上 下
21 / 82

結局侯爵家には私が行かされることになりました。

しおりを挟む
スカーレットにどんなにぴーちゃんが可愛いか説明しようとした私だが、スカーレットはぴーちゃんを恐れること凄まじいものがあって、見てもくれなかった。
「こんなにかわいいのに、どうしてだろう?」
私がぴーちゃんに言うと
「ぴー」
ぴーちゃんは本当に心外だとばかりに鳴くと私にじゃれついてきたんだけど。
本当にかわいいのに!


そして、結局、アーブロース侯爵家には私が行くことになったのだ。

スカーレットは父の男爵から
「そんなにお前が男爵の元に嫁に行くのが行くのが嫌だとは思っていなかった。クロイック男爵家ならば、お前が贅沢な暮らしが出来てお前が喜ぶと思ったのだよ」
と優しく声をかけてもらっていた。

母を殺したことになる私にはそんな優しい言葉はかけても貰えないんだと思わず落胆してしまった。
まあ、この家には朝から晩までご飯を食べる暇もないくらい仕事漬けにされたという碌な思い出しかないし良いんだけど……

人手不足のこの家には、なんと、明日から私を虐めていた村長の娘のエイダが行儀作法見習いで来るそうだ。腹黒ケインは忘れていたのかと思っていたんだけど、ちゃんと村長とエイダを脅して手伝いに来させることにしたようだ。どのみち、ケインの事だから格安の給金にしたのは間違いない。
これで私がいなくなってもスカーレットとエイダの二人になって、仕事は回るようになるだろう。スカーレットもこれに懲りて少しは仕事をするようになると思うし。

でも一言言って良のならば、私がいる間に来させてよね。そうすれば、私もおやつとかゆっくり食べられる時間が出来たのに! 本当にケインはむかつく!

男爵家のメイド要員の調達がうまくいったので、私は私の意志は関係なく、厳しいと有名なアーブロース侯爵家に行儀見習いの侍女、すなわち出稼ぎ要員として、男爵家の金づるになるように送り出されれることになったのだ。

「宜しいですか? パトリシアお嬢様。
ロウギル男爵家が、破綻するかどうかは全てお嬢様の働きいかんにかかっているのです。
何卒2番目のお姉様のようにご主人様の侯爵様に気に入られて、このロウギル男爵家の為にいろいろしてくださいね。出来たら侯爵家の若様をたぶらかせて手を出させてもいいですから。まあ、この貧しい体ではなかなかむつかしいかも知れませんが……」
こいつは言うに事欠いて男を誘惑しろなんて、なんて破廉恥な事を言うのだ。それも貧乳だと! 窓が間に入っていなかったら絶対に叩いていた。

「何か言った?」
「いえ、執事の私めがお嬢様に失礼なことなど申すわけは無いではないですか」
私はその言葉を全く信じられないんだけど。

「本当に!」
「ぴー」
私の憤りにぴーちゃんも頷いてくれた。
嬉しくてぴーちゃんを抱きしめた。

「お嬢様、ぴーちゃんにこれを」
しかしだ。次の瞬間御者席との間の窓が開いてケインが焼き菓子を二個くれたのだ。

「ぴーーーー」
ぴーちゃんが急に喜んで一個の焼き菓子に食いついたのだ。
こいつ、あっさり食べ物で釣られていやがる。なんて奴だ。
私がむっとすると

「ぴー」
やばいと思ったのか、ぴーちゃんが残りの一個を私の方に押し出してきた。

「もう一個はお嬢様に」
おいおい、私はついでかよ!
その言葉にむっとしたが、
「仕方がないわね」
私が言って一口食べると

「おいしい!」
うちのシェフの特製焼き菓子だ。
「ぴー!」
ぴーちゃんとふたりでおいしいお菓子を食べられる幸せを堪能した。
こんなお菓子で篭絡されるなんて、何とも安い私達ではないか!

「ではお嬢様。くれぐれもよろしくお願いしますね」
ケインはそう言うとうやうやしく後ろの私に頭を下げてくれるんだけど、今日までの私の下働きとしての扱いとあまりに違いすぎるんでないか! 

私が毎日仕事に追われている時は見向きもしなかったくせに、こういう時だけよいしょするとはどういうことだ!
思わず私はケインを睨みつけたんだけど、ケインは私の視線などものともせずに悠然と御者の椅子に座ってくれているんだけど……

私のぴーちゃんは小さなペット専用のオリに入れて持っていくことにした。

スカーレットみたいに嫌がる人がいるかも知れないし。

まあ、自分の部屋で放し飼いにしておけばいいだろう。

私はそう思っていたのだ。

*********************************************************
ここまで読んで頂いて有難うございました。
王子様も悪役令嬢もまだ出てきませんが、次の舞台は侯爵家です。
さて、そこに悪役令嬢がいるのか?
魔法少女の出番は、明朝のお楽しみです。

しおりを挟む
script?guid=onここまで読んでいただいてありがとうございます。

私の絶賛発売中の書籍化作品はこちら
『悪役令嬢に転生したけど、婚約破棄には興味ありません! 学園生活を満喫するのに忙しいです』https://www.alphapolis.co.jp/novel/237012270/302627913

7月5日全国1200以上の書店にて発売しました。表紙画像は11ちゃんさんです。
表紙画像
表紙絵をクリックしたらレジーナブックスの説明ページに飛びます。



この次の新作はこちら
『転生したら地味ダサ令嬢でしたが王子様に助けられて何故か執着されました』https://www.alphapolis.co.jp/novel/237012270/497818447

前世病弱だったニーナは転生したら周りから地味でダサいとバカにされる令嬢(もっとも平民)になっていた。「王女様とか公爵令嬢に転生したかった」と祖母に愚痴ったら叱られた。そんなニーナが祖母が死んで冒険者崩れに襲われた時に助けてくれたのが、ウィルと呼ばれる貴公子だった。もう二度と会う訳はないと思っていたのに……
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?

こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。 「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」 そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。 【毒を検知しました】 「え?」 私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。 ※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです

不遇な王妃は国王の愛を望まない

ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。 ※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり。ハピエン🩷 ※稚拙ながらも投稿初日からHOTランキング(2024.11.21)に入れて頂き、ありがとうございます🙂 今回初めて最高ランキング5位(11/23)✨ まさに感無量です🥲

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

夫が寵姫に夢中ですので、私は離宮で気ままに暮らします

希猫 ゆうみ
恋愛
王妃フランチェスカは見切りをつけた。 国王である夫ゴドウィンは踊り子上がりの寵姫マルベルに夢中で、先に男児を産ませて寵姫の子を王太子にするとまで嘯いている。 隣国王女であったフランチェスカの莫大な持参金と、結婚による同盟が国を支えてるというのに、恩知らずも甚だしい。 「勝手にやってください。私は離宮で気ままに暮らしますので」

【完結】殿下、自由にさせていただきます。

なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」  その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。  アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。  髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。  見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。  私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。  初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?  恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。  しかし、正騎士団は女人禁制。  故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。  晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。     身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。    そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。  これは、私の初恋が終わり。  僕として新たな人生を歩みだした話。  

婚約破棄されたショックですっ転び記憶喪失になったので、第二の人生を歩みたいと思います

ととせ
恋愛
「本日この時をもってアリシア・レンホルムとの婚約を解消する」 公爵令嬢アリシアは反論する気力もなくその場を立ち去ろうとするが…見事にすっ転び、記憶喪失になってしまう。 本当に思い出せないのよね。貴方たち、誰ですか? 元婚約者の王子? 私、婚約してたんですか? 義理の妹に取られた? 別にいいです。知ったこっちゃないので。 不遇な立場も過去も忘れてしまったので、心機一転新しい人生を歩みます! この作品は小説家になろうでも掲載しています

【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜

高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。 婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。 それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。 何故、そんな事に。 優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。 婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。 リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。 悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。

処理中です...