悪役令嬢に転生させられた地味令嬢ですが、ヒロインの方が強くて虐められているんですけど……

古里@3巻電子書籍化『王子に婚約破棄され

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せっかく婚約者にキスされて浮かれていたのに、馬車から聖女を連れて婚約者が降りてくるのを見て絶望しました

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 私はエミールの胸の中で思いっきり泣いてしまった。
 慌てたエミールが言い訳も兼ねて私を家まで送ってくれたのだ。

 そのまま目を真っ赤に腫らして私が帰ったので、家ではちょっとした騒ぎになった。

「殿下これはどういう事ですか?」
「クラリスに何をしてくれたのです?」
 父と兄がエミールに食ってかかってくれた。

「いや、公爵。実は私にもよく判らなくて……」
 エミールは慌てて説明しようとして失敗していた。

「判らないとはどういう事ですか!」
「本当に殿下はクラリスを傷つけた理由もわからないのですか?」
 父と兄が更にエミールに詰め寄られていた。
 これはまずい。説明しないと。
 でも、これでエミールとお別れだと思うと悲しくなって泣き出したなんて事は言える訳は無かった。

「あのお父様。お兄様。別にエミール様は悪くないの」
 私は王宮の妃教育が終わって、これで終わりかと感慨にふけっていたら、急に涙が出てきたという理由にすることにしたのだ。実際、半分は本当だったし……

「本当なのか、クラリス? お前は昔はお妃教育はいやだと言っていたじゃないか」
「殿下に何にか他に酷い事をされたんだろう」
 最初はお父様もお兄様も信じてくれなくて、納得させるのに本当に苦労したのだ。

「じゃあ、クラリス。また明日」
 エミールが帰り際に馬車まで見送りに出た私に、当然のように言ってくれた。
「でも、エミール様。王妃様には学園では私に話しかけるなと言われたんでしょう」
「まあ、それはクラリスが友達を作るのを邪魔するなと釘を刺されただけで、別に話すなとは言われていないし、例え言われたとしても守るつもりはないよ」
 エミールは私と視線を合わせずに話してくれた。

「でも、王妃様の命令は聞かないといけないんじゃありませんか?」
 私が首を振ったのだ。
「くっそう。これもクラリスと結婚するためだ。我慢我慢」
 エミールが小声で呟いてくれたが、私にはよく聞こえなかった。

「エミール。困ったことがあったらいつでも俺に言ってくれ。俺の母親の言う事なんて聞かなくて良いからな」
 そう言うとエミールはそっと私の頬にキスしてくれたのだ。

 ええええ! キスしてくれた。エミールが私の頬に!

 前世も含めて私のファーストキスだった。
 私は真っ赤になったのだった。

「殿下! まだ婚姻前の娘に何をしてくれるんですか!」
「本当ですよ! まだ学園に入ってもいない妹にキスするなんて最低ですね」
 お父様とお兄様が文句を言うのを私はぼうっとして聞いていたのだ。
「俺の婚約者だからほっぺにキスくらい良いだろう」
 エミールが文句を言ってくるんだけど、王妃様からは私と別れて聖女と一緒になった方が良いと言われているんじゃないの?
 私にはいきなりキスしてきたエミールの行いが信じられなかった。
 せっかくエミールを諦めようとしたのに、こんなのありなの?
 その日の夜は明日からのことやエミールのことを考えてよく寝れなかった。


 そして、今日は王立学園の入学式だ。
 私は公爵家の馬車で三年生のお兄様と一緒に登校した。

「どうした、クラリス? 緊張しているのか?」
 お兄様が驚いて尋ねてきた。
「 だって学園に行くのは初めてだし」
 私が言い訳すると、

「王宮に行って平然と王太后様と話しているお前が良く言うよ。俺なんか、王太后様の前では何一つ話せないのに」
 お兄様が呆れて言うのを聞いて、
「えっ! なんで? 王太后様はとても優しい方じゃない」
 私が驚いてお兄様に反論すると
「それはお前限定だろ。あの、王妃様でさえ王太后様の前では猫かぶっておられるのに。王太后様からもらったケーキに『このケーキは美味しくないです』なんて言うのはお前くらいだ。本当にあの時は肝が冷えたんだからな」
 お兄様はそう指摘してくれたけど、私にしたら王太后様を相手するよりも、今日からの学園生活の方が余程緊張するのだ。

「まあ、何かあったら、即座に俺に言えよ。もっとも我が公爵家に喧嘩売るような貴族が学園にいるとは思えんがな」
 お兄様はそう言って笑ってくれた。

 でも、私はそこを危惧していた。ゲームでも勝手に私の心を忖度して聖女を虐めてくれた事も全てクラリスのせいになって、クラリスは断罪されるのだ。
 私はそれだけは避けたかった。


 公爵家の馬車は学園の馬車だまりに止まった。
 まずお兄様が降りてくれた。

「キャーーーー」
「ねえ見て、セドリック様よ」
「セドリック様!」
 女達の黄色い声が響いた。
 ゲームの攻略対象でもあるお兄様は見目麗しくてゲームでも人気だった。

 そのお兄様が手を差し出してくれた。
 こんな注目を浴びている中、降りるの?
 私は少し躊躇したが、思い切ってお兄様の手を取って降りた。

「誰、あの女?」
「セドリック様がエスコートされるにしては地味じゃない」
「公爵家の我が儘令嬢よ」
「ああ、聖女様がおっしゃっておられた」
 なんか声が聞こえてくる。
 でも、私が我が儘令嬢って何なの?
 聖女が流してくれている訳?

「クラリス。大丈夫か?」
 お兄様が聞いてくれた。
「私は大丈夫よ。お兄様は生徒会長だからやることはたくさんあるんでしょ。私は一人で行けるからお兄様は準備の方に行ってくれていいわよ」

「そうか。すまないな」
 お兄様が急いで講堂の方に歩いて行くのを私は見送った。

 そして、私は中庭のクラス分けの発表を見に行こうとした。
 その時、王家の馬車が入ってきたのだ。

 エミールだ。
 昨日泣いてしまったし別れしなにキスされてしまったから顔を合わせづらい。
 私は慌てて立ち去ろうとした時だ。

 エミールが馬車から降りるのが見えた。
「キャーーーー、エミール様よ」
「エミール様!」
「エミール様、今日も素敵です!」
 お兄様以上の歓声が沸いた。
 さすが我が婚約者だ。私は少し皆に自慢したい気分だった。
 この時まで私はとても浮かれていたのだ。

 でも、エミールは一人じゃなくて、誰かをエスコートしようとしていた。

 えっ? 誰なの?
 婚約者の私はここにいるのに!

 驚いて私が見ている中で、その馬車からはピンクの髪を靡かせたアニエスがエミールに手を引かれて降りてきたのだ。

 私は完全に固まってしまった。

 エミールが私以外の女をエスコートしている。

 私は頭が完全に真っ白になっていた。

 その時、私は気付いたのだ。エミールが好きだったと。

 でも、エミールは婚約者の私ではなくて、聖女のアニエスをエスコートしていた。
 ええええ! ゲームでこんなに早くから王太子がヒロインをエスコートなんかしていたっけ?
それにエミールが私といる時はとても不機嫌そうなのに、満面の笑みを浮かべているのだ。信じられなかった。あんな風に笑みを浮かべられるんだ。
その隣を歩く聖女アニエスも満面の笑みを浮かべていた。そして、ちらっと私の方を自慢げに見てきた。距離は離れていたけれど、あれは絶対に私に向かって自慢していた。

 私は呆然とした。

「あの方は誰なの?」
「あなた知らないの? 聖女様よ」
「えっ、聖女様って100年ぶりに現れた?」
「そうよ。我がブルゾン王国に繁栄をもたらしてくれる聖女様よ」
「まあ、何て事なの? 王太子殿下ととてもお似合いだわ」
「しぃぃぃぃ! 王太子殿下には他に婚約者がいらっしゃるはずよ」
「ああ私聞いたことがある」
「確か、ロワール公爵家の我が儘娘だったわ」
「でも、殿下のお相手はどう見ても聖女様がお似合いじゃない!」
「本当にそうよね」

 笑顔を浮かべているエミールとその横を嬉しそうに歩くアニエスはとてもお似合いのカップルに見えた。それは悔しい事にエミールの婚約者の私が見てもそうだったのだ。

 でも、何もこんなに早くからエミールを私から取り上げる事ないじゃない!
 昨日はエミールも私を胸の中で抱いて泣かせてくれたのに!
 何が卒業したらお前と結婚するよ!
 私の初めてのキスも奪ってくれたのに!
 嘘つき!

 私はその場で目に溜った涙が漏れそうになるのを必死に我慢したのだった。
***********************************************
ここまで読んで頂いてありがとうございました。
聖女の横を笑みを浮かべて歩くエミール。
クラリスはやはり婚約破棄されるのか?

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