を刺されたんだけど……

最近は私もブラッドリーのお陰で侍女はせずに家でのんびり貴族生活を送らせてもらっている。だから、来たら相手はしてあげているのだ。
でも、それでも、ブラッドリーの護衛になるのは嫌だ。

私は将来はぴーちゃんと一緒に王宮で事務官として働くのが夢だ。

仕方無しに、私はぴーちゃんとブラッドリーの馬車に乗った。

ぴーちゃんはブラッドリーを毛嫌いしているみたいで、いつも愛想がない。

ブラッドリーもぴーちゃんがいるとあまり近くに寄ってこないので、かえって好都合なのだ。
侯爵令息様を前にして無視したような態度はどうかとは思うが……
まあ、これで私を護衛にするのを諦めてくれたら良いし……

「もう少しブラッドリー様に気を使いなさい」
いつも義母たちにはぎゃあぎゃあ言われているが、私はその時は適当に頷くのだが、こいつの護衛になるのは嫌だ。まあ、本人が何も言わないから良いんじゃない……

「ねっ、ぴーちゃん、美味しい?」
私がぴーちゃん相手にお菓子を食べさせている時だ。

急に馬車が止まったのだ。

「どうした?」
ブラッドリーが御者に聞くと

「馬車の事故があったみたいで」
前の御者の言葉に横を見ると横倒しになった馬車が見えた。
そして、その横に私達と同じくらいの年齢の男と女がいた。
「ジル!」
「エイダ!」
私達二人が叫ぶのが同時だった。

げっ、あれは私を苛めて追い出そうとした、村長の娘だ。
なんか、昔、私が村長の家の前に転移させた高位貴族の息子に面倒見てもらうとか言って、私が帰った時にはもう家にはいなかった。その横には貴族の息子らしき者がいるんだが……
この子はとてもイケメンだ。
でも、あれ? どこかで見た顔だ。
そうだ! 思い出した。昔助けて、関わりたくないから村長の家の前に転移させたその高位貴族の息子だ。

「ブラッド!」
「パティ!」
外の二人も私達に気づいたみたいだ。
うーん、なんか最低の奴らに捕まってしまったように思うんだけど……高位貴族の息子にはかかわり合いたくなかったんだけど……
でも、よく考えてみたら、私の隣にいるのがこの国の最高位のお貴族様だったんだ……

「どうしたんだ? ジル、その馬車は?」
「いやあ、車軸が折れたらしい」
横転した馬車に車輪はついていなかった。どこかに飛んでいったらしい。

「けが人は?」
「それは何とか皆無事だった」
ジルと呼ばれた子の周りには騎士たちが働いて馬車を起こそうとしていた。

「でもこの馬車じゃ、王都まで行くのは厳しいな」
頭を振ってジルが言ってくれた。

「何だったら乗せていくが」
「良いのか?」
ジルは私を見て聞いてきた。
「問題ないわよね」
「ええ、私は問題ありませんわ」
ブラッドリーの声に私は頷いた。元々この馬車はブラッドリーのものなのだ。私に拒否権があるわけはない。エイダと一緒の馬車は避けたかったが、こうなれば仕方がないだろう。

「困った時はお互い様だ」
ブラッドリーの一言で決まったのだ。

私達は詰めて座った。何故か私の横にブラッドリーが来たんだけど、普通は女のエイダじやないのか?

馬車が動き出すと私達はお互いに名乗りあった。
ジルと呼ばれた子はリコニック子爵家の令息だそうだ。おかしい。もっと高位貴族の感じがしたのに!

「お前が女連れなんて珍しいじゃないか?」
ブラッドリーがジルに聞いていた。ジルとは親しいみたいだ。

「いや、昔、この子に助けてもらってね」
「そうなんだ」
「倒れていらっしゃった方をお助けするのは当然のことですわ」
エイダがさも当たり前のように言うが、こいつは倒れていたのが貧乏人だったら絶対に見捨てたはずだ。
ブラッドリーは改めて猫被っているエイダを見た。

「今はこの子は平民なんだが、もうじき親が男爵に昇爵するんだ」
「そうなんです。パティの家と同じになるのよ」
嬉しそうにエイダが最後は私に言ってきた。

「良かったわね」
「ありがとう。これであなたに大きな顔をされずに済むわ」
最後の方は小声で私にしか聞こえなかったみたいだが、相変わらず、性格は最悪みたいだった。

「そんな事より、パティ、聞いたわよ。侯爵家でやらかしてくれたんですって!」
「何もしてないわよ」
私はしらをきった。
「侯爵様のお嬢様の婚約者を寝とったって聞いたんですけど」
その言葉に私とブラッドリーは思わずエイダを睨み付けたんだけど。

「エイダ嬢。パティはそんな事はしていない」
すかさずブラッドがちゃんと注意してくれた。
「えっ?」
エイダはお嬢様の婚約者がブラッドだとは知らなかったみたいだ。

「エイダ。そのお嬢様の元婚約者が目の前にいるブラッドだ」
ジルが注意してくれた。

「すみません。私何も知らなくて、失礼なこと言ってしまって」
涙目でエイダが言ってくれるんだけど、こいつこんな演技も出来るんだ。
私は思わず感心してしまった。

「まあ、判ってくれたら良い」
ブラッドはあっさりと引いたが、こいつがそんなたまではないのは付き合いの長い私がしっていた。

「それよりも君が抱いているのは?」
ジルが私のぴーちゃんを見て聞いてきた。

「ジル様。そいつはパティのペットのトカゲです」
嫌そうにエイダが言うんだけど。

「えっ、どう見てもトカゲじゃないだろう?」
不思議そうにジルが見てくれるんだけど、

「そうですよね。判る人には判ってくれるんです。彼は私のペットのぴーちゃんです」
「ぴ」
でもぴーちゃんはジルには全く興味ないみたいで、チラ見して終わった。

「そのペットどうしたの?」
ジルは更に聞いた来たのだ。そう言えば、この子がぴーちゃんが卵の時にそれを抱えていたんだった。まずい。ひょっとして正体がわかっているのか?

「山で卵を見つけて孵したんです」
私は嘘は言っていない。あなたが抱えていたと言わなかっただけで。

「トカゲの卵を孵すなんて余程のもの好きですよね」
エイダが言ってくれるんだけど、ぴーちゃんはそんなエイダを馬鹿にしたように見降ろした。

「山ってどこの?」
ジルがしつこく聞いてきたんだけど、

「この子、前は私の村にいたんです。だから私の家の近所の山じゃないですか? 何だったら今度ご案内しますよ」
エイダが喜んで言ってくれるんだけど。

「いや、まあ、それは良いんだけど」
「まあ、ぴーちゃんは変わっているよな。トカゲなのに鳥みたいにピーピー鳴くし」
ブラッドリーまでがが言ってくれて

「ぴーーーー」
ぴーちゃんがブラッドリーを威嚇するんだけど、それも可愛い。

「いや、絶対にトカゲじゃないだろう」
ジルは最後までぴーちゃんを不思議そうに見ていた。


***********************************************************************
ここまで読んで頂いてありがとうございます。
ジルはぴーちゃんの正体を知っているみたいです。
続きは明朝です。
しおりを挟む
script?guid=onここまで読んでいただいてありがとうございます。

私の絶賛発売中の書籍化作品はこちら
『悪役令嬢に転生したけど、婚約破棄には興味ありません! 学園生活を満喫するのに忙しいです』https://www.alphapolis.co.jp/novel/237012270/302627913

7月5日全国1200以上の書店にて発売しました。表紙画像は11ちゃんさんです。
表紙画像
表紙絵をクリックしたらレジーナブックスの説明ページに飛びます。



この次の新作はこちら
『転生したら地味ダサ令嬢でしたが王子様に助けられて何故か執着されました』https://www.alphapolis.co.jp/novel/237012270/497818447

前世病弱だったニーナは転生したら周りから地味でダサいとバカにされる令嬢(もっとも平民)になっていた。「王女様とか公爵令嬢に転生したかった」と祖母に愚痴ったら叱られた。そんなニーナが祖母が死んで冒険者崩れに襲われた時に助けてくれたのが、ウィルと呼ばれる貴公子だった。もう二度と会う訳はないと思っていたのに……
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?

こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。 「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」 そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。 【毒を検知しました】 「え?」 私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。 ※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

夫が寵姫に夢中ですので、私は離宮で気ままに暮らします

希猫 ゆうみ
恋愛
王妃フランチェスカは見切りをつけた。 国王である夫ゴドウィンは踊り子上がりの寵姫マルベルに夢中で、先に男児を産ませて寵姫の子を王太子にするとまで嘯いている。 隣国王女であったフランチェスカの莫大な持参金と、結婚による同盟が国を支えてるというのに、恩知らずも甚だしい。 「勝手にやってください。私は離宮で気ままに暮らしますので」

【完結】殿下、自由にさせていただきます。

なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」  その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。  アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。  髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。  見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。  私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。  初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?  恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。  しかし、正騎士団は女人禁制。  故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。  晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。     身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。    そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。  これは、私の初恋が終わり。  僕として新たな人生を歩みだした話。  

【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜

高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。 婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。 それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。 何故、そんな事に。 優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。 婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。 リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。 悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。

妹に婚約者を奪われたので妹の服を全部売りさばくことに決めました

常野夏子
恋愛
婚約者フレデリックを妹ジェシカに奪われたクラリッサ。 裏切りに打ちひしがれるも、やがて復讐を決意する。 ジェシカが莫大な資金を投じて集めた高級服の数々――それを全て売りさばき、彼女の誇りを粉々に砕くのだ。

処理中です...