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プロローグ 知らない間に小説の中の悪役令嬢に転生させられていました

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私はその時、たまたま歩きながら異世界転移物の恋愛小説を読んでいたのだ。本の名前は確か、『ロンドのピンクの薔薇』だったと思う。

物語は主人公の女の子がトラックにはねられそうになった女の子を突き飛ばして、自分がはねられるところから始まる。

少女はその自らの身を犠牲にした功績で、神様に異世界であるロンド王国に転生して聖女となり、悪役令嬢をパーティーで断罪して王太子妃になって、めでたしめでたしになる成り上がりのシンデレラ物語だった。

ふんっ、こんなうまいこと行くわけないし、女の子助けて転生できなかったら、単なる自殺行為じゃん、と私は最初は馬鹿にしていたのだ。

そう、その状況になるまでは。


物語が佳境になって、断罪パーティーの時が来た。私はその頃までには、ワクワクしてヒロインのピンク頭の聖女に感情移入していたのだ。


まさに、今、主人公のピンク頭の聖女が金髪の悪役令嬢キャサリンに階段から突き落とされようとした時だ。

「危ない!」
私は本の中の聖女に叫んでいた。

そして、虫の知らせか、はっとして私は顔を上げた。眼の前をランドセルを背負った少女が青信号の横断歩道を渡ろうとしていて、そこに急ブレーキをかけながら大型トラックが突っ込んできたのだ。

女の子は驚いて固まってしまっていた。


「危ない!」
普段なら絶対に私は何もしなかっただろう。

でも、その時は小説の影響か、何故か正義感にあふれていたのだ。


私は飛び込んで、女の子を思いっきり突き飛ばしていたのだ。


そこへ、止まれないトラックが突っ込んできた。


私は思いっきり跳ね飛ばされて、意識を失っていた。





*************************************************************




ハッと気づくと目の前は真っ白な世界が広がっていた。
どこだろう? ここは天国なんだろうか。


「はああああ、これで今日2人目なんですけど」
目の前には疲れ切った黒服が立っていた。


んんんん?


何だこの状況は。そういえば本でも、はねられた主人公が会うのが黒服の神様だった。


「あ、あなたひょっとして、神様なの?」
私は思わず食いつき気味に言った。

「そんなわけないでしょ。私は単なる案内人ですよ」
黒服の男が冷静に否定した。

「そうよね。来ている服もよれよれだし、どう見ても単なる雑用係よね」
私がそう言うと男はムッとしたのだ。

「判りました。あなたは地獄行きをご希望ですね」
男は無造作になんか閻魔帳みたいなものを取り出して書き込もうとする。


「嘘! めちゃくちゃかっこ良いです。神様。ぜひとも転生させてください」
私は思わず黒服に縋り付いた。

「本当にそう思っているんですか? ヨレヨレのボロボロとか言ってましたけど」
「いや、ボロボロなんて付け足さないで下さいよ。神様の事はずうーっと信じていたんですから」
私が思わずヨイショする。神なんて信じたことはないけれど、ここは転生できるかどうかの瀬戸際だ。嘘も方便だった。

「なんか胡散臭いですね」
神様はジロジロと私を疑い深そうに見てくれるんだけど。

「そんな事ないですよ。私は女の子を庇って死んだんですから、異世界に転生させてください」
「ほうら、まただ。今日であなたで2人目ですよ。本当に最近多いんですよね。女の子庇って死んだからって、何故、私が苦労して異世界転生なんてさせないといけないのですか。地獄に送ったら鬼どもが喜んで付け届けしてくれるのに。下らない本が流行っているお陰で、私の仕事倍増しているんですよ」
黒服の神様はぶつぶつ言っている。

「そんな事言わずにお願いします」
私はそんなにうまい具合に行くかと日頃思っていたことを棚上げして、必死にお願いした。こんなチャンス二度とないのだ。頭なんてどれだけ下げてもいいだろうと思いきったのだ。
何度も頭を下げてお願いして、さすがに黒服の神様も飽きてきたのだろう。

やっと認めてくれた。

「でも、最初の1人がヒロイン役取ってしまいましたから、ヒロインは無理ですよ」
黒服はとんでもないことを言ってくれた。

「ええええ! ヒロインではないんですか?」
私はがっかりした。

「はい、あなたの考えておられる世界のヒロインはもう決まりました。他の役なら空いていますけど。他の世界だと、地獄の魔王降臨という魔王役がまだ空いていますけど」

な、何なのだ。魔王と言うのは。それはそれでろくな役ではないような気がする。

「他の役はどんな役が空いているのですか」
「キャサリンという公爵家のご令嬢の役が空いています」
「公爵家のご令嬢ですか」
なんか名前を聞いたような気がするんだけど。

「公爵令嬢に転生できたら、もう贅沢三昧ですよ。何しろ王族の次に偉いのですから」
黒服の神様が教えてくれた。そうか、それだけ贅沢できるのならばそれでも良いかも、と単純な私は思ってしまったのだ。

「他はないのですか?」
「女性の配役は後は平民Aとかしか残っていませんね」
「判りました。その公爵令嬢でいいです」
他の人に取られたら大変とばかりに私は頷いてしまったのだ。

「じゃあ時間がないので、これで転生させますね」
男が手を振ると地面が裂けたのだ。
私は地面に吸い込まれた。急速に下に落ちる。

「あまりに可哀相なので、少しだけチートスキルをお付けしました」
意識の飛ぶ前に黒服の言った意味がよく判らなかった。なんで公爵令嬢が可哀相なんだろう? 私はその本の主人公以外の登場人物の名前をよく覚えていなかったのだ。

悪役令嬢の名前がキャサリン・シェフィールド公爵令嬢だったということを!
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