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アルバート視線3 小国侍女に負けてしまいました

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クリス様はソニアを贔屓にしているエスター商会に連れて行き、それから俺達は街を散策した。

「ふんふん」
広場の屋台を見るとソニアの目が光った。それも串焼きをみて目を輝かせている。

「何だ。もうお腹が減ったのか」
呆れて俺は言った。

「だってこんなに美味しそうな匂いがするんですもの」
ソニアは言い訳する。

「仕方がないな」
俺はお詫び代わりに串を2本買って1本ソニアに渡した。

「えっ、くれるの」
ソニアが驚いて聞いてくる。

「噂広げたお詫びだ」
「ヤッター」
こいつ単純だ。こんなので許してくれるのか。俺は呆れた。

皇太子らも串を1本買っていた。でも1本だけだ。
これは絶対に・・・


「えっ、オウ、私には?」
クリス様が不満そうにいう。

「そんなにたくさん食べられないでしょ。昼前だし」
そう言うと皇太子が串をクリスの前に差し出す。

「ありがとう」
その串にクリス様が噛み付く。

「えっ。嘘」
二人が1本の串を食べ合うのを見てソニアは固まっていた。
そう、この二人、昔からの付き合いのせいか、普通にこういう事をやるのだ。

クリス様は俺達の温かい視線に気づいて赤くなる。

「はい、クリス」
でも、皇太子は全くどうじていない。絶対にわざとだ。

「オウ」
クリス様がオウに注意を促すが、結局食べさせられていた。
この二人はいつもこんな感じだ。これで恋人でないというのもどうかなとはいつも思う。
ソニアも不思議そうに見ていた。

その俺達の前に、ジャンヌとアレクが転移してきた。

ボフミエの2大狂気と世間から怖れられている暴風王女と赤い死神、4大国のうちの2国マーマレードの皇太子殿下とノルディン帝国の皇太子殿下だ。ここの要人率がおかしい。この中では俺も平民のソニアとそんなに変わらなくなるんだけど・・・・。まあ、暴風王女と赤い死神だから護衛はいらないけれど。



「お前ら遅い!」
ジャンヌが怒っていた。

「遅いってなんだよ。今日会う約束なんてしていないぞ」
うちの皇太子のオウが文句を言う。

「ふんっ、貴様が店の予約しているのを見たから前もって待っていたんだよ」
アレクが言う。

「お前ら趣味が悪いぞ。何で俺とクリスのデートの邪魔するんだ」
「別に邪魔していないぞ。楽しんでいるだけだ」
ジャンヌが答えた。

いやいや、そもそも、これはクリス様とソニアの街歩きであって決してオウとクリス様のデートではないはずなんだが、本当に何でいつもこうなるんだろう。俺は頭が痛くなった。

「おふたりとも今日はオウとのデートではないです。ソニアが街に買い物に行くって言うから案内しただけで、オウは無理やりついて来ただけなのに」
クリスが文句を言う。

「ああ、お前がインダルから来たお転婆ソニアか。アルから聞いてるぞ」
余計なことをジャンヌは言うなと俺は思ったが、

「アル!やっぱり言いふらしているじゃない」
ソニアが案の定、文句を言ってきた。

「はい、じゃあこれ食べても良いから」
俺は誤魔化すために、皇太子のマネして残りの串をソニアの口元にもっていった。

何故かソニアが赤くなっていたが、これで静かになってくれれば良い。

その後ジャンヌとアレクまで食べさせ合っていたのには俺は頭が痛くなった。この二人付き合っていなかったはずだ。というか、皇太子二人が婚姻したらその2国はどうなるんだ??
そもそも、マーマレードとノルディンは3年前に戦争したし、この二人剣を交えているんだけど・・・・俺は考えるのを止めた。


その後レストランで、ソニアの故郷について話題になる。暴風王女はやはり脳筋だった。インダルの位置すら知っていない。こんなのでマーマレードの未来は明るいのか。

まあ、前皇太子のジャンヌの弟がクリス様を婚約破棄するなんてとんでもないことをしてくれたから、王女は急遽前線から戻されて皇太子にされたのだから仕方がないと言えば仕方がなかったが。
まあ、戦場では圧倒的に存在感はあるし、決断力も求心力もあるから問題はないと言えば無いが。優秀な文官が補佐に付けば問題はあるまい。

でも、マーマレードの優秀な若手文官候補ってクリス様はここにいるし、スミスっていう文官もクリス様がここにひっぱってきたし、クリス様の父は万能内務卿だが、その息子、クリス様の弟で俺の同僚は王女と同じで脳筋だし、マーマレードは大丈夫なんだろうか。

さすがに2大国の皇太子はきちんとインダルの位置も掴んでいたし、マエッセンの国王がインダル王女の母に懸想して襲撃したことまで掴んでいた。

その侍女のソニアは知らされていなかったみたいだが。

その後、クリス様がジャンヌに、ソニアに剣術と魔術について教えて欲しいとお願いされて学園の訓練場にやってきた。

ソニアは暴風王女と赤い死神の模擬戦を見て目を点にしていた。

そらあそうだろう。この二人は世界最強最悪の二人なのだ。何しろ暴風王女と赤い死神なのだから。世界各国から怖れられていた。赤い死神に至っては小国を一人で滅ぼしているくらいだ。はっきり言って学生レベルではないのだ。

「あれと比べたら駄目だよ。あれはおそらく世界トップレベル」
皇太子が説明していたが、そのとおりだ。


「ジャンヌ様、アレク様、何卒我が王女リーナをお助け下さい」
ソニアが二人に頭を下げるのを見て俺は目が点になった。

暴風王女と赤い死神、はっきり言ってこの二人を味方にしたら鬼に金棒だろう。でもそれって完全に内政干渉だ。インダルなんて小国でも、味方したらマエッセンの征服も可能だろう。パワーバランスが崩れる。

でも、この二人に頼むなんて無謀なことをしたやつはいまだかつていないはずだ。トリポリ国王なんて赤い死神にヒイヒイ頭を下げているのだ。ノルディン帝国の皇帝でさえ、アレクには恐れを抱いているのに。

そもそも、クリス様の下についているのが絶対におかしいのだ。

「えっ、おい、いきなり何やっているんだ」
ジャンヌの焦った声が聞こえた。
まさか、世界最凶の二人にそんな事を頼む無謀なやつがいるなんて思ってもいなかったのだろう。

「無理言っているのは判っています。でもこのままだとリーナ様がマエッセン王の人身御供になってしまうんです」
ソニアは必死みたいだった。でも、自国の将軍にさえ怖れられている赤い死神に言うなんてなんて命知らずなんだ。

「まあ、おそらく良いところ妾に囲われるっていう感じだろう」
氷のような表情でアレクが言った。
「でも、それがどうした。王侯貴族にとって政略結婚は当たり前の事だし、インダルなんて力のない国は当然の、ギャッ」
な、なんてことだ、赤い死神の足を暴風王女が踏んだ。普通のものがやったらその場で処刑だ。さすが暴風王女。俺は感動した・・・・

アレクが足を抑えて悶ている。

「アレクは言いすぎ。それにソニア。いくら私達が出て行ったって王位継承権をひっくり返すなんて無理だ。内政干渉に当たるし」
ジャンヌが珍しく、常識論を言う。面白いからやってやろうと言わないなんて珍しいかも。

「判っているんです。それが難しいことは。でも、私の両親は王妃襲撃の時に王妃を守って死んだんです。でも、今のアレクの言葉を聞いたらマエッセンの色ボケ王の欲望のために死んだって事になって、そんなことのために両親は死んだんだって・・・・なんか悲しくなってきて」
ソニアは目から涙を流して泣き出した。

「判った。そこのアルと戦って勝てたらいざという時は助けよう」
ジャンヌが言ってくれた。

えっ俺?俺は固まった。


「えっ、お姉さま。いくら何でもそれは無理では」
「いえ、よろしくおねがいします」
クリス様が援護してくれようとしたが、ソニアは断った。

おいおい、そらあ、俺は赤い死神や暴風王女には勝てた例がないが、一応、クリス様の護衛騎士だ。ドラフォードでも剣術は10指に入る。その俺に勝てると思うのか。

「えっ、何で俺が」
俺は暴風王女に文句を言った。

「だって私とかアレクよりも可能性があるだろう。オウにしたらわざと負ける可能性があるし。でも近衛騎士のお前がまさか負けるわけはあるまい」
ジャンヌが笑って言った。

「アル様。よろしくお願いします」
ソニアは頭を下げた。

えっ、でもソニアに勝っても俺は酷い悪役になるのではと俺は気づいた。

「ちっ、仕方がないな。容赦はしないぞ」
と言った。

「えっ、容赦しないの。可愛そうなソニア、ご両親が殺されたのに」
クリス様が冷たい視線を向けてくる。

えっ、やっぱり俺はわざと負けたほうが良いだろうか。

でもそんな事したら同僚のウィルやナタリーからこれから延々言われるに違いない。
それは嫌だ。でも、ソニアに勝つというのも可愛そうだ。
どうすれば良いのだ。

「アルバート、近衛が負けるなよ」
ジャンヌが煽って来る。

俺は仕方無しに、模造剣を構えた。まあ、適当にやってギリギリで勝てればいいだろう。ソニアには悪いが、クリス様の近衛としても負けるわけには行かない。

しかし、なんと、ソニアは構えていた模造剣を横に捨てたのだ。

「えっ」
何だこいつ、あのしょぼいファイアーボールで俺と対峙するつもりか。

でも、俺は丸腰の女相手に攻撃するなんて出来るわけないぞ。

どうすれば良いんだ。

俺はとても動揺した。

「出でよ。障壁」
更に、次のソニアの言葉に俺は更に戸惑った。

障壁張ってどうするんだよ。そんなので勝てないし、障壁くらい俺が魔力込めた剣で斬れば斬れる。でも、丸腰の女に斬りかかるなんて真似できんぞ。

俺は本当に戸惑った。

それが失敗だった。

いきなり巨大な障壁が一瞬で俺に襲いかかってきたのだ。

剣で斬ろうとしたが、間に合わなかった。

俺は一瞬で障壁に飲み込まれて遥か彼方に弾き飛ばされたのだった・・・・・・
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