上 下
26 / 82

お嬢様に婚約者が訪ねて来て、帰った後に私が流し目をしたと誤解されました

しおりを挟む
侯爵家に来てから二ヶ月が経ち、私はアープロース侯爵家のローズお嬢様の専属侍女、というか下僕、雑用係、下働きと言った方が適しているになっていたのだ。

まあ、当初のお嬢様らのいじめは酷かったが、今は適当に楽しんでいた。
当初は私のせいで、私達のメイド服の色がおかしかったのだが、何故かその色落ちした色合いが流行ってしまって、みんな、洗濯するようになったんだけど……絶対に変だ。

まあ、仕事の量も男爵家に比べれば格段に少なくなったし、私自身も楽だ。何しろ侯爵家は二交代制だし。
お嬢様の視線が時々怖いけど、適当に誤魔化している。

私が洗濯する時は何故かコーリーが洗浄魔法をかけてくれることになったんだけど、何でだろう?
食事の時に、何故かポロリと洗濯してしまったとこぼしてしまい、それに同情してくれたんだろうか?

ローズお嬢様は機嫌のよい時と悪い時の差が激しくて、機嫌の悪い時は私への雑用が増えるのだが、まあそんな時でも、男爵家にいた時よりも楽だ。何しろ適当に誤魔化ししておけば良いのだから……


そして、今日は朝からお嬢様はご機嫌が良かった。
何でも婚約者のブラッドリー・パーマン侯爵令息が訪ねてくるそうなのだ。
ブラッドリー様とローズ様は13歳で同い年だ。この夏に婚約が決まって、今日は月に一回のお茶会の日なのだ。今回はこの侯爵家でそれがあるらしい。

私達専属侍女はこの一週間、その準備にてんてこ舞いだった。
特に雑用係の私が……

専用の特別なお菓子を領都の町まで買いに行ったり、お嬢様のお部屋を端から端まで掃除したり、本当に大変だった。オードリーやデリアは雑用は全部私にやらせてくれるんだけど、あんた達も少しは仕事しなさいよ!

「衣装はパトリシアが王都の流行りだと言ったピンクの衣装にして」
お嬢様の声に私は驚いた。
「お嬢様。さすがにそれは」
掃除していた私が思わず口に出して言うと

「あなたがこの色は王都の流行りだと言ったんじゃない。何か文句でもあるの?」
「いえ、そういうわけでは」
私はお嬢様の言葉に蒼白になった。

やばい、洗濯してしまって色落ちしたのを適当に誤魔化したのが、ここに来て裏目に出た。こんなだったら素直に謝っておけば良かった。後悔先に立たずだ。

最もお嬢様のドレスなんて高くて弁償なんて出来るわけないし……

まあ、色落ちしたなんて余程の人じゃないと判らないだろう。

私は愚かにもそう思ってしまったのだ。


やって来られたブラッドリー様はさすが侯爵家のご令息、黒目茶髪のイケメンだった。しぐさもまだ13歳なのに洗礼されていた。

でも、その令息の目がお嬢様の衣装に点になっているんだけど。やはり、判るのか?

「ローズ嬢、今日のそのドレスは?」
「さすが、ブラッドリー様。判りまして?」
お嬢様は何故か得意に話し出したんだけど……いや、そこは絶対に違う……

「今王都ではこのピンク色が流行っているんですの。我が家のメイドが掴んで来た最新の流行りの衣装をブラッドリー様に見て頂こうと思いまして」
止めて、そんなこと得意になって話さないで。嘘だから!

私は必死に二人を見たけれど、お嬢様は悠然としているのだ。

「そうなんだ。今度母上にも話しておくよ」
ブラッドリー様は驚いて言うんだけど、いや、違う! そんな事、母上に言わないで!
私が必至に目で訴えたが、そんなの通るわけなかった。

「パトリシア、視線!」
私の様子が変なのにデリアが気づいて注意してくる。

私は青くなった。

そうだった。侍女は主人たちのことをさり気なく気にするのであって睨むなんてしてはいけないのだった。

当たり障りないことを二人は話されて、
「ローズ嬢、今度、一度この領都にお忍びで行かないか」
ブラッドリー様が別れ際に言われた。
「えっ、本当ですか。お忍びぜひともしたいです」
ローズ様は喜んで頷かれた。
最近ローズ様の読んでおられる恋愛小説でお忍びのデートが良く出てくるのだ。
なんでも、お忍びデートは王都でも流行っているのだとか。

えっ、それってまた私が大変なんじゃないのか!
私はうんざりしたんだげと、それ以上に大変なことが待っていたのだ。

「パトリシア!」
ブラッドリー様をお見送りして、部屋に帰ってきた時だ。ローズ様の声が氷点下以下なんだけど……

「あなた、私のブラッドリー様に流し目したわね」
ローズ様の声が怖いんだけど、いや、違う、私は流し目なんてしてないわよ!

でも、誰も私の心の声なんて聞いてくれなかったのだ。

*************************************************

どうなる、パティ。次話は今夜です。
しおりを挟む
script?guid=onここまで読んでいただいてありがとうございます。

私の絶賛発売中の書籍化作品はこちら
『悪役令嬢に転生したけど、婚約破棄には興味ありません! 学園生活を満喫するのに忙しいです』https://www.alphapolis.co.jp/novel/237012270/302627913

7月5日全国1200以上の書店にて発売しました。表紙画像は11ちゃんさんです。
表紙画像
表紙絵をクリックしたらレジーナブックスの説明ページに飛びます。



この次の新作はこちら
『転生したら地味ダサ令嬢でしたが王子様に助けられて何故か執着されました』https://www.alphapolis.co.jp/novel/237012270/497818447

前世病弱だったニーナは転生したら周りから地味でダサいとバカにされる令嬢(もっとも平民)になっていた。「王女様とか公爵令嬢に転生したかった」と祖母に愚痴ったら叱られた。そんなニーナが祖母が死んで冒険者崩れに襲われた時に助けてくれたのが、ウィルと呼ばれる貴公子だった。もう二度と会う訳はないと思っていたのに……
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?

こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。 「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」 そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。 【毒を検知しました】 「え?」 私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。 ※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです

王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました

さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。 王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ 頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。 ゆるい設定です

【完】愛人に王妃の座を奪い取られました。

112
恋愛
クインツ国の王妃アンは、王レイナルドの命を受け廃妃となった。 愛人であったリディア嬢が新しい王妃となり、アンはその日のうちに王宮を出ていく。 実家の伯爵家の屋敷へ帰るが、継母のダーナによって身を寄せることも敵わない。 アンは動じることなく、継母に一つの提案をする。 「私に娼館を紹介してください」 娼婦になると思った継母は喜んでアンを娼館へと送り出して──

【完結】殿下、自由にさせていただきます。

なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」  その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。  アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。  髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。  見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。  私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。  初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?  恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。  しかし、正騎士団は女人禁制。  故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。  晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。     身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。    そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。  これは、私の初恋が終わり。  僕として新たな人生を歩みだした話。  

【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜

高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。 婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。 それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。 何故、そんな事に。 優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。 婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。 リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。 悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。

妹に婚約者を奪われたので妹の服を全部売りさばくことに決めました

常野夏子
恋愛
婚約者フレデリックを妹ジェシカに奪われたクラリッサ。 裏切りに打ちひしがれるも、やがて復讐を決意する。 ジェシカが莫大な資金を投じて集めた高級服の数々――それを全て売りさばき、彼女の誇りを粉々に砕くのだ。

塩対応の公子様と二度と会わないつもりでした

奏多
恋愛
子爵令嬢リシーラは、チェンジリングに遭ったせいで、両親から嫌われていた。 そのため、隣国の侵略があった時に置き去りにされたのだが、妖精の友人達のおかげで生き延びることができた。 その時、一人の騎士を助けたリシーラ。 妖精界へ行くつもりで求婚に曖昧な返事をしていた後、名前を教えずに別れたのだが、後日開催されたアルシオン公爵子息の婚約者選びのお茶会で再会してしまう。 問題の公子がその騎士だったのだ。

処理中です...