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王女の侍女は大国公爵令息から逃げ出しました。
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クリスが急遽帰ることになった。
「あなたはどうするの?出来たら一緒に来てほしいのだけれど」
クリスはそう言ってくれた。
恐れ多くもクリスイコール筆頭魔導師様は私を世界でたった一人の友達だと言ってくれた。世界最大の魔力量を誇る魔導師様がだ。
その言葉はとても嬉しかった。
そして、一緒にいた期間は短かったが、多くの著名人というか凄い人に引き合わせてくれた。
赤い死神こと、アレクサンドル・ノルディン皇太子殿下、
暴風王女こと、ジャンヌ・マーマレード皇太子殿下、
陰険王子こと、オーウェン・ドラフォード皇太子殿下、
学園長のアレリア・テレーゼ皇太子殿下などなど。
また、昔からの懸念事項であるマエッセン王国の脅威も、その大軍の侵攻による壊滅の危機も救ってくれた。
私というかインダル王国の大恩人だ。
そんな人に請われたら当然ついていくべきだったが、インダル王国もリーナ様が女王になったばかり。リーナ様は私の姉的存在で、両親亡きあと、私と姉妹のように育ってきた方だ。その方を見捨てて行くわけにも行かなかった。
リーナ様にはあなたのおかげでここまで来たのだから、今後もインダルとの間を繋ぐ意味でもボフミエに行ってほしいと言われたが。国内貴族の大半が反王女派で、これからの国家の運営はとても大変だろう。私一人がいてもどうなることはないかも知れないが、少なくとも愚痴は言えるはずだ。
それに一番大きな問題はアルバートのことだった。
クリスと一緒にいるということはアルバートとも一緒にいるということだ。
私はそれが耐えられそうになかった。
アルバートは私に優しくしてくれて、お守りに渡してくれたペンダントは私の命を守ってくれた。命の恩人だ。
でも、私はインダルの平民。超大国の公爵令息と釣り合うわけはなかった。
アルバートは、公爵令息と言ってもたかだか第6子でしか無いから公爵家は継がないし、今のまま行くと騎士爵になるしかないし、騎士爵なんて平民と同じだと言うが、アルバートほど見目麗しく剣術魔術ともに国のトツプクラスの人間は婿の貰い手はあまたあるだろう。何しろマーマレードの侯爵家令嬢のクリスと結婚することも十二分に可能なのだ。もっともクリスにはドラフォードの皇太子殿下がついているが。
私なんかが側にいて良いはずはない。
急遽帰還が決まったクリスの護衛騎士のアルバートも忙しく、私もリーナ様関連のドタバタで会えなかった。というか、私が無理やり会わないように、逃げていた。
そして、今日はそのクリスが帰る日だった。
私はリーナ様の侍女だったが、今は事務官の人手が足りないので、書類の手伝いをしていた。
「ソニア!」
リーナ様がきつく私を呼んだ。
「ハイッ」
私は顔を上げた。
何回か呼ばれていたらしい。何も考えないようにするためにただひたすら一心不乱に書類作成をしていたのだ。
「アルバート様があなたに会いに来ていらっしゃるわ」
リーナ様が言った。
「会いたくありません」
私は動揺したが、はっきり言った。
「じゃああなたの口から直にそう言いなさい」
リーナ様は冷たくもそう言った。
「そんな」
私は呆然とした。今は会いたくなかった。
アルバートは超大国の筆頭公爵家令息でクリス様の近衛騎士。婿の行き先は嫌ほどあるのだ。一時期の気まぐれでその可能性を潰してはいけない。彼は私に同情して優しくしてくれただけだ。でも、私を選べば絶対に後悔するバズだ。
「リーナ様。絶対に会えない」
私は頑なに言った。
「そうは言ってもここまで足を運んで頂けたのだから、会わないというのは酷くないかしら」
リーナが常識論で攻めてきた。
「でも、会えないんです」
繰り返した。私は既に涙目だった。
その私を見てリーナ様はため息をついた。
「判りました。ソニア、これは命令です。アルバート様と直にお話してきなさい」
リーナ様がきっぱり言った。
「そんな、リーナ様」
私は引きつった顔で首を振った。
今は絶対に会えなかった。
俯いた顔からは涙が止めどなく流れてきた。
「ソニア、どうしたの?」
リーナ様が近づいてきた。
「むり、無理なんです」
私は立ち上がって後退りした。
そうだ、絶対に会ってはいけない。
今会ったら、絶対にとんでもないことになる。
「ちょっとソニア」
リーナ様は私を捕まえようと手を伸ばした。
私は踵を躱すと裏口から外に飛び出した。
「ソニア!」
リーナ様の叫び声がしたが、私は無視して駆け続けた。
****************************************************
今夕更新して完結です。
「あなたはどうするの?出来たら一緒に来てほしいのだけれど」
クリスはそう言ってくれた。
恐れ多くもクリスイコール筆頭魔導師様は私を世界でたった一人の友達だと言ってくれた。世界最大の魔力量を誇る魔導師様がだ。
その言葉はとても嬉しかった。
そして、一緒にいた期間は短かったが、多くの著名人というか凄い人に引き合わせてくれた。
赤い死神こと、アレクサンドル・ノルディン皇太子殿下、
暴風王女こと、ジャンヌ・マーマレード皇太子殿下、
陰険王子こと、オーウェン・ドラフォード皇太子殿下、
学園長のアレリア・テレーゼ皇太子殿下などなど。
また、昔からの懸念事項であるマエッセン王国の脅威も、その大軍の侵攻による壊滅の危機も救ってくれた。
私というかインダル王国の大恩人だ。
そんな人に請われたら当然ついていくべきだったが、インダル王国もリーナ様が女王になったばかり。リーナ様は私の姉的存在で、両親亡きあと、私と姉妹のように育ってきた方だ。その方を見捨てて行くわけにも行かなかった。
リーナ様にはあなたのおかげでここまで来たのだから、今後もインダルとの間を繋ぐ意味でもボフミエに行ってほしいと言われたが。国内貴族の大半が反王女派で、これからの国家の運営はとても大変だろう。私一人がいてもどうなることはないかも知れないが、少なくとも愚痴は言えるはずだ。
それに一番大きな問題はアルバートのことだった。
クリスと一緒にいるということはアルバートとも一緒にいるということだ。
私はそれが耐えられそうになかった。
アルバートは私に優しくしてくれて、お守りに渡してくれたペンダントは私の命を守ってくれた。命の恩人だ。
でも、私はインダルの平民。超大国の公爵令息と釣り合うわけはなかった。
アルバートは、公爵令息と言ってもたかだか第6子でしか無いから公爵家は継がないし、今のまま行くと騎士爵になるしかないし、騎士爵なんて平民と同じだと言うが、アルバートほど見目麗しく剣術魔術ともに国のトツプクラスの人間は婿の貰い手はあまたあるだろう。何しろマーマレードの侯爵家令嬢のクリスと結婚することも十二分に可能なのだ。もっともクリスにはドラフォードの皇太子殿下がついているが。
私なんかが側にいて良いはずはない。
急遽帰還が決まったクリスの護衛騎士のアルバートも忙しく、私もリーナ様関連のドタバタで会えなかった。というか、私が無理やり会わないように、逃げていた。
そして、今日はそのクリスが帰る日だった。
私はリーナ様の侍女だったが、今は事務官の人手が足りないので、書類の手伝いをしていた。
「ソニア!」
リーナ様がきつく私を呼んだ。
「ハイッ」
私は顔を上げた。
何回か呼ばれていたらしい。何も考えないようにするためにただひたすら一心不乱に書類作成をしていたのだ。
「アルバート様があなたに会いに来ていらっしゃるわ」
リーナ様が言った。
「会いたくありません」
私は動揺したが、はっきり言った。
「じゃああなたの口から直にそう言いなさい」
リーナ様は冷たくもそう言った。
「そんな」
私は呆然とした。今は会いたくなかった。
アルバートは超大国の筆頭公爵家令息でクリス様の近衛騎士。婿の行き先は嫌ほどあるのだ。一時期の気まぐれでその可能性を潰してはいけない。彼は私に同情して優しくしてくれただけだ。でも、私を選べば絶対に後悔するバズだ。
「リーナ様。絶対に会えない」
私は頑なに言った。
「そうは言ってもここまで足を運んで頂けたのだから、会わないというのは酷くないかしら」
リーナが常識論で攻めてきた。
「でも、会えないんです」
繰り返した。私は既に涙目だった。
その私を見てリーナ様はため息をついた。
「判りました。ソニア、これは命令です。アルバート様と直にお話してきなさい」
リーナ様がきっぱり言った。
「そんな、リーナ様」
私は引きつった顔で首を振った。
今は絶対に会えなかった。
俯いた顔からは涙が止めどなく流れてきた。
「ソニア、どうしたの?」
リーナ様が近づいてきた。
「むり、無理なんです」
私は立ち上がって後退りした。
そうだ、絶対に会ってはいけない。
今会ったら、絶対にとんでもないことになる。
「ちょっとソニア」
リーナ様は私を捕まえようと手を伸ばした。
私は踵を躱すと裏口から外に飛び出した。
「ソニア!」
リーナ様の叫び声がしたが、私は無視して駆け続けた。
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