上 下
28 / 62

会長に友達との喧嘩を愚痴ったら帝国語を教えてくれることになりました

しおりを挟む
受業が終わって、やっと私はペトラ先生から解放された。

もうへとへとだった。ふらふらになって自分の席に着く。

「何やってんだよ」
ヨーナスが呆れて言ってくれた。

「ちょっと失敗した」
そう言いつつも私はヨーナスなんて見ていなかった。
私の後ろのライラを睨みつけていたのだ。

でも、ライラも私を睨みつけてきた。
私とライラの視線が絡まり合う。

「えっ」
「お前らどうかしたの?」
ヨーナスとアハティが驚いて聞いてくるが、

「ふんっ」
私はライラの視線を外して自分の席に着いた。

「ふんっ、自分で起きられなかったからって人のせいにしないでよね」
後ろからライラの声がしたが全く無視した。

「おいおい、おまえら喧嘩したのかよ」
アハティの声も無視するが、

「我儘ニーナの面倒見るの止めただけよ」
ライラの良いわけが聞こえた。

な、何よ、私があんたの書いた笑えない自己紹介文を採用しなかったからって怒るからよ!
ライラの声にプッツンキレるが、私は無視することにしたのだ。

でも、それからの三時間は最悪だった。
完全に切れていた私は絶対にライラと話さなかった。
前から配られたプリントも投げつける様にライラに渡したのだ。
ライラはむっとしたが何も言わなかった。

休み時間に男爵家の令嬢らと親しげに話すライラを見て少し心が痛んだが、完全に切れていた私は全く無視したのだ。

お昼休みになった。

ライラが男爵家の令嬢らに囲まれて食事に行こうとしているのを見て、なんかムカッとした私はそのまま教室を出ようとした。

「ニーナ、食事に行かないか?」
「ごめんちょっと行くところがあるの」
ヨーナスの誘いを断ると私は外に飛び出したのだ。

考えたらヨーナスらと一緒に食堂に行けばよかったと思い至ったが、後の祭りだった。それにこのむかむかする気持ちを誰かに話したかった。

ヨーナスらは良い奴だけど、ライラの友達でもある。

一方的に私が愚痴るのも違う気がした。

そうだ。私は会長からウィル様からの手紙をもらう約束をしていたのを思い出した。

私はそのまま図書館に向かった。



図書館では相変わらず、会長が寝ていたんだけど、会長は受業には出ていないんだろうか?

「会長!」
なんかむしゃくしゃする私は思いっきり会長をゆり動かしていた。

「どわーー」
おおきな声を出して会長がびっくりして飛び起きた。

「なんだ、ニーナ嬢か」
なんか言いようが酷いんですけど……

「何だニーナは無いんじゃないですか?」
「何言っている。お前がいきなり揺らすから地震に襲われる夢見たんだぞ」
会長が怒って言って来た。

「だって会長が幸せそうに寝ているから」
ムッとして私が言うと
「あのな、なんかあったのか?」
会長が心配して聞いてくれた。

「えっ、いえ」
「友達となんかあったのか?」
「えっ、何で判るんですか?」
「それはお前の顔に書いてあるから」
「そうなんですか?」
私は慌てて自分の顔を触った。
それを見て会長が笑うんだけど

「何もないじゃないですか」
「あのな」
私が怒って言うと会長が頭を押さえている。

「実は友達と喧嘩して……」
私はライラと喧嘩したことを事細かに会長に話していたのだ。

「こんなの先生に提出できると思います」
「まあ、これは確かに酷いな」
会長にライラが書いてくれたレポートを見せると会長が頷いてくれた。

「そう言ったら私はあなたの家庭教師じゃないって怒って出て行ってしまって。確かにそれはそうなんです。私世間知らずだしライラには判らない事なんでも聞いていたし……」
会長は世間知らずの所だけ大きく何度も頷くのは止めてほしいんだけど……

「ライラはお貴族様なのに、そんな私を暖かく見まもってくれてたんですけど……」
そうだ、ライラはお貴族様で私は平民だ。本来ならば普通に話すのもおこがましいのだ。そう思うと少し悲しくなってきた。

「それで」
会長が促してくれた。

「その後、どうやったら許してくれるか考えたんです。そうしてたら空が白くなってきて」
「凄いな。お前夜中悩んでいたのか」
会長が驚いてくれた。

「会長も悩むことあります」
「俺はしょっちゅう悩んでいるよ。お前がそこまで考えたのが凄いなって思ったんだ」
会長の言い方が酷い。

「何なんですか。私も悩むことはありますよ。どのみち私は脳筋ですよ」
そう、周りの子供らからも脳筋ニーナって結構いじめられた。

「いや、まあ、そうだけど」
「会長、それ全然フォローになっていませんけれど」
「で、寝坊してしまったと」
私の言葉を無視して会長が言ってくれた。

「良く判りましたね」
「朝、凄い格好で走っていくのに会っただろうが」
「そうでした」
私は赤くなった。

「でも、ライラも酷いんですよ。いくら怒っているからと言って起こしてくれたらいいじゃないですか? 他のヨーナスとかアハティは男なんですから女子寮に入れないし。
でも、『ライラは寝さしておけばいいって、ペトラ先生に怒られたら少しは判るだろう』って言いきったって。酷くありません?」
「まあ、ペトラ先生と言うのが凄いな」
「そうでしょう。本当に最悪だったんです」
私は怒られたことを思い出してまたむかむかしてきた。

「まあ、でも、ニーナ嬢にはいい経験になったんじゃないか? 学園長や俺の前でも大口開けて寝ていたんだから。一昔前なら懲罰房行きだぞ」
「何ですか? 懲罰房って」
「地下牢に食事なしで一週間くらい閉じ込められるんだ。莫大な宿題付きで」
「えっ、食事なしですか」
「そこかよ、気にするのは」
会長が突っ込んでくれたが、そこで私のお腹が盛大になったのだ。

「お前な」
「だって、考えたら今朝から何も食べて居なくて」
「あんまりないぞ」
会長はポケットからお菓子を出してくれたのだ。

「えっ、でも図書館で」
「ここは誰も来ないから良いだろう」
「じゃあ、ありがとうございます」
私は御礼を言ってお菓子を食べた。
この前執務室でもらったのと同じお菓子だ。

「これ本当においしいですね」
私は食べながら会長に感謝した。

その間に会長がさらさらレポート用紙に帝国後を書き出した。

「何ですか」
「お前の自己紹介文だよ」
「えっ、有難うございます」
会長から突き出された文章を読む。この短時間で書けるって凄い!

「この『入学式でみんなの前で寝ていた』って言うのは余計です」
私がむっとして言うと、
「ライラ嬢のよりはましだろう」
「それはそうですけど」
私は頬を膨らませた。

「文章には笑いも入れないと。あの先生は笑いを取ってなんぼだからな」
「本当ですか」
会長を疑り部下そうに見るが、
「あの先生の所には歴代生徒の面白おかしく書いた文章が残っているんだよ」
「会長のもあるんですか?」
「それは秘密だ」
会長は目を逸らしてくれたんだけど、絶対に何かあるはずだ。

「でも、会長って帝国語も凄いんですね」
「当たり前だろう。俺は一応この国の王子なんだぞ」
「そうでした」
そうなのだ。本来は私なんか平民が話して言い方ではないのだ。
私は少し悲しくなった。

「そんなに帝国語が苦手なのか?」
「はい、特に聞き取りが」
「良かったら昼休みにここに来い。少しくらいなら教えてやる」
会長が笑って言ってくれた。

「ほ、本当ですか?」
「少しだけだぞ」
そういった時に予鈴が鳴った。
やばい時間がない。今度は遅れるわけにはいかない。

「えっ、じゃあ会長」
私は慌てて立ち上がった。

「おい、忘れ物」
慌てて立ち去ろうとした私に会長が手紙をくれた。
「えっ」
「ウィルからだ」
「あっ、そうでした。有難うございます」
私は喜んで会長から手紙を受け取ると教室に向かったのだ。


しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

騎士団寮のシングルマザー

古森きり
恋愛
夫と離婚し、実家へ帰る駅への道。 突然突っ込んできた車に死を覚悟した歩美。 しかし、目を覚ますとそこは森の中。 異世界に聖女として召喚された幼い娘、真美の為に、歩美の奮闘が今、始まる! ……と、意気込んだものの全く家事が出来ない歩美の明日はどっちだ!? ※ノベルアップ+様(読み直し改稿ナッシング先行公開)にも掲載しましたが、カクヨムさん(は改稿・完結済みです)、小説家になろうさん、アルファポリスさんは改稿したものを掲載しています。 ※割と鬱展開多いのでご注意ください。作者はあんまり鬱展開だと思ってませんけども。

【完結】元お飾り聖女はなぜか腹黒宰相様に溺愛されています!?

雨宮羽那
恋愛
 元社畜聖女×笑顔の腹黒宰相のラブストーリー。 ◇◇◇◇  名も無きお飾り聖女だった私は、過労で倒れたその日、思い出した。  自分が前世、疲れきった新卒社会人・花菱桔梗(はなびし ききょう)という日本人女性だったことに。    運良く婚約者の王子から婚約破棄を告げられたので、前世の教訓を活かし私は逃げることに決めました!  なのに、宰相閣下から求婚されて!? 何故か甘やかされているんですけど、何か裏があったりしますか!? ◇◇◇◇ お気に入り登録、エールありがとうございます♡ ※ざまぁはゆっくりじわじわと進行します。 ※「小説家になろう」「エブリスタ」様にも掲載しております(アルファポリス先行)。 ※この作品はフィクションです。特定の政治思想を肯定または否定するものではありません(_ _*))

【完結】うっかり異世界召喚されましたが騎士様が過保護すぎます!

雨宮羽那
恋愛
 いきなり神子様と呼ばれるようになってしまった女子高生×過保護気味な騎士のラブストーリー。 ◇◇◇◇  私、立花葵(たちばなあおい)は普通の高校二年生。  元気よく始業式に向かっていたはずなのに、うっかり神様とぶつかってしまったらしく、異世界へ飛ばされてしまいました!  気がつくと神殿にいた私を『神子様』と呼んで出迎えてくれたのは、爽やかなイケメン騎士様!?  元の世界に戻れるまで騎士様が守ってくれることになったけど……。この騎士様、過保護すぎます!  だけどこの騎士様、何やら秘密があるようで――。 ◇◇◇◇ ※過去に同名タイトルで途中まで連載していましたが、連載再開にあたり設定に大幅変更があったため、加筆どころか書き直してます。 ※アルファポリス先行公開。 ※表紙はAIにより作成したものです。

【完結】異世界転生した先は断罪イベント五秒前!

春風悠里
恋愛
乙女ゲームの世界に転生したと思ったら、まさかの悪役令嬢で断罪イベント直前! さて、どうやって切り抜けようか? (全6話で完結) ※一般的なざまぁではありません ※他サイト様にも掲載中

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~

咲桜りおな
恋愛
 前世で大好きだった乙女ゲームの世界にモブキャラとして転生した伯爵令嬢のアスチルゼフィラ・ピスケリー。 ヒロインでも悪役令嬢でもないモブキャラだからこそ、推しキャラ達の恋物語を遠くから鑑賞出来る! と楽しみにしていたら、関わりたくないのに何故か悪役令嬢の兄である騎士見習いがやたらと絡んでくる……。 いやいや、物語の当事者になんてなりたくないんです! お願いだから近付かないでぇ!  そんな思いも虚しく愛しの推しは全力でわたしを口説いてくる。おまけにキラキラ王子まで絡んで来て……逃げ場を塞がれてしまったようです。 結構、ところどころでイチャラブしております。 ◆◇◇◇ ◇◇◇◇ ◇◇◇◆  前作「完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい」のスピンオフ作品。 この作品だけでもちゃんと楽しんで頂けます。  番外編集もUPしましたので、宜しければご覧下さい。 「小説家になろう」でも公開しています。

大国に乗っ取られそうな王女の侍女は後ろ盾を探すために異国に留学しますが、気付かぬうちに超大国の方々と仲良くなっていました

古里@3巻電子書籍化『王子に婚約破棄され
恋愛
ソニアは敬愛する王女と幼馴染で王女の騎士のルドラが抱き合っているのを見て失恋する。このままここにいて二人のイチャラブを見ていらなくて新興大国のボフミエ魔導国に留学することに。ソニアの仕える王女の弟は大国マエッセンの血筋を受け継いでおり、王女は廃嫡の危機どころか命の危険と隣合わせていた。ボフミエは魔術大国でなおかつ今は超大国の皇太子連中が運営しており、ソニアはできれば知り合って王女を助けたいと願うが、なかなか知り合う機会もない。そんな中で、平民の友達のクリスやその仲間から魔術や剣術を習うソニアだが、本国ではとんでもないことが起こって・・・・・ 明るいソニアが異国の地で精一杯生きていく留学物語。一発逆転、ハピエンをご期待下さい。 「皇太子に婚約破棄されましたーでもただでは済ませません!」のサイドストリーです。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/237012270/129494952?preview=1 これだけで楽しめるとは思いますが、別視線は上記物語に載っています。 多少話は違いますがそこはお許し下さい。 小説家になろう カクヨム連載中

乙女ゲームの悪役令嬢は断罪回避したらイケメン半魔騎士に執着されました

白猫ケイ
恋愛
【本編完結】魔法学園を舞台に異世界から召喚された聖女がヒロイン王太子含む7人のイケメンルートを選べる人気のゲーム、ドキ☆ストの悪役令嬢の幼少期に転生したルイーズは、断罪回避のため5歳にして名前を変え家を出る決意をする。小さな孤児院で平和に暮らすある日、行き倒れの子供を拾い懐かれるが、断罪回避のためメインストーリー終了まで他国逃亡を決意。 「会いたかったーー……!」 一瞬何が起きたか理解が遅れる。新聞に載るような噂の騎士に抱きすくめられる様をみた、周囲の人がざわめく。 【イラストは自分で描いたイメージです。サクッと読める短めのお話です!ページ下部のいいね等お気軽にお願いします!執筆の励みになります!】

処理中です...