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思わず魔法聖女の本を読み聞かせでてヒールを使ってしまいました

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翌朝は皆心配してくれて、マリアンやローズ、クラリッサは朝から私の部屋にやってきてくれた。

「大丈夫、エレ?」
「昨日はごめん。ちょっとおばあちゃんのこと思い出してしまって」
「ううん、私達の方こそ、ちょっと気を使わなさすぎたわ」
「ごめんね、エレ」
なんか皆が謝ってくれた。

まあ、泣き出した私が悪いんだけど。

「こっちこそ、どうしても家族のこと考えると泣けてくるの。直さなければいけないんだけど」
私が言うと、

「それは仕方がないじゃない。私らふたりとも両親はいるし、誰も身寄りがいないのはあなたくらいよ」
ローズが言ってくれた。

「まあ、そうかもしれないけど、それでみんなに迷惑かけるのも何か違うし」
言いながら食堂に入ると、

「大丈夫かエリ」
「気分はどう?」
なんか嬉しくなるくらいクラスの皆は声かけてくれた。

ここにいると一人ではないと良くわかった。



そして、次の休日、マリアンに無理言って孤児院に連れてきて貰ったのだ。
私がもっと小さい時に祖母が亡くなっていたら、入れられたであろう孤児院に。

「お姉ちゃん!」
マリアンがたまに慰問に来る孤児院みたいで、マリアンが行くと皆が寄って来た。


「皆元気にしていた?」
「うん、元気だよ」
「隣のお姉ちゃんは誰?」
「今日はお姉ちゃんの友達連れてきたんだ」
「そうなんだ。じゃあ、眼鏡のお姉ちゃん、遊ぼうよ」
子供達は元気だ。

「ねえ、絵本読んで!」
いきなり小さな女の子が私にすがり付いて頼み込んだ。

「えっ!」
私は本の読み聞かせなんてしたことがない。
でも、子供は強引だ。私は女の子達に隅に引っ張っていかれた。
そこにはたくさんの絵本が置いてあって、松葉杖横に置いた子供もいた。子供は這って横に退いてくれる。別に退かなくても良いのに。

そして、私の目の前には山のような魔法聖女エリの本があった。

「あ!、魔法聖女エリがある」
私が喜んで言うと、
「えええ! その本飽きた」
と言われてしまった。

「何言ってんのよ。この本は魔法聖女になる基本なのよ」
「基本って何?」
「基本は基本よ! えっとこの通りすれば魔法が使えるようになるってものよ」
「嘘だ!」
皆即否定だ。

「本当だよ。お姉ちゃんはこの本の通りに信じてやったら出来たんだから」
「本当に?」
「本当よ、だから聞いて」
私は本を開いて読み出した。

皆適当に合いの手を言ってくれる。

そして山場が来た。魔王との対決だ。まず、傷ついた人たちを治すのだ。

「エレは手を上げました」
「エリだよ」
「お姉ちゃんはエレだからエレで良いの」

私は手を上げる。
「ほら、皆も手を上げて!」
「えええ!やだ」
「そんなこと言わずにさ」
小さい子達は上げてくれた。
私は松葉杖の男の子が視界に入ってしまった。それが間違いだったような気がする。

「ヒール!」
右手を上げて叫んだら、思わず少し漏れたような。ひょっとして、やっちゃった?

「えっ、今お姉ちゃんの手光ったよ」
「えっ」
私はヤバイと思った。ついやってしまった。
後ろで見ていたマリアンの目が怖い。

「ほら、あんたらもやってごらん。うまくいけば光るから」
私は誤魔化すのに必死だった。

「本当に?」
「そう、ほら」
「ヒール!」
「ヒール!」
「ヒール!」
皆口々に言って唱えるが、手は当然光らない。

「全然じゃん」
「そんなの当たり前よ。お姉ちゃんなんて1万回やって一回光るかどうかよ」
「えええ!」
「そんなに」
「当たり前よ。でも光ったでしょ」
「うん、光った」
「あっ、怪我が治っている」
こけて手を擦りむいていた子が叫んでいた。

「あははは」
もう私は笑うしかなかった。ちょっとまずい。

「ほら、そう言うこともあるから。ほら頑張って練習してみて」
私はもう冷や汗たらたらだった。

「ふんっ、そんなの嘘だい。エリみたいにやっても出来るわけ無いだろ」
松葉杖をそばに置いていた男の子が立ち上がって叫んでいた。

「じ、ジル」
「あんた立ってるよ」
「えっ!」
子供は唖然として立っていた。

「あんた松葉杖、無いと立てなかったじゃん」
「ほ、本当だ」
その子は呆然と立っていた。

や、やばい、やってしまった!

「ね、皆が本の通りにエレの真似したら、出来たんだよ! だから、ジルの脚は皆が治したんだよ」
私は真っ青になりながら、強引に結論に持っていった。

「えっ、そうかな、でもお姉ちゃんの手が光ったような」
子供は正直だ。でも、ここは誤魔化すしかないのだ。

「あんたの手もヒールって言ったときに少し光っていたわよ」
「えっ、本当に」
その言葉はなんか信じていない口調ありありだったが・・・・

「本当だよ。皆凄いよ!」
マリアンが辛うじて、追従してくれた。そう、マリアンもっと言って。私は目で頼み込んだ。

「皆、凄いじやない。信じてやれば、出来るんだよ」
「そ、そうよ。信じてやれば出来るんだから」
私は必死にマリアンに追従した。

「でもこの事は黙っていないとダメだよ」
マリアンが言ってくれた。

「えっ、なんで?」
「ヒールが使えるのは珍しいから、皆が出来たとなると、皆、悪い奴らに捕まって売られてしまうかも知れないからね」
「えっ、そんなの嫌だ」
「だからこれは秘密にしておこうね」
マリアンはなんとか誤魔化してくれた。

私はほっとした。
でもそれは甘かったのだ・・・・
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