上 下
1 / 82

プロローグ 貴族の男の子を助けようとしたら魔法少女になってしまいました

しおりを挟む
たくさんのお話の中からこの物語見つけて頂いて有難うございます。

***********************************

えっ! 大変だ!

私は目の前に血まみれの少年を見て固まってしまった。

私の名前はパティ、テイン村の外れにおばあちゃんと二人で住んでいる子供だ。両親は知らない。生まれたときからおばあちゃんに育てられていた。

今日はいつものお使いで通りかかった寂れた廃小屋の前に、何故かでかい卵を抱えた見目麗しい少年が倒れていたのだ。

私から見ても服が血まみれで、体は傷だらけだ。生きているのが不思議なくらいだった。


なんとかしなくちゃ!
私がそう思ったその瞬間だ。

私の頭の中に大量の訳の判らない記憶が、いや、これはそう、前世の記憶が蘇ってきたのだ。

「うそ、私、転生してたんだ!」
私は唖然とした。

頭の中はクラクラしていたが、まずこのきれいな顔の子供を治さなくては。

そして、私はそれが可能なのを思い出したのだ。

何故かカップ麺よろしく、ウルトラマンみたいに3分間だけ無敵になれる特性を、神様いや死神のような黒服から授与されているはずなのだ。

そして、その呪文いや、変身文句が……

「わっはっはっはっはっ! 私は無敵の沙季様よ! 怪獣も宇宙人も私の前にひれ伏しなさい!」
このセリフ、めちゃくちゃ恥ずかしかった。
当時流行っていた『無敵の魔法少女、紗季様』というアニメのヒロインが変身の時に唱えるお題目なのだ。そして、何故かめちゃくちゃ可愛いコスチュームになって悪をやっつけるのだ。

今もその言葉を私が呟くと、何と私は光に包まれて変身してしまったのだ。
うっそーーーー、聞いていない。変身呪文は言うだけじゃないの?
まさか、本当に魔法少女に変身してしまうなんて……
無敵になるだけじゃないの? 黒服の神様には無敵の特殊技能を授けるとしか聞いていないのに!

私は唖然とした。

私の質素な子供服は、ピンク色のど派手な衣装に代わっていた。そして、何故か目の辺りを白いアイマスクで隠しているんだけど。手には白い杖まで持っている。
まあ、顔がモロに見えないからまだいいけれど、見た目は八歳だが、経験年数云十年の私は恥ずかしさのあまり真っ赤になっていた。

「うっ」
男の子が呻く。どんどん息が荒くなっている。
これは早くしないとまずい。私はとりあえず、恥ずかしい格好は無視することにした。

「チチンプイプイのプイ!」
そして、私は回復魔法をかけたのだ。

何で呪文が『ヒール』じゃないのよ!
私は心の中で盛大に文句を過去の五歳の頃の私に言っていた。
まあ、五歳でヒールは知らないかもしれないけれど。
いや、アニメでもヒール使っているのはあったはずなのに!

私の心の葛藤とは別に、私の指先の杖が光り輝くと、その光が男の子を包んだ。
そして、私が紡ぎ出す回復魔法によって、男の子の傷が次々に塞がっていく。

さすがに回復魔法をかけたのなんて初めてだったので、上手くいって感動した。

でもこの子はめちゃくちゃキレイな顔をしている。将来は絶対にイケメンになるのは確実だ。というか着ている服も高価そうだし、これは絶対に貴族の、それも高位貴族の子弟だ。

平民の私が関わっていい人じゃないだろう。

私は傍と考えた。このまま一緒にいたら絶対に碌なことにはならない。

どうしよう?

そうだ。

私はその子をこの辺りで一番大きい村長さんの家の玄関前に転移させることにした。

村長さんの所にはいつも私に絡んでくる生意気な女の子のエイダがいたが、あそこならお金も人もいるから、後はこの子を何とかしてくれるだろう。

私は杖を振りかざすと、
「チチンプイプイのプイ!」
呪文を唱えた。

おい! 全部同じかよ! 
私は思わず一人で突っ込んでいた。
しかし、私の文句とは関係なしに、私の手から光が放たれて、男の子を包むと同時に男の子が消えた。

上手く転移させられたはずだ。後は忘れよう。関わりたくないし。

私がホッとした時だ。

私は目の前におおきな卵が残っているのが目に止まった。

しまった! そう言えば卵を一緒に飛ばすのを忘れていた。

まあ、何の卵か知らないけれど、貴族の子供が後生大事に持っていた卵だ。絶対に関わると碌なものではないはずだ。

私はもう一度、卵も子供の所に飛ばそうとしたのだ。

しかし、だ。

ピキッ

不吉な音とともに卵の殻に亀裂が入ったのだ。

「えっ?」
私は慌てた。

ピキピキピキという音とともに縦にヒビが入るとパカリとあっさりと卵が割れてしまったのだ。

ええええ!
やってしまった。私は唖然とした。


「ぴー」
しかし、鳴き声とともにとても可愛い動物の子供が誕生したのだ。
黄色い塊のその子は私が見たどの動物よりも可愛かった。

そして、モロにその動物のつぶらな瞳と私の目が合ってしまったのだ。

「可愛い!」

私は思わず手を伸ばして、その動物を抱きしめてしまっていた。

「ぴーちゃん」
そして、何も考えずに、そう呼んでしまったのだ。

「ぴー」
ぴーちゃんは嬉しそうに鳴き返してくれた。

私はぴーちゃんを抱きながら、その暖かさの中で急激に眠くなってしまった。

前世の記憶が戻ったり、治療魔法を使ったり、変な魔法少女に変身したりで私は疲れ切っていたのだ。

私はそれ以上は何も考えられずにそのまま気絶するように眠ってしまったのだった。
しおりを挟む
script?guid=onここまで読んでいただいてありがとうございます。

私の絶賛発売中の書籍化作品はこちら
『悪役令嬢に転生したけど、婚約破棄には興味ありません! 学園生活を満喫するのに忙しいです』https://www.alphapolis.co.jp/novel/237012270/302627913

7月5日全国1200以上の書店にて発売しました。表紙画像は11ちゃんさんです。
表紙画像
表紙絵をクリックしたらレジーナブックスの説明ページに飛びます。



この次の新作はこちら
『転生したら地味ダサ令嬢でしたが王子様に助けられて何故か執着されました』https://www.alphapolis.co.jp/novel/237012270/497818447

前世病弱だったニーナは転生したら周りから地味でダサいとバカにされる令嬢(もっとも平民)になっていた。「王女様とか公爵令嬢に転生したかった」と祖母に愚痴ったら叱られた。そんなニーナが祖母が死んで冒険者崩れに襲われた時に助けてくれたのが、ウィルと呼ばれる貴公子だった。もう二度と会う訳はないと思っていたのに……
感想 3

あなたにおすすめの小説

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?

こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。 「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」 そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。 【毒を検知しました】 「え?」 私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。 ※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです

【掌編集】今までお世話になりました旦那様もお元気で〜妻の残していった離婚受理証明書を握りしめイケメン公爵は涙と鼻水を垂らす

まほりろ
恋愛
新婚初夜に「君を愛してないし、これからも愛するつもりはない」と言ってしまった公爵。  彼は今まで、天才、美男子、完璧な貴公子、ポーカーフェイスが似合う氷の公爵などと言われもてはやされてきた。  しかし新婚初夜に暴言を吐いた女性が、初恋の人で、命の恩人で、伝説の聖女で、妖精の愛し子であったことを知り意気消沈している。  彼の手には元妻が置いていった「離婚受理証明書」が握られていた……。  他掌編七作品収録。 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します 「Copyright(C)2023-まほりろ/若松咲良」  某小説サイトに投稿した掌編八作品をこちらに転載しました。 【収録作品】 ①「今までお世話になりました旦那様もお元気で〜ポーカーフェイスの似合う天才貴公子と称された公爵は、妻の残していった離婚受理証明書を握りしめ涙と鼻水を垂らす」 ②「何をされてもやり返せない臆病な公爵令嬢は、王太子に竜の生贄にされ壊れる。能ある鷹と天才美少女は爪を隠す」 ③「運命的な出会いからの即日プロポーズ。婚約破棄された天才錬金術師は新しい恋に生きる!」 ④「4月1日10時30分喫茶店ルナ、婚約者は遅れてやってきた〜新聞は星座占いを見る為だけにある訳ではない」 ⑤「『お姉様はズルい!』が口癖の双子の弟が現世の婚約者! 前世では弟を立てる事を親に強要され馬鹿の振りをしていましたが、現世では奴とは他人なので天才として実力を充分に発揮したいと思います!」 ⑥「婚約破棄をしたいと彼は言った。契約書とおふだにご用心」 ⑦「伯爵家に半世紀仕えた老メイドは伯爵親子の罠にハマり無一文で追放される。老メイドを助けたのはポーカーフェイスの美女でした」 ⑧「お客様の中に褒め褒めの感想を書ける方はいらっしゃいませんか? 天才美文感想書きVS普通の少女がえんぴつで書いた感想!」

夫が寵姫に夢中ですので、私は離宮で気ままに暮らします

希猫 ゆうみ
恋愛
王妃フランチェスカは見切りをつけた。 国王である夫ゴドウィンは踊り子上がりの寵姫マルベルに夢中で、先に男児を産ませて寵姫の子を王太子にするとまで嘯いている。 隣国王女であったフランチェスカの莫大な持参金と、結婚による同盟が国を支えてるというのに、恩知らずも甚だしい。 「勝手にやってください。私は離宮で気ままに暮らしますので」

もういいです、離婚しましょう。

うみか
恋愛
そうですか、あなたはその人を愛しているのですね。 もういいです、離婚しましょう。

寡黙な貴方は今も彼女を想う

MOMO-tank
恋愛
婚約者以外の女性に夢中になり、婚約者を蔑ろにしたうえ婚約破棄した。 ーーそんな過去を持つ私の旦那様は、今もなお後悔し続け、元婚約者を想っている。 シドニーは王宮で側妃付きの侍女として働く18歳の子爵令嬢。見た目が色っぽいシドニーは文官にしつこくされているところを眼光鋭い年上の騎士に助けられる。その男性とは辺境で騎士として12年、数々の武勲をあげ一代限りの男爵位を授かったクライブ・ノックスだった。二人はこの時を境に会えば挨拶を交わすようになり、いつしか婚約話が持ち上がり結婚する。 言葉少ないながらも彼の優しさに幸せを感じていたある日、クライブの元婚約者で現在は未亡人となった美しく儚げなステラ・コンウォール前伯爵夫人と夜会で再会する。 ※設定はゆるいです。 ※溺愛タグ追加しました。

塩対応の公子様と二度と会わないつもりでした

奏多
恋愛
子爵令嬢リシーラは、チェンジリングに遭ったせいで、両親から嫌われていた。 そのため、隣国の侵略があった時に置き去りにされたのだが、妖精の友人達のおかげで生き延びることができた。 その時、一人の騎士を助けたリシーラ。 妖精界へ行くつもりで求婚に曖昧な返事をしていた後、名前を教えずに別れたのだが、後日開催されたアルシオン公爵子息の婚約者選びのお茶会で再会してしまう。 問題の公子がその騎士だったのだ。

妹に婚約者を奪われたので妹の服を全部売りさばくことに決めました

常野夏子
恋愛
婚約者フレデリックを妹ジェシカに奪われたクラリッサ。 裏切りに打ちひしがれるも、やがて復讐を決意する。 ジェシカが莫大な資金を投じて集めた高級服の数々――それを全て売りさばき、彼女の誇りを粉々に砕くのだ。

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢

岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか? 「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」 「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」 マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

処理中です...