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プロローグ 貴族の男の子を助けようとしたら魔法少女になってしまいました

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たくさんのお話の中からこの物語見つけて頂いて有難うございます。

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えっ! 大変だ!

私は目の前に血まみれの少年を見て固まってしまった。

私の名前はパティ、テイン村の外れにおばあちゃんと二人で住んでいる子供だ。両親は知らない。生まれたときからおばあちゃんに育てられていた。

今日はいつものお使いで通りかかった寂れた廃小屋の前に、何故かでかい卵を抱えた見目麗しい少年が倒れていたのだ。

私から見ても服が血まみれで、体は傷だらけだ。生きているのが不思議なくらいだった。


なんとかしなくちゃ!
私がそう思ったその瞬間だ。

私の頭の中に大量の訳の判らない記憶が、いや、これはそう、前世の記憶が蘇ってきたのだ。

「うそ、私、転生してたんだ!」
私は唖然とした。

頭の中はクラクラしていたが、まずこのきれいな顔の子供を治さなくては。

そして、私はそれが可能なのを思い出したのだ。

何故かカップ麺よろしく、ウルトラマンみたいに3分間だけ無敵になれる特性を、神様いや死神のような黒服から授与されているはずなのだ。

そして、その呪文いや、変身文句が……

「わっはっはっはっはっ! 私は無敵の沙季様よ! 怪獣も宇宙人も私の前にひれ伏しなさい!」
このセリフ、めちゃくちゃ恥ずかしかった。
当時流行っていた『無敵の魔法少女、紗季様』というアニメのヒロインが変身の時に唱えるお題目なのだ。そして、何故かめちゃくちゃ可愛いコスチュームになって悪をやっつけるのだ。

今もその言葉を私が呟くと、何と私は光に包まれて変身してしまったのだ。
うっそーーーー、聞いていない。変身呪文は言うだけじゃないの?
まさか、本当に魔法少女に変身してしまうなんて……
無敵になるだけじゃないの? 黒服の神様には無敵の特殊技能を授けるとしか聞いていないのに!

私は唖然とした。

私の質素な子供服は、ピンク色のど派手な衣装に代わっていた。そして、何故か目の辺りを白いアイマスクで隠しているんだけど。手には白い杖まで持っている。
まあ、顔がモロに見えないからまだいいけれど、見た目は八歳だが、経験年数云十年の私は恥ずかしさのあまり真っ赤になっていた。

「うっ」
男の子が呻く。どんどん息が荒くなっている。
これは早くしないとまずい。私はとりあえず、恥ずかしい格好は無視することにした。

「チチンプイプイのプイ!」
そして、私は回復魔法をかけたのだ。

何で呪文が『ヒール』じゃないのよ!
私は心の中で盛大に文句を過去の五歳の頃の私に言っていた。
まあ、五歳でヒールは知らないかもしれないけれど。
いや、アニメでもヒール使っているのはあったはずなのに!

私の心の葛藤とは別に、私の指先の杖が光り輝くと、その光が男の子を包んだ。
そして、私が紡ぎ出す回復魔法によって、男の子の傷が次々に塞がっていく。

さすがに回復魔法をかけたのなんて初めてだったので、上手くいって感動した。

でもこの子はめちゃくちゃキレイな顔をしている。将来は絶対にイケメンになるのは確実だ。というか着ている服も高価そうだし、これは絶対に貴族の、それも高位貴族の子弟だ。

平民の私が関わっていい人じゃないだろう。

私は傍と考えた。このまま一緒にいたら絶対に碌なことにはならない。

どうしよう?

そうだ。

私はその子をこの辺りで一番大きい村長さんの家の玄関前に転移させることにした。

村長さんの所にはいつも私に絡んでくる生意気な女の子のエイダがいたが、あそこならお金も人もいるから、後はこの子を何とかしてくれるだろう。

私は杖を振りかざすと、
「チチンプイプイのプイ!」
呪文を唱えた。

おい! 全部同じかよ! 
私は思わず一人で突っ込んでいた。
しかし、私の文句とは関係なしに、私の手から光が放たれて、男の子を包むと同時に男の子が消えた。

上手く転移させられたはずだ。後は忘れよう。関わりたくないし。

私がホッとした時だ。

私は目の前におおきな卵が残っているのが目に止まった。

しまった! そう言えば卵を一緒に飛ばすのを忘れていた。

まあ、何の卵か知らないけれど、貴族の子供が後生大事に持っていた卵だ。絶対に関わると碌なものではないはずだ。

私はもう一度、卵も子供の所に飛ばそうとしたのだ。

しかし、だ。

ピキッ

不吉な音とともに卵の殻に亀裂が入ったのだ。

「えっ?」
私は慌てた。

ピキピキピキという音とともに縦にヒビが入るとパカリとあっさりと卵が割れてしまったのだ。

ええええ!
やってしまった。私は唖然とした。


「ぴー」
しかし、鳴き声とともにとても可愛い動物の子供が誕生したのだ。
黄色い塊のその子は私が見たどの動物よりも可愛かった。

そして、モロにその動物のつぶらな瞳と私の目が合ってしまったのだ。

「可愛い!」

私は思わず手を伸ばして、その動物を抱きしめてしまっていた。

「ぴーちゃん」
そして、何も考えずに、そう呼んでしまったのだ。

「ぴー」
ぴーちゃんは嬉しそうに鳴き返してくれた。

私はぴーちゃんを抱きながら、その暖かさの中で急激に眠くなってしまった。

前世の記憶が戻ったり、治療魔法を使ったり、変な魔法少女に変身したりで私は疲れ切っていたのだ。

私はそれ以上は何も考えられずにそのまま気絶するように眠ってしまったのだった。
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