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男爵家三女視点 よく働く妹が邪魔でした

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私はスカーレット・ロウギル、誰がなんと言おうが、このロウギル男爵家の三女だ。

でも、今は次女をさせられている。

お母様の生きているうちは良かった。

男爵家としてちゃんと侍女もいて、私はお嬢様として可愛がられていたのだ。

それが、妹のパティが生まれることによって壊れてしまった。私を可愛がってくれていた母が死んだのだ。まだ4歳だった私は泣いた。そして、お母様の命を奪ったパティを恨んだのだ。

だからパティが遠縁の者の所に預けられても何も思わなかったのだ。当然のことだと思った。

でも、それからは家はどんどん傾いていった。

侍女が次々に首になっていって、いつの間にかお姉様が侍女になっていた。

私はそんなお姉さまたちのお手伝いを一生懸命にしたのだ。

家がますます傾いてきた時だ、一番上のお姉様が侯爵家の侍女として出て行った。

家の中はますます大変になったけれど、私は小さいなりに上の姉を賢明に助けたのだ。

しかし、上のお姉様がキリントン伯爵家に侍女として勤めに出るとこの館では侍女は私だけになった。本当に大変だった。

朝から夜まで働いたけれど、全然仕事は終わらなくて、やってられなかった。

家はもっと落ちぶれていってそのままでは終わりなのではと思ったくらいだ。

そんな時だ。すぐ上の姉上の働きがキリントン伯爵の目に止まり、その家の遠縁の騎士と結婚したのだ。

そして、その伯爵家の娘が新しいお義母様がやってきたのだ。

どんなきれいなお母さまなのかと期待していたら、太ったおばさんだった。

何でも子供が出来ないからと子爵家から離縁されて戻ってきた出戻りだとか。

でも、その持ってきた持参金で我が家の借金はほとんど払い終わって我が家はやっと一息つけたのだ。

私は少しホツとしたのだ。それと同時に義母に感謝したのだ。

でも、今度は兄が結婚したのだ。

我が家は侍女の私だけでは一人では到底回らなくなったのだ。

私が四苦八苦しているのを見て、流石にまずいと姉たちが動いてくれたのだろう。

侍女を一人連れてきてくれるという話になった。

でも、連れてくるのがこの原因になったパティだというのだ。

「母の命を奪ったパティなんて会いたくない」
私はそう言って駄々をこねたが、

「あなたの後を継ぐ子を作らないとあなたは行儀作法の見習いに高位貴族の所に行けないわよ」
「あなた、こんな家にいつまでも侍女としてくすぶっていていいの」
姉二人に散々言われて、私は諦めた。

姉の言うとおりだ。

どこかの高位貴族のもとで働いていたらお姉様みたいに幸せな結婚ができるかもしれない。
母との幸せな4年間の思い出のある家だが、それからは最悪だった。
仕事は全部パティにやらせて、さっさと引き継いでこんな家出て行こう。
私はそう考えたのだ。
パティに対しては母を殺したパティはこの家で買い殺しにされて下働きとして惨めに死ねばいいとしか、思わなかった。

しかし、やってきたパティは健気だった。
同じ男爵家出身の兄の嫁にもバーバラ様と敬語で接しているのだ。「手際が悪い」とか「センスがもう一つだ」と兄嫁は口では文句を言っているが、気にいっているのは一目瞭然だった。
それに、仕事のスピードも早いのだ。
私一人しかいない時は家の目につかない所は汚れ放題だったのに、彼女が来てからは見る間に家はきれいになっていったのだ。私がほとんど仕事しないにも関わらずだ。
父や兄は二人になったから仕事が回るようになったのだと思っているようだ。しかし、私はほとんど何もしていないにも関わらずだ。

洗濯物もパティ一人でしているのに、今までは溜まりに溜まっていたのに、あっという間に無くなってしまった。
庭師の爺さんも料理長もその見習いも、パティとは楽しそうに話している。

私はムッとした。

それに連れているトカゲのペットが気持ち悪かった。
トカゲをペットにしているなんて絶対に変だ。
でも、何故か周りはそんなトカゲを毛嫌いしないのだけど、何故だ?
料理長なんか、偶に餌をやっているんだけど……。

私が嫌っているのを知っているのかトカゲの方も私を無視してくれるんだけど。それはそれでムカつく。もっとも近寄ってこられたら嫌だから良いけど。

パティは朝から夜まで働くので私があまりにも仕事しないと目立ちすぎる。仕方がないので、私も目立つところで掃除とかできる限りしているふりをした。

そんな時だ。

父から呼ばれたのは。

ついに私の行儀見習い先が決まったのかと私は喜び勇んで行ったのだ。

「実はアーブロース侯爵家から行儀見習いの侍女を求められてな、あの家はしつけに厳しいので有名だ。最初はお前をと考えたが、お前には厳しいと思ったのだ」
私は父の言葉に唖然とした。

そんな次は私が礼儀作法の見習いに出るんじゃないのか?

「それに一人あたりの仕事量も多いそうだ。今、館の大半の清掃等の仕事をしているのはパティだろう」
父は私のためにと言っているみたいだ。

「でも、お父様。私は侯爵家に行きたいのだけど」
「お前にはそれよりもいい話があるのだ。実は金持ちのクロイック男爵から後妻の話が来ていてな。この前、我が家に来た時にお前が気に入ったそうだ。あの家は裕福だし、侍女も何人も付くぞ」
私は絶句した。クロイック男爵の話は聞いている。成金で太った豚だ。金で女を叩いて買うとも言われている。そう言えば最近後妻を探していると噂されていた。それが私だなんて、絶対に嫌だ。

「そんな」
「今まで苦労かけたが、あの家ならば優雅に暮らせるぞ。宝石もいっぱい買ってもらえるぞ」
父の言葉は聞こえていなかった。

これだけは嫌だ。それは宝石は好きだ。まだ持ったことはなかったが。
でも、あの太った豚だけは生理的に受け付けなかった。先日、あのトカゲのような目でいやらしく見られていたことを思い出して、怖気が走った。あの脂ぎった手で触れられるかと思うと反吐が出た。

でも、相談しようにも義姉は私を嫌っているし、義母もそんなに良い感情は持っていない。
姉たちはすぐ側にいない。

そうだ、兄に相談しようと、兄の部屋に行くといなかった。

その途中で義姉の部屋の扉が開いていて、ダイヤのネックレスが目に付いた。

私が手にしたこともない宝石のネックレスだ。

そうだ、これをパティの部屋に隠しておけば、パティが犯人になる。そんな手癖の悪い女を侍女にしようなんて思わないだろう。そうすれば私が侯爵家に見習いに行くことになって、豚に嫁に行くことはなくなる。

私は魔が差したのだった。

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