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王女の侍女は大国公爵令息と約束できませんでした

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「では筆頭魔導師様。私はソニアを教室まで送っていきます」
アルバートが立上っていった。

「えっ、いえ、学園内ですし、わざわざ送っていただくても」
私は遠慮しようとした。そもそもアルバートは筆頭魔導師様の近衛騎士だし、護衛対象を放ってわざわざ私を送ってくれる必要もないだろう。

「学園内と言えども何があるか判りませんし」
いや、いや、なにもないでしょう。私は言いたかった。

が、強引にアルバートに手を取られる。

「あらあら、そうなのね。ゆつくりしてきていいわよ、今日の夜までに帰ってくればいいわ」
筆頭魔導師様、何を言っているの。私も授業なんですけど。

「いえ、すぐに戻ります。では」
「し、失礼します」
私は強引にアルバートに連れ出されてしまった。

残った皆の視線が生暖かかったように思う。
何故そうなる。先程もアルバートには、私と付き合っているのを目一杯否定されたところだし、そもそも私達は付き合っていない。単なる護身術の教師と生徒の関係だし、学園で言うところのクラスメートだ。

「あの本当に学園内ですから、問題ないですよ。アルバート様もお仕事中ですし」
出たところで私が言うが、
「いや、これも仕事だから」
そう言うと、さっさと歩き出した。

えっ、早いって。私は慌てて後を付いていく。

アルバートはずんずん先を歩いていく。

私が小走りで付いていく。

「アルバート様。早いです」
思わず声を出した。


「あっ、ゴメン」
アルバートは慌てて振り返って止まってくれた。

「本当にお忙しいのならば、お戻りいただければ」
私が言うと
「いや、すまない。ちょっと考え事をしていて、足が早くなってしまった」
アルバートは何を考えていたのだろう。悩むことがあるのならば、私のお見送りなんて良いのに。

今度はアルバートは真横についてくれた。
そして、ゆっくり歩いてくれる。
でも、なんか近いんですけど。
あたかも腰を抱くような感じだし。私を見下ろしてくれて歩いてくれる。

でも、私が見上げるとぷいっと顔をそらすのは止めてほしい。

なんかやましいところがあるのだろうか。

もっとも私とアルバートは恋人でも何でも無いし。

「あのう、ハンカチありがとう」
前を見たまま、アルバートが言った。

「えっ、はい。お役に立ちましたか」
今頃言われるとは思っていなかったので、私も頓珍漢な答えだ。ハンカチなんて何枚も周りから貰っているだろうし、手を拭く以外にどんな使いみちがあるのだ。

「とても役に立ったと言うか嬉しかった。クリス様のより力入れて縫ってくれたのが判ってもっと嬉しかった」
「えっ、そもそもあれは筆頭魔導師様にあげたのではなくて、クリスにあげたんですけど」
「えっ」
アルバートがしばし固まる。何故そこで固まる。さっきも筆頭魔導師様にそう言ったはずだ。

「それよりクリスは元気なんですか」
「うん、元気だよ」
何故か残念なものを見るように言うのは止めてほしいんですけど。

「ソニアはこの1年が終わったらどうするの?」
いきなりアルバートが話題を変えた。

「国に帰ります」
「そうか、この国に残らないのか」
「それは友だちも出来ましたし、皆さんには良くしてもらつていますが、リーナ様のことが気になりますので」
「でも、偉い人に色々目にかけてもらえるようになったし、君の国的にはここにいてもらったほうが良いのではないか」

たしかにアルバートの言うとおりだ。筆頭魔導師様は見る限りいい人そうだ。
情に脆そうだし。でも、あの怖い学園長がいる限りは助けてくれるのは難しいのではなかろうかとは思うが。

「それはそうかも知れませんが、私一人では決められません。取り敢えず帰って相談しないと」
「そうだよな。何なら、その時に私が一緒についていってあげるよ。その方が信憑性があるだろう」
「えっ、本当に良いのですか」
私は驚いた。そんなことしてもらって良いのだろうか。

アルバートはドラフォード王国の筆頭公爵家の令息で、彼が来てリーナ姫に面談してもらうだけで、後ろ盾に超大国ドラフォードがついたと周りに知らしめることが出来る。それに彼は筆頭魔導師様の近衛だ。ボフミエ魔導国もバックに付いたと皆思ってくれるかもしれない。
アルバートについてきてもらうことくらいならば、学園長も許してくれるかもしれない。

「当然さ。ソニアのためだから」
「じゃあ指切り」
私が約束しようとした時だ。

授業終了のベルが鳴って生徒たちが飛び出してきた。

「あっ、アルバート様だ」
「本当だ」
アルバートは魔導学園の生徒であり、なおかつ今回の主役の筆頭魔導師様の近衛であったので、たちまち私は弾き飛ばされて、囲まれてしまった。

アルバートは皆から質問攻めにあっていた。

私は軽く手を振って別れるしか無かった。
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