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王宮で恐竜の幻影を出して皆に怒られました。

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「おっほっほっほっ。それはそれは」
次の休日に王宮のいつもの裏庭でレイモンド様が盛大に笑ってくれた。

「レイモンド様。笑い事ではありません。この国の一番の騎士である騎士団長に土下座されたんですよ。もう、心臓が止まるかと思いました」
私はレイモンド様に文句を言った。

本当だ。あんなの有り得ない。本来は騎士団長などという高貴な立場の方は、私なんか足元にも及ばないのだ。それがたまたま父が騎士だったとはいえ、皆の前で、そう教室の前で土下座は止めてもらいたかった。それも息子の顔は殴られた跡でボコボコだったし。

勘違いする奴は私がやったと思うではないか。

モモンガなんかは昨日は一人で突撃してきて、

「あんた、ネイサンやミツキーに何したのよ。停学になんかして。有る事無い事学園長に吹き込んだでしょ」
と宣われたのだ。

何したって言われても、何もしていないって、いくら言っても信じてもらえなかった。

「今回の件は絶対に裏があるわ。私、絶対に負けないんだから!」
モモンガはヒロイン気取りで捨て台詞を吐いて去っていったのだ。
いやいや、どう見ても私はしがいない平民で、モモンガは聖女候補の男爵令嬢なので、モモンガの方が地位は上なのだ。

なのに、

「王太子殿下。メガネさんにいじめられました」
とあいつ、私の王太子殿下の腕にすがりつきやがったのだ。絶対に許さん。私はモモンガを盾に使うつもりだったのをすっかり忘れていた。

「なるほど。ワイルダー嬢も色々とご苦労されていますな」
それを笑ってレイモンド様は聞いてくれた。

「レイモンド様。本当に笑い事ではないのです。クラスの奴らも、あの騎士団長を土下座させた眼鏡怪獣エレ、なんて言ってはやしかけるし、次は王太子殿下を跪かせるのでは、とかとんでもないこと言ってくれているのですよ」
「いや、ワイルダー嬢、それはあなたが王太子殿下の前で眼鏡を外されたら、即座にかなう未来ですぞ」
「はあ?、何おっしゃっていらっしゃっているのですか! 王太子殿下がどこにでもいそうな私の素顔見たところで『へえええ、そんな顔しているんだ』と言われて終わりですよ」
私はレイモンド様に言っていた。私の素顔見て私の前で王太子殿下が跪いて頂けるのならばいくらでも素顔を晒すのに・・・・いやいやいや、駄目だ。魔王に知られてしまう。

「いや、そのような訳ありませんぞ。陛下も『あのきれいな子はどんな子だ』と後で聞いてこられましたからな。最も後でお妃様に睨まれておりましたが」
「えっ、陛下もですか。挨拶代わりのお世辞がお上手ですね」
「お世辞など。そのようなことではありませんぞ。そうですよね、殿下」
「まあ、そうですよね。少なくともエレがお兄様の前で眼鏡を外したら即座に跪くのは確実よ」
マリアンまでとんでもないことを言ってくれる。美形を見慣れた殿下が私の顔見てもなんとも思わないのは確実なのに。

「それにあんたの素顔をクラスの奴らが見たら、絶対に凄まじい争奪戦になるから、エレは眼鏡を絶対に外したら駄目よ」
何かマリアンがとんでもないことを言ってくる。そんな訳ないのに。

「まあ、魔王から隠れるのがかけている理由だから外さないわよ。この前陛下に見られたのは、アクシデントだし」
私はレイモンド様を見た。そう、この前はレイモンド様に言われて眼鏡を外していただけなのだ。普通は絶対に外しはしない。

「で、周りに被害を与えない、魔術ですか」
「そうなんです。今の私には皆の前で使えるのが水魔術しか無くて、この前は危うく、図書館を水没させるところでしたから」
「なるほど、しかし、ワイルダー嬢は、魔力が溢れておりますからな。火魔術を覚えたら今度は図書館が全焼しますが・・・・」
「えっ?」
それはもっとまずい。

「それは駄目ですが、何か良い魔術はないですか?」
「そうですな。・・・・目くらましでもやりますか」
考えていたレイモンド様がポツリと言ってくれた。

「目眩ましですか?」
「幻を出すというものですな。ワイルダー嬢よりも魔力の強いものが見ると一瞬で見破られてしまいますが、そういうものは早々おりますまい。下手したら魔王でも騙されてしまうかもしれないですかの」
「魔王は流石に難しいとは思いますが」
「いや、やって見せる価値はありますぞ。何か恐ろしい魔物でも出せますかな」
「恐ろしいですか?」
「そう、まず心のなかに思い浮かべるのです」
私は、昔読んだ絵本で恐竜の事を思い出していた。巨大な肉食恐竜が昔はこの世界を闊歩していたそうだ。

「はい思い浮かべました」
「そうしたら、『イリュージョン』と唱えるのです」
「イリュージョン!」

私が手を上げて唱えると100メートルはあろうかという巨大な恐竜が現れたのだ。

「えっ」
こんな大きかったっけ?

私の思いとは別に
「ガウォーーーー」
その恐竜は大音声で咆哮したのだ。周りの建物が揺れるほどの大きさだった。

マリアンもレイモンド様も唖然とそれを見ていた。

流石に100メートルもの高さだと外からも丸見えで・・・・

「何事だ!」
「巨大生物が現れたぞ」
「出会え!、出会え!」
大声で騎士たちが駆けてくる音がした。

「やばい」
私は慌ててリジェクトした。


「おい、消えたぞ」
「魔術師の塔の辺りだぞ」
「どこだ」
騎士たちが探し回る音がする。

「レイモンド様。今魔物が出ませんでしたか?」
「おっほっほっほっ。すまんすまん。ちょっと幻影を出してみたのじゃ。余りにもリアルすぎたかの」
「えっ、レイモンド様のいたずらですか」
騎士たちは呆然としていた。

「すまんすまん」

「レイモンド様!」
その後一緒になって私は怒られていた。

「いやあ、さすがワイルダー嬢、あれならば下手な男は一瞬で逃げ出しますぞ」
レイモンド様には笑われたが、

「手加減しなさいよね」
一緒に怒られたマリアンからはブツブツ文句を言われた。
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