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第二章 愛娘との幸せな生活を邪魔することは許しません

閑話 オードリーの涙

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アルヴィンはその日も懸命に机に座って書物を読んでいた。

そのアルヴィンの後ろから抜き足差し足でゆっくりとオードリーは近づいた。

そして、アルヴィンの両目を塞ぐ。

「だあーれだ?」
「オードリーだろう。こんな悪戯をするのは」
「ちぇっ、つまんないの」
あっさりあてられてオードリーはがっかりした。

「アルヴィンはずうーっとお勉強なのね」
つまらなそうにオードリーは言った。

「うーん、剣術では絶対に兄上に勝てないからね。でも、勉強なら勝てるかもしれないから」
振り返りながらアルヴィンは言った。

「そうなんだ。頑張っているんだね」
その後ろの席にオードリーは座る。

部屋の中は本だらけだった。どれを見ても絶対にオードリーは読んでも判らない本ばかりだった。

「中庭にでも散歩に行く」
「えっ本当に良いの?噴水が見に行きたい」
アルヴィンの言葉にオードリーはすぐに食いついた。

「オードリーは噴水が好きだね」
「だってきれいなんだもの。ねえ、早く行こう!」
オードリーはアルヴィンを引っ張って部屋の外に出た。
アルヴィンは基本的には勉強の虫で、オードリーが来ない限りめったに部屋から出なかった。そのアルヴィンを外に連れ出してくれるので王妃達は喜んでいたのだが。


「お転婆オードリー様がまたいらっしてますわ」
その侍女らの声が聞こえて思わずオードリーは止まってしまった。

「殿下に下らないことをお教えするのは止めていただきたいんですけど」
「この前なんて二人で噴水の中で水遊びしていらっしゃったって」
「さすが田舎の出のアントワープ伯爵家。殿下には不釣り合いですわ」
侍女たちは噴水の傍で好きなことを言っていた。侯爵家や王都近郊の伯爵家の令嬢をさしおいてアルヴィンが郊外にあるアントワープ伯爵家の令嬢オードリーといるのを好むのを一部の侍女たちは嫌がっていた。

「きゃっ」
「何で水が」

その侍女たちに噴水の水が頭上から盛大な水しぶきを上げて堕ちてきて大声で悲鳴を上げた。
大量の水をかぶって逃げ惑う。

「えっ」
慌てて後ろを振り返るとアルヴィンが自分で開発した魔道具を振りかざして噴水の水の流れを動かして侍女らに水を落としていた。

「アルヴィン」
咎めるようにオードリーは注意したが、

「オードリーをいじめるやつは許さない」
アルヴインはきっとして言った。

「さっ、こちらに」
今度はアルヴィンがオードリーの手を引いて逃げるように中庭に向けて駆け出した。



とても幸せな夢だった。

ハッとしてオードリーは目を覚ました。
地獄の門への連なる列の中で思わずまどろんでしまったらしい。

結局、その後侍女頭に見つかってこっぴどく怒られたのだがそんな時でもアルヴィンはオードリーを庇ってくれたのだ。


幸せな時の一コマだった。
本当ならこの頃に戻りたかった。何も無かったこの頃に。

でも、もう自分は幸せになる事なんて二度と無い。

今までの罪を償うために地獄で煉獄の炎に焼かれ尽くすのだ。永遠に。

もう二度とアルヴィンに会うこともないだろう。というか、顔を合わせられる訳は無かった。

オードリーの目には涙が次々に溢れてきた。

自分には泣く権利なんて無い。必至に涙を拭って止めようとしても止まらなかった。

地獄の門の前に並ぶ列の中でオードリーはただただ泣いていた。

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明日この続きを投稿します。
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